暗雲と激戦の空
「理論というか、ただの思いつきからできた物なんだけど、これがあれば飛行要塞でも跡形もなく消し去れる筈なんだ。ただ、指向性を持たせる為にはどうしても魔力を注がないと駄目なんだ。カートリッジに魔力を貯めてそこから使えるようにできれば良かったんだけど」
格納庫でコージは自身が作り出した武器をそう説明してくれました。威力的には申し分ない物が出来上がったようなのですが、運用する為にはどうしても人手が要るのでそれが申し訳ないと思っているコージの表情は暗鬱としていました。
「元々、我が国に降りかかってくる災厄なのです。私達が動くのは当然です。コージが気に病む必要はありません」
「そうとも言えるけど、アーンを解き放ったのはある意味僕なんだ。本当は僕一人でケリをつけないといけないんだ」
「主、そう思い込むのは勝手じゃがそこの女もワシも事情を知っている以上、主一人で事に当たらせる積もりはさらさら無いからな」
白夜さんが良い事を言います。コージは優しいと言えば優しいのですが、あいにくと黙ってじっとしていられる様なふぬけでは無いのです。戦う力は必要なだけあるはずです。泣いてるような笑っているような表情のコージの手をそっと取り、元気づけるように抱きしめました。
「わたしは必ずあなたの力になれますよコージ。確かに私はアーンと戦った事はありません。だけど、コージと一緒に戦えば勝てると信じてます」
「ありがと」
すこし吹っ切れたように笑うコージ。この国には私だけでなく、共に訓練して切磋琢磨してきたライダー達も居ます。そして今。
「合図です。皆さん魔力を練って下さい。私は狙いをつけやすいように要塞に印をつけていきます」
「了解しました!」
コージがあの武器を取り出しました。ここからが時間との勝負です。先ほどから周囲を旋回し要塞の構造を把握していた私は、地上部隊が狙いをつけやすい様にペイント弾を要所要所に撃ち込みます。砲台からの攻撃は機体を震わせ、コックピットを揺さぶりますがこの程度であればストライクホークが空中分解する事は無いでしょう。それよりアーンが気付く前に準備を終えないといけません。
「各隊、事前に伝えておいた色の印に向かって狙いを定めてください」
「了解です!」
地上から要塞へ向けて魔力を込められた光の柱が立つ。それを確認した後はアーンの動向にだけ気を配る。何があっても隊員の下へ行かせる訳にはいきません。地上にいる隊員の位置を確認して、視線を戻すといつの間にか要塞付近まで移動しているコージの機体が両手を大きく振り切る。
「っひ!?」
音が物理的な威力を伴って機体を揺さぶってきました。恐ろしいまでの熱と轟音が響き渡り空が赤く染まっています。強い気流が発生しているようで、地表から空へと空気が巻き上げられてストライクホークは制御を失いました。くるくると強い流れの木切れのように機体は天も地も分からない程翻弄され、土砂や木々などが巻き上げられ周囲の状況がよく見えません。ですが慌てず人型へと変形し落下方向を確認した後、鳥型に戻り水平方向へと機首を向け、状況を確認します。
「こ、これは…」
舞い上がっている破片を回避しながら警戒しつつ旋回すると辺り一面、火の海が広がっていました。要塞があったとおもわしき場所には黒い空が広がるばかりで、その地表に火が移りそこにあった森は、巨人が気まぐれに遊んでいったかのように巻き散らかされていました。先ほどの衝撃は街にも被害を及ぼし、城壁が所々崩れ崩壊している建物も見られます。はっきり言って想像以上の破壊力です。事前にコージがこの為に魔法障壁を張るように指示していたのも頷けます。だけど
「コージ! コージは無事ですかっ!!!」
要塞から引き離していましたが、直前にアーンが要塞方面へ動くのを見てコージの機体も要塞へ行かせまいと動いていたのです。まさか巻き込まれた…?
いまだ広がる黒い空はすべてを覆い隠すように、分厚くそこにあり続けていました。
青い巨体が威嚇の咆哮を上げ、地表に向かってブレスを吐く。
「おっとと、中々に難易度が楽しくなってますねぇ!」
ブレスの効果範囲から軽々と逃げながら、背面のバズーカーを竜へ撃ち込むのを忘れない。重心を移動させる事により、予備動作なしで転がりながら回避する「酔いどれ」ことディリン。追いかけてくるブレスをかわしながら、弾幕を張り続ける。転がる事が前提となっている為、ディリンの愛機ヘッジホッグは全方位への射撃が可能となっていた。
“ちょこまかと器用に逃げやがってこのやろうっ!!!”
「あはは、そんな怒っている貴方に鉛玉をたっぷり上げますよっ!」
ディリンの武装は全て実弾である。曳航弾が次々にアナの器の古代竜に吸い込まれていく。そして、古代竜と戦いながらも味方への援護射撃も忘れない。さらにディリンを落とそうと先程から周囲をうろつくフレームへの牽制も行う。
「ははっ! 的だらけじゃないですかっ! しかも長持ちですよ! なんですか、ここは天国ですかぁっ!?」
肩にマウントしたカノン砲を正面にひょっこり現れたピンク色の機体へと撃ち込み、カノン砲の反動でのけぞりながら、右手のマシンガンをばら撒き古代竜へ叩き込む。背面のバズーカーで接近してきた灰色の機体を弾き飛ばし、隠れている魔道フレームへ垂直落下式のミサイルで牽制する。
機体にマウントされているバインダーを、おもむろに展開し、カノン砲を回避し接近してきたピンク色の機体を跳ね飛ばす。それと同時にリロードの為にバインダーに武器を収納し、サブウエポンを握りなおすディリン。
その一瞬の隙をついて小さいながらも攻撃力のある青い何かが迫る。だがディリンに届く直前にそれをことごとく撃ち落す。そして再度降り注いできたブレスを転がりながら回避し、ミサイルを豪勢に撃ちまくる。常に射撃、常に移動。常にリロード。弾薬が雨あられと降り注ぐ戦場だが、幸運というか不幸というか、いまだ一機もフレームを叩き落していなかった。
「サラさーん、あなたも少しぐらいなら僕の獲物と遊んでくださっても良いですよー」
「え、はっはいっ! ありがとうございますっ!」
しごく上機嫌のディリン。すでに戦場は地表から空へと移動し、全方位攻撃可能なディリンの独壇場となっていた。シミュレーターで指摘されていた空中機動の不慣れさは微塵も感じさせなかった。
そんな中、空中戦は得意とばかりにピンク色の機体が剣を振りかざしディリンの背後に忍び寄る。ディリンの背面のバズーカーは下方を向き、肩にマウントしたカノン砲は当然、機体前面を向いている。脚部のミサイル群はリロード中で両手に持った射撃武器は横方向へ突き出されバインダーは現在展開されている。
「でも残念」
あと少しでヘッジホッグへ届くと思われた剣は、ピンク色の機体を襲った射撃によって阻まれる。ものの見事に剣を弾かれ、肩と右足に銃弾を受け体制を崩されたピンク色の機体はディリンのバズーカーの餌食となり、そのまま地表へと叩きつけられた。だが、それほどダメージを受けなかったのかすぐさま体勢を立て直し、追撃のマシンガンとミサイルは回避してのけた。
「よくできました、サラさん! 相手の動きをよく読みましたね、上出来です!」
「はいっ! ありがとうございますっ!」
数は少ないものの、優勢なのはディリン達であった。要塞自体も砲台を備えている事もありイーサルークのフレーム部隊はいまだ要塞に取り付く事ができず砲台を叩くのみしかできていなかった。




