エルディバ上空
轟音を鳴り響かせながら次々と火を吹く大砲。飛行要塞からせり出した大砲は無尽蔵に破壊の弾丸を吐き出している。そんな砲台を要塞の周囲を旋回しながら叩き潰すストライクホーク。長時間照射が可能なレーザーで砲台を焼ききっていくのだが、焼かれた砲台はすぐさまパージされ新しい砲台がしばらくすればせり上がってくる為、いたちごっこでしかない。
「コージの言った通りです。元を断たねばどうにもなりませんね」
直線的な動きで要塞からの攻撃を回避しながら、隙を伺うアルラ。街への被害を抑える為に砲台を攻撃してはいるものの、それが要塞を撃墜する事に繋がるとはアルラも考えていない。
「各隊、配置につけましたか?」
「今しばらくお待ちを。七から十の部隊以外は配置についております」
「分かりました。引き続き隠密行動でお願いします」
「はっ」
要塞攻略の為の秘密兵器の設置には、しばらく時間が掛かるようだ。となると、アルラがする事は時間を稼ぎながら砲台の数を減らす事だ。
「イグニッション!」
『ラジャ。レディ』
アルラの言葉に反応し、機体のエンジン音とは別の内燃機構が発動する。
「イグジスト!」
キーワードをトリガーとして、ストライクホークの翼から光が迸る。翼から躍り出た光り輝く羽は複雑な軌道を描きながら視線で誘導されていく羽は次々と砲台へと降り注いでいく。ストライクホークは止まらない。要塞正面から光の羽を浴びせた後は、すぐさま要塞左手へと移動し同様に光の羽を容赦なく浴びせ、満遍なく要塞に光の雨を降らせていく。
「まだですね。チャージお願いします」
『ラジャ』
重々しい金属音が響き、何かが回転する音と共にエンジンの回転が低回転から高回転へと徐々に高まって行く音が響く。光の羽を撃った後は、チャージの為にしばらく機動力が落ちる。機体の各所で放熱を行う為に空気抵抗が増すのと、エンジンの余力が無くなる為に慣性制御が一時的にカットされる為だ。
「これでしばらくは時間が稼げますが、飛行要塞の進行を止めるまでは行きませんね」
慣性制御がカットされたにもかかわらず、軽やかに飛行フレームを叩き落して行く。ストライクホークに乗りたての頃は、強烈すぎるGの為に意識を失い墜落した事もあるが、今では自在に乗りこなせるようになった。他の事に目を向けず充てられる時間は全てフレームの操縦に費やしてきたと言っても過言ではないアルラ。今、その成果が実っていると実感できた。
「我ながら業が深いですね。こんな事でしか自分を表現できないなんて」
眼下に広がる惨状を見ながら、そうこぼすアルラ。森は焼け街も破壊されていき、攻撃を加えてくる要塞や飛行フレームも尋常でない被害をこうむっている。ストライクホークの優美なフォルムに魅せられて以来、その性能を遺憾なく発揮すべく歩んできた。打てば響くような反応と機体との一体感は、アルラのフレーム熱を加速するのに十分だった。
国の抑止力として国境で小競り合いを制してきた事もあった。フレームや魔石獣などを相手取り今まで経験を重ねてきた。姫という肩書きはストライクホークに乗る為に必要で自分ではエニラやラウラのような姫様然とした事は苦手であった。最低限の礼儀作法などはこなしてきたのだが、それでもやはり自分の落ち着く場所はストライクホークの中だった。
光司がしたように、飛行フレームの膜をまず切り裂きすかさずレーザーで攻撃を加えていく。息をするように自然にそういった操作をこなす。光の羽で焼き尽くした後も雨後のたけのこのように、生えてくる砲台を沈黙させながら飛行フレームも叩き落して行く。三機一体でストライクホークを狙ってくる飛行フレーム群であったが、その数はすでに十機を割っておりこちらを遠巻きに攻撃してくるだけである。
そして、要塞から離れた位置へと誘導されていく白い機体。光司の青い機体シャイニングブレスは高速で動き回りその残光のみが目に映る。光司にアーンの相手はするなと言われてはいるが、やはり気になってしまう。
「姫、各隊所定の位置に到着致しました」
「分かりました。合図があるまで待機をお願いします」
光司の秘密兵器の準備が整い、計算どおりであれば一瞬で飛行要塞の事はけりがつく。だが現在光司はアーンと戦闘中であり、秘密兵器を使う余裕は無さそうである。
「コージ! こちらは準備が整いました!」
「分かった、ありがとう!」
自身は動かず、一撃離脱戦法をとる光司の機体を盾で囲おうとするアーンと、接近戦を嫌っているが射撃ではどうしようもない為、一歩間違えば足を止められてしまうのを承知で一撃離脱を繰り返す光司。膜と盾で勢いをうまく殺し軌道を調整するアーンとそれを読んだ上で離脱しながら攻撃を加える光司の読み合いは激化していく。
そんな様子を見て歯噛みするアルラ。光司を援護したくて仕方がないのだが、すでに間に割って入れる状態ではない。最初から光司と一緒にアーンと戦っていればそうでもなかったのだろうが、すでに戦闘のリズムが出来上がっている中に合わせて入っていくのは難しい。無理矢理こじ開けて入れば、光司が不利になりかねないからだ。
「アーン! おまえの目的は世界征服なのかっ?!」
「え? 何いってるのさコージ、僕が世界なんて欲しがるとか本気で思ってる?」
「じゃあなんで、王の印の力を世界に振りまく? しかも、戦争まで起こそうとしてるっ!」
両腕に一本ずつ持ったブレードと膝の部分に付いた隠し武器とも言えるブレードを自在に操り、アーンを攻め立てながら問い詰める光司。問い詰めてもはぐらかされると分かっていても問いたださずにはいられなかったようだ。
「というか、戦争って良い事じゃん。バルトス国が戦ったら世界征服できるよね? 領土が拡がってユージ王の治世が大陸に響き渡るんだよ?」
現状として飛行フレームを大量に所持しているのはバルトス国のみである。有効に活用すれば他国の侵略がかなり楽になるのは間違いない。
「そんな事をしてまで領土を拡げようとかしない! 戦争って人が死ぬんだぞ!」
「そんな事言っても毎日魔石獣に人は殺される。人が死ぬのは戦争だけじゃないよん」
光司の主張はまったくアーンには響かない。そもそもアーンが興味を持つのはあがく人の感情であり、死への恐怖だったりという負の感情だ。それを大量に摂取できる戦争はアーンにとってはご馳走でしかないのだ。
「だからって戦争を起こして良い訳ないだろ? こうやってフレームに乗って戦いたいっていうなら僕がいつでも相手してやるから、こんな事はやめろよ!」
「やっだねぇ~コージのはおいしくないから、要らないよっ」
トラウマを克服したのか、光司はアーンと互角の戦いを繰り広げていた。アーンがこだわる拳での戦いを受けて立ち、殴られても蹴られても焦る事無く反撃し大きな被害を受けてはいない。
「もういい! とりあえず、あの飛行要塞は落とさせて貰う!」
「広域殲滅魔法なんて大人しく撃たせないよ?」
「そんなんじゃないさ」
一つ大きく蹴りをアーンの機体に入れて、瞬時に変形し間合いを取る光司。そしてかなり間合いを取ってからまたもや人型へと変形する。そして何故か両手に持っていたブレードの代わりに懐中電灯のような物を握り締めている。
「ギル…? フレーム用にわざわざ作る程のもんでは無いと思うけど、どうなの」
武器の形としては以前から光司が作って愛用している「ギル」と酷似している。確かに便利な武器ではあったのだが、フレームの武器としてわざわざ作る必要は無い筈である。
「どうもこうも無いよ。これが一発逆転の切り札になる物さ」
そういって今まで見せたことの無い不敵な笑みをこぼす光司だった。




