二番艦「ラケシス」
回復しました。遅くなってごめんなさい。
シュライト城近くの森の上空に大きな影が差す。
あまりにも静かにかつ空を飛ぶそれは威容を見せ付けるかのように姿を現した。飛行要塞の周囲には飛行フレームの姿があり、さながら女王を守る騎士のごとく飛行要塞をエスコートしている。そんな中、一機だけ純白の機体が先頭に立っている。
「さてさて。イーサルークとエルディバはうっとうしいからねぇ。さくっと同時攻略開始しちゃおうか」
飛行要塞二番艦「ラケシス」を引きつれアーンは、エルディバに遊びにやってきた。イーサルークへ向かわせた「クロト」には自動で動くフレームを百機以上残してきているので、古代竜を倒すのに問題はないだろう。あの竜の忌々しい力は王の印の力を阻害するものなのだ。それにエルディバにはルーツの中でも上位の二桁のフレームが国を守っている。古代竜ほどではないにしても、それなりに楽しめる相手になる事は間違いが無かった。アーンにとっては、エルディバにちょっかいをかける事は遊び感覚でしかなかった。
「おろっ? 対応が早いねぇ。警告もなしですか。エルディバの王様ってなかなか思い切った奴なんだねぇ。それとも誰か入れ知恵した奴がいるのかな?」
シュライト城まで指呼の間といって差し支えない所に、巨大な飛行要塞が現れたのだ。見た事が無くとも飛行要塞は人造物とわかる物であり、事情を知らなければまず警告を発しその進行を止めようとするだろうが、すかさず攻撃をしてきたエルディバ軍。バルトス国から触れが出ているとは言えその姿を知る者は居ない為、警告も無しに攻撃するという事はその脅威を既に理解しているという事でもある。
「そいじゃ、まぁお約束といきますか。あーあー、マイクテスマイクテス。聞こえてるかな、エルディバの人達。聞こえてなくてもいいや。僕はバルトス国のアーンだよ。魔石獣を操ってるっていうエルディバをやっつけに来たからね。よろしくっ!」
誰も見てはいないがペロリと舌をだして、おどけた表情をしているアーン。地表からはフレーム部隊による攻撃が続いているが、アーン以下のフレームにはなんのダメージにもなっていなかった。それを理解しているからこそ、アーンの余裕は崩れない。
赤い矢が飛行フレームを叩き落す。
「お? 二桁ルーツのお出ましだねっ」
シュライト城から、矢のように飛び出した赤い機体ストライクホーク。勢いを殺すことなく飛行フレームへと突撃し、そのまま突き抜けていく。即座に反転し次の獲物に狙いを定め反撃をさせる暇なく瞬く間に三機の飛行フレームを撃墜する。だが、その動きにすぐに陣形を変え三機一体の群れと化した飛行フレームは反撃を開始した。
「速いなぁ、しかもあんな動きして中の人大丈夫なんだ。さっすがルーツ、でたらめだねっ」
三機一体で追い込むように動くものの、ストライクホークの速さに翻弄されその動きを止めることすら敵わない。むしろ地上へと誘導され地上からの援護射撃を食らう羽目になってしまう。
「おっとと。それはちょいと駄目っすよ。残念ながらこちらもルーツなのねん」
そういって、アーンが操作をすると攻撃を受けて危なくなっていた飛行フレームを守る膜が浮かび上がる。ストライクホークや地上からの攻撃を食らう瞬間、光輝く事でその存在を主張している。その様子からアーンの機体が怪しいと見当をつけたのであろう。ストライクホークはまっすぐアーンへと襲い掛かって来た。
「ほいやっ!」
さすがにストライクホークの突撃を受け止めるほどの盾を展開できない為、幾重にも盾を重ねストライクホークの進行方向をずらすアーン。そして、離れ際に蹴りを一発入れる事を忘れない。
「一撃離脱が得意な機体だよなぁ。こっちは近接オンリーだってぇのに、足を止めて戦えってぇの。鳥だけにチキンな奴め。悪い子はおしおきだ、うん」
飛行要塞の一際大きな大砲がシュライト城に狙いを定める。その間、大砲の照準をより正確なものにする為、飛行要塞は動きを止めた。大気を震わせ爆音が響き、大砲が火を吹く。同時にストライクホークが動きを止め、羽を大きくはばたかせ砲弾を食い止める。
「あ、止めれるんだ。でも動きが止まったね」
動きが止まったストライクホークに好機を見たアーン。そして再度砲撃を指示する。いや、指示しようとした。
「なんだっ!?」
衝撃と共に大きく機体を揺さぶられ、一瞬気が遠くなるアーン。完全の意識の外から攻撃を加えられ流石のアーンも驚きを隠せなかった。いつの間にか出てきた青い機体。細部は違うのだが、その形には見覚えがあった。
「コォーーーーーーージくぅーーーーーん、生きてたんだぁ~?」
「当たり前だ、死んでたまるかぁっ!」
アーンを牽制しつつ飛行フレームを攻撃していく光司。目前で人型へ変形し、手に持ったレーザーブレードで膜をこじ開け、ライフルをすかさず叩き込む。アーンが盾を展開する間を与えない早業で飛行フレームを次々と撃墜していく。
「へぇ、なんか強くなった? でも、おいたはいけないなぁ」
「言ってろ」
飛行形態で高速で飛び回り、攻撃の瞬間のみ人型へ変わり一つ所にとどまらず次々に飛行フレームを落としていく光司。まったくと言っていいほど敵に容赦をしないその行動にアーンは少々見蕩れていた。実の所飛行フレームは無人ではあるが、そんな事は光司には分かる筈が無い。にもかかわらず、一瞬の躊躇もなく二十機近いフレームを叩き落した。
「ふぅん、そういう事かぁ。あははっ、覚悟を決めてきたって訳だ? なら、ちょっと面白い事を教えてあげようか」
無人フレームがいくら叩き落されようとアーンの余裕は崩れない。むしろ、光司の出現でより楽しみが増えたと言わんばかりの態度である。
「コージ、コージ! 良い事教えて上げるよ! 実はイーサルークにも飛行要塞を向かわせてるんだっ! ここで時間かけてたら、向こうは大変な事になっちゃうよ!」
「なっ!? でたらめだ! え、本当なの白夜?!」
光司の動揺した声が聞こえ、ほくそ笑むアーン。光司が生き残っていたのは予想外であったが、ある意味うれしい誤算とも言える。焦った光司がどうあがくのか、楽しみで仕方ない。二桁ルーツぐらいしか、こちらにはお楽しみが無いと思っていたので思わぬ展開にうれしくて堪らないアーン。
「ほらコージ、でっかい飛行要塞はぴんぴんしてるよ! さらに攻撃しちゃったりなんかして?」
その声と同時に飛行要塞から無作為に砲撃が開始される。どこを狙うとかではなく、でたらめに狙いを定めずに撃ち捲くっている。さすがにストライクホークとシャイニングブレスだけでは、守りきる事などできず何発か街へと砲撃が加えられていく。
「白夜、まだっ!?」
「余所見してちゃぁ駄目だよん」
焦った様子の光司の声。諦めていないその声に非常に満足なアーン。光司の機体の進行方向に盾を展開し軌道を自分へと誘導する。他の事に気を取られている光司の華奢な細身の機体へ、小さく展開した盾とともに拳を叩きつける。
「なろっ!?」
だが、拳が当たる瞬間に人型へ瞬時に切り替わったシャイニングブレス。左腕に展開したアーンのと似ている盾で攻撃を防ぎ、腕を弾き飛ばす。だが、アーンも光司を逃がすまいと再度手を伸ばす。光司も負けじとその手を取り、真っ向からの力勝負となった。だが鋼と鋼がこすり合う音は無い。手は組んだが足は自由な為、互いに足を使った攻防となる。腕を伸ばしたり縮めたりする事で互いの攻撃を有利にしようと、動きを止めない二機。一瞬の隙も許されない状況の中、互いに有効打を出せずにいる。
「僕にかまけてると、要塞はどんどん街を焼き尽くすよー、良いのっかなぁ?」
「エルディバに一体なんの恨みがある!」
「それを言ってもなんにもならないし、言わないほうがイライラするだろうから、教えてあーげないっ」
「っ!!!」
激昂しそうになるが、かろうじて堪えている光司。光司がアーンと対峙している間、ストライクホークは飛行要塞を攻略しているのだが、飛行要塞のでたらめな仕様に攻めあぐねている。いや、ストライクホークが攻撃する度に大砲は破壊されていくのだが、破壊した端から新しい砲台が出てくるという無茶苦茶な機構のせいで、飛行要塞を沈黙させるには至っていなかった。




