激突の空
静かに要塞のハッチが開いていく。水色の機体が射出口へと歩み寄り、カタパルトに機体を滑らかに乗せる。続けて桃色、緑、黒とカタパルトへと乗っていく。勢いよく空へと打ち出されていく四機の機体。バインダーを二枚展開結合し、波に乗るかのごとく空を駆る。緑の機体は人型から鳥型へと変形し、桃色と黒の機体を牽引しそれに追随していく。
イーサルーク方面から先行して来る機影が一つ。
「へぇ、向こうも空を飛ぶのかい。リリー、行っておいで」
「はいっ!」
元気良く返事をして、急降下して敵へ向かうリリノア。向こうもこちらに気付いたようで、左旋回しながらゆるやかにリリノアの降下地点へと機体を進めてくる。
「こちらのウリをとくとご覧あれ」
バインダーの向きを鋭角に変え、軌道変更を行うリリノア。稲光のように敵の青い機体へとジグザグに急降下する。急激に軌道を変えたリリノアに対して動きを見せない敵へ手に持った剣を両手に構えすかさず一撃を加え離脱しようとした。
「えっ!?」
狙いを読んでいたのか、機体を軽く横回転させるだけでリリノアの攻撃を回避する青い機体。だが、リリノアも回避されたと理解した瞬間にさらに加速し敵の追撃に備える。その間に飛行タイプから人型へ変形した青い機体は、手に持った武器から光線がリリノアを狙う。それをバインダーの一枚で防御、もう一枚を攻撃に転じ青い機体の周囲を旋回する。
向こうも距離をとる為だろう、飛行タイプに瞬時に変形し離脱していく。こちらのバインダーの攻撃はかする事無く失敗に終わったようであった。
「中々一筋縄では行かないようだね、リリー油断するんじゃないよ」
「はい、マリアさん」
うずうずした様子が無線からでも良く分かる。どうやら青い機体はマリアの眼鏡に適ったようである。そんな相手を任されたとあってはリリノアとしても、無様な所を見せる訳にはいかなかった。青い機体は仕切りなおしだと言わんばかりに、距離をとってからこちらへと突撃してくる様子を見せる。受けて立つと言わんばかりにリリノアは機体を相手の正面へ向けた。
「今度こそっ!」
バインダーを頭上に展開しつつ、相手との距離を詰める。光の奔流が迫るがそれが攻撃だと認識する前に回避するリリノア。集中していたおかげで敵の攻撃を最小限の動きで回避していた。こちらもバインダーで威嚇射撃をするものの焦った様子もなく優雅に回避されてしまう。
「っ!」
彼我の距離が百メートルを切った時点で、わずかな動きも見逃さないようにより集中する。わずかに機首が下がり正面衝突を避けようとしている青い機体。剣を両手でしっかりと構え頭上に展開したバインダーを大きく横へと展開しなおす。だが、その瞬間青い機体は人型へと転じ急上昇する。手にはいつ持ったのか光輝く剣を大上段に構え、残光をまとわせ一気に振り下ろしてくる。
迫る光輝く剣がスローモーションで見えるリリノア。その表情は驚きに満ちたものではなく静かな湖面のような落ち着きと深さを感じさせた。
甲高い音が響く一瞬の攻防。
勢いを殺す事無く離脱する二機。青い機体は背面に一撃を入れられたようだった。だが、リリノアの機体にも胴体部分にかすった後とバインダーが二枚損失していた。
「雑魚もわらわら出てきたようだね。そっちは抑えるからリリーはそいつに集中してな!」
「はいっ! お任せしますわっ!」
マリアの言葉に元気よく返事を返し、予備のバインダーを要塞から射出して貰うように指示を出す。リリノアは現状では最大四枚しかバインダーを操作できないのだが、予備はいくらでも要塞にある。
「さすがは古代竜が守る土地という事でしょうか。歯応えのある敵です」
相手の技量は自分を上回っているようだ。だが、集中力を乱さなければ勝てない相手でも無いはず。あのマリアが折角譲ってくれた獲物である、負ける訳にはいかなかった。開戦前の弱気な面はすっかりなりを潜め、目の前の青い機体を期待に満ちた目で見つめていた。
「急いで出たけど、駄目か。くそぉ、要塞をおとさねぇと駄目ってぇのに…こいつしつっこいなぁ!」
空を無茶苦茶な機動で駆け巡る水色の機体。今は空が晴れ渡っている事もあり、水色をベースにしている相手の機体は相手の機動性もあって視認しづらい。向こうはこちらを好敵手と認めたのか、つかずはなれずまとわりつくように攻撃を加えてくる。
「しかも、要塞から武装補給するとかずりぃって」
愚痴をこぼしながらも、射撃を回避し突撃にカウンターを当て、相手を翻弄するエドワード。だが、エドワードが思っているより、相手にダメージを与えられておらず少しばかり焦りが見えた。しかも、相手はこちらの狙いが分かっているのか要塞のほうへ向かおうとすると全力で阻止しようとしてくるのだ。
業をにやしたエドワードは、反転弾を準備する。光司推奨のこの弾は食らえばまともな戦闘行動を取れなくなる物だ。チャージが完了しウェポンベイに反転弾が生成されたのを確認したエドワードはケチらず全弾一斉射撃を行う。
追撃してきていた水色の機体は、乱れ飛ぶミサイルに急減速せずむしろ飛び込んで行く。改良を加えられている反転弾は、通常のミサイルとは違い姿勢制御の為のスラスターが多数つけられている。全方位からありえない軌道で迫りくる反転弾を避ける術は皆無と言っても過言ではない。
反転弾が次々と爆発を起こし辺りに爆音と閃光が満ちる。だが、反転弾の爆発が右へ左へ上へ下へと、縦横無尽に続いている。
「おいおい、あれをかいくぐってるっての? どんだけ目が良いんだよ」
爆発が続くという事は、反転弾が敵を追いかけているという事だ。さらに縦横無尽に動いているという事は、回避し続けている可能性が高い。一発でも食らってしまえば操縦系統が難解になってしまうからだ。
「それとも、でたらめに動かしてるだけか? おわっ!?」
あまりにも続く爆発の中、動きを止めてしまったエドワードの機体に向かってバインダーから狙撃され慌てて回避する。あれだけ動き回っていて尚、こちらの隙を見逃さず攻撃を加えてくる敵。エドワードは相手を侮っていた事を実感した。
「しゃあねぇ。ここで出し惜しみしてちゃ要塞に行けねぇな。ハンター飛んでけっ!」
エドワードの掛け声と共に機体から球体が飛び出し、さらに複数の針のような物が大量に飛び出していく。射撃タイプと突撃タイプは半々で構成され、水色の機体を狩る為に散開していく。追加で反転弾もばら撒きだめだしをする。これ以上この水色の機体についてこられては、要塞にとりつく事はできないだろう。
「じゃあな、こっちは要塞をおとさねぇと駄目なんだ。いつまでもおまえと遊んでらんねぇんだよ」
聞こえるはずもないが、そう言い置き機体を要塞へと向けた。
「「酔いどれ」と「ピンクタイフーン」が相手なんて、最悪ですわ」
「噂の凄腕の傭兵って奴か。黒とピンクの機体はそれだとして、緑色のごっつい奴もなんか有名な奴か?」
「いえ、それは分からないわ。でも、あの二人と組んでるという事は相当な腕利きだと思っていて間違いは無いわね」
イーサルークの守備隊と共に出撃したハルト達。セリナとミミは現在別行動中である。要塞から出てきた機影は四つ。この古代竜が守るイーサルークを攻めるのに、たったそれだけで挑んでくるはずが無い。そう考えたからこそミミは、追加の攻撃部隊が出てきた際に温存しておく事になっている。ハルト達が危機に陥れば話は別だが。
「避けてっ!」
レイモンドの叫びと共に「酔いどれ」からこちらへ攻撃が加えられる。とっさに反応できた者は回避もしくはかする程度で済んだが、それ以外は見事に一発食らっていた。そして、その恐るべき射撃能力を目の当たりにした、イーサルーク守備隊は勢い良く散開する。
「散開しすぎたら駄目ですっ!」
先ほどより焦った口調のレイモンドの警告が飛ぶ。だが、その警告は少し遅かった。
吹き荒れる「ピンクタイフーン」
一合、最高でも二合打ち合うだけで、散開していた守備隊は叩き落されていく。叩き落された後は、緑色の機体が丁寧に狙撃していき小破が中破、中破が大破へと追い込まれていく。
「どぉおおおおりゃあああああああっ!」
守備隊をまるで子供のように次々に沈めていくピンクタイフーンに突撃する。そんなハルトを援護するようにレイモンドは銃撃を行う。そして、ハルトに続くセシリア。アイシャとバルトとエリーは「酔いどれ」と緑の機体を牽制する。
四本の腕を持つ「ピンクタイフーン」と鍔迫り合いをする愚は犯さない。斬りかかり、受け流し、かわし、蹴り上げる。大剣一本のみで四本の腕を持つ「ピンクタイフーン」と渡り合う。だが、ハルト一人では本来数合も打ち合えば終了していただろう。レイモンドの援護射撃によってうまく「ピンクタイフーン」を抑え込んでいるからこそできる芸当である。セシリアもレイピアのような細剣を二本浮かべ隙を狙っている。
飛行要塞は戦闘をよそにゆっくりと進む。その姿は阻む者など何もないと言わんばかりの堂々たる姿であった。




