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深呼吸は平和の証  作者: Siebzehn17
再戦

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280/312

つのる焦燥

エルディバ国内シュライト城。現在、国民からの嘆願書がひっきりなしに届けられてきている。姫の婚約発表があるたびにこのような事があるので、ある意味恒例行事とも言えるが今回に限っては規模が違った。なにせ、姫が三人とも嫁ぐという話しなのだ。アルラ姫やラウラ姫はともかく、エニラ姫はフォーリス王にぞっこんなのは公然の秘密だったのでまさか嫁ぐとは誰も思っていなかったのだ。


さらにいえば婚約相手も後日公表という事もあり、さまざまな憶測が飛び交っていた。フォーリス王の隠し子が居て、王家の血筋を強化するために極秘に領土を分けて独立させるという突拍子もない話から、市井の者が姫と添い遂げるのでは? という物語のような話など市民の間では、相手探しに躍起になっていた。光司がフォーリス王の傍近くに控えていたのだが、それについて気に留めた者は誰もおらず新しい側仕えの一人としてしか見て貰っていないようであった。美男美女が多いエルディバであれば光司のような外見は冴えない人間としか映らず、まさかその人物こそが姫を三人もかっさらっていく極悪人とは到底思えなかったからだ。


「しっかし、ここのお姫さま達は愛されてるねぇ。これじゃあ結婚なんてしちゃったら国民が着いて来ちゃうんじゃないの?」

「そうなったら困るな。主が旦那だと知れたら何されるか分からんしのぉ」


城門が見えるバルコニーから、嘆願書が届けられる様子を見ながら光司は白夜を懐に抱きしめながら愚痴る。光司の背は大きくないが白夜も小さい為、光司のあごが白夜の頭にのっかっている状態である。


「アイちゃん、ハウス! 出てきたら僕死ぬ」

「はうっ、名前でっ?! でもでも…うぅぅぅ…自分の人気の高さが恨めしいです…」


ラウラ姫もどうにかして光司の傍に行こうとするのだが、気配を察知した光司にその度に止められている。城門が見えるという事は向こうからもこちらが見えるという事。姫様大好きな国民の事だ、必ずラウラ姫を見つけるであろう。そうなれば隣につったっている光司も自然と目に入り、光司がエルディバ国内を歩く事は今後できなくなってしまう。


「主よ。じゃが、いつまでここに留まるのじゃ?」

「あいつの動きが掴めれば良いんだけど、ここは待ちの一手しか無いんだよね。衛星で色々な条件で探査しては居るんだけど、まったく足取りが掴めないんだよ」


光司とて、エルディバで無為に日々を過ごすつもりは無い。飛行要塞の場所さえ掴みさえすればこちらから討って出るつもりである。手をこまねいていては都市上空に接近されてしまい、蒸発させるつもりとはいえ万が一の事を考えればあまり好ましい状況とは言えないからだ。


「では、ここの遺跡の調査を続ける?」

「そうなるかな。幸いエレベーターは使えるし、ここは二桁のルーツが出てきた所だから他にも何かある可能性があるし」


遺跡の構造こそ違うが、エルディバにある遺跡でもカードが使えた為、エレベーターで一気に下の階層へと到達できるのである。


「アルラ姫と一緒にフレームの訓練はしなくて良いのか?」

「白夜、分かってて言ってるでしょ。そんな事したら僕殺されるし」


エルディバの保有するフレームには既に光司が空を飛べるように改修してある。魔石シートにも工夫をこらしてあるので、そう簡単に壊れる事はないだろう。今も、訓練しているようで向こうの空にフレームが飛んでいるのが見える。どうやらストライクホークを追いかける訓練をしているようだ。


「秘密兵器の準備も予備の分まで用意したし、後はあいつを待つだけなんだよね」


一度は殺されそうになった相手である。準備しすぎてもしすぎる事はない。あれこれと必要な物を考え、準備を整えている。手も足も出ず、弄ばれただけで終わったあの戦い。何をしても通じず、されるがままだった。その為、光司も秘密兵器を用意したのだがあまりにも威力が強すぎるので試し撃ちすらできていない状況であった。


「って、駄目姫?」

「にゅふふふぅ」


アーンとどう戦おうか考えている光司の足元。ラウラ姫が匍匐前進で近寄って光司の足元にまとわりついていた。慣れない匍匐前進などをしたせいかラウラ姫のドレスはひどい有様になっている。ところどころしわができ裾も大胆にめくれ上がってしまって、ふとももが露になっていた。だが、ドレスのそんな状況にも関わらず幸せそうに光司の足をぺたぺたと触っているラウラ姫。さすがの光司もいたたまれなくなってしまいバルコニーから部屋へ入りラウラ姫を呼び寄せる。


「ちょっとこっちに来てアイちゃん」

「はいっ」


光司に呼ばれるやすぐさま目の前に駆け寄るラウラ姫。そして、なにやら手をもじもじと上げたり下げたりして光司を見つめる。それが手を握って欲しい時のラウラ姫の仕草だと分かっている光司は静かにラウラ姫の手を握る。そしてドレスの乱れを直す光司。


「ラウラ姫。君はお姫様なんだから、もう少し周りを気にしましょうね? 床をはいつくばるお姫様なんて聞いた事ないよ? 次したらアルラ姫と二人で出かけるからね?」

「ごめんなさい! もうしません!」


即答のラウラ姫。光司と居ると結構大きな声を上げるようになったラウラ姫。光司が城に来た当初は、ラウラ姫が大声を出すたびにすわ何事か! とお付のメイドさん達が色めきたって姫の無事を確認しに来てたが、最近は慣れてきたようでこれぐらいで中に入ってくる事は無かった。可憐で儚げでおしとやかなで控えめなラウラ姫というのがメイドさん達の共通のイメージである。なので男ができて元気になったラウラ姫を見て少々の事は目をつぶろうという暗黙の了解ができていた。


「どうして君は落ち着きが無いんだろうねぇ? もうちょっと大人しくできない?」

「そうですか? これでも大人しすぎると良く言われてたんですよ?」

「大人しいの基準が低いのか…? とにかく、もう少しお姫様らしくがんばる事!」

「お姫様らしく、ですか? ですが、どういう物でしょうか。姉上達を見ていると私は何もとりえが無いですし、活動的ではないように思えるのですが。もっと身体を動かさないと駄目でしょうか?」


ラウラ姫に言われて気付く。エニラ姫は国政に積極的に関わり、忙しそうに動いている。アルラ姫は毎日ストライクホークに乗り、兵隊がする訓練もこなしている。光司が思い描く理想のお姫様という姿からは二人とも程遠かった。


「うん、ごめん僕が悪かった。お姫様ってどうも理想があってさ。おしとやかでいつも物静かで恥ずかしがり屋で一途な感じだと想像してて、それが普通だとばかり思ってたけど実際はそんな事はないよねぇ」

「ふんふん」


光司の言葉を聞き逃さないようにしっかり覚えるラウラ姫。


「主は姫に夢を見すぎじゃ。肩書きばかりに目がいっとると大事な物が目に入らぬぞ?」

「まぁそうだね。ごめんアイちゃん。さっき僕が言った事は忘れて。お姫様らしくじゃなくラウラらしく居てくれたらそれで良いよ。駄目だと思った事は注意するけどもね」

「…はぃ…」


優しく手を握られながらそんな事を言われて夢見る表情で返事をするラウラ姫。あまりラウラ姫に優しくしない光司から名前で呼ばれ、はにかみながらそんな事を言われてしまえば舞い上がってしまうのは当然であった。これを意識せずにやってしまう光司は鬼であろう。なにせ未だに姫達との結婚を回避できないかと考えているのだから。


「主よ。ここまでしておいて、結婚から逃げようと考えるのは人としてどうかと思うぞ?」

「えっ!? いやでもほら、僕じゃ釣り合わないでしょ?」


白夜のジト目を受けて冷や汗が流れる光司。とっさに出た言葉は言い訳でしかない。


「ほほぉ。わし達はこの者より劣ると申すのか? さてさてセリナ辺りが聞けばどう思うじゃろうなぁ?」

「いやっ何もそんな事は言ってないよ! ていうかなんで白夜がそんなに乗り気なのっ?!」


味方だと思っていた白夜から思わぬ攻撃を受けて狼狽する光司。


「流石のわしも不憫に思えてのぉ。それに主は夜に強すぎるのじゃ、わしだけじゃ受け止め切れんのじゃ…」

「うっ」


確かに白夜が先に音を上げてしまった。セリナ達の時も三人を相手にして一歩も退かずむしろ攻め立てていたぐらいだ。万が一そんな状況が毎日続けば持たないと白夜は実感したのだ。正直、光司としては物足りないと感じているので全く反論できなかった。


「まぁ、主が本気で嫌だというなら手を貸すつもりじゃが、そうじゃないであろう? なら、わしが乗り気になるのも当然じゃろ?」

「そりゃあ、お姫様達は可愛いし綺麗だし性格も申し分ないけど。僕が良くても周りがなぁ」


光司とて美貌で世間にその名が鳴り響いている姫達に好意を持たれて悪い気はしない。むしろ戸惑いの方が大きい。いまだ上の空で顔を上気させたままのラウラ姫を見ながら自分のどこが良いのだろうと考え込む光司。その反面、ラウラ姫の体つきを見てあんなことやこんなことをこのお姫さまとしちゃったら気持ち良いだろうなぁという邪な考えも当然のようによぎりはするが。


「何を言っておる。周りは認めておるんじゃから何も問題は無いではないか。まぁセリナは頑張ってくれとしか言えんがな」

「なんにせよ、アーンをどうにかしないと落ち着いて考えられないよ。あ! 婚約相手をアーンってことにしたらエルディバの人って一致団結するんじゃない?」

「主…?」

「うそです、ごめんなさいっ!」


あまりにも情けない光司の発言に頭が痛くなる白夜。だがその原因もよく理解できるだけに無闇に責める事はできなかったが。いつアーンが襲ってくるか分からない恐怖。手をうとうにもまるで歯が立たない状況。明るく振舞ってはいるが光司の内心では恐怖が渦巻いているであろう事は白夜は勿論ラウラ姫も感じているのであろう。来る決戦まで静かに寄り添い続けて安心させるつもりであった。


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