第19話:審美眼の女帝
六本木のアークヒルズの一角、最上階に近いフロアに構えられたモード誌『VOGUEIL』日本版の編集長室は、いつ何時訪れても、他者を拒絶するような研ぎ澄まされた冷気に満たされていた。
無機質なガラスとブラッシュドスチールで統一された室内。床には防音性の高いチャコールグレーのカーペットが敷き詰められ、壁一面の本棚には、半世紀以上にわたるヨーロッパの服飾アーカイブや美術全集が、背表紙の褪色ひとつなく整然と並んでいる。
その部屋の主――九条志乃は、ガラスデスクの前に腰掛け、眉間に深い縦皺を刻みながら、手元の企画書に赤ペンを走らせていた。
御年五十二歳。
黒髪を完璧なボブカットに切り揃え、鋭角的なチタンフレームの眼鏡の奥には、世界中のデザイナーが恐怖する「絶対的な審美眼」を宿した瞳がある。二十代で渡仏し、パリの辛口モード批評家として名を馳せた後、三十年にわたり世界のモード界の最前線でペンを振るい続けてきた、日本ファッションメディア界の絶対的女帝。
彼女が一言「凡庸」と切り捨てれば、気鋭のブランドであっても翌シーズンには百貨店から売り場を没収され、逆に彼女が誌面で絶賛した無名の才能は、一夜にしてパリやミラノのランウェイへと押し上げられる。
「……反吐が出るわね」
志乃の唇から、冷たい吐息とともに容赦のない言葉が吐き出された。
放り出された企画書のタイトルには、こう記されていた。
『次世代のカリスマ! 立花莉乃が魅せる、ネオ・ゴシック・フェアリーの世界』。
先日のジャパン・モード・クリエイション大賞で新人賞をさらったという、アトリエ・アルカの若手モデル兼デザイナーを特集するタイアップ企画だった。
「編集長、やはりこの企画は……」
デスクの脇に立つ三十代の副編集長が、恐る恐る口を開く。
「神代社長のところから、かなりの広告出稿を条件に提示されていまして。三ツ星百貨店とのコラボも決まっているそうですし、今の若い読者層への訴求力としては……」
「読者層への訴求力?」
志乃は赤ペンを置き、眼鏡の奥から射抜くような眼光を部下へと向けた。
「いつから『VOGUEIL』は、インスタグラムのフォロワー数に媚びを売る三流ゴシップ誌に成り下がったのかしら。……この立花莉乃という小娘の服を、あなた、自分の目で見たことがあるの?」
「いえ、展示会は来週ですが、受賞作の写真は拝見しました」
「写真ね」
志乃は冷笑を浮かべ、細い指先でデスクをトントンと叩いた。
「今の時代、カメラのフィルターとライティング、そしてPhotoshopのレタッチがあれば、どんな雑巾でもオートクチュールに見せかけることができるわ。……あの受賞作『宵闇のプリマ』の写真を見て、私が最初に感じた違和感が分かる?」
「え……違和感、ですか?」
「アンバランスよ」
志乃は躊躇うことなく切り捨てた。
「写真に添えられたインタビューでは、彼女は『インスピレーションが降りてきた』『感覚で形にした』などと幼稚な言葉を並べ立てていたわ。でもね、あのドレスの裾の落ち感……バイアスカッティングによる重力の計算と、歩行時のドレープの流動性は、狂気的なまでの幾何学の論理で構築されていた。二十代そこそこの、型紙の一枚も引いたことのないモデル上がりの小娘が、偶然で創り出せる代物じゃないのよ」
志乃は立ち上がり、窓の外に広がる東京の摩天楼を見下ろした。
その背中には、現代のファッション業界全体に対する、底知れぬ失望と怒りが漂っていた。
「最近のデザイナーは、誰も彼もが中身のないペテン師ばかり。服を建築物として捉えることもせず、糸の一本、布の目に敬意を払うこともなく、ただ『映えるかどうか』だけで薄っぺらい布切れを粗製濫造している。そしてそれを、神代俊樹のような口先だけのプロデューサーが買い煽り、馬鹿な大衆が消費して捨てる。……布を冒涜する豚どもに、私の誌面を貸す気は一ミリもないわ。アルカの企画は全面ボツ。広告枠もすべて断りなさい」
「は、はい……承知いたしました」
副編集長が青ざめて頭を下げた、その時だった。
トントン、と編集長室の重いドアがノックされた。
入ってきたのは、受付の秘書だった。その腕には、長方形の平たい箱が抱えられていた。
「編集長、お届け物です。先ほどエントランスの受付に、バイク便で直接届けられました」
「また売り込みのサンプル? 差出人は誰」
「それが……送り状にはブランド名も会社名も一切記載されておらず、ただ編集長の親展扱いとだけ。……ただ、これをご覧ください」
秘書がデスクの上に恭しく置いたのは、マットな漆黒の化粧箱だった。
リボンも、派手な金箔の装飾もない。
だが、箱の表面には最高級のブラックコットンペーパーが隙間なく貼り込まれ、中央にわずか数ミリの極小のシルバーの箔押しで、細身のサンセリフ体の文字が刻まれていた。
――『L'OMBRE』。
「……ロンブル?」
志乃の眉が、わずかにピクリと動いた。
フランス語で「影」。
普段の志乃であれば、差出人不明の不審な荷物など、開けもせずにアシスタントへ下げ渡すか、ゴミ箱行きを命じるところだった。
だが――その箱がデスクに置かれた瞬間、部屋の空気がわずかに変わったのを、女帝の鋭敏な五感は見逃さなかった。
匂いだった。
接着剤や化学染料のツンとした臭気ではない。
乾いた秋の風を思わせる、上質な羊毛特有の微かな脂の匂い。
そして、古い木造の工房で、何十年も使い込まれた機械油とともにゆっくりと熟成された布地だけが放つ、重厚でどこか懐かしいテキスタイルの芳香。
「……開けなさい」
志乃の短い命令に、秘書が白い綿の手袋をはめ、箱の蓋を両手で持ち上げた。
薄い黒のグラシン紙が丁寧に折り畳まれている。
志乃は自ら手を伸ばし、そのグラシン紙を静かに左右へと開いた。
――息を呑む音が、部屋の中に小さく響いた。
箱の中に横たわっていたのは、一着のテーラードジャケットだった。
余計な詰め物や型崩れ防止の厚紙は一切使われていない。ただ、仕立て上がったままの姿で、折り目を極限まで減らして収められていた。
志乃の瞳孔が、カッと見開かれた。
「……何よ、この黒は」
志乃は無言のまま、ジャケットの肩先に指を触れた。
吸い付くような肌触り。
一般的なプレタポルテ(高級既製服)で使われるウールギャバジンとは、密度の次元が違っていた。
タスマニアメリノウールの極細番手の糸を、極限までテンションを緩めて織り上げた二重織り。
光の当たらない底の部分は底知れぬ深海のように暗く、ひとたび部屋の間接照明が当たると、織り目の一筋一筋が青みがかった銀の粒子を散りばめたように、妖艶な陰影を浮かび上がらせる。
「トルソーを持ってきなさい。今すぐ!」
志乃の鋭い声が飛んだ。
副編集長が慌てて部屋の隅から、人体の骨格を忠実に再現した木製のオーダーメイドトルソーを運び込む。
志乃は両手でジャケットを持ち上げた。
そして、トルソーの肩へと、滑り込ませるように着せ付けた。
――カサリ。
布が擦れ合う、衣擦れの音が響く。
トルソーにジャケットが収まった、その瞬間だった。
志乃は目を見張ったまま、金縛りに遭ったように立ち尽くした。
「……自立している……?」
トルソーの上に現れたのは、ただの「衣服」ではなかった。
無駄な装飾――派手なボタンも、奇をてらった切り替えも、ブランドロゴのタブすら存在しない。
シングルブレスト、ノッチドラペルの普遍的なテーラードジャケット。
だが、その佇まいは、まるでそこに実体を持った高貴な彫刻が立っているかのような、圧倒的な立体感を帯びていた。
肩先から胸元にかけての、一切の淀みがない流麗なS字のロール。
人間の肩甲骨の丸みに沿って、ミリ単位で分散された背中の運動量。
そして何より――腕の付け根から下に向かって流れる二枚袖が、人間の腕が自然に前方へと湾曲する生体構造をトレースし、完璧な「前振り」を描いて空間に静止していた。
「手袋を外しなさい」
志乃は自ら命じ、素手になった両手で、ジャケットの襟元へと触れた。
指先を滑らせる。
ラペル(下襟)の裏側に指を滑り込ませた瞬間、志乃の背筋に、氷水を浴びせられたような戦慄が走った。
「……ハ刺し(はざし)だわ」
志乃の声が、微かに震えていた。
「接着芯じゃない。本バス毛芯……馬の尾毛を使った最高級の芯地を、麻布の上に、手縫いの細かな千鳥ステッチで留めつけてある。……だから、こんなに柔らかいのに、胸元に鋼のような反発力と弾力が生まれているのよ」
志乃は憑りつかれたように、ジャケットのディテールを暴きにかかった。
前身頃のダーツの処理。生地の織り目を一本も狂わせず、柄合わせのズレは零点一ミリ以下。
裾の額縁仕立て。四十五度の角度で折り合わされた角には、手縫いのまつり縫いが、まるで外科手術の縫合痕のように精密に、均一に刻まれている。
裏地には最高級のキュプラが使われ、表地のウールの伸縮性に同期するように、絶妙なキセ(ゆとり)が取られていた。
「嘘でしょう……」
辛口で知られる女帝の口から、信じられないというような呻きが漏れた。
「量産品(既製服)で、ここまでやる工房が……今の日本に存在するわけがない。サヴィル・ロウの老舗テーラーのビスポーク(完全注文服)か、パリの老舗クチュールメゾンの職人が、半年かけて一着だけ縫い上げるレベルの仕事よ。……誰がこれを? どこの誰が、こんな狂気的な服を縫ったの!?」
その時、志乃の脳裏に、数日前の深夜の光景がフラッシュバックした。
ネット上で突如としてバズを巻き起こし、ロンドンのジュリアン・ヴォーンが絶賛していた、あの十五秒の無音動画。
夕暮れの路地を歩き去る、漆黒のトレンチコート。
そして昨夜、業界関係者の間で「販売開始からわずか四分で三百着が完売した」と噂になっていた、謎の覆面ブランド。
「……『L'OMBRE』」
志乃は呟いた。
震える指先で、ジャケットのボタンを外す。
そして――志乃は自らのジャケットを脱ぎ捨てると、トルソーからその漆黒のジャケットを外し、自らの両腕を袖へと通した。
「編集長……!?」
副編集長が驚きの声を上げる。
普段、他人の作った服を自ら試着することなど滅多にない志乃が、衝動的に服を纏ったからだ。
――スッ。
滑らかなキュプラの裏地が、志乃のシルクブラウスの上を滑る。
重厚な二重織りのウールが、志乃の肩の上へと乗った。
その瞬間。
「…………っ!」
志乃の呼吸が、完全に止まった。
瞳が大きく見開かれ、身体が硬直する。
「何……これ……?」
声が出なかった。
重みがないのだ。
あれほど高密度に糸が打ち込まれ、しっかりとした厚みと弾力を持つウールジャケットであるにもかかわらず、肩にかかる荷重がまるで感じられない。
まるで、温かい空気に包まれているかのような軽やかさ。
服の重心が、狂気的な計算によって「首の付け根と頸椎の根元」に完璧に分散されていた。
志乃はゆっくりと、右腕を前へと伸ばした。
信じがたいことが起きていた。
通常のテーラードジャケットであれば、腕を前に伸ばした瞬間に背中が引きつれ、前身頃が引っ張られて襟元が浮き上がるはずだった。
だが、このジャケットは違った。
腕を前に出しても、上に掲げても、身頃はまるで志乃の皮膚の一部であるかのように吸い付いたまま、一ミリも乱れを起こさない。
背甲骨の丸みに合わせて立体的に畳まれたダーツの運動量が、腕の動きに合わせて自然に開き、そして腕を下ろせば、何事もなかったかのように元の完璧な直立シルエットへと戻る。
「動いても……シルエットが死なない……」
志乃は全身鏡の前に立った。
鏡の中に映っていたのは、五十を過ぎ、加齢によってわずかに前傾し、丸みを帯び始めていた自らの体幹が、まるで二十代の研ぎ澄まされた戦士のように、凛然として補正された姿だった。
光の当たる角度によって、尾州ウールの深い綾織りが妖艶な陰影を描き出し、志乃という人間の存在そのものを、圧倒的な威厳で包み込んでいる。
「服が……私を、支配している……」
志乃の鳥肌が、全身を駆け巡った。
感動。
それ以上の、恐怖にも似た畏怖。
本物の服とは、こういうものだ。
ロゴで着飾るのではない。トレンドを消費させるのでもない。
布と人体の力学を極限まで調律することで、纏う人間の尊厳を、世界の頂点へと押し上げる。
「縫い代の始末、毛芯の据え方、ダーツの処理、そしてこの奇跡のような生地の落ち感……」
志乃は鏡を見つめたまま、熱に浮かされたように呟いた。
「狂気よ。完全な職人技。……今の時代に、こんな構築的な服を作れる人間が、まだ日本にいたの? 誰なの? 誰がこの型紙を引いたの……!?」
志乃は衝動的に、デスクの上の化粧箱へと駆け寄った。
箱の底を漁る。
何か手がかりがあるはずだ。送り状のないこの箱の中に、この怪物を送りつけてきた黒幕の痕跡が、必ず残されているはず。
そして――グラシン紙の底から、一枚の細長い名刺が滑り落ちた。
重厚なコットンペーパーに、漆黒のエンボス加工で刻印された、見慣れた紋章。
――『L&V Holdings CEO / Leon Kinosaki Valentin』。
(L&VホールディングスCEO レオン・城崎・ヴァランタン)。
裏面には、万年筆による流麗な筆致で、ただ一言、英語でこう記されていた。
『To Shino Kujo. Do you still believe fashion is dead?』
(九条志乃へ。君はまだ、ファッションは死んだと思っているかい?)
「……レオン!」
志乃の口から、低く鋭い声が漏れた。
世界最大のラグジュアリーコングロマリットのアジア総括CEO。冷徹な数字主義者でありながら、本物の伝統技術にしか金を払わない、あの若き帝王。
すべてのピースが、志乃の頭の中で電光石火の勢いで噛み合わさった。
この生地の手配力。
一切の宣伝をせず、真夜中に三百着を完売させた資本の防壁。
そして、この完璧な仕立て。
レオン・城崎・ヴァランタンが、巨額の資金とサプライチェーンを提供し、この「顔なき天才」を背後で操っているのだ。
「受話器を!」
志乃は叫んだ。
「編集長、どなたに……!?」
「いいから早く受話器を寄越しなさい!」
副編集長からひったくるように受話器を奪い取ると、志乃は手帳も見ずに、頭の中に記憶されていたレオンの直通ホットラインの番号を、激しい打鍵音とともにプッシュした。
プルルル……プルルル……。
コール音が二回鳴り、カチャリと受話器が取られた。
『Bonjour, Madame Kujo. 届いたようだね』
受話口から流れてきたのは、すべてを見透かしたような、深く優雅なレオンの低音だった。
「レオン! 前置きは抜きよ!」
志乃は受話器を握りしめ、早口でまくし立てた。
「このジャケット……L&Vが噛んでいるわね!? あの『L'OMBRE』の背後にいるのは、あなたね!?」
『さて、何のことかな。私はただの、世界一美しい服を愛する投資家に過ぎないよ』
「惚けるんじゃないわよ、この狐が!」
志乃の怒声が、編集長室に響き渡った。だがその声は、怒りではなく、獲物を見出した獣のような猛烈な歓喜に震えていた。
「このパターン……前肩の傾斜、袖山のイセ込み、そしてこの尾州ウールの二重織り! こんな狂気的な服を形にできる人間が、世界に何人いると思っているの!? デザイナーは誰!? どこの誰がこの型紙を引いたの!? 今すぐ名前を吐きなさい!」
電話の向こうで、レオンが楽しげに喉を鳴らして笑う気配がした。
『それは教えられないな、九条編集長。彼女……いや、そのデザイナーは『影』であることを望んでいる。L&Vとの契約条項にも、完全なる秘匿義務が課せられている。いくらあなたが日本のモード界の女帝であろうと、その掟を破ることはできない』
「……彼女?」
志乃の鋭い勘が、レオンの微かな言葉の揺らぎを捉えた。
「デザイナーは、女性なのね?」
『おっと、失言だったかな』
レオンは軽く受け流した。
『だが、確かなことは一つだけだ。その服のすべては、嘘偽りのない本物だということ。……どうかな、九条編集長。あなたの目から見て、その服は誌面に載せる価値があるかい?』
志乃は鏡の中の、ジャケットを纏った自分自身の姿を見つめた。
胸が激しく高鳴っていた。
何十年も忘れかけていた、純粋な服に対する熱狂。
布と針だけで世界をひっくり返そうとする、名もなき職人の凄まじい魂の叫びが、このジャケットを通して、志乃の全身へとダイレクトに流れ込んでいた。
「価値があるかないかですって?」
志乃は口角を吊り上げ、不敵な笑みを浮かべた。
その瞳には、かつてないほど獰猛なジャーナリストの炎が燃え盛っていた。
「レオン、よく聞きなさい。……次号の『VOGUEIL』、巻頭の特集ページをすべて差し替えるわ。予定していた海外メゾンのルックも、広告タイアップも、全部後ろへ回す」
「ほう?」
「巻頭十ページよ。表紙も、この『L'OMBRE』の漆黒のジャケットで飾るわ」
志乃は受話器を握り直した。
「デザイナーの素性が明かせないなら、完全な匿名のままで結構。……その代わり、この服が持つ圧倒的な構造美と、日本の職人技の極致を、私のすべての言葉を使って世界中に叩きつけてあげる。……偽物たちで溢れかえったこの下品な業界を、根底から焼き尽くしてやるわ!」
電話の向こうで、レオンが満足そうに息を吐くのが聞こえた。
『最高の批評家だ、九条志乃。……彼女も、喜ぶだろう』
「インタビューの質問状を、今夜中に送るわ。必ずデザイナー本人に答えさせなさい。……いいわね?」
志乃は一方的に電話を切ると、受話器をフックへと叩きつけた。
部屋の中に、再び静寂が戻る。
志乃はデスクの上の赤ペンを手に取ると、先ほどまで作業していたアトリエ・アルカの企画書を乱暴に引き寄せた。
そして、立花莉乃の顔写真の上に、太い赤インクで、巨大な『×』の印を力一杯に書き殴った。
「終わりよ、神代俊樹。立花莉乃」
志乃の冷え切った呟きが、静まり返った部屋に響いた。
「本物の怪物が目覚めたわ。……あなたたちの安っぽいおままごとは、これで終わりよ」
女帝の審美眼が、ついに『L'OMBRE』を捉えた。
世界的なモード誌の巻頭十ページという巨大な砲台が、南青山の偽りの城へ向けて、静かに照準を合わせ始めていた。




