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集約篇 第五話 『フェルミのパラドックス』

『フェルミのパラドックス

宇宙の広さや星の数から考えると地球外文明が存在する可能性は非常に高いはずなのに人類は未だ宇宙人と出会っていないという矛盾のこと


物理学者のエンリコ・フェルミが提唱した』

フーコーは自室にサルトル、カミュを呼んだ。

椅子に座らせたあと紅茶とケーキを出して、二人が先に質問をする前に呼んだ理由を明かす。

「セオドロスについて、彼の正体に近付ける良い情報が手に入りました。

スラム街のSMバーに行ってその後喫煙所にいたんですけどね。その方と意気投合してラブホテルに行ったのですが、その方は、どうやらプロキオンの方でしてね。仕事をしていたのが記憶改ざん処理を受けて捨てられたのをたまたま思い出したらしいんですよ

ま、そこの細かい話とその後どうやって情報を引き出させたのかは割愛させていただくのですが、聞いておいて損は無いかと」

サルトルはチョコレートケーキをフォークで一口大に切って口の中に入れていった。

「経緯はどうでもいいし、お前の趣味が三割の所こそ割愛すべきだ。

監視カメラの権限を司るパノプティコンの主が、上層部の連中にも言わず私たちにだけ言うか、面白いね」

カミュは紅茶を啜る。

「大丈夫なのかい?伝えなくて……また不義理をして、上層部から処刑チームを差し向けられたらと思うと、どうも…」

フーコーはサルトルの嘲りもカミュの杞憂もどうでもいいと発言した、

「かつてデモを共に行った友人と、その後友人にも情報を提供する……これは私なりの誠意ですよ」

「どうだか、得た情報は確かに価値があるのかもしれないがお前は自分で得た情報を餌のように使い、それを強く求める相手へぶら下げて遊ぶのが好きなエゴイストだ」

「褒め言葉どうも」

「その時点で気に食わん」

ケタケタと笑ったフーコーは、話を戻した。

「セオドロスくんの正体と思われるものですけれどね…」


紅茶の表面が揺らめき、緊張をしたような顔が表面に映し出される。

お菓子として用意されたジャムとクッキーはただそこに存在し続けていて、風邪で影響を受けたのかクッキーがカランの崩れて音だけが響いた。

仮称:Nは母親のように慈しみを持った、けれども冷たい眼差しで笑って話した。

「その存在はだね…」


「人間社会で生まれた人間であり、彼らのような存在は総じてひとつの主義を掲げております。セオドロスくんなら…功利主義でしょう。そして、肉体の方も作り替えられます。全てのケースで男性から両性への変化をするようです。我々が瀕死になる時には心臓に核が露出してしまいますが、彼らの場合は両性となった時に出現した子宮内部に露出されます」

「人間という個体から作り出される珍しい品種…

通常の個体なら、私達の星を体内に入れると自壊するはずです。それを阻止する為にもヴィドックさん、ミヤザワさんのようにスターバーストの人達は別の概念を羽織らせる事で肉体に耐えられる自我に作り替えたようですが、それらは違う。本来であれば急所にできるはずの核も、肉体が作り替えられた時に生まれた子宮内にできる…と」


「己の掲げる主義への傾倒と、己への強い肯定感をもってして彼らは固有の自我を得ました。他の者の意見など、聞いても己のエゴを貫き通すでしょう」

「彼らは人間社会という全体に染まる事を極端に嫌います。ある意味で孤独を最も追求したとも言え、一つの思想に染まり強固な思考の殻で他者の意見を聞くことはない…」


「その強いエゴを持ってして、彼らは堕ちた星を体内に含めても星の力に呑み込まれることも無く、他者の概念を得る事も必要とせず、彼らはこの世界で、たった一人だけで自分の存在を強く得たのです」

「その強い思想は、星と混ざり合うことでより強固なものになります。これはひとつのきっかけに過ぎないもので、元より特別になる素質はあったんです。彼らのその強い自我は他者の認識に呑まれることなく自分という存在を確立させたのです」


「しかしその存在は、人間社会を生きる我々の手には負えない怪物と成り果てました。セオドロスくんがどうかは分かりませんが、他の国で見られている同じような存在はやはり総じて人間に強い敵意を持つものが多いのです」

「その存在は私達にとって都合がいい存在なんです。私達の元でもある星と混ざりきり生存しているもの。人間でもなく星でもない稀有なもの。最初の名前は全てを受け入れる星の個体として母体と呼んでいたようですよ」


「人間として生まれたにも関わらず、人の身から堕ち、また誰の子にもなることができず自分の思うようにしか生きられず、そして死んだ存在…」

「最初はソレを使い、我々が繁殖する為に子を孕ませようとしましたが、どうにもダメだった…と、どれほど種を植え付けようとも着床しなかったのですよ。卵子は存在するようですが……」


「この星に生きる生物にとっては、次の世代を残して育み、育てることこそ生きる意味でもありましょう。それすらもできず、元の生物としても成り立たなくなった……子も孕めぬ生物(なまもの)の蔑称…」


「それが星の堕胎児というものです」


サルトルはフーコーの語りを、鼻で笑った。

「どこまでが本当かは、また調べていかねばならない。お前が一晩寝ただけの男から得た情報ごときが真実であるかは、不明だからな。酔ったはずみで出た妄想かも分からん」

「それもそうです」と、フーコーはあっさり自分の今の意見を全て信じる必要はないと言った。

フーコーはワインからコルクを抜くと、口につけて飲んだ。少し飲み終わるとカミュに対して微笑みかける。

「セオドロスが心配ですか?カミュ」

「…そりゃあ、心配ってか…なんていうか、複雑な気分……君のそれが本当なら、本当なら…なんだか、嫌な感じで……別に、私は彼を見放したつもりは…」

「ははは…貴方ではなく、人間社会そのものから排斥されてしまったんですよ。彼はね」

フーコーはそのまま残りのワインを全て飲みきってげっぷをした。


「その話は本当か?……ちょっと聞き逃せないことが聞こえた。繁殖つったか?」

ヴィドックの問いに、仮称:Nは困惑の目を向けた後、すぐに自分の中で答えを出したのか納得をしたような顔を見せた。

「生物である限り、本能として成すべきは繁殖です

知っているでしょう。貴方達継承者も、私達のような星の生き物も、繁殖ができません。核を壊せば皆等しく死にます。いや、死というのは人間が作り出した終わりですね……破壊されます

生まれてきて、終わり。それは生命の本能として虚しいものでしょう。だから生物は皆、何かを生み出さんとするのです

子供はその最たる例と言えます。

試せる手は使うに越したことはありませんよ

まぁ、私がやった訳ではなくこれらの情報は全て他の上位種との交信で得ただけの情報です。私は何も知りません。今知りましたが、それだけです」

ヴィドックはお菓子のクッキーを一枚口に放り投げた

「あくまでも人と同じ生命を名乗るんだな」

「当たり前です。実際にそうではありませんか。力が強いだけで、自分以外の存在がいなければ生きられない生命とは、皆同じですよ」

「そうかもしれないが……はぁ…星の上位種だつっーから、どんなにめんどいかと思ったら拍子抜けだったわ」

「ヴィドック、いきなり舐めた態度を取らないの」

「へっ」

「良いんですよ。私としてもこれぐらい砕けた会話ができた方が楽しいですから」

ミヤザワとヴィドックと違い、紅茶にもクッキーにも一切手をつけずにセオドロスは仮称:Nを見た。

「だからといって罪が消える訳ではありませんし、貴方のような存在が生きてていい訳でもありません、そもそもとしてこの世界がおかしくなった理由は貴方達のような星の存在のせいですし、一律消えるべきだと思います」

「…セオドロス!」

ミヤザワはセオドロスの口を物理的に手で塞ごうとしたが、咄嗟に動いた仮称:Nに腕を掴まれて阻止された。

机を跨いで近くに来た仮称:Nの顔とセオドロスの顔は目と鼻の先だ。

「続けていいですよ。その憎悪は、持っていて当たり前です。貴方達からすれば全ての元凶は星ですから、私に敵意を持つのも当然でしょう」

仮称:Nはその次に「その極端な感情や思想こそ、星の堕胎児である存在の共通点として見られるようですから……実際に見られて光栄ですよ」と付け加えた。

付け加えられた余計な言葉に、セオドロスは目に見えて怒りを露わにしていた。

「そういう!そういう行動をして当たり前って言い方やめてくれませんか、不快なんです」

「何故、不快と感じるのですか?」

「ボクの全ての行動が思い通りのように微笑ましく見られることに腹が立ちます。貴方のその笑顔が酷く気味悪く感じます」

ミヤザワとヴィドックはセオドロスの発言に星の上位種が危険な存在だからこそ、警戒心を持っていたが仮称:Nはそれでもニコニコとしていた。

ミヤザワとヴィドックの方を見ると安心するようにと笑顔を向ける。

「激情に呑まれるような他の低俗な方々とは違いますから……」

仮称:Nは椅子に座り直して、セオドロスの方を見る。

紅茶とクッキーは召し上がらないのかと聞いた。

セオドロスは「自分のタイミングがある。これは勝手に押し付けられたものであり、どうするかは自分で決める為指図しないで欲しい」と答えた。

「貴方、親とは仲良いですか?」

仮称:Nは質問をした。

「両親は堕ちた星の襲撃により亡くなりました」

「…その事実ではなく、貴方と家族の関係ですよ」

「親とその子供です」

「母親と父親に対して何か思い出は無いのですか」

「それ思い出してなんの意味があるんですか?」

「貴方の事が知りたいんですよ。セオドロス」

「なんでですか?」

「貴方の気持ちに寄り添いたいんですよ。セオドロス」

セオドロスは一瞬怯えるような顔をした。

「寄り添えるわけないじゃないですか

誰一人相手のことを分かることができないのだから、寄り添うなどという行為をしても意味ありません。ボクはそれを必要としないので、知ろうとしなくても良いと思います」

仮称:Nは心の中で目の前の子供のことを嘲った。

寄り添えて貰える存在という自認があるからこそ今この子供はこの発言をしたのだ。なんて傲慢なのだろう

この子供には欠陥があると思った。感情や心といったものではなく、思考に至るまでのロジックが破綻している…と


「それではここから先情報を聞いたいのなら、それ相当のものを用意してください」

仮称:Nは膝を組んだ。

「具体的なものにつきましては宗教について、私個人について、星の上位種の弱点について…でしょうか」

ヴィドックはクッキーを食べ終わった指を舐めて、セオドロスを指さした。

「私達に残された手札はこいつと、後はスターバーストに封印されている怪物たちぐらいしかないね」

「んん、良いですね。興味をそそられます

しかし話せる内容は今提示した中では宗教についてのみ答えさせていただきます」

「警戒するね。沢山言ったくせして一個だけしかくれないつもりかい」

「星の堕胎児につきましては情報が少ないので警戒しても仕方ありませんでしょう………それにですね

時間を繰り返す力を持つ存在に余り明かしたくはないんですよ」

ヴィドックは警戒態勢に入った

それを見ると仮称:Nは笑った

「先程彼に質問をした時に、少々彼自身の記憶をざっと見ました。見たと言うより知った…の方が近い感覚です」

セオドロスはそれを聞くと自分の頭を抑えた。

「いつのまに…」

「細かい事は知っていません、そこまで知るまでに深く潜る時間も余裕もありませんでしたから本当にざっと知っているだけです。ダンテと呼ばれる存在と接触すると貴方は時間を繰り返す。そして今回は8回目である…とね。本当にこれくらいしか知りません」

「本当にそう…と、信頼するにはちょっと距離開いちまってるかな」

「貴方のその正直な所は好きですよ。しかし、私のような稀有な性格のもの以外とはあまりそういう会話方法をしない方がよろしいですね」

ミヤザワは慌てながらヴィドックの肩をブンブンと揺らすと「僕もそう思います…」と、ヘラヘラと笑った。

「こちらとしてもサンプルを見せていただけて、感謝の極みですよ。言えるのならば情報を全て伝えて差し上げたいのですが、そこの彼がループするという力を有するのならば、私自身や弱点まで教えてしまっては今この世界ではなくとも、別の時間軸で彼は私を殺してしまうでしょう?ですから、警戒です」

ミヤザワはその状態ならばセオドロスを基準として話を進める訳では無いと思った。また、あたかも情報を交換し合うことのみが目的となっているが、ミヤザワはその先を見据えた。もちろん自分の行いたい最終目的も視野に入れた上でだ。

「交渉しましょう。仮称:Nさん」

「はい、ミヤザワさん」

「完成者について知っていますか?」

「あまり、彼の記憶を見させていただいたところは怪物…と言った所でしょうか」

「その情報を差し上げます」

「…いいでしょう。なにか恐ろしい存在であることは分かっておりますし、それが私が情報を与えるものとして…」

ミヤザワは食いつくように言う

「貴方の宗教については聞かなくて良くて、貴方の力を借りたいのです」

「…今回は情報交換の目的で来たんですよね?」

「はい、だからこれは私情です。それに完成者という存在は貴方にとってもメリットがあると思います」

「それは何故?」

「彼らは世界を根本から塗り替える怪物だからです。概念すらも己の領域に引き摺り込ませます。その強大な存在は根源…貴方の言う神に限りなく近い存在だと思うのです」

「神に限りなく近い……良いですね。神のことを探求する為にも…彼以外の存在についても知られるのは嬉しいことです」

仮称:Nはセオドロスの方を見た。


ミヤザワはざっとした完成者の概要と、ダンテとカムパネルラの二つの個体について情報を伝えた。

そのうえで自身の目的を明かす。

「僕の目的は、カムパネルラの解放です。でもその為には今言ったようにスターバーストの地下にまで行かなければならない。そこに至るまで監視カメラも多ければ、他の継承者と遭遇する事もあります。

……セオドロスくんが、未来でカムパネルラは沢山人を殺してしまうと言っていました。だから、その未来を回避したい。どうにかしてカムパネルラをスターバーストの外から出してあげたいんです」

仮称:Nはしばらく考えた。

テーブルの上の皿はほとんど空だ。

セオドロスは未だにクッキーと紅茶に手をつけていない。

「私の権能を使うまでもなく、私の力を使えばそこまで至るのは簡単です。私が出向くまでもなく……そうですね。ゲームでいう魔法のアイテムのようなものがあればそこまで行くのは簡単です

姿が認識されなくなる…そういう指輪を作れば良いので、その魔法自体はいつでもどれにでも込めれますから、これ自体はさした問題ではありません。

しかし最後に一つだけ聞かせてください」

「…なんですか?」

「何故、カムパネルラを解放したいのですか?」

「あの子を愛しているからです」

その答えに仮称:Nは目を細めて笑った。

「その答えが聞きたかった。是非とも協力いたしましょう」

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