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観測チーム篇 第六話『誘惑の取引』

『人間を堕落に導くもっとも大きな悪魔は、自分自身を嫌う心である

-ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ-』

フーコーはあの日から、どこか自分の首だけが頭上の縄に括り付けられて世界から30cm浮いたような気分で過ごしていた。

所謂浮遊感というものだ。いや、離人感ともいうのだろうか。

司令チームの人達にも、職員にも、部下にもそう。同じように頭の中にある台本をただなぞって話しているだけだ。

上層部からはより、仕事を全うするように忠告を受けて終わった。

頭上にある監視カメラを見つめる。

彼等は私を見ている。

監視カメラを見つめる。彼等と目が合っている。

しかし私からは彼等と目が合っているのか分からない。

本当にこの映像を見ているのかも分からない。

案外あの監視カメラを壊しても、もしかしたら何も起きないかもしれないし、なにかまずいことが起きるかもしれない。

フーコーは今まで通りにモニターを見て継承者達の日常を見て時間を潰すことをしなくなった。

テロリストの襲撃で13人の継承者が消えた。

その他細々とした理由で、合計15人ほどもういないのだ。

14人だったか?…数はもうどうでもいい

どれだけ月日が経ったとかも分からない。もとより、パノプティコンに引きこもって毎日米粒のような人間達を見続ける。これだけで終わり。

サルトルからのお誘いももう無くなった。

司令チームとして彼も成すべきことが多いんだろう。

多くの継承者が居なくなったあとは特に…

フーコーはモニターの画面を見続けた。


少なくはなったものの、遠くから見れば多くの人で賑わっている継承者達の明るい舞台を見るのをやめ、フーコーは完成者の方に視線を向ける。

__ファウストがこちらを見ていた。

フーコーは急いで目を逸らす、他の完成者を見た。

ダンテはいつも通り槍に貫かれながら拘束されている。

地獄の主はあれぐらいでもしないとすぐに全てを燃やし尽くしてしまう。

最初の完成者にして最凶の完成者…

死後キリスト教における地獄・煉獄・天国を確立させた男の影響は強く、完成者となりそれらの概念を羽織るダンテは恐れられた存在となった。

彼は全ての人間を罪人として処刑する。彼自身が地獄なのだ。

__しかし、時々殺さない人間がいる。

それらは共通して罪悪感を抱かない人間

…おそらく彼は相手の心を読む。もしくは相手の存在を認識していて、相手が罪を持っているのかどうかを、相手自身の心で測るんだろう。

だから罪悪感を持っている人間は軒並み彼の餌食だ。

そして、持ち合わせておらずとも彼は罪人と認められた囚人や殺人や暴行などの確実な罪を犯している人間も殺す。

多くの人間は実際の罪を使い、その他の人間は罪悪感を使う。

あの怪物は誰よりも罪の無い存在を恐れているのではないか?…と、誰かが記録で残していたっけ……

十分に気が逸れた次に、フーコーはカムパネルラの方を見た。


カムパネルラはまるで小さな水槽に泳がされている金魚のようだ。

夏祭りに多くの金魚をとり、その内の一匹を金魚鉢の中に入れる。金魚にとっては遊ばれる前のプラスチックの箱の中の方が広かっただろうが、その小さな金魚鉢の方が快適な泳がされているように思える。

そんな雰囲気で、カムパネルラは部屋の中をふわふわと歩き回っていた。

あの怪物はこの四人の中で新参者だ。その分記録も少ない。

しかし彼は一度汽笛を鳴らすと、聞こえた人間に対し天上の国へ誘うと言うらしい。それにイエスと答えれば、彼は連れていくというが現実ではバラバラ死体だ。

魂で救われようが現実で悲惨なら現実にいた方がマシだ。

フーコーは次にドン・キホーテを見た。


ドン・キホーテは定期的に天井の穴から投げ込まれる人間を悪魔と思って殺している。

人間は組織に違反した職員や、死刑囚だ。

もう死んでもどうでも良い人間を投げ込んでいる。効率的なのだろう。死んでもいい人間をこんなふうに使用するのは

ドン・キホーテは変わらず人間を悪魔と誤認し槍を向ける。

人間は目の前に現れた鎧を着た怪物を、きちんと怪物と認識する。だから叫ぶ、喚く。逃げる。

彼らは知らない。ドン・キホーテは言葉を彼に合わせたように発せれば、言いくるめることが可能だ。

妄想に合わせるように、たった一言言えばいい

「私は奇術師に姿を変えられた人間です」とでも、いえばあの怪物はすぐに信用する。

それさえも分からないから死んでいくのだ。

今も、ドン・キホーテは死体に槍を突き刺し続けている。

人間の供給が途絶えればドン・キホーテはすぐさま閉じ込められている現実を認識し、収容違反をするだろう。

フーコーは最後にファウストを見た。


彼は部屋に与えられた椅子に腰掛けている。

構図だけなら電気椅子で殺される死刑囚だ。しかし彼は足を組んで林檎を手の中で弾ませて遊んでいる。

「もう終わり?」と言わんばかりにゆっくりとフーコーを見つめ直して、目が合ったことを確認した途端に微笑んだ。

近くにあるパソコンに手を伸ばす。

異常事態だ。誰かを呼ばないといけない。あれの対処をさせないといけない。

そしてファウストから目を逸らし、パソコンに目を移してキーボードを叩こうとしたフーコーの目の前にファウストが映った。

監視カメラの視点のように斜め上からではなく、真正面に

勢いを殺しきれずに押したキーボードの音が響く。

フーコーはパソコンからも目を逸らし、手元の端末の電源を入れる。

__そこにもファウストがいた。

フーコーは理解した。

「収容違反が始まっている…」

フーコーは端末を放り投げ、目の前のパソコンに映るファウストを見ながら、壁を蹴って椅子を机から遠ざける。

距離にしてパソコンから1mだ。

ファウストはフーコーを見続けている。それも、笑顔で

_こんにちは

ファウストが話しかけてきたのをフーコーは認識する。

フーコーは「こんにちは」と返した。まるで初めてAIと会話する人のように

ファウストは笑顔を保ちながらどこから取り出したか分からないナイフを使い林檎の皮を剥き始めた。

フーコー箱の沈黙の間にファウストの記録を思い出す。元はゲーテだ。セルバンテスやダンテと同じ、作者がその作品の主人公の名を献上されることで物語全てを羽織るのだ。

ゲーテは元観測チームだ。完成者になったきっかけは悪魔に魂を売った。とだけ

…ファウストは継承者や職員と自由に会話ができる稀有な完成者だ。

過去に何度も職員や継承者が彼と契約を行い相当の対価を支払うことで各々の欲望を満たしていた。

もうひとつの異常性は、ダンテとの共鳴だ。

ゲーテは生前ダンテの神曲を読んでいた。その影響がファウストに強く反映されている。

ゲーテは生前にダンテを偉大だと言い、経緯を払ってはいたがその作品の陰湿さや思想にはかなりの嫌悪感を示していた。とされる。

それが反映されているのかファウストはダンテが絡む契約のみ対価無しで行うのだ。過去に何人の人間がダンテの名を出して対価を支払わず愚かにも契約を結ぼうとしたのか。

それだけで済ませるほどファウストも愚かではない。

彼はそれで契約を結んだ相手を確実に破滅させる。

どれもこれもダンテが嫌いだからだ。

そこまでの憎悪がどこまで来るのかも分からない。

継承者としてのダンテとゲーテに関わりは無いはずだ。少なくとも手元にある資料では、そうだ。

そんなことを考えている間に彼はすっかり林檎の皮を剥き終わり、林檎を齧りながらこちらを見ていた。

_もう考え事は終わりでいいのかい?

「もういい」

_あっ、そ

ファウストは林檎を齧り続けている。

「何しに来た?」

_君と契約を結びに来た

「何故?」

_君が酷く困っているように見えて、毎日だって地に足つけて生きてないだろう?こういう事ではなくてね

ファウストは椅子に座ったまま足をぶらぶらとさせた。

「っふふ」

フーコーは少し笑う。緊張がほぐれた気がした。

_君も毎日退屈だろう?ずっと座ったまま人を見続けながら、上に監視カメラまでつけられてさ。相互監視のマトリョーシカみたいだ

「例えが少し分かりにくいよファウスト、パノプティコンを使ってくれよ」

_おっと失礼、幻滅されてくれるな?私は賢いからな

「どの口が言うか」

_この口だ。待った、下の口ではないぞ。私にそっちの趣味はないし、下の口が生意気だって塞ごうとしなくていいのだからな

「ご安心を、貴方は趣味じゃない」

_アハハ!

フーコーはすっかり姿勢を崩して足を組んだ。

ファウストもそれを見て足を組み直す。

「私に願いはない。ファウスト」

_それは嘘だ。君が本当の願いに気付けていないだけ、君には願いがある。当ててあげようか?

「……やってみろ」

_愛する人と添い遂げたい。これだろ?

「……」

本当のことを言い当てられた時、人は何も言えなくなることを知った。

_私はその願いを叶えてあげられる。

「……」

_しかし、これには対価が必要だ。安心してくれ、無償でやらない。その意味だけで君が少し安心するのを私は分かっているよ。フーコー、私は君のことが分かるのだから、安心して

「……あぁ…対価とは?」

フーコーは前のめりになり、太ももに肘を着いて顎を手で支えながらファウストを見つめた。

_まず一つ目は可哀想なカムパネルラをここから出してあげることだ。金魚鉢だって、金魚が泳ぐには酷く狭く見える。それは金魚も同じ事を思ってるはずさ

「そんなことか…」

完成者の解放の権限もやろうと思えば上層部の指示を飛ばして全体を見るものであるパノプティコンの主、フーコーにならば可能だった。

完成者であるカムパネルラを解放するボタンに手をかける。

後でお叱りだろうが、これも願いの為なら容易い事だ。何よりそんな簡単なことを頼まれても拍子抜けをする。

ボタンを押そうとした時にファウストが待ったをかけた。

_せっかちめ、二つ目を聞かずして進めてどうする。いいか?最後まで聞かずに行動するなんて詐欺師の格好の餌だぞ

「よく言うよ…でも、そうだね。それで?二つ目は?」

_君が監獄から出るためにも、君自身を殺してほしい

フーコーは疑いと困惑の目をファウストに向ける。

ファウストは同じような目をフーコーに向ける。

_擬似的にだよ。安心してくれ!

ファウストは笑顔をフーコーに向けた。

フーコーはそれを見て安心しながら笑った。

「驚いたよ。ファウスト、首を括って死ねとでも言うのかと思った」

_そんな事しても、私にメリットがない!君があの頭上の監視カメラに縄を括り付けてぶらぶらするザマを上層部の連中に見せつけようってなら、感激だがね!

「やらないよ!」

お互いにげらげらと笑ったあと、緩急をつけてファウストが再び真剣な眼差しで見つめてきた。

_私はファウストであり、グレートヒェンであり、メフィストフェレスであり、神だ。私の理性を使い君との契約を果たそう。さて、フーコー…名前を、契約の為だ。君の名前を私に教えてくれ

「……ミシェル・フーコー」

_よろしい。それでは先に対価を頂いてもいい?先払いなのでね

「分かった」

フーコーはカムパネルラの牢屋の鍵を解錠させた。

モニターから見えるカムパネルラは扉が開いたあと、同じように部屋を一周ぐるりと回ったかと思えば扉に向かって歩き出した。

__汽笛が鳴った。声が聞こえてきた。子供の声で、一緒に列車に乗ろうという声が!

「…行かないね!私の魂はどうやら悪魔のものだ!」

一言拒絶すると、声は止んだ。

_悪魔のもの、悪魔のものねぇ

ファウストは笑って見せた。

「二つ目だ。ファウスト、私自身を殺せと言ったな?どうすればいい?」

ファウストの笑顔が酷く歪んで見えた。

_こうするのさ、フーコー

フーコーの足元に蜘蛛が歩き回っている。

_潰して、その救いの糸を、もう必要ないだろう?

フーコーの足元に救いの糸が絡まっている。


同時刻、観測チームは焦りに包まれていた。

ただえさえも、テロリストの襲撃でエニグマとコペルニクスが残酷にも殺された中、キルケゴールが完成者となり暴走して施設内を蹂躙していた。

ノイマン、ラプラス、モールスの三人はモニター管理室にて他チームと連絡を取ろうとしたものの、放送が上手く入らずに苦戦していた。

「モールス!君は信号室にいて、こっちでなにか見えないか見る…ッ!クソッ!施設内の監視カメラの権限はなんでこちらにない!司令チームのあのゲイのポルノ野郎にだけ持たれてても意味ねぇだけだろ!!」

「落ち着けノイマン、怒りは分かるが冷静にだ」

「OK、冷静に……ほらよッ!!」

ノイマンは近く似合った職員のマグカップを床に叩きつけた。

(酷く気が立ってしまってる)

モールスは通信室に入りながらモニター室の会話を聞き、ガラス越しに様子を見ていた。

未だ入らないマイクに対して声を呼びかけながら、意味無くも信号機に手をかけ、信号をどこかへ伝えさせながら

「……」

マイクからも、信号機からも手を離し、モールスはポケットに入ったままのそれを取り出した。テロリストの襲撃で死んだ友が最後に自分へと渡した遺品だ。

コルト・パターソン。サミュエル・コルトが最初に作り出した量産回転式拳銃……

コルトはこれを、受肉してから作ることはしないと言っていた。

理由は作る理由がないからだ。

改良品であるコルト・ウォーカーやコルト・ドラグーンを作った方が皆の為だと言っていた彼女が、一丁だけおまじないに作っていた最初の拳銃。弾丸は入っている。いつでも使える。

何かあれば共にと思いながらモールスはそれをデスクの横に置いた。

モニター室の方では落ち着いたノイマンが真っ黒なモニターをイライラしながら叩いていた。

「外に出て確認するか?ノイマン」

「ッ馬鹿が!危険な所に易々と行かせるか!」

「危険かどうかは分からないだろう」

「モニターも見えず、放送もできず、キルケゴールが暴走して汽笛が聞こえた中、危険かどうかは分からないだと?!」

ノイマンはいつも以上に落ち着きがない。

それを煽るかのように、モニターがひとつ着いた

__ハロー、元気?

そこに映ったのはファウストだった。

ノイマン、ラプラスは身構える。

モールスが通信室から出ようとするのをノイマンはやめろとハンドサインで止めた。

「お前まで…!何の用だ!ファウスト!」

_やだなァ、私が来たら何するか知ってんでしょ?契約だよ

「知らん!帰れ!!」

_それ、帰って欲しいっていう契約?なら対価を貰おうかな

「何言ってんだお前…」

ファウストは笑顔でノイマン達を見つめる。

_言葉を慎重に選べと言っているんだ。少々騒ぎすぎだ。

_黙りたまえよ

「………」

ノイマンは汗を少し拭った後、モニターのファウストに向かい礼をした。

「失礼をした。ファウスト」

_んー、いいよ!今改めたその態度だけで許してあげよう

「…感謝します」

_早速本題に入ろう。今の現状を君らの代わりに盲目でない私が教えてあげる。

_まず起きたのはキルケゴールの暴走…完成者化だ。あれをしたのはヤスパースだよ。同じ処刑チームのね……。彼は楽しそうに逃げている最中だけど、時期に死ぬだろう。

_そして次、カムパネルラは現状停車中だよ。時間が過ぎればまた汽笛を鳴らして次の駅まで走るだろう。

_組織は四分の三が壊滅であり、それと同じぐらい人も死んでる。外に出ないという判断を下したノイマン!リーダーのキミはとても懸命だった!素晴らしいよ!

「……」

_それでだ。懸命なリーダーのノイマン。私と取引をしよう。そうして、この事態を安全に終わらせようじゃないか

「…どうやってだ!」

_私は時間の概念すらも越えられる悪魔だよ?やろうと思えば時間を遡ってもう一度チャンスを、も簡単にできるさ

「……!」

ノイマンは少し期待の目をファウストに向けた。

その目を向けられたファウストはニヤついた。

「ッ対価は…?対価はなんだ!ファウスト!」

_対価は君だ。ノイマン。君が欲しい。

「………」

_怖いかい?君が過去に戻って、同じ時を再び繰り返して止めることができたら私もここに来ない歴史になる…。そうすると、この契約もチャラにできるけどね

「リーダー…!」

ラプラスはノイマンを見た。

ノイマンはラプラスの肩に手を置いてポンポンと力強く、しっかりと叩いたあと、モールスのを方を見る。

任せろと言わんばかりに決意に満ちた顔で、頷いた。

「…リーダー……」

モールスはコルト・パターソンを握りしめた。

「契約を、ファウスト」

_それでは君の名前を、ノイマン。本名を聞かせておくれ。どの言語でも構わないよ

「それでは君に合わせて、ヨハン・ルードヴィヒ・フォン・ノイマンだ」

_ありがとう、わざわざドイツ語でね。それでは契約完了だ。

_あと言い忘れた!先払いなんだ。

「…えっ?」

ノイマンが内側から破裂した。

血液と血肉だけを残してそこにバラバラに弾け飛ぶ。

それはモールスの信号室とモニター室を隔てるガラスにもへばりつき、モールスは何があったかと扉から出ようとした。

「…出るな!モールス!!」

ラプラスの声で、モールスは踏みとどまった。

「ファウスト貴様!!」

_アハハハハ!先払いなの言い忘れちゃった〜ごめんねぇ〜!でも、この人間の魂と理性は格別に甘いよ。ありがとう!

「お前…ッ!契約を達成させる気はなかったな…?!」

_アハハ!アハ!ァハァハハハ!

「……クソッ!!」

ファウストはケラケラと笑ったあと、ラプラスを見る。

_なら君の未来予知を是非使ってみるといい。ラプラス。同じ悪魔同士仲良くやろうじゃないか!

「……」

_未来を教えて、ラプラス。そうしたら私からもなにかあげられるかもしれないからね

「ッ……」

ラプラスは椅子に触り、目を抑えた。

未来を見ている。

モールスはそれを血が着いたガラス越しに見ていた。

「あ」

ラプラスは鼻血を出した。

「あ、あ、あっあ、あ…ッ!あっ!あっ!」

痙攣している。何度も喘いで頭を掻きむしった。

やがて耳をつんざくほどに絶叫をする。

「ぁあぁぁあ…ぃいいいいぎぎぎぎぎ…ッぃいいいい!」

歯軋りをして、喉を掻きむしった後机に何度も頭を殴りつけて、しばらく経ってその音は止んだ。

ラプラスが動くのをやめたからだ。

_あーあ、未来の光景に耐えきれなくて死んじゃった!

ファウストの声が通信機から聞こえた。

_君だけが残ったね。モールス……でも、君は苦手だからいいや。君というより君の持つそれが嫌いだな。私

「…?」

モールスは自分の手に持ったコルト・パターソンを見た。

_だってその中にある弾丸、銀の弾丸なんだもの。君の彼女は面倒な事をしたよ。いや、君にとっては命拾いかな…

ファウストはわざとらしく信号機からブツッと切断の音を響かせて、再びモニター室から声を出した。

_帰ってあげるよ。美味しい魂にありつけて面白いもの見えて、君らの気色悪くて美しい絆も見れた……ファウストのように、愛しのコルトが迎えに来るといいねぇ……サミュエル………

ブツッとまたしても嫌な音を鳴らしてファウストは消え去った。

モールスはしばらく通信室から出る気力もないままに、拳銃を握りしめた。

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