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開発チーム篇 第二話『物語として生きる者達』

『希望は真実という裸を隠す為のベールだ

-アルフレッド・ノーベル-』

戦闘チームは対堕ちた星用に作られた概念強化兵器であり、対人用に作られてはいない

そもそも、人を殺すようにプログラムされてはいないのだ

逆らうのを防ぐために

「…ということなんですけど、これはなんですか?」

ジャックは渡された銃をまじまじと見た。

カチャカチャと鳴るその銃の構造を、見ても何も分かりはしないがじっと見ている。

「コルト・M1911です」

コルトはドヤ顔を披露させながら、他にも銃を並べた。似たように見えるが本職に言わせれば違うのだろう

「名前を聞いてるんじゃなくて、何故武器を渡すのかについて聞きたかったつもりでした」

「あぁ…武器として、運用する為です」

「なんで…??」

「脅威は堕ちた星だけではありませんから」

コルトは戦闘チームの人数分銃を机に置くと、横に補充用の弾倉を置いた。

「…私はいいとして、他の子が銃を撃つのは反動とかが怖いのよね」

ジャックは他のメンバーの事を思い返した。

赤ずきんにアリスにマッチ売りの少女、銃とは程遠いものを感じる。

「しかし、持っておかないと危ないです」

「何をそんなに危惧しているの?」

「先程貴方の口から言われた通り、探索チーム含め貴方達は人間に武器や権能を攻撃として出せません。それこそ、私に対してもそう。

……例えば今私が貴方に銃を向け、四肢に弾丸を放ち身動きを取れないようにすると脅しをして、実際に足に銃を撃っても貴方は私に対して抵抗も許されないままそうされるがままになってしまいます」

「貴方がそんな事をするわけないって、思ってるけど?」

「例えの話です…」

「はいはい」

「で、ですね。そうした状態がなぜ起こるかというと貴方達が貴方達由来のものを使うから、そういうロックがかかる……と、フロイト先生に教えていただきました」

ジャックは目を見開いた。

「あの偏屈なジジイに聞いたの?素直に教えたのね」

「葉巻を2ダースです」

「……」

「………それで、私は考えました。貴方達が貴方達由来のもので逆らうことが許されていないのなら、コルトのものを使えば撃てるのではないかと。だからコルトはコルトらしい武器を作って持ってきたというわけです。これはあげるのではなく()()ですよ」

一通りを話したコルトは銃の中にちゃんと弾が入っているのかを確認した後ロックをかけていった。

説明書も人数分用意している。

「人に逆らう時なんて来るとは思わないけれどね」

「…酷い事を言う職員は多いじゃないですか」

「あら、殺す程でもないわ」

「あんまりにも酷い態度を取るやつは、痛い目を見てもいいのではないかと私は思いますよ」

「ふふ、貴方、思ったよりもこっち側なの?」

ジャックが刃物をチラつかせた。

「まさか!コルトはただ、平等にしたいだけですよ

これは希望です。貴方達が…少しでも自由に生きられるようになるための」

「ふぅん…」

コルトは本当に言いたい言葉から逃げるように戦闘チームの部屋から出ていった。


コルトが開発チームに戻ってくると、赤ずきんとノーベルがいた。

「何してるんですか?」

「赤ずきんの為の武器がもうボロボロでね。新しく作るか、研ぐかを話してたんだ。…コルトはどっちがいいと思う?私は新しく作った方がいいんじゃないかなと思うんだけど」

「ボクは長く使ったものでもありますし、研いで使い続けたいです…」

コルトは目の前に置かれていた例の武器を見た。

研いだらまだ使えるだろうが、それでも寿命と言われれば寿命だろうと思えるくらいの損傷具合だ。

今後、堕ちた星と戦うのなら少し頼りない。

「私も…武器として使うなら新しくした方がいいと思いますね」

「…やっぱりそうですか」

赤ずきんはしょんぼりと狼の耳を垂れさせた。

コルトも申し訳なさそうに見つめたあと、ノーベルの方にアイコンタクトをした。

コルトの悲しみを分かっているのか、何か策があるのかノーベルはサムズアップをしている。

「しかし、武器として使うなら…だろう?それ以外のことにならまだ使える!」

ノーベルは赤ずきんの方をぽんぽんと叩いた。

「それ以外ってなんです…?」

「…」

質問を受けたノーベルは考えた。

堕ちた星の解体…と言ってもそれはジャックや治療チームのハンターに頼んでいる。

他になにか切る作業……

「き、生地を切るとか……?継承者それぞれに合う防具とかも…作りたくて…」

コルトが絞り出した声で言った。

「おぉ〜…」

ノーベルは無理だろうと思ったが、赤ずきんを見ると目を輝かせている。

ノーベルはグッジョブと言わんばかりにまたサムズアップをコルトに向けた。

「にしてもどんな防具を作る気だい?コルト」

赤ずきんの武器と、赤ずきんを他の職員に研ぐように任せたあと、ノーベルはメモ帳を開きながら聞いた。

「例えば神話には被ると姿が見えなくなるものなどがあります。あぁいうものを作ることができたら戦闘や隠密は有利になるかと思いました」

「実現できるかは難しいね。それは……ハデスの兜の話だろう?」

「…はい」

ノーベルは窓の外を見た。

空は戦争による黒い雲など一切ない。それなら、ノーベルにとっては綺麗と言えるものだった。

「ハデスの堕ちた星が来たら、不味いだろうね。勝てるか分からない」

「でも過去に、ラファエルやレヴィアタンなどの堕ちた星も倒せているじゃないですか……」

んー、とノーベルは唸ると窓の外を見るのをやめ、再びコルトのを方を見た。

「コルト、物語として生きる者達がどんなのかは分かる?」

コルトはそう言われ、ファントムやクララ、ジャック、赤ずきんの事を思い返した。

コルトが誰を思い浮かばせたかを分かっているノーベルは鼻で笑った。

「コルト……それはね。キャラクターだよ」

「キャラクター…?」

「物語、の…キャラクターだ。物語、として…じゃない」

「……何が言いたいんですか?堕ちた星を…倒す云々の話でしたよね」

「それに関係している話なんだよ。コルト、勝ちが続いているから少し麻痺しているみたいだ。いや、危機管理はちゃんとしているけど、堕ちた星の脅威を忘れてしまってる。人間の恐怖だけ見ているね?」

ノーベルは足先で、床をトントンと小突いた。

「この地下には、物語として生きる者達がいる

それは、探索チームや戦闘チームのように、その物語のキャラクターとして受肉させられた存在じゃない。個体だけじゃない。

物語の序盤から、結末まで、全てを内包した怪物達がいるんだよ。コルト

私達が……君の言うラファエルやレヴィアタンを倒せているのはその怪物達の力が故だよ。……戦闘記録、見てなかった?」

コルトは首を横に振った。

「次から勝った、負けたとか、武器の使い心地だけじゃなくて、私達が兵器として使ってる生身の怪物についても考慮しておいた方がいいよ。コルト……アレは万物が逃れられないものなんだ」

「……それってなんなんですか?抽象的すぎて、分かりにくいです。地下に何がいるんですか?」

「あー……」

ノーベルは全てを言うか、言わないかを少し迷った。

これを聞いてコルトが怯えるというより、よりやるせなさを感じてしまわないかという心配ありきだ。


「適合率が100%になるとどうなるか分かる?」

「良くないとだけ、フロイトさんから」

「…適合率が上がるのはなんで?」

「偉人と、共鳴しすぎるからです」

「うん、正解……じゃあ私達は小説家の継承者達に比べたらずっと、適合率が上がりにくいのはなんで?」

「事実としてそれがあるだけだからです。小説家達の人生や作品は、見る人によって様々な考えを与えますが、私達は…それを作りました。発見しましたという事実だけです。だから、適合率が途中で止まってしまう。

()()()()()()に当たります。」

「さすがコルトちゃん。よく分かってるね」

「…その件で、テスラはよく愚痴を言います。変わり続けることなく何が作るだけの日々はつまらないって」

「つまらないときたか…耳が痛いね……」

「コルトも少しそう思います。モールスが居なければ、コルトはきっと投げ出してましたよ」

「ふふ…生前は友達だったんだっけ?」

ノーベルはコーヒーを入れ、コルトに差し出した。

「えぇ!サミュエル・コルト、サミュエル・モールス。二人のサムは仲良しです!」

「今も仲良しなのはいいことだ」

「えへへ……それで…適合率が100%になっちゃうと、どうなるんですか?偉人100%……になると?」

ノーベルは自分用に入れたコーヒーを少し啜ると、窓の外を見た。

「適合率が100%になった彼らは()()()といって、今は四人だけいる。

ダンテ、ファウスト、ドン・キホーテ、カムパネルラだ

……名前を聞いて大体わかる?」

「全て物語の登場人物ですね」

「完成者になった彼らは上層部に新たに名前を与えられたけど…継承者としてはね。彼らは…あー、最初と最後の人は例外ね?

詩聖-ダンテ、ゲーテ、セルバンテス、カムパネルラ…だよ

ダンテは元司令チーム。ゲーテは観測チーム。セルバンテスは教育チーム。カムパネルラは探索チームだよ」

探索チームと聞いた時、コルトはピクリと指を動かした。無意識に反応したんだろう。

「…作者が、物語になっている?」

「そう、彼らはね適合率が100%を超えて、完全に混ざりあったことで神曲、ファウスト、ドン・キホーテ、銀河鉄道の夜になった。完成したんだよ……」

「…なんでそうなっちゃったんですか」

「ダンテは絶望により、ゲーテは愉悦を求めて、セルバンテスは妄想に囚われた。カムパネルラは………」

ノーベルは言葉を濁そうとしている。

「カムパネルラは? 」

コルトは逃がさないように、質問を繰り返す。

「カムパネルラは、ミヤザワを見たからだ。彼をジョバンニとして、物語の救済を図る為に彼は………成っちゃったんだよ」

「ミヤザワ…は、今脱走していますよね?」

「してるね。この負い目ありきさ…きっと……

でも、作者も作者で黙ってないはずだ。カムパネルラという怪物にさせられた我が子を解放する為に色々と考えている頃だろう」

コルトはユゴーとバルジャンを思い返した。

ユゴーとバルジャンはなんだかんだで仲良かったのに…バルジャンも完成者になってしまったらユゴーは怒るのだろうか?…いや、まず想像がつかないが

考え事をしてぐちゃぐちゃになりかけているコルトに対し、ノーベルはおでこにデコピンを一つおみまいした。

「痛いですよ。ノーベル!」

「人と話しているのに考え事に集中しない…

とにかく分かった?これが物語として生きる者達だよ。彼らはね。ただ単に探索チームや戦闘チーム…はたまた我々のように世界に自分という存在を表すんじゃない。

世界そのものを、己のものとして作り替えるんだ」

「作り替える…」

「制御しているとは言ってもね。

あの怪物達を戦闘に出さなきゃいけなかった時は再収容に苦労したよ……犠牲もたくさんだ」

「………」

「…コルト、キミはそう言った。どうしようもない脅威についても考えておいた方がいい。身近な人間だけではなく…ね」

ノーベルはコーヒーを飲み切ると、洗面台に放置してどこかに去っていった。

コーヒーをちびちび飲みながら誰もいない時間を潰そうとしていたコルトの目の前に、刃物を研いでもらってほくほく顔の赤ずきんがやってきた。

「研いでもらいました!」

「良かったですね……そうです。戦闘チームのお部屋に帰ったらコルトからプレゼントがあります」

「え!?なになに!?」

「身を守る武器です。ジャックさんからまた色々聞くんですよ」

「…分かった!早くその武器みたいからもう帰るね!」

「えぇ、さようなら」

赤ずきんがスキップをしながら帰っていくのを、その背中が見えなくなるまでコルトは見続けた。


コルトはノーベルの思惑通り、やるせなさに包まれた。

どうしようもない存在がいる。彼らはずっと地下の中で一人だけで出れるといえば兵器としての運用の時だけだ。

コルトは自分の懐から、おまじないの銃を取り出した。

コルト・パターソン

自分自身が生前に作った。世界初の量産回転式拳銃(リボルバー)……

コルトにとってこれは大切なものだった。まだ、機能する。

祈るように、握り締める。

サミュエル・コルトとして、記憶を思い返す。

人生に、挫折というものは多くあっても諦めない限り人は進めるはずだ。

綺麗事を言っても意味が無いことぐらいコルトには分かっていたが、それでもそんな綺麗事が叶うくらいにはこの世界は摩訶不思議なものになってしまったんだ。と、思う。

かつてスターバーストから消えてしまった。セオドロスのことを思い返した。彼に対して、色々と本音を言ってしまったのは何故だろうか?

彼を救いの天使だとでも思ってしまったんだろうか。彼が、ベアトリーチェの概念を有するからと言って?

「お前の悪い癖って、考えすぎることだよな」

後ろから声をかけられ、コルトは振り向いた。椅子に座りながらだが

今しがた帰ってきたのだろう。パラケルススが居た。

「帰ってきたんですね……今日カミュさんの身体検査でしたっけ」

「人体実験って言ってもいいぞ」

「じ、人体実験………」

「何を躊躇する必要がある。進歩の為なら必要な犠牲だ。何も分かってない状態でやる方がダメだろ」

「いやでも今やってる事って」

パラケルススは会話を終わらせるためにすぐに口元に人差し指を立て、喋るなのハンドサインをした。

コルトは口を噤んだ。

「よし……お前は考えすぎだ。もっと私みたいに外れた頭を持つといい」

「錬金術師に比べられてもぉ〜……」

「黙れエンジニア。こっちとしてはお前が生きてた時代の方が興味深いわ!」

「ぶー」

「豚のような声を出し続けるといい、本当に豚にしてやろうか?」

コルトは黙った。パラケルススは過去に人を猫にする薬をこともあろうかフロイトに騙して飲ませたことがある。

それはフロイト以外からは大好評だった。…彼なら本当に豚にできてしまう

「…ふふ、どの道だ。コルト、私達は物を作って、他の人達に使わせる。この二つさえできていればなんでもできるんだよ

ノーベルが言い過ぎてしまったとショックを受けてたぞ?おおよそ適合率の真実でも聞いたな?しょーもないことを」

「しょーもなくないです!」

「しょーもないね!…統計学的に考えろ。継承者の数は多い。その中では普通に殉職したやつの方が多い。その中で完成者になったやつなんてたったの四人だぞ!?……早々ならない」

「カミュさんは、なりかけたじゃないですか」

「でもなってないだろ。ダメな方向に屁理屈をこねるな。せめて笑える方にしろ」

そう言いながらパラケルススは鞄から買ってきたインスタントの紅茶を取り出すと、紅茶を作り始めた。

考えすぎるコルトは、まだまだ悪い事ばかり考えてしまう。

継承者は、生前の関係性や、他の偉人に影響を受けた場合に共鳴することがある。

先程聞いた完成者の一人のゲーテ、ファウスト……

パラケルススが制作したと言われるホムンクルスの伝説は、ゲーテに影響を与えた。彼の作品。ファウストにも主人公の弟子がホムンクルスの生成に成功する描写もある。

ゲーテだけじゃなく、パラケルススもパラケルススで、多くの人々に影響を与えては色んな逸話がある。

物語の幅が大きい。


コルトは思った。

身近な人間で完成者になってしまうとしたら、彼なのではないか?と

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