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開発チーム篇 第一話『道標になるもの』

『未来にはいくつかの名前がある

意志薄弱な者はそれを不可能と呼び、臆病者は未知と呼ぶ

しかし勇敢な者はそれを理想と呼ぶ

-ヴィクトル・ユゴー-』

その日の開発チームはいつにも増して忙しかった。

探索チームが堕ちた星の死体を五体回収したからだ。

開発チームは記録チームと共に、まずはその死体の正体を確認する事になった。

記録チームからはニュートン、パスカル

開発チームからはテスラ、ノーベル

探索チームからはオディールが来て五人での作業になった。

「五体…戦闘チームが相対して殺したヤツの子供みたいなものよ。親が死んだから力の供給が絶たれて死んだのね」

オディールがクスクスと笑いながら死体の皮を指でそっとなぞった。

「…あー……戦闘チームが戦っていたのはメデューサだ…」

記録チームのニュートンは今すぐにでも帰りたいかのようにだるそうな声を出した。人が多いところはどうにも嫌らしい。

「どの道…それはただの蛇だ。毒蛇だ。メデューサの神話には切られた首からの血が蛇になったものがある。その逸話が由来だろ。特別なにか、他の奴らみたいに固有名詞がある存在じゃない。核を使うにしても、もうほとんど死んでいるようなものだ」

「素材としてなら、まだ価値がありますよ」

テスラが鳩を両手で包み、親指で撫でながら小言を漏らした。

その様子を見て、ニュートンはバインダーを持たながらため息をつく。

「チッ…この場に妻を持ってくるな……」

「テスラと妻は一心同体でーす」

「……はぁ」

二人の諍いを見ながらオディールはくすくすと笑った。


「…この五体の死体。使うんですか?」

「ん〜蛇だからねぇ〜……あ、どっかの国だと蛇の革財布は金運が上がるんだったっけな!」

「多分それ日本ですね……」

「日本か!そっかそっか!」

「財布にするんですか?」

「……この逸話…この蛇にも通用するのなら本当に…上がらないかな〜…って」

「ギリシャ神話ですからね…こちらは…」

「うん…分かってるけど…夢は、夢だよ」

パスカルとノーベルは二人で残り三人を無視して話を進めていた。

「にしても私が来て良かった!パラケルススならすぐに蛇なら毒だ!って解剖しちゃうし、コルトなら武器にしますって設計図書き始めちゃうし…とりあえず、休止状態の核を出して死体と核を別々に保存だね。一旦保留だ。

核は……素直にパラケルススに渡すか…彼は毒も薬も量が違うだけで同じって言うし…良い薬を開発してくれるだろう!

核も含めて死体もコルトに渡そうかな……いい武器か、防具かを作ってくれるさ」

「ノーベルさんは作らないんですか?」

「あぁ…!私?ふふ…じゃあ私は財布を作ろうかな」

「…上層部が許してくれますかね?そういうものを…変なものを作るのは」

パスカルの杞憂を、ノーベルは大声で笑ってかき消した。

その声量に驚いたのか、残りの三人もノーベルの方を見る。

「上層部が()()()()()()()()だって!?あはは…!面白いことを言うね!パスカル!!

あいつらは私たちのことなんて、これっぽっちも考えてすらいないんだ!!」

カルテをしまいながら、ニュートンもその通りだと言った。

「武器や防具の開発、事象の記録、私達に任されているのはこの二つだけだ。やることが一つだけしか決められていない…お前もわかってるはずだ。パスカル」

「…で、ですけど……!」

「パスカル、深く考えすぎなのです。哲学者に括られちゃってるから、他の人より危ない危ない。のーてんきに行きましょう!」

テスラがパスカルの頬をもちもちとこねた

「はわわわわ」

オディールはそんな二人の間に割って入り、パスカルの眼帯をしている左目に指をさした

「あなたの杞憂の元は、その眼帯の下のものではなくて?」

「あっ」

ニュートンは少し焦りが声に出たのを、カルテを口元に持ってくることで物理的にも止めた。

オディールはそれを流し目で見たあと、パスカルに視線を戻した。

「デカルト主義者なのよね、貴方……見たわ。記録で

だからその、眼帯の下…眼球を抉り出したのがデカルト本人だった時…さぞかしショックを受けたんでしょ?」

オディールはうふふと笑うと、パスカルから離れて少し広い場でピルエットを行った。

「そして彼は…処刑というものに囚われてしまってる……貴方はそれを見たから、今みたいに上層部が怖いのね」

回転の後、レヴェランスを行う彼女の美しさは、その場の空気をすぐに変えた。

「………その通りですよ。オディール。私は上層部が酷く怖い」

ノーベルとテスラはその様子を見て、我慢せずに笑った。

「パスカル〜、それで言えば、我々は何度怒られていないとおかしいだろう?」

「テスラ達は無茶を沢山してますし、それでよく司令チームや治療…心療チームにはお叱りを受けてます。しかし、処刑チームが出向いたこともなければ、上層部直々にお叱りを受けたことなどないです」

テスラはパスカルにVサインを向けた。

「大丈夫ですよ。テスラ達は信頼されていて、その分、見捨てられていますから……」

「自由だよ。私たちは」

ノーベルがテスラを落ち着かせるように前に出て話した。

「私たちは自由なんだ。束縛が無いということは、そういう事なんだよ」

若干、テスラはノーベルのその発言に嫌な顔をしたのをパスカルは右目でちゃんと見てしまった。

オディールはくすくすと笑ってる。

「話が終わったか?結論はついたか?……無駄話をするのやめてくれないか…!こっちは全部記録しないといけないんだ!!今のやり取りはなかったことにしてやるが……まとまったならとっとと終わりだ!」

ニュートンは痺れを切らして、すぐに出ていってしまった。

その次に部屋を出たのはオディールで、ヒラヒラと手を振りながら去っていった。

ノーベルはテスラを連れていくような形でパスカルに耳打ちで「デカルトの洗脳の件は……また進めておくよ…直したいんだろう?彼をね………」というと、そのまま部屋を出ていった。

一人残されたパスカルは、他の作業員を呼びつけ、堕ちた星の死体の解体を頼んで、同じく出ていった。


「ユゴー様」

「…様付けしなくていい」

「ではユゴーさん」

「…んー、さん付けもなんだかあれだな。ユゴーでいい」

「それではユゴー」

「なんだ?」

「そろそろ皆帰ってきますよ」

「おぉそうか」

ユゴーは椅子から立ち上がり、特に何があるわけでもなくズボンの埃をパッパと払った。

「なに、キミだけに会いに来ただけで、他の人達に会いたい訳ではなかったものでな。帰るとするよ」

「そうですか…」

バルジャンは少し、寂しい顔をした。

「そんな顔をするもんじゃないぞ……しかしいいだろう。今日は暇だからな」

「さっきから思っていましたが、観測チームのお仕事の方はいいのですか?」

「ハイデガーとダ・ヴィンチに任せてある。あの二人ならやれる」

「…ちなみにミルトン様は?」

「ジャン、カレンダーを見なさい」

バルジャンはカレンダーを見た。今日の日付のところには来客ありと書いてある

「何曜日だ?」

声の導きのままに、バルジャンはそのまま目を上の方にやっていくと、日曜日と書いてあった。

「日曜日です」

「そうだ。この日はな、分かってるだろうけど休みの日だ。創世記の、だ。彼女はピューリタニズムと言い、簡単に言えば聖書を主軸に生きている。だから日曜日は必ず休む」

「へぇ…」

そうこう話していると、探索チームの二人が帰ってきた。

外に遊びに行っていたらしい。傍には付き添いのコルトがいる。

遅れて仕事で向かっていたオディールが帰ってきた。

「おかえり、ファントム、クララ」

バルジャンが名前を呼ぶと、二人は買い物袋を見せつけながら机に置いた。

「お疲れ様です。コルトさん」

バルジャンが続けて呼ぶと、コルトはドヤ顔をしながら買い物袋をドサッと机に置いた。…二人と比べて結構入っている。

「おつかれ、オディール」

オディールはお辞儀をすると、「疲れるほどのものでもなかったわ」と言って、椅子に座った。

ファントムとクララ、コルトはユゴーを見ると少し固まり、敬礼をしながら挨拶をした。

「…そこまで堅苦しい挨拶はしなくていい」

「でもしなきゃダメです。司令・観測・探索の司令塔は上層部の次に偉いんですから」

コルトは少したどたどしく説明をすると、ユゴーはそれでもだと笑って見せた。

「それでは別の立場になろう。今の私は対策チームのリーダーではなく、ジャン・バルジャンのお父様だ」

バルジャンは会話を聞きながら飲んでいたコーヒーを少し吹き出した。

「やだ汚いわね」

オディールはハンカチで机に飛び散った分を拭き取った。

「お父さん!いいな〜!!」

クララはお目目を輝かせた。その様子を見てユゴーは満足そうだ。

「…そのお胸でお父様は無理があります!コルトよりもおっきい癖して!お父様を名乗ろうなどと私が許しません!」

「何を言っているんだ?」

コルトの発言にユゴーの頭の処理はついていけていなかった。

「お父さん…」

バルジャンは作者から親を名乗って貰えたことを噛み締めていた。

しかし、バルジャン自身は物語で意味があったとはいえ、ジャベールが自殺してしまっていた事に対してかなり、悲しい事だと思っていた。ユゴーは意味も無くそんな風には描かない。しかし、バルジャンにとってはジャベールも生きていて欲しい人だったのだ。

「それで、何買ってきたのよ。お三人方?」

オディールが机の下で足をぶらぶらさせながら退屈しのぎに聞いた。

ファントムとクララは「とくとご覧あれ!」というと、袋の中から卵、薄力粉、砂糖、バター、牛乳、いちごを取り出した。

「…ケーキね?」

オディールが早くも勘づいた。多分卵と薄力粉辺りからすぐに察していただろう。

「そうとも!いつか来るであろう我がクリスティーヌの為…そして、皆の笑顔のために!クララとコルトさんとお話をしてケーキを作ろうということになったのだ!」

「地下にもオーブンはあるのね?」

オディールがくすくすと笑いながらからかうと、ファントムは大袈裟に手を振った。

「ない!ないぞ!しかしここにはある!!私が最高のケーキを作ってみせるとも!天才の、ファントムなのだから!多彩だぞ!料理もきっとできる!」

「クララもお手伝い頑張る〜!!」

「はいはい、応援してるわよ」

三人の楽しそうな会話を見ながら、ユゴーとバルジャンはそのまま流れるようにコルトの袋の方に視線を向けた。

「コルトさんは何を買ったんですか?」

コルトはそう聞かれると、ニマニマとしながら袋から色んなものを取り出した。

「バニラ味のクッキードウ、チョコレート味のクッキードウ、あと他にもいろんな味のクッキードウ!そしてかかせないのがカラースプレーチョコです!!」

「…焼くんだよな?」

ユゴーが恐れながら聞いた。目の前の。巨大なクッキードウ達を見ながら

「まさか!アメリカではこのまま食べるスタイルです!!」

「おい、嘘だろ?」

「ほんとですが!……あ、でもこのクッキードウは皆でクッキーにする為に買いました!!」

「それ以外全部食うんだな?」

「はい!美味しいですよ!」

ユゴーは少し考えた。目の前のこの女はどうやって細いスタイルを維持しているんだろうと

ファントムとクララはキッチンに向かい共同でケーキを焼き始めた。時々後ろからオディールがメニューを見ながら突っ込みをしている。オディールは人をからかったりはするものの、なんだかんだでいいお姉さんだ。


「にしても帰ってきてユゴーさんがいた時、コルト身構えました」

コルトがコカ・コーラを飲みながらクッキードウをもぐもぐとしていた。ユゴーはその圧倒的カロリーに引いている。

「そうか?」

「対策チーム……この組織の法ですから、そりゃ身構えます。あまり他のチーム同士つるんではいけないと言われちゃうかと思って」

「そんな厳しい事は言わないさ。それなら私自身も今ここにいていいわけではないからね」

「それもそうです!私は安心しました〜!」

ユゴーがコルトの食事風景を見ていると、コルトはハッとしたようにスプーンで大きくクッキー生地を掬い、ユゴーに差し出した。

「食べたいですか…?」

「いや、別に…」

「………」

コルトの目がうるうるとしているのに気付いたユゴーは一口貰った。

圧倒的な甘さがユゴーを襲う。一口だけなら、甘くて美味しい。

ユゴーはそう思った。同時に、この甘さがずっとか…と思うと、胃もたれがする。

バルジャンはそっとコーヒーを差し出した。

甘さの後に苦さが包む。ほっと一息するならば「美味しいな」と声が漏れる。

「良かった!」

コルトがニコニコとして、続きのクッキードウをもぐもぐと食べ始めた。


二時間後、ケーキが完成した。

その場にいる人数分切り分けて、遅めのおやつタイムになった。

バルジャンとユゴーはあの量のクッキードウを食べて尚、ケーキを易々と食べるコルトに驚いていた。

「中々美味しいじゃない」

「キミが手伝ってくれたお陰さ!オディール!」

ファントムはオディールに向けてウインクをした。

すぐにしっしとオディールに払われ、しょんぼりしながらケーキの上のいちごを食べた。

見た目こそあまり良くないものの、ケーキはあのクッキードウに比べれば控えめな甘さで、手作りらしい美味しさに満ちていた。

食べ終わった後、バルジャンがお皿洗いをしている間にユゴーは帰ることにした。

時間も時間だからだ。他の用事もある。

「じゃ、バルジャンによろしく」

そういいながら部屋を出ていくユゴーをコルトが呼び止めた。

「…なんだ?」

ユゴーが振り向いた時、コルトはユゴーのポッケあたりをポスポスと探った。

「…なんだ??」

「武器持ってないんですか。コルトは継承者の皆様に拳銃を渡しました。ずっと持っていてと、私は言いましたよね」

ユゴーはそれを聞かれるとあぁと思いながら思い返す

「所詮施設内だからな」

「施設内でも、スパイがいるかもしれません。敵襲が来るかもしれません。慢心は良くないです」

「慢心ではないが……」

「持っててください。拳銃は、必ず一つは

それは全員を平等にする。()()()()です」

「銀の弾丸……ね」

ユゴーはその意味を知っている。だからつい笑みがこぼれた。

「私は本気で言ってるんですよ!皆コルトを見習って欲しい!コルトは二丁持っていますから!」

「…あ、一丁だけじゃないのか?」

「二丁です!一丁は、皆と同じ護身用!もう一丁は……おまじないです。コルトが無事で居られるようにおまじないをかけたものです」

「おまじないね……ふふ、ロマンチストな所がキミにもあるとは」

「ふふん、あるんですよ実は」

ユゴーはそのままコルトの髪をわしゃわしゃと撫でた

「〜〜〜ッ!なにするんですかー!」

「次からちゃんと持っておくよ。コルト!」

そう言うと、ユゴーは去っていった。

プンスコと怒るコルトを皿洗いから戻ってきたバルジャンが宥める。先に帰ってしまったユゴーを想いながら、銀の燭台を見た。


「私の未来はきっと、理想になるでしょうね。ユゴー」

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