第十一話『出口なし』
「_そいつぁ困ったもんだ。俺ァ全員に本質をくれてやったんだ。感謝して欲しいね」
「全くもって吐きそうだ。困ったもんだよ。ハハハ…」
「葬儀屋、葬儀屋」
ベッドに寝転んだままの人間は、足で指図をした。
「いつまで、死体弄ってるの。お腹減った」
足で指し示された人物は長ったらしいため息を着いて振り向いた。
「遊んでねぇ〜よ。こちとら立派な使命の遂行をしてんだぜ?」
「嘘つき。この世に使命なんてもの無い。この世に意味なんて無い」
葬儀屋は死体から手を離すと血でヌルヌルとした両手で揉みながら死体に開けた穴に排水溝に水を流すように、両手についた血を落とした。
「お嬢ちゃんの為にご飯でも用意してやりますかね」
葬儀屋は近くの布で手を拭いた。
「お嬢ちゃんじゃない。お前と同じだ。元は男だぞ…」
「性別にこだわんなよ。どうでもいいって思ってるくせに」
葬儀屋は立ち上がるとキッチンに向かった。
通り過ぎに目隠しをした人物が通りがかると、二人の様子を見てイラついたように話し始めた。
「何を作る気だ?」
「アイツの好物のオムライス」
「…私の好物は作らないと?不平等だ」
「作らないつってねーわ。言えよ。何食いたい?サルヴァトーレ」
サルヴァトーレはカルボナーラを注文すると、葬儀屋はOKを出した。
「また死体弄ってるのか、死体で武器を作るなんて悪趣味だ。気持ち悪いな」
サルヴァトーレは葬儀屋に対して聞こえるように文句を言うと葬儀屋はなんとでも言えと返した。
「俺はな。人助けしてやってんだぜ?感謝して欲しいよ」
葬儀屋はオムライスを片手に、ベッドで寝ていた人物の横に置いた。
「ニーチェ-ϛ、できたぞ」
ニーチェ-ϛと呼ばれた人間は起き上がることなく、食わせろと目で訴えた。
「はいはい。ったく仕方ねぇな」
葬儀屋はオムライスをスプーンで掬うとニーチェ-ϛの口に放り込んでいった。
一口、また一口と食べ進んでいくニーチェ-ϛは死体を見ながら葬儀屋に質問した。
「またあそこに行くの?」
葬儀屋が勿論と答えると、ニーチェ-ϛは嫌な顔をした。
「人が捨てられて嫌な思いをした所に、何回も行くなんて最低なヤツだ」
サルヴァトーレはニーチェ-ϛの気分が害されたのを理由に葬儀屋を責めた。
ニーチェ-ϛとしてはそんなのを考えることすら意味が無いので放ってはいるが、それを言われた葬儀屋はまたしてもはいはいと適当にあしらった。
「今度は何を作るの?」
ニーチェ-ϛにそう問われた葬儀屋は思い返すように近くの鞄を見つめた。自分が今まで作った武器が入っている。
「手榴弾も、反抗的人間も、どれもこれも概念と規模だけデカくて扱いにくいんだよね」
葬儀屋はニヤニヤとしながら、この先自分が使うにふさわしい武器を思い浮かべた。
「なぁ、平等主義者、この世で平等を与えたのはなんだと思う?」
そんなこと知ったこっちゃないサルヴァトーレは無視した。
葬儀屋は自分の権能に酔ったようにつらつらと話を続ける。
「それはな。銃だ。銃は全ての人間を平等に殺せる」
葬儀屋は恋をする乙女のようにため息を着くと、窓の外の月を見つめた。
「俺が次に殺るのは___銃だよ」
「平等を与えた偉人を殺して武器にするなんて、なんて不平等!」
「どうせ全部、意味無いのに〜」
深夜の隠れ家に、三人の主義者たちは笑い合っていた。
「ここが開発チームですか」
セオドロスは目の前の状況の説明をして欲しいと思った。
「そうでーす」
コルトは左腕が銃になっている_ので、右手でピースした。
セオドロスの目の前では治療チームのゼルチュルナーが右腕をパラケルススに引っ張られながら引きずられていて、その反対側の左腕をノストラダムスの強い力で止められている
なので今ゼルチュルナーはとんでもなくちぎれそうになっている
「痛い痛い痛い痛い!!!!!!!待って!!!助けて!!!!」
泣きそうになっている。
「おいゴラァ!!パラケルススてめえ!!!うちの子持ってこうとしてんじゃねぇぞ!殺すぞ!!!」
ノストラダムスはいつものおじいちゃん特有のほわほわした口調が消えている。
「黙れ!!貰ってくぞ!!!」
「助けて!!!!助けて!!!」
ゼルチュルナーは泣いた。
「どうしてあんなことに…?」
コルトはいつもの事だと言わんばかりにスルーしながら色んな設計図や模型でごちゃついた机の上のものを適当に払い除けて、お客さんを歓迎する準備をし始めた。
「いつもの事。薬を調合するという立場の…薬剤師の継承者はゼルくんだけだから、パラケルススは新薬を開発したいのに人手と意見と知識が足りないからあぁやって治療チームからゼルくんを引っ張るのだ。でも、パラくんとノストラダムス先生の方は仲悪いし、ノストラダムスはゼルくん持ってって欲しくないからあぁやって喧嘩してるの」
ノストラダムスはくん付けじゃないんだと思いながらセオドロスは素直に椅子に座って出されたオレンジジュースを飲んだ。
「前までは開発チームにもアーサー・ヘフターっていう幻覚剤を生み出した偉人の継承者が居たんだけど、上層部の人に連れられてどっか行っちゃった」
「へぇ…それどれだけ前なんです?」
「80年…?」
「………なるほど」
年上は敬うのでーすと言ってコルトは再びピースをした。
ゼルチュルナーの方はナイチンゲールの乱入により今は話し合いの段階に入っている。
また、別の所では探索チームとされている人達と、テスラとノーベルが話し合っていた。
「皆の武器や防具、開発チームでは作ってます。主な顧客さんは戦闘チームと探索チームです。」
コルトはセオドロスにお菓子を差し出しながら説明をした。
ふと、以前も思っていた疑問をセオドロスはあの時口を噤んだカミュではなくコルトに聞いてみることにした。
「戦闘チームと探索チームは何故小説や童話の人物が継承されているのですか?」
戦闘チームのメンバーはジャック・ザ・リッパー、赤ずきん、アリス、マッチ売りの少女。探索チームのメンバーはファントム、オディール、ジャン・バルジャン、クララだ。
「戦闘と探索と言っても、なんだか変というか。似合わないというか…」
コルトはそう問いかけるセオドロスの目を見つめて、少しムッとした。セオドロスに対して怒っている訳ではなく、他の何かに怒っている。
「セオくんはパロディとはなにかご存知ですか?」
セオドロスは何となくで知っていることを伝えた。
「広く知られているやつを模倣して全く新しいように作り替えるものです。パクリとはまた違ったもので、良い意味です。皆でワイワイ楽しめるやつなのです。」
コルトはそう説明すると、探索チームの人達を横目にコーヒーを飲んだ。
「小説というものは、色んな人に読まれて、色んな人にパロディを書かれてきました。原作から大きくストーリーが変わったり、悲劇が喜劇になったり、色んな人達がその物語を改変して自分の好きなようにして、皆で楽しんでいました。」
コルトは飲んでいたコーヒーのカップを置くと、セオドロスの方を真剣な眼差しで見つめた。
「だからこそ、彼らは何にでもできてしまうのです」
セオドロスは分からなかったので、同じく見つめ返した
「コルトは大昔、上層部の人の酷い陰口を聞きました。
なんの偉人にも適合しない、なんの可能性もない要らない孤児は何にでもパロディできる童話や物語を継承させて、いつでも使い捨てできるようにあえて過酷な戦闘チームや、探索チームに置いておくのだと」
コルトはいつにも増して怒った顔をした。
その顔は他の誰にも見えていなかったし、セオドロスにしか見えていなかった。
しかしその激しい憎悪と彼らへの愛に満ちた顔は、セオドロスの左目に強く焼き付くことになった。
「私はあの子達を殺したくない。だから最高の武器を作るんです。私は、私の開発が全てであり、他の誰にも邪魔されたくありません」
コルトはすんと、元の顔に戻るとセオドロスに片手だけのピースを向けた
「ラブアンドピース!コルトは平等にしたいのです
継承者も人も、偉人も物語も、大人も子供も」
コルトはメジャーを棚から取り出すと、ちょうど仕事がなくなって暇をしていたノーベルを呼び出した。
ノーベルの見た目はと言うと、ダイナマイトが体から生えてきているし、所々は鉱山が壊れたように空洞になっていて、そこからは赤い鉱石が見えた。
「じゃ、オレが片腕が使えないコルトちゃんの代わりに測ってやるぜ〜!立ちな!」
立った。セオドロスは立った。
T字のポーズを取らされ、セオドロスはテキパキとサイズを測られた。
ノーベルといえばノーベル賞が思い浮かぶなと思いながら時間が過ぎていき、サイズは測り終わってまた椅子に座ってセオドロスはオレンジジュースを貰っていた。
コルトとノーベルはサイズを測りながらの話が弾みすぎて、測り終わった途端に話し合いながらどこかにいった。
セオドロスにオレンジジュースを与えたのは目の前で手品の練習をしているテスラである。
「何故手品なんですか?」
セオドロスがそう聞くと、テスラは自己紹介で返した。
「開発チーム所属。魔術師-テスラ…この二つ名に恥じず、テスラは手品を披露するのでーす」
話し方のノリ的にコルトを思い出したセオドロスは手品をひとつ見せてくださいと頼んだ。
「ふっ、お易い御用…」
テスラは両手をにぎにぎと握った後、パッと手を離した
両手からは白い鳩が翼を広げて出てきた。
数回翼をパタパタとした後に、テスラの両手にちょこんと座り直した。
「んちゅちゅちゅちゅ可愛いでちゅねぇ!!」
テスラはその鳩を可愛がった。
セオドロスは一旦拍手をした。
テスラはコルトが要らないことを話したのを、コルトの態度から察していて、セオドロスには口止め料として何かをあげようとしていた。
「口止めしたいんですけど何が欲しいですか?」
ド直球に聞いた。
「では、ボクも皆さんが持っている端末が欲しいです」
セオドロスの言っている端末は業務用の端末だ。連絡を取れたり、GPSとしての機能も持つ。権限さえあれば他チームの適合率を見ることができる。セオドロスの狙いといえば恐らくソレだろうが…
「それ後で配るってサルトルさんが言ってました」
「じゃあ壊れないようにカバーみたいなの欲しいです」
「ゴツくします?」
「壊れないようにだけ、お願いします」
テスラはOKサインをした
「にしてもテスラさんも、なにか悩み事でもあるんですか」
テスラはうんと考えた後に、自分も愚痴ることにした
「つまらない日々が悩みです」
セオドロスはそれを聞いて、そうなのか?と疑った。
今日一日見た開発チームの姿といえば、探索チームの人達へふざけてるだろと言わんばかりの武器を作って見せたり、はたまた他の継承者からの批判では「彼奴らが猫化する薬をばらまいたせいで!フロイト先生が3日間猫のままだったんだぞ!どうしてくれる!もっかいやってくれ!!」と言われてたりなどむしろ楽しそうな事をしているなというものだった。
「色々としていて、つまらないと?」
テスラはコルトが言った愚痴の内容を分かっていて、それと混ぜながら話した。
「話を作った小説家、というのも、色々と染まりやすい。カミュを狂わせかけた貴方ならお分かりでしょうが、小説家などはそのドラマ性というか、感情移入がしやすくて適合率が上がりやすいんです。だから常に波乱万丈。ハラハラです。」
セオドロスはそうだねと言うように首を縦に振った。
「でも私達には無いです。そのハラハラが」
テスラはパラケルススの方を見た
「パラケルススはまだあるかもしれないですけどね。そのハラハラが」
「適合率の暴走がしたいと?」
「捉えようによっては、そう思われてもいいです
私達は…開発者、科学者の系列は適合率が良い所で止まるんです。適合率の平均値60-70%です。偉人の概念に飲まれることが無く、元の肉体の孤児の精神性が引っ張り続けている最高の割合…」
テスラは手の鳩を撫でながら悔しそうに話を続ける
「我々にはドラマ性が無い。事実がそう、事実としてあるだけで空想を挟み込む必要がない。だからこれ以上適合率が上がることはなくて、だから__」
テスラは項垂れた
「皆、殺されて死んでいきました。今までの継承者は皆。実験の事故程度の軽い怪我なら治療チームですぐ治せます。そしてテスラ達は賢いので自分が死ぬだろう実験も、開発も絶対にしません。する必要が無いんですから……」
顔が見えないテスラを見ながら、セオドロスは項垂れた先の机に、ポトポトと涙が落ちていくのを見ていた。
「俺達は何かに害されない限り死ねないんだ…自殺だって怖いからしないし、このままクソみてぇな精神に潰されていって、核に食い潰されたら皆を襲ってしまうのが怖いからずっと自分を保ってるだけで……」
テスラの独白を、セオドロスは静かに聞いていた。
「…でも分からないことがある」
「なんですか?」
「俺は今、自分がテスラではないと思ってる。いや、テスラという役を演じさせられてて、その役が今骨身に染みててじわじわと俺という役を演じていない俺を押さえつけてる。」
テスラは自分の端末を見せた。
適合率が載っている。
テスラの適合率は64%だ。
「なのになんで未だに平均値なんだ?」
セオドロスは以前のフロイトの言葉を思い出した。
星の核をエス、偉人の概念を超自我として、それらの均衡を保つ元の肉体の子供の精神を自我として、今の継承者の精神は核と偉人のどちらに近いかが示されるものだ。
それを定義としたならば、今、自分をテスラではないと思っている相手の適合率は、安定しているとされる適合率より低く出るはずだ。
「この話をする前は?」
「62%、上がってんな。今の俺はテスラじゃないって思ってるはずなのに」
二人とも顔を見合わせると、テスラはたった一言こう言った
「これは__」
「どれだけ自分を自分として受け入れているかの値なのでは?」
『出口なし(著:ジャン=ポール・サルトル)
地獄に落ちた男女の三人は地獄の一室に閉じ込められ、お互いの過去やエゴを暴いていく。
欲望に塗れ、互いに互いを苦しめ続けている中、痺れを切らした一人が扉を開けようとする。
そしてこう悟られる「他者は地獄だ」と』




