表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
14/28

第14話「狐と騎士は相容れない」



 日が落ちる頃、宿の一室には、どう見ても旅装の一行が使うものではない衣服が広げられていた。


 絹。薄手の手袋。飾り紐。真珠めいた留め具。


 そして、シルヴィアが見ただけで眉間に皺を寄せた、胸元の開いた深い藍のドレス。


「却下です」


 即答だった。


 ギンは椅子に片足を乗せたまま、楽しそうに口元を上げる。


「まだ袖も通してないのに?」


「見れば分かります」


「何が?」


「布が少なすぎます」


「必要なところはあるじゃない」


「その必要の基準が信用ならないんです」


 ハチが目をきらきらさせている。


「え、着るの!? 見たい!」


「見せません」


「ええー!」


「おぬしは黙っていなさい」


 シルヴィアが一喝すると、ハチは素直に口を閉じた。


 だが目だけはまるで閉じていない。


 部屋の隅ではカクタスが肩を震わせ、スケイルは壁にもたれて目を閉じている。ミツクニだけが、卓上に肘をついて、面白そうに二人を眺めていた。


「堅いわねえ」


 ギンがドレスをつまみ上げる。


「今夜行くのは、町役場の裏手にある議会倶楽部。貴族と役人と商人が、改革だの合理化だの、言葉だけ綺麗な話をする場所よ。そこへ騎士隊長の顔で乗り込んだら、入口で終わり」


「それは分かっています」


「だったら形を変えなさい」


「だからといって、これは」


「何が不満なの」


「全部です!」


 カクタスがとうとう吹き出した。


「はっはっは! 隊長殿、今日は最初っから全力だな!」


「その呼び方をやめなさい!」


「やめろって言いながら毎回反応するの、もう半分受け入れてるだろ」


「受け入れていません!」


 ギンはため息をつき、別の包みを放った。


「じゃあ、こっち」


「……」


 シルヴィアが受け取って開く。


 今度は、淡い銀灰色の上衣と深紺の長裙だった。胸元は先ほどより閉じているが、腰の線は綺麗に出る。袖は細く、背には動きやすいよう浅い切れ込みが入っていた。


 派手ではない。


 だが、目を引く。


「それなら、まあ、騎士さんでも死なないでしょ」


「さっきの基準がおかしかっただけです」


「厳しいわね」


「当然です」


 ミツクニがそこで、ほっほっと笑った。


「よかったのう、ギン。おぬしの中でも死なずに済む装いが見つかって」


「坊ちゃん、そういう言い方すると、今度は坊ちゃんの服から決めるわよ」


「それは困る」


「でしょうね」


 シルヴィアは銀灰の衣装を見つめた。


 正直、落ち着かない。


 鎧の重みも、剣帯の位置も、何もかも違う。


 だが、今夜は騎士隊長シルヴィアとして立つ場ではない。そう理解はしている。


「……これで行きます」


「うむ。よく似合うと思うぞ」


「まだ着ていません」


「おぬしは何を着ても似合いそうじゃからの」


「今の褒め方、雑すぎませんか」


「本心じゃよ」


 そう言われると、返しに困る。


 ギンはにやりと笑って立ち上がった。


「じゃ、行く前に最低限叩き込むわよ」


「何をです」


「歩き方、目線、杯の持ち方、笑い方、断り方、触られた時の逃がし方、近づく時の角度」


「多すぎます」


「今さらよ。騎士って面倒ねえ。寝間着で戦場に行くわけじゃないでしょう?」


「潜入と戦場を同列にしないでください」


「私にとっては大差ないわ」


 その言い方に、シルヴィアは一瞬だけ黙った。


 冗談めいている。


 だが、嘘は混じっていなかった。


     ◇


 支度が済むまで、思っていたより時間がかかった。


 ギンは鏡の前で、シルヴィアの髪を解き、結い直し、銀の飾りをひとつだけ留めた。普段の高い位置の結い上げではなく、低くまとめて横へ流す。


 鋭さは少し残しつつ、夜会向きの線にする。


「そんなに睨まない」


「睨んでいません」


「その顔で?」


「これが普通です」


「困るわねえ」


 鏡の中の自分は、自分なのに少しだけ知らない女に見える。


 鎧ではなく布。


 剣帯ではなく飾り紐。


 けれど、腰の芯だけは崩していない。崩せないとも言う。


「ほら、肩」


「何です」


「上がりすぎ。喧嘩売ってるように見える」


「売っていません」


「見えるのよ。もっと抜いて」


「……こうですか」


「違う」


「なら、どうしろと」


「こう」


 ギンが後ろから軽く肩に触れ、力の抜き方を示す。


 あまりに自然な手つきに、シルヴィアはわずかに目を見開いた。


「……慣れているんですね」


「仕事だもの」


「仕事、ですか」


「ええ。相手に“自分が見たいもの”を見せるのが」


 鏡越しに、ギンの目が合った。


「でも勘違いしないで。媚びてるわけじゃない。握らせるの。主導権を」


「その違いが、私にはまだよく分かりません」


「でしょうね」


 ギンは笑ったが、馬鹿にする響きはなかった。


「あなたは正面から立つ人だもの。真正面で受け止めて、真正面で返す。それは強いわ」


「……」


「でも、真正面だけじゃ切れない喉もあるのよ」


 その言葉は、少しだけ刺さった。


 シルヴィアは鏡の中のギンを見る。


 いつもは妖艶だとか、気ままだとか、そういう印象が先に立つ。だが今は違った。彼女は女を使っているのではない。


 使えるものを、武器にしている。


「あなたは」


 言いかけて、シルヴィアは口をつぐんだ。


「何?」


「……いえ」


「気になることは最後まで言いなさい」


「嫌です」


「堅い」


「あなたが近いんです」


 ギンはくすりと笑い、シルヴィアの耳元にそっと髪を落とした。


「じゃあ覚えておいて。今夜もし誰かに近づかれても、肩で拒むな。角度で外すの」


「角度」


「ええ。拒絶を見せると意地になる男がいる。だから、自然に届かなかったと思わせる」


「面倒ですね」


「男ってそういうものよ」


「まとめないでください」


「坊ちゃんまで巻き込みそうだから、それ以上はやめとくわ」


 シルヴィアは思わず、ほんの少しだけ口元を緩めた。


     ◇


 議会倶楽部は、町役場の裏手に建つ二階建ての石造りだった。


 表向きは、有志の政策勉強会。


 中身は、改革案に賛同する役人、商人、地方貴族が顔を揃える、上等な根回しの場だ。


 玄関前には灯りが並び、馬車が静かに止まっている。


 香水と煙草と葡萄酒の匂い。


 笑い声はあるが、下品ではない。むしろ洗練されていて、それがなお嫌らしい。


 ミツクニたちは少し離れた路地から様子を見ていた。


 ヤッシュは影の中。


 スケイルは周囲の警備を見ている。


 カクタスは、この手の場所には全く向かないので裏通りで待機。


 ハチは当然ながら宿へ置いてきた。


「改めて言うけど」


 ギンが扉の明かりを見つめながら言う。


「今夜の目的は喧嘩じゃないわ。会合の参加者、話題、叔父派の次の予定。その三つを拾うこと」


「分かっています」


「あなたは表の会話を拾って。私は奥の部屋を探る」


「勝手に消えないでください」


「潜入してるのよ?」


「せめて合図を」


「合図ならするわ」


 ギンは自分の胸元を軽く叩いた。


「二度、杯を鳴らす。聞こえたら、会話を切り上げて移動しろ、の合図」


「……分かりました」


 シルヴィアが答えると、ギンは少し意外そうに目を細めた。


「素直じゃない」


「今夜は私情を挟む場面ではありません」


「そういうとこ、嫌いじゃないわ」


 その言葉に、シルヴィアは返さない。


 だが、前ほど拒絶も湧かなかった。


「行くわよ」


「ええ」


 二人は揃って、明るい玄関へ向かった。


     ◇


 中は、想像以上に上品だった。


 絨毯は厚く、壁には風景画、卓には細い脚のグラスと小皿料理。役人たちは笑いながらも声を張らない。貴族たちは偉ぶるより、互いの顔色を柔らかく読む。


 地方の悪党たちの露骨さとは、まるで違う。


 だが、だからこそ分かることもあった。


 誰が誰に近づくか。


 誰がどの言葉で笑うか。


 そして、誰の名前が出た時に声が少しだけ落ちるか。


「見えてきた?」


 ギンがグラスを受け取りながら囁く。


「少しだけ」


「十分よ。顔を上げすぎない。視線は流して」


「分かっています」


「ほんとに?」


「……努力します」


 ギンはそこで笑い、自然な足取りで人垣へ消えていった。


 残されたシルヴィアは、壁際に置かれた冊子机の近くへ移動する。


 そこには改革説明資料が積まれ、役人崩れの男たちが立ち話をしていた。会話を聞くには悪くない位置だ。


「失礼」


 細身の男が一礼する。


 年の頃は四十手前。文官らしい手だ。


「お見かけしないお顔ですね。どなたのご紹介で?」


「地方から参りました。勉強のために、と」


「それは結構」


 男は笑う。


「若い方がこうした改革に興味をお持ちなのは喜ばしいことです。地方にはまだ古い感情に引きずられる方も多いですから」


「古い感情、ですか」


「ええ。恩義、情緒、象徴への執着。いずれも美徳ではありますが、行政に持ち込めば毒にもなる」


 シルヴィアの胸の奥が、少しだけ冷えた。


 この男たちは、本気でそう信じている。


 ただ悪いのではない。


 正しそうな言葉で、人を切ることに慣れている。


「では、困窮した民へ急いで手を差し伸べることも、毒になるのでしょうか」


「場合によります」


 男は即答した。


「個別の痛みに引きずられて制度を歪めれば、より多くが困る」


「ですが、間に合わなかった者は」


「お気の毒です」


 その言い方があまりに滑らかで、シルヴィアの指先に力が入った。


「お気の毒、ですか」


「ええ。ですが統治とは、気の毒をすべて救う技術ではない」


 昔、似た声を聞いた。


 いや、正確には、こういう言葉を正しいものとして受け取っていた自分がいた。


 その時だった。


 奥の方で、乾いた音が二度鳴る。


 グラスの脚が卓を叩く、控えめな合図。


 ギンだ。


 シルヴィアは顔色ひとつ変えず、男へ軽く笑みを返した。


「勉強になります」


「またぜひ」


 角度で、会話を外す。


 拒絶せず、離れる。


 さっき練習した通りだ。


 男はそれを自然な離脱と受け取ったらしく、追ってこない。


 少しだけ、腹が立つほど有効だった。


     ◇


 奥の回廊は、人が少なかった。


 倶楽部の本館と小会議室を繋ぐ細い廊下。壁には装飾鏡、足元には絨毯。


 ギンはその途中の窓辺に立っていた。グラスを片手に、まるで夜風を楽しんでいるだけの女に見える。


「来た」


「何があったんです」


「楽しい話が聞けたわ」


 ギンの目が、いつもの艶を少し引っ込めていた。


 仕事の顔だ。


「叔父派の官僚が今夜ここに三人。監察局から二人。商会筋が二人。で、明後日、貴族街の白梟亭で極秘会合」


「白梟亭……」


「会員制の私邸サロン。表向きは慈善晩餐、実際は根回しの巣ね」


 シルヴィアは息を呑む。


 王都の近くまで来て、ようやく見えた。


 地方の徴税も、徴発も、薬の横流しも、こういう場所で整理されているのだ。


「誰が出ると?」


「叔父派の財務官、監察局副局長補佐、金鶸商会の番頭格、あと……」


 ギンが少しだけ笑う。


「叔父様の側近筆頭」


「……それは大きい」


「ええ。かなりね」


 その時、回廊の向こうで足音がした。


 役人ではない。


 もっと重い。


 貴族の靴音だ。


 ギンは一瞬で距離を詰め、シルヴィアの肩へ手を置いた。


「笑って」


「は?」


「今すぐ」


「な、何を」


 戸惑う間もなく、角を曲がってきたのは若い貴族だった。


 酒の入った顔で、目だけがねっとりしている。


「おや。こんなところに月が二つ」


「最悪」


 ギンは笑顔のまま囁いた。


「そういう時も顔に出さない」


「無茶を言わないでください」


 貴族は二人の前で立ち止まった。


「会場にこれほど美しい花があったとは。失礼、私はローディス卿の甥で――」


「存じ上げません」


 シルヴィアが即答した。


 ギンがこめかみを押さえる。


 貴族の笑顔が引きつった。


「……つれない方だ」


「仕事中ですので」


「仕事?」


「ええ。無駄話を切り上げる仕事です」


「あなた、喧嘩を売っているのですか」


「いいえ」


「売ってるわよ、それ」


 ギンが小声で刺してくる。


 貴族は不機嫌そうに一歩近づいた。


 その視線がシルヴィアの肩口を撫でるように滑る。


「田舎の気位は嫌いではない。ですが、この場では少し柔らかい方が得をする」


「近い」


 また即答。


 とうとうギンがシルヴィアの肘を軽くつねった。


「痛っ」


「笑う」


「今つねりましたよね」


「笑う」


 ギンはそのまま、するりと二人の間へ入る。


「ごめんなさいね、この子、堅くって」


「あなたは話が分かりそうだ」


「ええ、たぶん。でも今夜は別件で来てるの」


「別件?」


「今夜いちばん面白い話をしてる部屋、どっち?」


 甘く囁きながら、ギンは貴族の袖口に指を添えた。


 相手の視線がぶれる。


「……面白い話、ですか」


「そう。退屈な改革説明は聞き飽きたの。もっと先のことを話してる部屋があるんでしょう?」


 男は完全に気をよくした顔になる。


「耳が早い方だ。東側の小会議室だよ。ただし、招かれた者しか入れない」


「じゃあ、招かれてる人の名前だけ教えて」


「それは――」


 男が迷う。


 そこへ、今度はシルヴィアが一歩だけ前へ出た。


「行きましょう」


 貴族とギンが同時に彼女を見る。


「この方の相手をしていると、こちらの時間がなくなります」


「っ」


「無礼な……!」


「事実です」


 だが、その瞬間にギンは理解した。


 シルヴィアはただ喧嘩を売っているのではない。


 相手の自尊心を刺激し、あえて見下された側を演じて、会話の主導権をこちらへ戻そうとしている。


 ギンはすぐに乗った。


「そうね。つまらない人に使う時間はないわ」


「な……!」


「東の小会議室。鍵番は監察局の副局長補佐。これで満足?」


 思った通りだった。


 捨て台詞のつもりで、相手は必要な名前を吐いた。


 ギンはにこりと微笑む。


「ええ。十分」


 そう言ってシルヴィアの腕を取ると、そのまま回廊を離れる。


 曲がり角を抜けた瞬間、二人は同時に息を吐いた。


「あなた」


「あなた」


 声が重なる。


「さっきのは何です」


「さっきのは何よ」


 シルヴィアが先に言う。


「あなた、いつもああやって……」


「いつもじゃないわよ。必要な時だけ」


「必要の判断が雑です」


「あなたの方が雑だったでしょうが! 何、存じ上げませんって」


「本当に存じ上げなかったので」


「そういう問題じゃないの!」


 だが次の瞬間、ギンはふっと笑った。


「……でも、助かった」


「え?」


「いまの、わざとでしょう。あいつの気をこっちに戻すために」


「……半分は」


「残り半分は?」


「本気で鬱陶しかったです」


「素敵」


 ギンは肩を震わせる。


 シルヴィアは呆れた。


 だが、その呆れ方は以前よりずっと柔らかい。


「あなたこそ。さっきの、完全に利用していましたね」


「当然よ」


「ためらいがない」


「勝てる手を使うの」


「……」


「でも、あなたがいなかったら、もう少し面倒になってたかもね」


 その一言は、案外まっすぐだった。


「堅いけど、嫌いじゃないわ」


「……それはどうも」


「何その顔」


「返事に困るんです」


「正直ね」


「あなたほどではありません」


 二人は顔を見合わせ、ほんの少しだけ笑った。


     ◇


 宿へ戻った頃には、夜もだいぶ更けていた。


 ミツクニたちはすでに二階の部屋で待っていた。ヤッシュは窓辺、スケイルは扉脇、カクタスは椅子に座って眠そうにしている。


 ハチだけは机に突っ伏していたが、扉が開いた音でぱっと顔を上げた。


「どうだった!?」


「騒ぐな」


「だって気になるもん!」


 ギンはグラスを借りる代わりに水差しを手に取り、喉を潤してから言った。


「釣れたわよ。明後日、貴族街の白梟亭。叔父派の極秘会合」


「ほう」


 ミツクニの目が細くなる。


「面子は」


「財務官、監察局副局長補佐、金鶸商会の番頭格、それから叔父様の側近筆頭」


「十分じゃな」


 ヤッシュが低く言う。


「そこを押さえりゃ、一段深く潜れる」


「そうね。やっと地方の汚れを、王都寄りの顔と結べる」


 シルヴィアはその言葉を聞きながら、静かに息を吐いた。


 今夜、はっきり分かったことがある。


 ギンは軽い女ではない。


 軽く見えるように動ける女だ。


 そしてその軽さの裏で、誰よりも冷静に仕事を拾っている。


 ギンもまた、こちらを見た。


「何?」


「……いえ」


「言いたいことがある顔してる」


「言ってもいいなら」


「どうぞ」


「あなたのやり方は、今でも好みではありません」


「知ってる」


「ですが、有効なのは認めます」


「へえ」


 ギンが目を丸くする。


「それ、騎士さんにしてはかなりの譲歩じゃない?」


「譲歩ではありません。評価です」


「もっといい」


「ただし」


「ただし?」


「次にああいう相手へ近づくなら、せめて事前に一言ください」


「心配してるの?」


「連携の話です」


「ふふ」


 ギンは笑った。


「そういうところ、ほんと堅い。でも嫌いじゃない」


 ミツクニがそのやり取りを見て、静かに頷いた。


「よいことじゃ」


「何がです」


「表の騎士と裏の狐が、ようやく同じ方を向き始めた」


「同じではありません」


「全部同じではないわよ」


「うむ。全部同じである必要もない」


「……」


「……」


 ミツクニはそこで、楽しそうに目を細めた。


「じゃが、背中は預けられそうじゃ」


「それは」


「そうかもしれません」


「悪くないわね」


 答えたのは、ほとんど同時だった。


 ハチが身を乗り出す。


「ねえねえ、それって仲良くなったってこと!?」


「違います」


「違わないわよ、たぶん」


「どっちなの!?」


「うるさい」


 シルヴィアとギンの声が揃い、カクタスが吹き出した。


 笑いの中で、ミツクニは机の上の白紙へ指を落とす。


「では、次は白梟亭じゃな」


 王都の近く。


 貴族街。


 上品な笑顔と上質な酒の中で、どんな話が交わされているのか。


 地方の痛みを、どの言葉で切り分け、どの帳簿で利益へ変えているのか。


 そこへ、ようやく手が届く。


 夜はまだ深い。


 だが、追うべき背中は少しずつはっきりしてきた。


 そしてシルヴィアもまた、ギンという相容れないはずの女の中に、自分とは違う形の覚悟を見つけ始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
表は表のやれること、裏は裏でやれることを行う。それを認め合うのも一つ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ