閑話#54 杏実と雪乃の同居生活1日目の朝の会話
ある種の感動的再会があった翌日の朝。
「と、言うわけで……今日からあーしと雪乃の共同生活が始まるわけですが……なんかこれ絶対! みたいなルールとかある?」
色々と話して、お互いに泣き疲れて、リビングで雑魚寝することになったあーしと雪乃は、目を覚ましてあーしが作った朝食が置かれたテーブルを挟んで、対面するように座った。
んで、朝食を食べながら発したのが、今しがたあーしが言った、決めるべきルール的なあれこれ。
ついその場のメッチャ高いテンションで、同居ォ! ってゆーのが決まったわけだけど、ぶっちゃけなーんも決めてないから、マジでノープラン。
故に、この場で決めることがいっちゃん望ましいわけよこれが。
「ずず……こくん。なんか、美味しいわね、この味噌汁。というか、杏実って普通に料理できたのね……」
「我が家の方針は、自分でやることはなるべく自分でやる! だかんね! まー、実家にいた時に、家にいたシェフに色々と教えてもらったやつだけど」
いやぁ、料理のこととなるとふっつーに厳しい人だったんだよねぇ。
ま、あーしは特に怒られなかったけど。
ちゃんとするところはちゃんとすれば、怒らないってもんよ。
「今も変わらずなのよね、杏実の実家は」
「まねー。結構儲かってる儲かってる。ってゆーか、あの規模の会社が潰れるなんて、まずないしー」
「それもそうね。……それで、ルールだったかしら?」
「そそ! なんかある? ほら、あーしと雪乃は学生時代は親友同士ではあったけどさー、家でのあれこれとかはあんまし話さなかったじゃん? だからさー、どうなのかなーって」
「私としては、居候させてもらう立場だし、あまりないわね」
「そうなん?」
「そりゃあね。そもそも、杏実にはずっと申し訳ないと思ってから、正直何も言えないのよ」
「いやいや、それとこれとは別だって! そりゃ、あの時は悲しかったし、相談してくれなかったことは本当に怒ったけど、なんやかんやでまた会えたじゃん? あーし的にはそれで十分ってもん!」
申し訳なさそうに話す雪乃に、あーしは笑ってそう返す。
雪乃と再会できただけで、あの復讐は無駄じゃなかったって思うし、報われたなんて思う。
ってゆーか、一度死んだ人と再会できるとか、まずないし。
その時点で、あーしはめっちゃ運がいいわけで。
再会できただけで儲けもんってやつ。
「なんていうか……ほんと明るくなったわね?」
「そりゃ、死ぬ前に雪乃があーしにはギャルが似合うとか言ったんじゃん。それに、遺書とかもさー、あーしに明るくなってほしい! とか、仲良くしてくれてありがとう! とか、色々あったじゃん? あんなん見たら、誰だって性格くらい変わるっしょ」
「その場合って、こう、暗黒面の方に行くものじゃないの?」
「ふっ、そこはほら、あーしはらいばーほーむに入れるレベルの人間ぞ? 闇落ちルートなんてあるわけないない! ……まあ、本音で言えば、あーしが仄暗く、そしてドス黒い負の感情に囚われた場合、そんなんあの世で雪乃に会っても、雪乃は絶対喜ばないし、笑顔にならないじゃん? なら、明るく復讐して、正攻法で地獄に叩き落して、それで天国で再会した方が圧倒的に気持ちいいし」
「そっか。……いやまあ、仮に杏実がドス黒い感情に突き動かされるままに復讐をしたら……私はお腹抱えて大爆笑したし、地獄で先に待ってるぜ、って言ってたわ」
「えぇぇ……」
思った以上に親友がちょっとアレだったわー……。
「そもそも、いじめ受けて恨みもしない、ドス黒い感情がなく、藁って許せる人とか、物語に登場するある意味精神が破綻した聖人の皮を被った狂人しかいないと思うのよ」
「うわー、否定できなーい……」
らいばーほーむ一どころか、VTuber界で見ても、圧倒的聖人な椎菜っちですら、さすがにそれはしないと思うしなー……。
いちおー、愛菜パイセンをいじめてたバカたちが逆恨みの八つ当たりで家に来た時に、当時中学生の椎菜っちにド正論かまされて涙目敗走したって話だし。
うん、絶対椎菜っちの中に黒い感情があったのは確かだろうね。
それ以上に光の要素が強すぎるんだと思うけど。
「というか、復讐する時点で誰だって感情はドス黒い負の感情が大半じゃない? むしろ、殺されないだけマシと言うか、温情よね」
「それはたしかに?」
あーしも最初は殺したろか? って思いはしたけど、最終的には生き地獄に落とすことにしたし。
あ、自殺なんて生温い方法で逃げられないようにはしたけど。
死は甘え。
いやでも、自分がいじめをしたことで追い込んだ相手と同じ末路を辿るのって……すっごい滑稽じゃない? そう考えると、逆にありな気もする。
「……で、何を話してたんだったかしら?」
「って、雪乃、天使になってボケた?」
「天使って老化しないらしいわよ」
「マジ?」
「マジマジ。つまり、いつでも新鮮、そしてピチピチな脳年齢だそうよ」
「時代逆行してなーい?」
「私もちょっとないわー、って思った」
「「……あははは!」」
お互いに顔を見合わせて、あーしたちは口を開けて笑った。
「あー、懐かしいわー、このノリ! 雪乃って、ガチガチの委員長属性で、ガッチガチに真面目なのに、変な所でボケるんだもんなー。やー、あの頃も真顔でボケる雪乃で爆笑してたっけ」
「ふふ、そうね。まあ、あの頃と違う点は……親友がギャル方面に吹っ切れた挙句、なんか魔境でライバーしてることかしら?」
「それ言ったら、雪乃なんて死んで天使に転生してんじゃん」
「……我ながら、数奇な運命してるなー、とは思うわ」
「あーしも。あ、そう言えば天国とかってどんな感じなん? 楽しい?」
「ん~、まあ、なんだかんだネット回線は繋がるし、配信とかも見れるから結構楽しいわよ? まあ、らいばーほーむを見るようになるまでは、正直暇でしょうがなかったけど。ほらあれよ。仕事を辞めてニートになってる期間、見るものが大体同じものになるせいで、飽きて来るじゃない? あれよあれ。暇が故に、飽きてつまらなくなるという。最終的に、働いた方がいいんじゃね? ってなる感じの」
「めっちゃわかるけど、もっといい例えなかったん?」
「じゃあ、小学生時代の夏休み期間中に見るテレビ」
「あーし、小学生の頃は習い事とか家のこととか色々叩き込まれてた時期だったから、そーゆーのとは無縁だったんよ」
「この金持ちめ」
「それ、雪乃が言う? 雪乃の家も普通にお金持ちじゃん」
「杏実の実家と比べたら、あの学院に通って全生徒なんて比較対象にならないわよ」
「それはお金持ち目線じゃん。一般人目線で見れば、どっちもどっちっしょ」
「……それもそうね」
実際、らいばーほーむ内でも、あーしと恋雪っち、千鶴っちの三人はシャトーブリアントリオとか言われてるし。
あーしら三人にも資産の差は結構あるけど、ぶっちゃけ一般人視点から見れば、どれも大差ないし。
極端な話、Aさんが1億の資産があるとして、Bさんは8000万、Cさんは10億あります、って言われても、一般家庭出身の人からすれば、全員お金持ちにしか見えないわけで。
そりゃ、あーしらからすれば、BさんはAさんよりお金ないよねー、なんて思うかもしれないけど、なんてことないごく普通の人からすれば、個人個人で人次期するんじゃなくて、全員一括りにお金持ちって認識しかないわけよ。
「というか、杏実もものっすごいお金持ちの家の生まれなのに、地味に庶民的な視点持ってるわよね」
「そう言うけどさー、あーしをそんな風にしたの、雪乃だかんね?」
「なんのことかしら?」
「あーしの好物が綿あめと牛丼な理由ってさ、雪乃に牛丼チェーンに連れてかれたのと、なんてことない普通の夏祭りに連れてかれたからだから」
「あー、あったあった、そんなこと。懐かしいわね。最初は怪訝な表情だったのに、一口食べたらバクバク食べるんだもの、牛丼」
「やー、あれマージで青天の霹靂だったし。あの時のあーしって、自分で言うのもなんだけど、クソみたいな人間だったなー、って思うんよ。高級志向ってゆーのが一番近い感じ?」
「んー、まあ、生まれた時の環境を考えるとね」
「んね。でも、牛丼メッチャ美味しかった。あれ考えた人マジ天才」
おかげで、大好物だし。
個人的に、紅しょうが多めがいっちばん好き。
牛丼って甘じょっぱい味してるから、あの酸味と辛みがいい感じにスッキリさせてくれるから、マジ必須。七味かけても美味しい。
「そりゃ、知らない人はいないくらいの料理だしね。でも、私は思うのよ」
「ほう、どんな?」
「高級志向の料理って、なんていうかさ……味はいいし、技術が必要なのはそうだけど、正直よほど料理が好きで、最低限の才能がないとできないわけじゃない?」
「そだね」
「ぶっちゃけ、家庭料理しかできない人に、レシピを見せたところで、再現できるかって言われたら無理じゃない?」
「そりゃあね。……いやでも、あーしの知り合いにそれ出来そうな人いるけど」
「みたまちゃんは超例外」
「うん、だよね」
椎菜っちなら、レシピ見ただけで普通にできそうだしなー。
ってゆーか、レシピがあれば大抵は作れるって言ってたし、いつかフランス料理とか作りたいとか言ってたんだよね。
うーん、強い。
あれで料理人を目指してるわけじゃないのがマジでおかしいと思うレベルで。
「話を戻すけど……再現はまず不可能。それに、門外不出の場合も多いじゃない?」
「だね。見て盗め、食べて盗め、って感じじゃない?」
「そう。だけど、牛丼みたいに、誰もが知っていて、レシピさえあれば簡単に作れる料理……そういう物を創り出して、広める方が、かなりすごいと思うのよ。もちろん、高級志向の方が劣ってるとは言わないけど、作りやすさ、手軽さ、この点は圧倒的じゃない? 家庭料理って」
「だね」
「私としては、そっちの方がすごいと思うし、尊敬するわ」
「なるほどねぇ……」
でも、高級志向の方は高級志向の方で、新しい料理を創り出すのに四苦八苦するのは当然だし、何より合格点じゃ客は来ないのが常。
あーしも家のあれこれでそう言うお店にはよく連れて行ってもらってはいたけど、合格点しか出せないお店って、普通に潰れてたからなー。
周りとは違う皿を出せなきゃいけないし、常に考えなきゃいけないって考えると、労力は半端じゃないよねって。
「……そういえばこれ、何の話?」
「雪乃が言うん?」
「いや、気が付いたらなぜか変な話に……」
「あー、あるある。なぜか話が二転三転して、最終的に元の原型とどめてない奴」
「気の合う人との会話って、そうなりがちよね」
「めっちゃわかるー! らいばーほーむメンバーと話してる時とか、マジそれだから!」
「見てればわかるわ。というか……あれはもう、話が二転三転どころじゃないと思うわ。あぁでも、ひかりさんだけはどんな内容の話題でも、最終的にみたまちゃんに行きつくからすごい、とは思うわね」
「あれは別格だから」
「マジレスじゃない」
「ひかりんパイセン、マジでやべーから」
「でしょうね」
さすが、みたまちゃんによって人生を救われた先輩。
……あーしも、みたまちゃんみたいに、雪乃をあの時に救えてたら、今とは違う人生を送れてたのかなー、なんて思ってたけど……うん、目の前に最高の結果があるからヨシ。
いや、一度親友死んでるから、何も良くはないけど。
「って、ルール! ルールの話! んで、結局どうするん?」
「あ、そうね。でも、ルール…………とりあえず、食べたお皿はちゃんと流しに入れるとか?」
「それは当たり前のことじゃん」
「……トイレの電気はちゃんと消す?」
「子供の約束でしょそれ」
「…………あ、お風呂から上がる時は、100数えて」
「雪乃、さっきから口にしてるの、ルールって言うより、子供が親との間に交わす約束事みたいになってる」
「杏実と話してると、つい昔のノリがね?」
「まあ、それはあーしも嬉しいからいーけど、今はできればルールの話をね?」
「そうね。じゃあ…………片方がお風呂に入ってる時は、ノックしてから入る」
「どういう状況のルール!?」
「さすがに恥ずかしいかもって思って」
「いや、あーしら同性だかんね? それで恥ずかしがるの、みたまっちだけだから。ってうか、天丼!」
「ふふふっ、つい楽しくて。次はちゃんと言うから」
「マジでちゃんとして?」
なんて言うけど、あーし的には別にボケてくれても構わないとは思ってるけど。
やっぱ、親友と会話できるのが嬉しすぎるかんね。
「あ、これはできたらでいいんだけど」
「おっ、なんかある?」
「できれば、食事は二人一緒で摂りたいかしら」
「あぁ、いいねそれ! あーし、基本家で一人ご飯だから、マジで寂しい時もあったから、メッチャいい! それ決定! あ、でも、用事が入った場合はちゃんと連絡することも追加で! 今日無理、くらいのメッセでもOKで!」
「了解。他は……あ、家事は極力私がやるわ」
「いやいや、それはダメダメ! そこはちゃんと当番制にするから!」
「いいの?」
「もち! 基本一日交代でどうよ?」
「すごくいいと思うわ。……まあ、居候の身で何言ってんだー、って思うかもしれないけど」
「気にしなくてヨシ! 他には――」
あーしと雪乃は、和気藹々と今後の二人の生活のルールを決めて行った。
途中で雪乃の小ボケが入ってくすっとしたり、学生時代のこと話題に花を咲かせたり、卒業後のあーしの人生とか、まあ色々話した。
同居開始一日目からメッチャいいスタート決められてよかった!
あ、落ち着いたら雪乃の家にも行かないとかなー。
……でもこれ、なんて説明すればいいんかな?
実はお宅の娘さんが天使になって帰ってきました!
なんて言えないし……むしろ、怪しい宗教か何かだと心配されそう。
でも、雪乃の容姿って、髪と目の色が変わっただけで前と変わってないし……ん~~……ま、どうにかなるっしょ!
そん時はそん時!
今は、雪乃との生活を楽しむべし!
閑話ですまん。
閑話#49の続きを書きたかったんやっ……! 次回は遊園地に行くから!
あ、前回のコメントで、旅行後に千鶴が免許を取った、と勘違いしている人がそこそこいたっぽいので説明しておくと、元々千鶴は車の免許を持ってました。職業柄、立ち上げの時は必要だったからね。車。
なので、正しくは、『免許を持ってはいたけど、車は持ってなかったので旅行後に車を買った』、が正解となります。




