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その頃の一番組は、未だ階段の踊り場に留まっていた。
綴が一息いれて組長に尋ねる。
「で、橋賢はどうする。ここで脱落なのは確定だが、ここに置いて行くか、我らが連れて一度撤退するか、決めねばならんな」
フィルターを掛けながら体内生物を排除し、さらに体中の水分を入れ換えた橋賢は高熱を発したままだったがなんとか小康状態を保っていた。
だが、たった一度の罠でこの殺傷力の高さである。
組員の一人が脱落したなら二番組と合流するのが良いのでは。そんなニュアンスの投げ掛けをした綴に逢馬が首を振る。
「その案も考えないではないが、あまりにも時間をかけると肝心の術者に逃げられる可能性がある。今回の件だが人目のある時間と場所で堂々と行われている。しかも我ら陰陽寮のお膝元で仕出かすというのが、どうもきな臭い。二番組によって新たな召喚や介入は防いで貰っているが、あの目玉の術者が形代による憑依で存在している場合、術式解除で簡単に離脱されてしまうからな。一瞬のスキでもあれば術式解除を封じることもできるが対象の黙視が絶対条件だから取り敢えず進行するしかない」
ここまで言い切ると逢馬は片膝をついて橋賢の様子を見ていた名田に声を投げる。
「そんなわけでそろそろ行くぞ。準備はいいか」
「ああ、バッチリだ」
「橋腎、悪いが」
「後、続に、はぁ、つたへ、ぇ、る」
橋腎には気の毒だったがこればかりは一刻を争う。
そう判断した逢馬たち一行は先を急ぐことになった。
「くそ、橋賢の仇は取らせてもらうぞ」
よく二人でつるんでいるだけになかなか士気も高い。
「橋賢はまだ死んどらんぞ」
綴が突っ込んだ。
三人と一匹に減った一番組は静かに階段を上がった。
階段であっても鋒矢陣だ。
最上階に着くと扉の前で立ったまま車座になる。
改めて逢馬が指示を出した。
加えて組員たちに短冊を一枚ずつ渡す。
「留めの陣だ。三才印に忘却印をかさねた。敵術者を見つけた場合は即座に使え。視覚と触覚を封じる。逃がすわけにはいかん」
そこまでしゃべって視線を宙に浮かせる。
「升丹さん。突っ込んだらそのまま待機を。いざ、ってときには殿を。お願いしますね」
突入の時は止められぬように。そして撤退のときは追われぬように気を配る役回りである。
厳しいポジションだったが升丹は自信をみなぎらせて、それに応えた。
「任せろ」
ドアを開いて突入する。
しばらく走ると館内にあるエスカレーターが見えてきた。
そしてその前には黒光りした球体が三つ重なった雪だるまのようなモニュメントも。
あからさまな罠に一番組も緊張が走る。
球体から一つずつ棘が生成される。
円錐の下に円柱が構築され細身の杭が出来上がる。
全長はおよそ15cm。太さは10cmほどだろうか。
そして、術式陣の構築が開始された。
「術式発動!構えろ!」
先頭の名田が叫び、ボクシングでよく見る防御体制を取った。
残りの2人は術式による防衛を行う。
逢馬は水晶の欠片をかざし、左手指で相克印を組む。
綴は最後に残った羽根をかざして待ちの体勢だ。
数瞬で術式が完成した。
モニュメントを見るに土か金属の物質が飛んでくるだろう。
だが、予想に反して攻勢は見えず、棘が動かぬままに沈黙を保つ。
三人の緊張した肩が弛み、留めた息を吐いた直後。
先頭の名田のみが衝撃を受けた。
体勢も崩れ、片足でバランスを取るほどに。
「何だ!?何が中った!」
怒鳴る逢馬に升丹が応える。
「風だ!名田だけにあたって通りすぎた風は霧散しとる!」
「いいから、援護を」
綴が言いつつ前に出るがその眼前、綴と名田の間に竜巻と黒雲が出現する。
発生した竜巻と黒雲は重なり、青白い稲妻を内部で形成した。
突入のギリギリで踏み止まった綴だったが黒雲から青い光が飛び出し包み込まれた。
「ぐぅぅ、、っ、ぅ、、」
天狗の雷を使った護身術に雷撃でもって攻撃を仕掛け、しかも、それが効いているのだ。
術式といい錬度といい、完全に綴の上位互換である。
「鯨間さん、名田ぁ!」
土の達磨からも二段目の攻勢術式が放たれる。
黒光りする細い杭が名田に迫った。
いつの間にか生えた苔に覆われている。
その数、凡そ百。
「ぐっ、くそぉ!」
先程の橋賢から見るに何が仕込まれているやら。
絶対に喰らう訳にはいかない。
自身の背後で鯨間綴が蒼い雷に纏わり着かれているのが眼の端に映る。
この後を考えれば迂闊に手を出せない。
「名田、払い砕け!」
今にも杭が放出されそうなのを見て逢馬が声掛けた。
「こっちは全力で綴さんを救出する。杭を後ろに通すな」
そう言って逢馬は電気を通さない純水を生成するべく再び、オパールを取り出した。
指示に従い名田は防衛となった。
そもそも先頭で進行する名田は、これぞ本領である。
名田が黒大理石の腕を振るえば杭は簡単に砕け、散らばった。
だが、どうにも数が多い。
特に後ろの綴と逢馬は無防備であるのだ。
「だが、それでこそ」
防ぎきってこそ、楯役が務まるのだ。
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