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逢馬ヶ刻〜陰陽師奮闘譚  作者: 静ヶ崎 顯
術師翻弄
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7


 音も無くした四人が非常用階段に向かう。

 殺風景な場所で待ち伏せされやすいが同時に罠の偽装も見破りやすい。

 名田が開けた扉から階段に走る。

 綴が後を追い、さらに橋賢も続く。

 と、綴の踵が扉の端に当たり閉まりかけた。

 橋賢が顔面近くの扉の端を握って保持する。


「ぃ痛っ」


 橋賢の声だ。

 とっさに引っ込めた手のひらから血の滴が溢れ廊下のタイルに落ちる。

 橋賢本人を含めた、この場の全員が驚愕する。

 式神の升丹ですら。


 急ぎ橋賢を押し込み逢馬と升丹も階段内に入った。


「橋賢っ、体に異変はっ!」


 逸早く我に返っていた逢馬が小声で詰問した。


「体が、(あち)ぃ」


 既に橋賢は壁に寄りかかり、声にも力がなかった。

 升丹が風で橋賢を尻から支え膝が崩れそうな橋賢を介護する。

 名田が橋賢の手を握り、それから橋賢が握った位置の扉を触って同調した。

 自分で開けた扉の蝶番にも再度触った。


「組頭、土行の罠だ」

「なんだと?名田ぁ!お前は気づかなかったのか!」


 逢馬の叱責に名田はしっかりと答えた。


「分かってて触れば判るが初見じゃ無理だ。しかもこの罠は土行を使える術者には反応しないように細工されてる」

「おい」


 綴が口を挟む。


「ワシの羽根にキズを移したいが、橋賢が熱を持っとる。原因はなんじゃ」


 声からしてイラついているのが分かる。

 自身のミスで傷病人が出たのは悔しいだろう。

 しかも、年若い後輩である。


「橋賢は掌に穴が空いたくらいなら自分でなんとかするじゃろ。他に何ぞ分からんのか」


 外傷だけ移しても毒が残れば意味がない。

 発熱の原因さえ移してしまえば、あとは怪我を塞ぐだけでいい。

 だが、ウイルスか寄生虫か、はたまた毒物か。どの種類なのか。

 特定できなければ傷写はできない。

 名田が落ちている回転刃状になったレンガをを拾い上げる。

 刃先に金属特有の光沢がある。

 割って中も確かめた。


「盤がぬくい。中も空洞だ。何かの病原菌か寄生虫が中で増殖していたんだろう。だが中身が残ってない」


 特定は難しい。

そう結論を出した名田の言を受けて逢馬が頭を抱える。


「くそっ!ウチの救護員は橋賢なのに!」


 逢馬が綴に向き直る。


「取り敢えず応急で手当てしよう。綴さん、水は俺が出すんで橋賢の体中の水分を入れ替えてくれ。名田、(たらい)を出してくれ」

「文坊、俺は・・?」


 心配そうな雰囲気を出してふよふよ浮かぶ骸骨にも仕事を与える。


「升丹さんは周辺警戒を!」


 逢馬が右手で刀印を組み、左手指の親指、人差指、薬指で指の先を交差させた。

 右手は五芒星を描き、左手の印に淡く白い光が宿る。

 名田が土行で出した盥の底に右手の五行を置き、左手の光で抑える。

 そしてまた右手で、一回り小さい(さかさ)五芒星を描くと左手の上に掲げた。

 光る灯火を置き去りに左手をズラし、最初の五芒星の中央、五角形の中に二番目の五芒星を嵌め込んだ。

 左手指の光を出した先っぽで、今度はオパールの欠片を摘まみ、更に真ん中の五角形の中央に置いた。


「五行操印・水」


 印がオパールに干渉し、石から水が湧いて来た。

 左手は盥に入ったままだ。

 盥の水位があがり、縁から溢れそうになったとき逢馬は石を引き上げた。

 水から出てきたオパールの欠片は空気に触れると崩れて消えた。

 下準備を終えた逢馬が横を見上げる。 

 目での合図を受けた綴は頷き、二枚に減った鳶羽の片方を手に取った。

 

 ◆◆


 舞台変わって此方は二番組である。

 監視カメラや設置型の式神に情報を渡さないためにも、しっかと口を閉じて作業をしていた。

 鯨間徹と芒野が試験管と小ぶりの筆を持って一階を忙しなく歩き回っていた。

 武闘派の岳多と道野は二人の護衛だ。

 岳多は芒野と、道野は鯨間徹とである。

 試験管には朱い染料が入っており、それで床に線を引いている。


 真上から覗けば二人が描く紋様は、おおよそ四角い形を成していた。

 そして、その四角を九十度回転させて、もう一度。

 これで太い八芒星が描き上がる。

 そのまた、中に七芒星。

 そこまで描きあげると四人は散開した。


 芒野と鯨間は八芒星の要点に。

 道野は七芒星の要点へ。

 岳多は七芒星の特異点に。


 各々、刺刀で左薬指の先を突き、血を落とした。

 その赤い滴が地縛印に触り、朱の染料が暗い血赤に染まる。

 自身の周りが染まったことを確認し、真言を唱える。


 芒野は短い鑓と鈴が一つになった仏具の独鈷鈴。

 鯨間は百合の蕾に似た形の三叉鑓と鈴が一つになった仏具の三鈷鈴を握り込む。

 鈴を鳴らして力を込める。

 鈴の音は等しく周りに届いた。

 滴の落ちた水面の如き、その性質は(りん)である。


 二人で網羅できなかった部分を残りの二人がカバーする。

 岳多と道野は小道具を使わず自身の手で再現した。

 岳多は諸手を組み、人指し指を伸ばして合わせ中指を丸く曲げて人指し指の手前に持ってくる。

 金剛輪印と呼ばれ音のしない鈴として古来より重宝された形である。

 特異なる点も輪で包み、補強する。


 道野も同じく諸手を組み、両の親指・小指を真っ直ぐ伸ばして左右で合わせた。

 独鈷印である。

 縦に保持した、その形は天地に我が意を伝え五行に属さぬものの往来を禁じた。


 建物のなかで微かに吹いていた風が止む。

 岳多が左の弾薬入れから紙片を取り出した。当然ながら単語帳である。

 むにゃむにゃと口のなかで唱え、単語帳の一番上にあった一枚をちぎり、掌で保持して床に叩きつけた。


 ッパーァーーン


 いい音がなる。

 岳多は何も起こらなかったことを確認し、立ち上がる。

 そして、元来た道を走る。


 岳多が装甲車に戻ると二番組が揃っていた。


「ちゃんと出来てたわ。田螺蛇は喚べなかった」


 そして組員を見渡し続けて述べる。


「封印陣も敷けたことだし、後追(あとお)いするわよ」


 そして今後の方針を伝えた。

「こっちも鋒矢陣で向かうわよ。順序は先ず芒野、それから道野・鯨間と続いて殿がは私が勤めよう。いいね」

 

お読みいただきありがとうございます。

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