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逢馬ヶ刻〜陰陽師奮闘譚  作者: 静ヶ崎 顯
術師翻弄
7/44

6

 

鋒矢の陣は前者と5メートルの間隔を空ける。


 次に走り始めるのは鯨間綴。

 新緑の迷彩に紺の安全靴。

 腰に剣鉈を提げて柄元に当たる部分には手をおき、罠への警戒は十分だ。

 背に太く大きい円筒の金属筒を背負っている。

 組一番のベテランで彼しか戻ってこない任務も多かった。

 建物や部屋の外と内の音を聞き分けてまで警戒しているが陰陽寮で一番、怪我が多い。


 橋賢興(はしかたおこし)はいつの間にか走り去っていた。

 群青の地に朽葉の迷彩。

 腰に佩くのは細身の直剣。

 逆腰に置くのは二本の手斧。

 消火斧にも似るソレは小さいが不思議と彼に似合っていた。


 殿を務めるのは逢馬文秋。

 不思議な形で二本差を帯びている。

 反りの強い太刀を腰に佩き。

 刺刀(さすが)に近い直短刀を懐にのむ。

 短刀の柄頭はくるりと蔦のように巻いている。


 特殊部隊が刀を持っている以外の不審点はとくにない。

 一番妙なのはこの見た目で誰一人として銃を携帯していない点だろう。


 疾走した四人がエレベーター前に到着する。

 名田がボタンを押し、橋賢が引き継いで扉の前で片膝をつく。

 逢馬、綴、名田がエレベーターホールに散らばって待機した。

 橋賢が金剛輪印を結んで呟く。


「水土・壁界」


 呼んだエレベーターの扉前に薄く土と水で形成された壁が生まれた。

 エレベーターを待ちつつも罠箱として降りてくる可能性も捨てない。


 チン


 軽く鈴の音が鳴り、扉の開く気配がする。

 攻勢の音はなく、しかし何かが動く音がした。

 生成した土壁を割って出てきたのは髑骸の頭。

 それはふよふよと浮かび、鍬形の兜を被っている。

 眼窩にある翠なる灯火が右から左に動く。

 そしてそれが喋った。

 

「逢馬、待っていた」


 荒武者を彷彿とさせる低いしゃがれ声。

 式気門長の使役する式神、升丹である。


「丁度良かったからエレベーターに乗って降りてきた。中に罠の類いはない」


 升丹が薦めるままに野槌を先頭にして四人はエレベーターに乗り込む。


「何階だ」

「行ける最上階まで。その先は非常階段になる」


 名田の尋ねに升丹が応える。


 独特の駆動音を頭上から響かせながらエレベーターが動き出す。

 敵性勢力の鎮圧を視野に入れた威力偵察の部隊長、逢馬が升丹に先行時の様子を確認する。


「この先は」

「五行の罠が多い。俺が労苦無く動けたことから察するに魂術(こんじゅつ)に効果の高い妖鬼、霊魂への対策結界は敷かれていない」


 だが、と続けた升丹の声に明るいものは無い。


「敵方が視覚を飛ばして罠を手動にしていたら、その限りではない。このエレベーターは我が使役者が調べたで安全だがな」


 一度切って升丹は続けた。


「幾度か金属針が飛んできた。五行で体を守ったが佳かろう」


 ここまで聞いた逢馬が名田に指示を出す。


「名田、野槌と同化しておけ。ここは石と鉄の都、土と金の行を気にしなくていいのはデカい」

「ェエィ」


 応じた名田が野槌の頭頂を撫で、軽く抱き込んだ。

 自身の足に野槌が重なるように。

 そして、野槌が名田の足に吸い込まれる。と、名田の皮膚が(いわお)と化した。

 マスクやヘルメットの端から見える髪は植物の根に成り、眼は水晶に。巌の肌が黒大理石へと変化した。


組頭かしら、これでいいかい」

「おぅ、橋賢も水を、」

「やってるよ」


 右手を刀印に組んだ橋賢が左の手首を外に曲げ、できた隙間に指をねじ込んだ。

 手首が大きく切り開かれ、血が橋賢の右手指に付いたがそれ以上の出血はない。


「綴さんは、」

「良いから自分の支度せぃ」


 と言ってはくれたが逢馬自身はする支度がない。


 綴も自身の首すじをまさぐる。

 鎖骨のケースから羽根を一本取りだし左手の指で頸動脈を固定する。

 右手に持った羽根軸で勢い付けて突き刺した。

 すると羽根は崩れ、青い静電気に変わって体に消えた。


「ふぅ、痛ぇ。これでおぬしらに使える移し身は二回だ、用心せよ」


 そろそろ、指定階に到着する。


「着いたら、もう一回鋒矢陣だ」


 頷く一同と口を挟む髑骸。


文坊(ぶんぼう)、俺はどこにいれば良い」

「升丹さんは適当に浮いててくれ」


 チンっ

 

 軽い音を立ててエレベーターが止まる。

 開いた扉からは順々に四人が飛び出した。


お読みいただきありがとうございます。

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