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猛スピードで走っていた装甲車が急カーブを曲がって停車する。
と、今度はバックのまま勢いをつけて下がり始めた。
スピーカーから名田が怒鳴った。
「突き破るぞ!衝撃にそなe」
どぉん
バリィーン
名田の叫びが終わる前に一階のガラスに装甲車の後部がぶつかり、割り破った音が聞こえる。
「遅いわ!」
ついと、口に出して愚痴るのは逢馬と鯨間綴である。
とっさに前部の背凭れを握り込んだが、それでもかなりの衝撃だ。
岳多と芒野が手近な座席を抱き込んでいるのが目に入る。
顔を見合わせて逢馬が綴に願った。
「もういっぺん、教育をお願いできませんかね」
「やっては見るがお主の同期じゃで、もう矯正は難しかろ」
言ってる間に道野と鯨間徹が後部ドアを開けタワー内に突入した。
続いては芒野と岳多が。
そのまま、二番組は左右に別れ散っていった。
走り去る道野が頭を擦っていたのが印象に残る。
「たんこぶですかね」
「さぁの」
運転席の仕切り壁が割れ、そちらに座っていた二人が出てくる。
二人とも暗い群青色の特殊部隊服を身に纏っている。
先頭に立つ方は右の脇近くに工具袋を下げている。
ピックが鋭い小型の斧だ。それを二本。
艶の消されたラバーで持ち手が加工されている。
左の腰には水筒が下がる。
昔ながらのアルミ製で最近はめっきり見なくなった。
持ち主も水分補給のために持ち歩いているわけではない。
その後ろからもう一人が追従する。
此方の男は無手である。
しかし、右腰に革の巾着を下げている。何を入れているやら真ん丸だ。
それから足元の靴に加工があった。
光を吸収し返さない服装の中、編み上げ靴の踵と外側部が僅かに光る。
二人は若干のいさかいを起こしているようだ。
「だからって殴らなくてもいいだろ!」
運転をしていた名田の頭を助手席の橋賢が叩いたらしい。
後を追う名田が前を歩く橋賢の肩に手をかけて抗議していた。
「被害は」
降りてきて開口一番、名田を無視した橋賢が発した問いに綴が返答した。
「道野の嬢ちゃんが頭に瘤をの」
「なれば、先だって叩きましたのでお許しを。のちほど謝罪に向かわせます」
「まぁ、帰り着いてからの話じゃな」
会話の終わりを引き取って綴が名田に声掛ける。
「そんなことより名田、早ぅ喚べ。岳多組の印が成れば鎧を喚べぬぞ」
「印は結んでる、我が呼び掛けに応え、参陣せよ」
名田の左手が黄色く灯り、全ての指の先端から同色の光の帯が射出された。
交わった場所が一際、光りて灯火となった。
名田の右手は腰に括った革の巾着にあった。
中から赤土で整えられた五芒星を取り出した。
崩れぬようにプラスチックの大型シャーレに入れてある。
土器に近い様相のそれを地面に置き、五芒星の中央で線が交わる場所に白水晶を置き、左手の灯火を重ねる。
「野槌」
名田は呟き、置いた手を放した。
ぶもおおぉぉーーぅ
象のような、牛のような、そんな鳴き声と共に毛むくじゃらの球体が地面から涌き出てきた。
名田を探し、臭いを嗅ぐ仕草をする。
と、勢いよく回転し正面と思しき側を名田に向けた。
そこに眼は無く、象の鼻に似た器官が備わっていた。
身体に近い部分に赤い布が巻いてある。
紅地に黒糸で六芒星の繍。
ぷもぉーーぅ
そう甘えるように啼いてゆっくりと名田にすり寄る。
「喚んだのは久々だな、今日は強敵だ。宜しくな」
名田が声掛け、優しく腰丈の毛むくじゃらを撫でる。
ぶもおおぉぉーーぅ
今度は雄々しく、任せろと啼く。
すぅ、と一息を聞こえるように吸った逢馬に周りが注目する。
「伝えたように峰矢陣で向かう。升丹と何処で落ち合うかは決まってない。罠もあるだろう注意して動け」
逢馬の最終確認に声無く頷く一番組。
見渡した逢馬が軽く、顎を上げた。
口角を上げて名田昂太朗が走る。
廊下の右壁に寄り、肩を付けたまま走る。
ついこの間、ブーツを新調したと聞いている。
何でも靴の中に鑿と鎌を仕込んだとか。
だが、靴音はない。
歩法で膝と腰を連動させて踵から地面につけ、足裏のできるだけ外側を使って走ることで音を消している。
外側すぎると刃が地に摩れ音が出る。
その辺りは達者だ。
同時に左壁を野槌が疾走する。
正面の鼻を名田に向け回転する。
目もないし三半規管も無いのだろう。
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