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逢馬ヶ刻〜陰陽師奮闘譚  作者: 静ヶ崎 顯
術師翻弄
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第26話

最近隔週ですみません。


 岳田と道野が組んで動き、芒野は単身で動いて回る。

 各々が2~3周したところでもとの位置に戻り芒野の操作で動かすことになった。

 とりあえず、一回目は三人で纏まって見学することになる。


 わああああ


 凍てつく寒空のなか氷っていた時間が溶ける。

 ふたつの集団が起こす熱気が一気に伝わってきた。


 地元住民の3名の顔は険しく怒気を発している。

 怒りが激しすぎるあまり何を言っているのやら、判別が難しい。

 雇われと思しき連中にその一点を突かれ煽られてますます興奮状態にある。

 先頭に立つ老紳士が一番の年嵩であろう。背条は伸びているが醸し出す雰囲気が毅然としていて、むしろ激昂する姿に違和を感じさせる。

 服装は整っていてライトグレーのボタンダウンシャツに濃い赤茶色のスラックス、ベルトも赤茶のおそらく革製。髪こそ乱れてはいるものの軽く撫で付けられ髭の剃り残しもない。靴はこれまた赤茶革の紐靴と全身でおおよその色が揃っている。

 右には老齢の男性が立つ。先頭の彼よりは少し若い程度だ。インナーは見えないが青地で長袖ダウンのベストに摺りきれたジーンズで、中に見える特徴的な裏地は冷たい風を防ぐものだろう。オレンジ色のスニーカーを履いてちぐはぐな色合いの服装が男性を荒く見せ、発する口調や言葉使いが拍車をかける。

 左に立つのは初老の女性。グレーで長い丈のダウンコート。袷がきっちりしているためインナーはさっぱりだが(くるぶし)あたりにわずかながらニット地が見えるため恐らくは寝巻き姿であろうと予想がつく。靴はクロックスで靴下はもこもこして暖かそうなのが見てとれる。


 対して雇われの方とて黙ってはいない。

 何らかの、といっても樹木の盗掘作業であろうが作業を中断させられて苛立っている。

 50代も後半か、壮年の翳りがみえる男を筆頭に30代の男が2名であわせて3名。術者たちとも服装はツナギで統一され、その生地は暗い色彩が分かる程度に黒く光の加減によっては青くもみえる色合いをしている。使っていたと思われるショベルや鉈など庭師用具のたぐいは作業中であった樹木の根本や枝に突き立っており、そばに立て掛けたまま放置している脚立の姿からも仕事を中断して集まってきたのがみてとれる。

 肉体労働で鍛え上げられた身体がそうともとれるが、表だって指摘できるような武器や凶器は所持していない。

 

 雇われの者たちは老人たちと激しく言い争うばかりでこの場を操作しているようには思えない。

 怒る自治会員の言葉尻をつかみ、呂律の回らぬ物言いを指摘して煽っているのは術者たちのうち2名で双方ともに刀印を握っていたものである。煽りつつ嘲りつつそれでも眼は笑わず推移を見守っている。言葉途切れ雑言が尽きて勢いが落ちればつまらぬ指摘で煽り、火に油を注ぎつづける。

 

 空手の術者は列の端で静かにしていた。握れども呪を唱えていない以上推察は難しい。

 周囲を僅かに引き込むような冷気に等しい殺気が漏れでる程度である。

 此処に顕現せしものは観ることができるが在るものに手を加えたり服を引っ剥がすようなことまではできない。あくまで観るのみでそこに意思や音を聞くことが限界であり、謂わば実体が伴うVRのような術式であるのだ。

 空手の術者が着けるネックウォーマーは西洋の面頬に似て鼻部分が尖り口許にはちいさな穴が幾つも穿たれていた。頬にぴったりと付けて装着しているが放たれる声は布に遮られることなくよく通ることであろう。 


 正面のこの場をまとめようとする男が平謝りをしている。

 荒くれの雰囲気漂う作業員と殺気を匂わせる術者を身振りひとつ使わずに抑えている点が見事だ。「今からは」「音は抑えたつもりだった」「大事な樹木だとは」と述べ、上層からの指示には逆らえないと溢す。

 土下座こそしていないが頭を下げ続け、自分の言葉を発するときだけわずかに台頭する。


「この正面の人も雇われ作業員の方ですかね」

「どうだろうね」

 道野からの問いかけに芒野の返事はおざなりだった。

 道野の方を向きもせず、そちらの方に軽く首をかしげただけ。聞いてはいるのだろうがそれを行動に示したことで彼女の疑問に応える気など欠片も無さそうだ。

 

 十思公園の樹木を盗み現代社会に少しばかりの乱れをもたらそうとしている賊であるが陰陽寮が行方を追うのは異人の打ち払いに傾倒した攘夷志士の遺骨と増幅剤になる公園の樹木、そしてそれらを利用せんと目論む悪しき術者である。

 現在の状況から道野に分かるのはこの場にいる七人のうち三人が術者で、その技量は概ね中程度であろう、ということだ。それ以上のことは判断が難しい。術式を遣う姿を二度三度と確認できればいま少しの判別がつくのだが。

 中級と上級を分かつは殺気の有無と事前動作の有無である。

 術具などの小道具や詠唱は事前動作に分類され、使うものが少なければ少ないほど熟達者の証でもある。上級者はそれぞれの属性に因る札を使うことで万象を操り万障を排する。

 

 輪廻に還らず自然行に属する存在はその限りではないが。

 上級者のさらに上に座す者たちは死して即座に自然の理、人間たちが行や属性とも呼ぶところへ吸収される代わりに一切の予備動作を必要としない。ここまでの存在に至るには膨大な鍛練が必要であり種族を越えた先に頂点として在る。

 過去の例で述べるならば鯉が天に登って龍となり、青龍を越えて黄龍へ至っても自然の理に近しい存在と成れるかはまた別の話である。

 歴代の黄龍でも属性へ還った個体は3体に止まり、彼らは応龍と別けて呼ばれた。

 彼のものたちはそれだけ強力で希少な存在だ。

 こんなところで油を売っていれば他の存在から苦情が来ることだろう。上級者まではヒマが作れるが最上のものたちには義務付けられた仕事がある。 

 ともかく、彼らのことは考慮せず除外して考えにいれない。


 ちなみに下級、というと方々に障りがでるので初心者と呼ばれるものたちの特徴は大仰であることと現場で道具を使うことである。術式を便利にするための小道具は必要に迫られてというのも大きいが基本の属性行使については無道具でも行使可能という腕前が望ましい。術具がなければ無力では大きな隙を晒している等しいためだ。

 そのような指針もあって道野は手で印を結ぶ賊術者たちの技量を中程度としていた。特に公園や監視カメラに掛けられている惑わしの呪が強力である。加えて陰陽寮で設置したという迎撃用の罠を潜り抜けて盗掘を成功させている。

 生半可な腕前ではない。


 考察をつづけるあいだも正面で住民に頭を下げ続ける細目細身の男。

 事実を組み立て推察を重ねれば、印も結ばず怒号もあげない彼だけが異様だ。

 穏やかで静かに対応を繰り返している。


「なんか不気味に見えてきました、この人」

「だろうね。でも必要以上に恐怖する必要はないよ。なんと言っても僕たちが見ているのはもうあったことだからね」

 芒野が正面の男と公園の入り口付近を交互に確認しながら道野を宥める。

 冷たい風が公園に吹き込み、街路樹から風で飛ばされた葉がくるりくるりと舞って公園外の車道へ落ちた。


 岳田は賊集団と近隣住民の足元を見て回っている。

 手にはスマートフォンを持ち写真と見比べながら一人一人確認している。

「岳田さん」

「んん?」

 こちらを見ずに返事を返した彼女に芒野が伝える。

「僕は天狗面の居場所確認と公園に掛けられている防音呪を観ていますが岳田さんは」

「靴跡の確認」

 返事はしても今していることをを忘れない用心であるのかスマートフォンを持っていない手で立てた人指しで地面を指し、指差し確認をしながら小指を立てている。


「収穫はありましたか」

「待って待って、聞こえない」

 岳田が人差し指と小指を立てたロックポーズで手を振る。

「あと二人なんだ。終わったらそっち行くから」

「分かりました。僕も終わってないので大丈夫です」

 岳田にそう言って返した芒野の目が道野を向く。


「そんなわけで僕もちょっと公園入り口に行ってくるよ」

「私は?」

 独りで特に何もない道野が声をあげる。

「道野はまだ現場研修の最中だからね。正面のこいつ以外に他の違和感探してみてくれる?見当たらなかったらこいつの何処に違和感があるのか、それを言葉に纏めてみてくれるかな」

「分かりました、やってみます」

 そう言って息巻く道野に頷いた芒野は公園の外周と近くの車道へ歩いて向かった。


お読み頂き有難う御座います。

誤字脱字、感想などお寄せくださいましたら幸いです。

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