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逢馬ヶ刻〜陰陽師奮闘譚  作者: 静ヶ崎 顯
術師翻弄
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第25話


 これでようやく準備が整った。

 芒野が樹木に手を突く。

「岳田さん道野も。」

 同輩にも促し。三人で樹木に取りつき両手を当てると芒野は片手を刀印に立てる。 

 目を閉じて。


 [過ぎし日の 風に連なる 性無し奴 荒れて喧し 見が欲し君を]


 唱えた。 


 深呼吸を二つ。きっかり息を吐いて強張っていた肩を恣意して下ろす。

 片足の、その踵を樹木の根に打ち付け手を離した。


「見えました」

 それでも芒野は目を開けない。

 代わりに両手を左右に開き手で招く。

「二人とも手を」

 脇に立って樹木にとりつく二人は目を開けたまま、片手はつけたまま、芒野に近い方の手を伸ばし彼と手を繋いだ。

 そうして、二人も目を閉じる。


「お二人、目は閉じましたか」

「ああ」「はい!」


「お二人、片手は樹に触ったままですね」

「ああ」「触ってます!」

「では、そのままで」


 [過ぎし日の 風に連なる 性無し奴 荒れて喧し 見が欲し君を]


 再び、唱えた。


 すると後続二人の視界が変化した。

 暗く閉じた瞼を通し、僅かに紅い光が途絶え真っ暗になる。


 いや、暗くはない。

 濃紺の闇が周囲に樹木に纏い絡み付く。

 紺の此の樹は先ほどから自分達が接触していた樹だ。


 見上げれば星空も見える。

 月の向き、星の流れ、雲のひかり。

 人の動き、口の熱、冷える気配。


「居たな」

 岳田が呟く。


 繋いだ手の感覚は残るが見たところ手は離れているように見える。

 岳田は腕組み、芒野は寒いのか手を脇に挟み。

 道野は正面と真横に手を伸ばす。

 こなれた二人は思い思いの所作だが慣れぬ道野は未だ現実と同じ動きしかできない。


 岳田は喧騒の辺りへ先に動いてしまったので芒野が道野に近寄る。

「道野はそのままで」

「お手数を。。。」

 道野が動けないため正面に伸ばした手を芒野が掴み、足を動かすことなく岳田のもとへ連れて行く。

 芒野の手は細く冷たい。

 口からは湯気も出ている。

 

「道野も来たか。芒野は引っ張られすぎだな、確かに観てはいるが我らの脳に作用する妄想のたぐいだぞ此処は」

「分かってはいるのですが」

「ふぅ。まあ正確な事象が見えるのは有り難いがな。お前の性格もあるのだろうが矯正せねば人の生命活動可能区域の外が覗けぬぞ」

「橋賢さんの域にはなかなか。教えてもらっている最中だったのです。ほか分かる方ご存じないですか」

「私が教えられるならしてやりたいがこればかりは相性がある。陰陽寮では橋賢さんと芒野がトップを走っていたからなあ」

「繍組の何方か。。?」

「竹林庵どのに聞くがよかろう。あの方もできるとは言いかねるが教授方を何方にお願いすべきかはご存じだろう」


 隣から会話が聞こえてくるが動けぬ道野からしてみれば雲上の内容である。

 道野にとっても壁を破れば次は我がことであるがこたびの術を張った大元たる芒野とは違い皆接続してもらってでなければ使えぬから気楽である。

 岳田も逢馬も竹林庵も此の手の術式に関しては便乗であるので助言が欲しければ聞ける相手は多い。


 とはいえ今矯正できることではない。

 話を切り上げて静かになった集団へ向かう。


「急に静かになりましたね」

「うるさかったからな。岳田さんの声も聞きづらかったし留めといたよ」

「現実でもミュートとか早送りとかできるといいんですけどねー」

 先ほどまで熱気を振りまいていた集団が動きを止めていた。

 在るものは拳を振り上げ、また在るものは地団駄を踏みこむ直前の片足立ちで静止している。

「早送り機能は現実にも欲しいな。芒野、どうにかならないか」

「岳田さんはいつもそう言ってますよね。誰の話を飛ばしたいんですか」

「竹林さんと四季さんかな」

「四季さん。どーでもいい話が長いですよねあの人」

「芒野と竹林さんは長話が弾んでいるからな」

 うんちくを語りたい竹林庵と情報を回収したい芒野の相性は良い。

 術式に始まり英霊たちの趣味嗜好に及べば立ち話であっても2時間などザラである。


 岳田たちが留められている集団の側まで来た。

 敵と想定されてる集団7人、アルファベットのU字状に並び左右に三人ずつと中央に頭を下げつつ対応している風の頭領が立っている。

 対してU字のなかに入っているのは近隣住民とみられる老人が3人。

 真夜中であるというのに糊の効いているスラックスを履いた高齢の男性を筆頭としている。

 一時停止を解けば、さぞ煩いだろうというのが見て分かるほど顔が怒りに満ちている。


 敵集団も穏やかに穏便にしようとは思っていない。

 肩を怒らせ拳を握り、あまつさえ。

「こいつとこいつか」

 取りまきの内二名を岳田が指差す。

 (たい)を開き、腕を引いて出来た影で人差し指中指を立てて握り込んでいる。刀印だ。

「こいつもですね」

 芒野が指し示した男は特になにもしていないが動作のひとつがその怪しさに目を惹かれる。

 わざわざ腰に回した片手がなにかを掴むように空いている。

 ネックウォーマーで口許を隠しているのも怪しさに拍車をかける。

「腰に回しておいて空手はないでしょう」

「ですね。なんだと思います?岳田さん」

 岳田は首を振った。

「さてな。使えば分かるだろうが未だ練ってもいないこの段階で分かることなどない。それよりも話に聞いていた録画映像とはずいぶん違うな」


 言われて道野が見渡した。

 既に一見していた芒野が道野へ尋ねる。

「道野、宮古警部が言ってた録画映像とどこが違う?」

 一瞬考えた彼女が勢いよく顔を向けてくる。

「文句言ってる人が違います!宮古さんたしかホームレスって」

「それは考え込まずに答えて欲しかったなあ」

 明らかに身形の整った男性が混ざる集団にそんな間違え方はしないだろう。それはすなわち。

「カメラに対して既に惑わしの呪いが掛かっていたとはね」

「一度、町内会の人を対象に調査したとは聞きましたが。これは入り込まれてますね」

「だな。我々も聞き込みしなくてはならなそうだな」


 警視庁の宮古警部が改編される前の映像を見たと言っていて、このありさま。

 確認事項が公園内だけに止まらないようである。

 さらなる仕事の山を幻視した岳田と芒野がそれぞれに上と下を向いた。


お読み頂きまして有難う御座います。

誤字脱字や感想などお寄せ頂けましたら幸いです。

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