第21話
長々と放っててすいません。
文才の無さゆえにエタってました。
ふうっ。
大きく息をついた竹林庵に逢馬が声をかける。
「終わったか」
「肝心の探査はこれから、じゃがな。とりあえず今は裏口から入り込んだ状態じゃ。このやり方なれば入行証を持っておる扱いになるゆえ、まぁ一息といえるじゃろうな」
竹林庵が首や肩を回して落ち着いた。
逢馬は少しつまらなさそうだ。
「詠唱なしかよ」
「そりゃそうじゃろ。これ以上は教えてやれぬわ。埴輪も網も緊急でなければ教えられぬ。知りたければ術の研鑽を積むか四鬼組から許可出してもらうんじゃな」
埴輪の呪具を探査するための鍵を教えて貰えなかったことが要因のようだ。
おっさんが口を尖らす。
「そんな口ではカラスになるぞい」
竹林庵が笑って指摘すれば逢馬も、
「口尖らして成るのはタコだろ」
と、かわした。
そんなに問題にする気はなかったのか、もう笑顔だ。
「ふむ」
唸りつつ刀印を動かし、埴輪に仕込んである呪印を浮かばせる竹林庵。
卍に菱形の、先ほど使った印が数個、他にも六芒星がちらほら。中央には五芒星が配置され見た目にもゴチャゴチャしている。
「書きすぎじゃねェのか」
逢馬がついぼやく。
此の呪いがこの作用をと言うよりは補助に補助の呪を重ねて稼働をさせているようだ。
「逢馬」
常に余裕を崩さぬ竹林庵だが些か声が上ずって聞こえる。
「操作の上書きでもあったか?」
何かがあったのは確かであるので「何があった」などという無駄口は聞かない。
逢馬が聞いたのは埴輪の起動や操作の主導権を天狗が握ったのかも知れないという一番危険で、かつ可能性の大きいものだ。
だが、竹林庵の調べ上げた結果はそんなものでは済まされない。
「探知歴や接触歴がない。起動歴もすべてだ」
「すべて、ってのは何だ。前回確認したとこから今までの記録がないってことかよ」
「いいや。そんなものではない。記録用の結晶石が新品同様じゃ。ここ150年ほどの記録すべてが抹消されておる」
「石の傷はほっといて治るもんじゃないからな。新品と入れ換えられた可能性はないのか」
「この結晶石は陰陽寮で作ったもので、今のところ同じお方が同じ呪を使って、この構成をなされた。無形たる属性を有形になるまで圧縮する貴重で強力な貴石じゃ。余分にあるものではない」
「だが、出来てるんだ。陰陽寮の、式気組の調査はどこまで進んでるんだ?いや、あと何ヵ月で終わるのかだけでいいからよ」
「そう簡単には終わらぬよ。今のところ痕跡はなく繋がりも見受けられん」
竹林庵は指先と目線を埴輪から離さず逢馬に伝えた。
埴輪は自身の行動全てが記録される。それは内部に設置してある間の結晶石に刻まれるものだがその傷がないというのだ。
逢馬が先ず疑ったのは石の入れ換えである。元の石と同質のものを用意できるならばコピペの呪いで作用も見た目も同じものを作り出せる。
だが、これには前提として埴輪が起動し、迎撃態勢に入ろうとも抑え込むだけの技量が必要である。
或いは。
「この間の大文字。警報が鳴るまで俺たちは気がつかなかった。あれじゃあ二組が留守役やってる意味が無ぇ。あれは呪いだ。しかも現場の一般人には金縛りの内縛術が掛かってた。テレビを通じて世界中が見たんだぞ。陰陽寮は今、攻勢を掛けられている。」
調査とは陰陽寮の内部調査。
つい先日より、悪意あるものから日本は陰陽師は攻撃を掛けられている。
このタイミングで陰陽寮が重視し危険視する在所の警戒探査物がリセットされていること。
どう考えても偶然では成り立たない。
「分かっておるわっ!」
竹林庵が声を荒げる。
深呼吸で息と気を落ち着かせ、続けた。
「分かっておる。陰陽寮の内部には何らかの密偵か内偵の術具がある。でなければ在れは為せぬ。じゃがそうなれば疑いはお主らじゃ。今回の十思公園の調査員が大文字事件の生き残りで、ワシが引率しておるのはおぬしらの監視じゃ」
ぺらぺらと内情を語る竹林庵。
だが、既に逢馬は自身含む生存者を疑っている。
いくどかの調査を過去担当していて知見のある逢馬ならば相談しても、という考えであるらしい。
当然のように竹林庵の靴の踵が歪んで見えるのを横目に逢馬がさらに踏み込んで尋ねる。
「で?」
「白にしか見えん。おぬしも岳多も芒野に道野。誰にも記憶改竄の痕跡がなく、辻褄は全て合致する。第三者の記憶で確認したゆえ間違いもない」
「あとは?なにを調べた」
天狗が遣っていた過去視、未来視も今では体系化され陰陽師たちが調査に利用している。
俗に視力と呼ばれる陰陽術だ。
人の血族によるものに限らず、鳥獣などの言葉をもたぬものや道具などの無機物にも作用する。
「モニターと中継器も白じゃった。見せる道具とその大本。細工を仕掛けるならばそこであろうとも思ったが見つけられなんだ」
「属性の痕跡だけじゃ不十分だろ。過去視は?」
「せぬとでも思ったか?」
「いや、そんなわけないよな」
「左様。我らに非ずとも御調で先ず為されるのは視力探査じゃ。あの日モニターに触ったのは当代の式気当主と、おぬしと綴。三名のみじゃ」
逢馬が右手を開閉する。
考え込むときの癖だがそれを行い竹林庵の調査に穴がないかを確認している。
「生きてて陰陽寮にいない奴等も調べてるよな。綴のオヤジは?一番怪しいのはアイツだろう。天狗から友義の証とかで羽根もらってるだろう。羽根の主に操られた形跡は無いのか」
当然の疑問だ。
十思公園の騒動に天狗が関わっていることは明白。
くだんの天狗が友義を結んでいるのは鯨間綴ひとりにだけ。
陰陽師の誰一人とてその天狗とは会ったことがない。
だがその疑問を竹林庵はばっさりと切りすてた。
「無い」
それどころか。
「余計なものが一切混ざらぬようにと細心の注意を払いながら注力したのが分かる羽根じゃった」
「余計?悪意が無いだけじゃないのか」
「悪意が埋まらず好意が見える。悪意を込めて、感情を反転させとるのかとも思ったがまっさらな羽根じゃったよ」
喧嘩や行き違いなどの記憶があれば悪意は簡単に混ざる。
それが欠片もないとなれば慎重に慎重を重ねた代物であることが窺い知れる。
それこそが見える好意である。
それを聞いても逢馬が掌を開閉することをやめない。
「これだけは考えたくもなかったが尋ねるしかないよな」
「?」
「名田だ」
先日の件における唯一の戦死者。
「罠にかかって砕け、磁鉄鉱の山になっちまったがな」
竹林庵もさすがに沈痛そうな表情をつくる
「まさか式気壱の組から死者がでるとは思わんかった。気の毒じゃったな」
「ここまで言っといて最後まで俺に言わせる気か」
「なにがじゃ」
「名田の遺体。あの磁鉄鉱に過去視はかけたんだよな」
逢馬が口ごもる理由は殉職者に鞭打つ行為であるからだ。
だが疑いがある以上、鞭打とうとも晴らさねば浮かばれぬ。
それは部下を死に追いやり自身が生き残った逢馬の思いでもある。




