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逢馬ヶ刻〜陰陽師奮闘譚  作者: 静ヶ崎 顯
術師翻弄
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第20話


 暇人どもが。

 享楽もいいが他人に迷惑かけんじゃねェ。

 いや。

 やつらの享楽は筋金入りだ。

 万が一、自分が窮地に()って死に(ひん)しても、己が消滅しても一区切りの解決までがドタバタで楽しけりゃ天狗的には無問題(ノープロブレム)か。


 灌木の茂みで設置型の罠埴輪を確保した二人は鯱昊網をひっくり返し、網の中に埴輪を入れたまま作業を始めた。

 作業を続けながらもお喋りはやまず。

 テーマは引き続き、天狗の魔女狩り参加についてだ。


「狩人か密偵か。どっちで参加だ」

 狩人として教会勢力を先回りして密告(チク)りまくるのか、教会そのものに潜り込んで現場で煽動し船頭となるのか。


「その辺りは様々じゃ。魔女が潜伏陰遁する村や町で姿を真似て成り済まし、暗行やら草行やらで住民を襲い、姿の主に罪を被せる。暗行なれば自身の影や民衆の影で殺傷。草行なれば獣寄せの香を作り焚いて不安を煽ったりもしたそうな。もしくは地元で狩人やら土地の名士、幼子に姿を写して密告じゃの」

「毎度のことだが。マジで敵にしたくないよな」

 敵対してなくても、只の愉快犯でこれだ。

 姿を真似るのはなんだ。風か?間か?


「一番、手が込んどるのは教会で叩き上げの武官になったヤツの話じゃな」

「武官?」

 竹林庵の話をイヤそうに、頭を引いてまで聞いていた逢馬が上体を反らして更に逃げる。

 陰陽師としては聞かねばならない話だが嫌な予感がして、つい顔までしかめる。

 果たして、竹林庵の言は実におぞましいものだった。


「少年の姿に身をやつし、孤児として教会孤児院に入り込み、幼きころから奇跡を乱発、まぁパンを増やしたり水を酒に変えたりとやりたい放題じゃな」

「ああ。俺でも知ってるイエス・キリストの奇跡か」

 逢馬が頷き、先を促す。

「その辺の奇跡は戦国時代に来とった伴天連(バテレン)の連中が皆して話しとったで有名なもんじゃ、第二の聖人ちゅうのが呼び込みじゃったかな。しかもパンや酒は植物。使う属性は草とその基礎応用のみでことは足りる。で、貴族聖人どもが後援しとる聖職者候補を全員、抜ききって魔女討伐の旗頭にまで成り上がったと聞く。そこまで出来上がればあとは簡単。魔術使いとはつまり行を使うものの集まり。天狗が標準装備しておる風の行を使えば山の二つや三つ命の所在は探れるでな。その命が属性を操った形跡があるかも調べあげるは朝飯前。意気揚々と出陣して難なく捕縛、ちゅうわけじゃ」

 一息に天狗の魔女狩り事情を話した竹林庵に逢馬は憂鬱げな顔をする。

「いや~な話だ」

 しかも天狗たち本人は妖のなかでも有数の武闘派種族だ。

 術具や呪いでのテコ入れなし、素の状態で旗頭になれる。

 修験、仏僧上がりなら棒術剣術体術あたりも必修だ。守護騎士の護衛も要らず、となれば上層部の覚えはめでたく有用性も高かったことだろう。

 修行の場が野山であった日本だ。地力をあげるための修行を継続して行い続けるためには野草を多用する薬師の技に通じている必要がある。医療も江戸末期まで漢方による草木学が基本だ。

 修験も仏門も位階が高いものほど教養があり、修行となれば長年に亘る。そうなれば薬師の腕知識も豊富だ。

 人上がりの天狗に草風を操れぬものなど、いぬはずがない。


 逢馬の顔を見た竹林庵も同じ顔をする。

「ワシも初めて聞いたときはそう思ったわい」

「いやいや。何度聞いても、だろ」

 鳥肌が立った背筋を、肩を回してほぐし抑える。

「マジで聞かなきゃ良かった」


 魔術を使って仕事をこなす陰陽師の逢馬から見れば他人事ではない。

 今、国家が総力をあげて陰陽寮を根絶やしに来るようなものだ。

 自分自身は力があるためどうにでもなる。

 しかし、後輩や先輩、その家族には術式を使えない者もいる。


 陰陽寮に所属していたものたちは当然、後天的に。行使する根幹の臓器を封印されたり、行使するための感覚を忘却させられたりと様々だ。直近ならば鯨間綴がよい例だろう。彼は肉体を鉄に替えられて常に幻視痛に悩まされることになった。痛みと鉄変化が固定化されており、薬を飲もうとも痛みを忘却しようとも痛みは消えない。自殺を試みても鉄行の基質から素体、つまり現在綴が使う身体は自動的に防護される。つまり寿命まで死ねなくなった。その上で術式行使に必要な集中を痛みで散らされる。

 今襲われれば綴には回避する術がない。だからこそ息子の徹が一旦休職をしている。

 鉄の行で固定されることなど1000年以上の記録がある陰陽寮でもそんな固定化を掛けてきた罠や癒した方法などは見つからなかった。当然といえば当然だ。物質としてこの世に生まれ出で固定化されている身体だ。自然環境の五行属性に逆行させるなら存在が霧散する属性に移行させた方が効率がいい。

 例えるならば風や火だ。持続させる術式を組み込まねば、即座に消え失せることだろう。

 そのような危うい状態を介護できる施設などないため、鯨間徹は家と親父を守るための守護結界を研究している最中だ。研究が実を結べば復職するだろう。


 

 そして追われ続けることのもうひとつのストレスはこれだろう、以後の生活で落ち着ける場所が気を抜く時間が無くなる。

 相当なストレスや精神心理負荷がかかるだろう。

 完全な逃亡生活にまで陥れば、逢馬や竹林庵であっても逃げきるのは困難だろう。



「ん?キリストの奇跡、聞いたのは戦国末期だろ。魔女狩りってのはそんな最近だったか?」

「1100年間中盤から1400年間かの」

「時代が合わねえだろ。百年かそれ以上に前時代で、いや、そんなことは関係ないか」

 勃発した時代と情報を収集したであろう時代に齟齬を感じ、指摘しようとした逢馬は途中で意見を引っ込めた。

 ことを為した時代と使える情報を聞いた時代が関係ないとは。

 竹林庵が逢馬の言葉を引き取り、言葉を続ける。

「関わりないわ。日本にキリスト教が来ぬならば知る機会なぞないがな」

「個人を特定してるわけじゃないからな」

「左様。滅びさえせぬならば、必ずだれかが布教しにくる。そこを見ておるだけじゃ」


 非常に強力な(はざま)の属性式だが、間は一点を指し上位にして既に応用された属性である。間の基礎たる(くう)と時間を司る(とき)の属性。このふたつを組み合わせた術式を視術と呼び、その達人は過去視、未来視、現在視を自在に操る。

 初心者は十秒の前後をちらりと垣間見る程度だが、それなりに習熟すれば昨日のことを見て記憶の整理を行うことと百年前を見物すること、十年先を覗き見ることを同列に語れるようにもなれる。

 視術遣いにとって過去にあったことと未来におこることは根拠足り得る。


「で、イギリスの、ノルウェー、スイスにドイツ、東欧と。各地の辺境は薬草と(まじな)いの文化が豊富であった国に行っては陰者、薬師を追いたて、魔女として処刑すると技術をかっさらって来ておる」

「動物の掛け合わせやら属性の混合だな」

 逢馬も知ってる知識を出して相槌をうつ。

「まあ、技術の強奪が目的でないのが僅かなる救いじゃな。日本の術師がみな悪辣だと思われるのは心外じゃ。で、それがゆえに天狗どもの中には西洋術式に長けるものもおるようじゃ。柵炎や黒縄の再現は西洋術式の応用で天狗が持ってきた技術を陰陽寮でかっさらって応用したものじゃ」

「あいつら、何時から魔女狩りやってんだよ。黒縄なんか古い術式だぞ」

「さだかではないが初渡欧の時期はおそらく元寇の時期じゃ。やられっぱなしはいかんっちゅうて逆進行したのは聞いとる。向こうで何をやってきたのかまでは教えてもらえんかったがの」

「ろくでもない悪事ばっかなのは確かだな」

「天狗に上下関係は稀薄じゃが横の繋がりは半端なものではない。魔女狩りに参加した天狗が何れの眷族であるかは知れぬが、使える術は使う種族じゃ。派閥など構わず習熟しておることじゃろ。あやつら相手は気が抜かぬが良かろうよ」


 この形代は組み込まれた術式の行使にあたって非常に単純だ。

 公園の内外に()わる木々や敷地内公共物に対して害する気持ちや悪意がある者が接近してきたときに発動し、公共物には埴輪自体も含まれる。この埴輪が発動していれば仮に天狗であっても手傷の一つや二つは負っていて当然。

 攻勢に使われた光属性は迅速な標準を、虚属性は現世(うつしよ)の存在には最大の相性をもつ。

 それくらい物騒で強力な代物だったのだが、地面から現れた形代は迎撃や返り討ちには付き物の疵が見当たらず、核や掌上に填装してある宝玉が欠けてるようには見えなかった。


 ここで竹林庵が網を逢馬に渡す。

「ここでワシが調査の(しゅ)を使う。おぬしは網ごと保持しておけ」

 逢馬がしっかりと石造りの網に真上から体重を掛けるとと竹林庵が網を揺らす。


 逢馬の腕や上体が小揺るぎもしないことを確認すると竹林庵は右手の人指し指と中指を立てて刀印を組んだ。

 竹林庵の指先がぼやけてモザイクが掛かる。

 ぼやけた指先で宙に円を描く。くるくる回して線の跡が数秒、宙に残ると本格的に図を描く。

 間延びした卍を描き、そこへ線を四本足して卍の中央に菱形が残るように。一度描くだけでなく何度も何度も重ねて描き、線描が何秒か形を崩さずに図の体を保っていられるようになると反対の手で線描を掴み、埴輪に重ねられる。 

 腕のみが重ねられた描陣から竹林庵が急ぎ手を除けると卍印は吸い込まれるように埴輪の頭頂部内側へ入っていった。

 吸い込まれたあとの埴輪頭部には菱形卍の跡が引っ掻き傷のように残る。


いつもお読み頂きありがとうございます。

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