第16話
「さて、これで全部かな」
逢馬、竹林庵が術力を込めた小札が五人の手元に行き渡る。
「これで防衛できんのは攻勢術式だけだ。印象操作と記憶操作、あと何かを隠してたりする隠蔽用の術式は解除できねぇから小まめにお互い掛け合えよ」
「じゃ、確認だ。俺と竹林庵でここの形代を確認してくる。だよな?」
「そうじゃ。先だっては監視が多くての。烏への隠蔽と形代への誤魔化しを同時にやるには手が足らん」
「・・・。ああ」
少し考え、逢馬は思い出した。
「形代の迎撃システムか」
「そうじゃ」
「前から思ってたが。あのシステム、攻撃対象が敵味方関係ないのはどうにか成んないのか」
「ムリじゃ。敵味方を区別させるとそっちにリソース割かにゃならん。警戒防衛が火力不足では笑えぬよ。代わりにワシなど死に難い面々には解呪の筋道が伝授されとろうが」
「そりゃそうだが」
「で?」
会話に割って入ったのは岳多である。
「こっちの役目は?」
「岳多たちには監視カメラが見ていたはずの視界周辺を調べてきてもらう」
逢馬の指示に岳多、芒野、道野が注意する。
自身の言葉に三人が集中させたのを確認すると、
「向こうの頭がやってた小石なげがどこまで聞こえるのか。最初にいたホームレスのおっちゃんたちは何処に連れていかれたのか。公園の入り口付近で町内会の爺さんたちが何に気付いて通報したのか。さっき捜査本部で聞いてきた話の7割はフェイクだと思ってつぶさに。」
逢馬が一つ一つ伝える。
「「はい」」
三人の応答に逢馬は確りと頷いた。
「頼んだぞ」
◆◆◆
まず三人は身隠しの陣からでると公園の入り口に向かった。
投石の音響確認と所在が記憶する過去視を同時に済ませるようだ。
岳多たちの後ろ姿を見ながら逢馬たちも動く。
「そういや、今さらなんだが」
「うん?」
「ここの形代は繍組しか教えて貰えないハズだが俺は聞いていいのか」
「良くは無い」
否定の言葉、厳しい口調とは裏腹に竹林庵はにこやかだ。
「じゃが今は非常事態」
思いを外に見せないのは監視を気にしてのこと。
「公園自体に人払いが掛かっている今の状況では援護を恃んでも何時になるやら。外にでた途端、記憶が飛ぶやも分からん」
「誰かが残って指標になりゃ良いじゃねぇか」
「おぬしも分かって言っておろう。あの移動術は便利な転送術ではない。複数人の術者同士が指定した空間を入れ替える術式じゃ。術者同士が相手の術色を探し合わせねばならんが岳多には荷が重い」
人払いの対処法は中で行を使える術者がポイントマンとなり外との道しるべを繋げることだ。成功すれば距離時間に暇なく、際限もなしに人や物の資材を送り込める。
外でポイントを探すにあたっては術の気配を垂れ流し続ける中よりも外で糸口を探す者の方が達者である必要がある。
竹林庵が懸念しているのはその点だ。
だが、逢馬が代案を出した。
「岳多を単身で帰すんじゃなくて、チーム岳多が三人で帰還すりゃいい。繋げるのは俺と芒野で担当するさ」
芒野は術式の行使に長け、特に空間に連なる術を得意とする。
数日前の目玉大文字事件でも存在が稀薄な升丹の胴鎧を自分の手元と繋げ、地鉄の刃を悪党武者に見舞っている。
「否じゃ」
竹林庵はそれでも納得しない。
「あやつが間の属性に長けるのは聞いておる。それでもじゃ。綴への怪我を看過したのが大きい」
見えるもののみを警戒し、属性が掛かった術具を物理で退けたことが竹林庵の首を縦に振らせない。
「あいつの見逃しは向こうの二組の面々じゃフォローできねえぞ」
それどころか。
「芒野の空間行で不満なら今の陰陽寮じゃ転移術使えねえ」
「普段は良い。たぁだ(只)落命しよったモン、幽霊妖魔らに対抗は難しい」
「今回はってことか」
「さよう。特に、風と音と雷の攻勢に曝された場合、妨害は難い。」
現代でも音は防音、電気も電気伝導率を計算することでそれなりに防げる。
しかし、風を防ぐ方策は壁や窓を設置する程度にしか存在しない。
そして風を完全に防いだ場合、防衛側は呼吸を制限される。
人間種の防壁たる陰陽師が常に警戒している種は少なく、警戒に直する妖魔は全種がそれぞれ何らかの形で風を操る。
それら警戒リストに記される妖魔たちと比べても天狗はさらに別格である。妖魔たちが基礎として持つ属性がことさら多く、本人の育った環境や気質によって所持属性が多種多用。かつ元が人種である場合と一門に人天狗が居ると卓越した武術と武具を遣う。
人天狗の出身が宗教畑であれば、本来有効である退魔の業が効きづらいと、悪い面ばかりが目立つ。
「となると転移術は軽くは使えねぇな」
「で、あろうが」
喋りながら歩き、二人は鐘楼が飾られる東屋の前で止まる。
「で、形代は何処に?」
「持っていかれた大木の根本にひとつ。それから」
親指を折って数えながら竹林庵の目線が脇へズレる。
「あの鐘じゃ。この東屋の屋根裏と鐘の内張りに一枚ずつ。合わせて三枚の所在を確認する」
竹林庵が見る先にはコンクリート製二階建ての鐘撞場がある。
今はすでに鐘を鳴らすための撞木は設置されていない。
鐘も江戸以前から使われていた姿を今に伝え、伝馬の牢に留め置かれた死で以て犯した罪を清算する者たちに最期の刻を報せていた鐘。
敵対国との戦争でも鋳潰されずただ見守り、職務のみを全うする。
陰陽師的な言い方をするならば、将に中庸を体現せし存在である。
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