第15話
逢馬が手持ちのポーチからプラスチック製の板を多数取り出した。
見た目は受験生が持つリング綴りの単語帳そのままである。
人数分の板を取り左の掌に握って、うち一枚をつまんだ。
『顕現』
逢馬は空いた右手の人差し指と中指を立てて薬指と小指を親指で握りこむ。
術式印は刀印。
片手で結び、術式を行使する。
『空行・宙操作』
握っている逢馬の拳と白いプラスチックの小さい板、小札がブレれて見える。
自分の拳が、まるで分厚いガラス越しに見ているように二重に見えるようになると逢馬は握っていた拳を開き、小札を宙に放る。
と小札は落ちず、そのまま宙で動き始めた。
その動きは逢馬の視線と連動する。
先程の術式行使とこの様子を見るに逢馬が動かしているようだ。
逢馬は動かしていた小札を宙の一点に止めた。
再び、ポーチに手を入れ、糸巻きを数個取り出した。
巻いてある糸は水色で光沢がある。
糸止めに固定してある端を外すと、糸は重力に逆らって垂れはしない。
どうやら、その糸は樹脂であるようだ。
全ての糸巻きから端を外して、これらもまた握りこんだ。
先と同様に空いた手を刀印に結び、術式文を唱える。
『顕現』
呼吸を整え、声を張る。
『空行・宙操作』
今度は糸巻きが宙で動き、それを目の端で確認すると早々に次の術式へ移行した。
刀印と共に紡がれるのは操作印。
だが今回は文言が異なる。
『顕現』
『空行・間に在れし、其の墨よ。我が意、手の内にて従い、其の身で標せ』
三度、霞がかった糸巻きが宙で動く。
樹脂糸は逢馬の右指先と連動し形を残す。
漢字、円形、正三角形、二等辺三角形、楕円。
さまざまな図形を描くと逢馬が指を引っ込め、拳で手元をぐりぐり擦るしぐさをした。
と、宙に浮かび絵柄を表していた樹脂が糸巻きに戻った。
はじめから握りっぱなしだった小札を左手に保持し、次いでポーチから3Dプリンタ用のペンを取り出した。これは加熱されたプラスチックがペン先から出て、自在に形作る便利な文明の利器である。
ペンに充填してあるプラスチックも無論、水色だ。
3Dペンを右手で持ったまま、右手で刀印を結ぶ。
『顕現』
『火行・加熱』
少し考え、思い出す。
『250℃』
結んだ刀印の人差し指の先に光が点る。
淡い赤だ。
その指先で宙に浮く樹脂糸の端を順番に触れていく。
糸巻きは全部で4つ。
触れた樹脂糸はわずかに熔ける。
準備を終えた逢馬がペンを握って唯一自分が保持していた小札に何やら書き込む。
白い小札に水色の樹脂。
逢馬の周りで舞っていた小札にも、同じく宙で動く水色の樹脂が寸分違わぬ図を描く。
小札の中央付近に大きく縦長の楕円を作り、下地を成すと他の模様を足していく。
まず、最初に内側へ描くのは菱形だ。円の中央と菱形の中心が重なるように、菱形の各々頂点が円周上に重なるように配置する。
防衛術具の基本図案は勾玉の文様だ。第一印象は陰陽印たる勾玉だとみんながそう思うだろう。
勾玉の、本来は紐を通す穴を重ね、左右線対象に勾玉の鋒を円周上に配置する。
重なった勾玉は風車に似る。
もしも絵の中に風吹けば、その勾玉は左へ回るだろう。
楕円の中央、菱形の中心、勾玉の紐穴が重なる位置には少し大きめの台座を置いた。
それは予め作ってある小道具用のパーツで錫が使われている。
100%の純度ではないがまあまあ高めの作りだ。
そこへは瑪瑙の石を設置する。
楕円の円周上の、菱形の頂点と、勾玉の鋒が重なる位置には四種の石を台座なしに捩じ込んだ。
四種の石は風、火、水、空をそれぞれ象徴し司る。
風から順にヒスイ、トパーズ、オパール、そして灰色のコンクリート。
磨きあげられてはいるものの、ざらりとした見た目がその石をコンクリートの球以外に見紛うことを許さない。
加えて楕円の円周を三分割して、その標しに小さくダマを作る。
既に置いた四つの石には障らぬよう。
そこには更に三種の石を置いた。
各々、司るのは雷、氷、音の属性である。
雷から順にトルマリン、ラリマー、ムーンストーンの球である。
「さて、行印を込めるか」
作った小札を三枚、竹林庵に渡した。
「芒野と道野の分だ。手伝ってくれ」
「一枚多いが」
「あんた自身の分だ。余分なモンを仕込めるほど余裕が無いんで反撃罠なんかを仕掛けるなら自分のだけにしてくれ」
「私のは?」
「俺が作ってやる。岳多は代わりと言っちゃなんだが周囲の警戒頼むわ。俺と竹林爺さんは今から作業だ。警戒と同時には出来ねえ。爺さんはともかく、俺はキャパ越えちまう」
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