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逢馬ヶ刻〜陰陽師奮闘譚  作者: 静ヶ崎 顯
術師翻弄
29/44

第12話


「よし。話戻すぞ」

「何の話でしたっけ」

「高級な貴重品の刀を家に置いとくと危ないから持ち歩いてるって言い訳」

「そりゃ盗まれたら嫌ですよね。江戸時代の鉄製品は鍋から針まで鍛造ですし。ヤクザでも持ち歩きますよね」

「おう。さすがに価格帯と価値観は復習できてるな。偉いぞ。不法所持でいうとあとは無宿人だな」


「出自と元の身分を確認するにも手紙は時間と金がかかるから風体が侍に限りなく近い浪人は黙認されがちです。平民でもヤクザとか関係なく反りが浅くて短めの刀は脇差として申請すれば持てます。旅の護身用だと鉈とかもあったようですから。刀の長さもある程度は規定があるので、それより短ければ脇差って言い切れ、あすね」

「規定の長さは?」

「2尺3寸5分。要は70センチだな。あと刀は遣うのに技術が要るからな。ちゃんと斬ってる描写があれば侍、刺してりゃ町人って感じだろ。ほんとはもっと複雑だし普通に剣術道場は入門を侍に限るなんてことはないが。まあドラマだしな。単純分けしないと脚本がいつまでも終わらんぞ」


 この辺りの(くだり)も既に長い。


「でだ。斬捨てガンガンいけるならコソッと辻斬らなくていいだろ。しかも捕まればちゃんと死罪だしな」

「たしかに」

「斬捨御免ってのは誰が言い出したんだろうな。打捨とか無礼討ってのは存在するが相手が無礼を働いたことを証明できる侍身分の完全無関係の部外者が証人として必要だぞ」

「あと、言い掛かり出来ないように後日ってのも不可ですね。その場その限り」

「けっこう、厳しい?」

「相手が逃走してればその場その限りってことも無いみたいだったけどな。ただ藩とか所属する侍が本当に恥を掻かされたうえでやった本人逃がすと”不届者”ってんで罪になったりするからその辺は所属藩の担当者次第だな。もし無礼討ちで平民を斬っても調べられて証人と親戚だったりしたら斬った本人が死罪になったりもする。」


「政治家もさっき言った通り恨みを買いやすく、且つ望みを絶たれやすい。明治初期の侍や公家出身なら特権階級特有の図太さはあったんだろうが現代ではな。育った環境によっては精神が一般人と変わらんでもおかしくない」

「ってことは」


「だが結果がでるのはもうちょい先だろう。実際調べてみたが日本に限らず明治大正昭和と政治家は地獄行きの連中ばっかりだ。逆に江戸時代は公家も大名も殆どみんな天国直行だよ。ほんとに何もなかったんだろうな。ここ50年くらいの日本人政治家は地獄で後悔してる印象があるな」

「最近は犯罪に関わっている政治家先生も多いですからね」

「というか国益のために方々へ嘘つくのが政治家の仕事だろ。清廉潔白を看板にするのは構わんが地で行ってもらっちゃ困る。死んで地獄行きだったとしても昔のお歴々は自覚あるぞ。天国に直行する政治家なんざ毒にも薬にもならん」

「死んで後悔は関係ないんですか」

「恨んでんじゃねぇか。執着捨てないと昇化出来ん。って、さっき誰か言ったよな?」


「あ、もういっこだけ。外人さんの政治家は関係ないんですか」

「一代で昇り詰めた社長さんとか、悪徳ばっか積んでた連中が高齢になって死に際して改心して寄付だの社会福祉がどうとかするのは珍しくないがな。極端が過ぎる。中庸って考えはどうも難しいらしい」


「よし。やっと本題本分だ。医師・警察・政治家。新人天狗が居たとして。どの職業が一番あり得る?可能性が高いのはなんだ」

「医者タイプですね。警官と政治家出身はあと100~150年経たないと出てこないって解釈であってますか?

「そのとおりだ。全部そうだが助けて恨まれる職業の、特に実害がありそうなタイプだ」

 逢馬が肩をまわす。


「現代人出身の天狗が出たってのは聞いてねェ。そんな話がホントにあればそいつは此方側の、魔法使い系世界で有名人になれる。天狗は享楽で噂話が好物だからな。嬉々として広めるだろうよ」

「噂話ってゴシップ的なものとかも含まれるんですか」

「そうだ。時代劇とかで京の都人(みやこびと)の噂好きが揶揄されるだろ」

「都雀の噂好き?」

「あれは逆探知されるのを承知で、陰陽師が詰めてる京の都に眷属を送り込んでまで噂を集める日本の天狗どもを揶揄した言葉だ」

「じゃ昔のひとは知っててゆってたんですか」

「らしいぞ。だが、今じゃ一般には天狗は居ないものだからな。ちょっとずつ意味を変えたって聞いてる」 


 と話していると岳多の後ろで音がする。

 ざりざり、ざりざり。

 砂粒の上を擦って歩く音だ。


「竹林さん」

「逢馬」

 眉間に皺寄せた竹林庵が帰ってきた。


「さすがに終わったかの」

 言いながら陣に戻る。


「おう。近現代から初めてでる天狗は元医者になるだろうってぇ話までだ」

 逢馬からの進捗報告を竹林庵は陣のなかで聞いた。

 一言で表した逢馬に首肯しながら言葉でも返す。

「それは重畳。重畳。」

「そっちの調べものは順調か?」

「これ以上は期待できんな」

「そりゃ良かった」

「それがそうとは言えんのよ」


「先ず。この公園は在奴の支配下じゃ」 

「そりゃそうだろ」

 監視カメラに写っていたという容姿。

 自治会員や地元出身の警官がたどり着けなかったという人払いの術式。

 果てはカメラの記録や捜査員の記憶障害。

「こんだけ揃ってりゃ天狗だろ」

「そうではない。今も猶、支配下じゃ」

「なに?」


 術式は発生型と設置型がある。

 ほかにもあるが今は置く。

 設置型であれば術者が居ても居なくても動力が有る限り効力が続く。

 先ほどの調査はまだ稼働する設置型の排除を含めてのものであった。

 だが、経験豊富な竹林庵をして「今も猶」である。

 他に要因があるはずだ。


「何を見た」

「鳥じゃな」

 天狗には由来となりうる元の態がある。

 それは人と風と、あと。

「自意識が?」

「目は合わせとらんで確証はない」

 目が合うのは「お前を見ている」という宣告である。

 その意味するところは古今東西、東洋西欧にすら通ずる。

 が。

「合わさんでも分かる。こんな都市部の住宅街に鳶がいる筈がない」


 

 鳥種によっては都会に寄り付かないはずのモノは明らかに怪しい。

 特に敵対者の配下として有名なれば。

 その疑惑も当然である。

 鳥に由来する天狗の出身鳥族はさまざま存在するが中でも(とび)(からす)は群を抜いて多い。 

 公園に居たのは都市部につきものの鴉ではなく郊外を生息域とする鳶。


「羽根は」

「どこぞの油であるかの。光っておったわ」

 逢馬が訊ねたのは天狗配下の鳥が眷族としてどこまで研鑽を積んでいるか。

 その内容によっては危険度が変化する。

 鳥は上位種であり外敵となる自身の捕食者から身を守るために、目立たないよう定期的に体の脂と羽根の艶を落とす。

 本能から行うこの行為は砂浴びと呼ばれ、ヒエラルヒーでよほど高位にある鳥類を除いては共通のものだ。


 天狗の配下であってもただの鳥であれば本能に逆らえない。

 が、発光によってであれば声が届かずとも意思の疎通が容易であることを教え込まれた配下たちは敢えて体に油を塗る。


 油に濡れることを教わった配下たちは同時に身に迫る危機を排除する方法を教わる。

 それが属性術式である。

 

 武威のほどは研修明け陰陽師と同じ程度。


 知識は本能を抑える。

 そこまで至った配下たちは、主の天狗より眷族となることを許される。

 庇護される鳥から門主の手足となり、武威を振るう眷族へ。

 眷族となった鳥類は総じて陰陽師たちから固有の種族名がつけられた。


 それが

 ”濡烏(ぬれがらす)

 である。

 

お読みいただきありがとうございます。

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