第8話
「芒野、次はお前が笑って誤魔化せよ」
「無理です」
逢馬が軽く注意を兼ねた叱責を行う。
芒野がやらかしたことの一つはこの公園に地元出身の巡査が辿り着けなかったとき、その異変が”人払い”の術式によるものだと口走ってしまったこと。
そして宮古との会談で天狗が介入しているとわかったとき。
逢馬と竹林庵は芒野が呆然とした表情を出してしまったことを察知していた。
それで竹林庵がわざと逢馬の背後、宮古の死角位置で眉間を歪ませ宮古の意識を自分に集めて、逢馬がそのまま宮古の思考を誘導し視線を竹林庵に固定、芒野を宮古から隠した。
苦い顔は例えそれが最悪であっても「想定内」の事象にであった時の反応だ。
「想定外」の事象に出会えば反応すらできずに真顔か無表情になる。
今回、宮古が常人であることは逢馬と竹林庵でトリプルチェックを行って確認できたが、これで宮古が敵勢術者なれば笑えない。
捜査本部に敵性術者の監視があれば芒野の失態はどちらも致命的だ。
知らぬ間に幻術で拐われるだろう。
陰陽術の達人たる竹林庵がいることで大分、アドバンテージにはなるが絶対とは言い切れない。
本部に缶詰めで研修中の新人と違って、現場に出てくるほど高位の陰陽師は魔術界ではいい素体として珍重される。
「なんかやけに親身な感じでしたね」
空気を変えようと道野が疑問と宮古に対する好意を滲ませながら声を挙げる。
その気配りは普段助かっているが、今はわりと緊急事態だ。
まったく、呑気な。
「さすが竹林爺さん、お手並み見事だったよ」
「いつ、仕掛けたので」
そして、こちらは分かっている年長の組長コンビだ。
なかなか難易度が高いと認識できているために、その態度にも口調にも尊敬の色が混ざる。
「こちらも失せ物があると伝えて被害者意識を同じくしたじゃろ。あの時にの、ちょいとガードを下げてみた。コピーの件もあの場で視力を遣って知っとったでの、重要記念物が無くなれば此方も結構な失態じゃ。ワシも中々のモンじゃろ」
いくら同じ公務員同士と言えど宮古の態度は穏便に過ぎていた、いや寧ろ同じ公務員同士だからこそ逢馬たちには警戒して当然である。証拠品の違法コピーなど見つかれば免職どころか逮捕案件である。
それが何となく分かっていたから、逢馬と岳多は竹林庵の早業に舌を巻いたのだ。
技量の高い後輩陰陽師に誉められて、竹林庵も鼻高々だ。
それはともかく、現実に戻って共に対策を練るためにも逢馬が口を出す。
「自慢しすぎて天狗にならねぇようにな」
逢馬たちは捜査の本部テントを出て公園の端、捜査関係者各位の邪魔にならない場所へ移動して簡易の対策会議を行うことにした。
移動しながら逢馬がこそこそ竹林庵と意識誘導と隠蔽術式について雑談する。
逢馬が胸のポケットから身分証を取り出す。
各種の取り締まりを執行する公務員に倣い、皮革製の二つ折り手帳である。
開くと其処には逢馬の写真と逢馬のフルネームが中央辺りに印字してあるだけであとは白紙である。
先程、検閲の巡査に見せていたのは逢馬が軽く行使した光属性の幻術式である。
テイは粗いが全員分をその場で行使し誤魔化した。
同じ術式なら同一術者が行使するのが一番手間もかからず安心だ。
旧時代なれば困難といわれていたが陰陽師の行使する術式で一番重要なのは想像力である。
コピペの概念が使える現代人は便利だ。
といっても見せた身分証に説得力がなければ意味がない。
逢馬の雑談というか竹林庵への問いかけは、まあなんというか愚痴である。
「つか公安48課って何だよ、そんなあるかよ。各省庁の部門ぜんぶ併せても40いくか?」
「惑わしの術なら辻褄作りはそんなもんじゃ。数は力じゃでな。調査を行う義務感を調査が面倒と思えるように意識を書き換えにゃいかん、調べる気が起きんほど対象を多くする。そんなのまであるのか、と調査のするにあたってはその後に見える作業量に、引いては手間の多さを思えばため息が!出るほど多いようにすり替えんとな。感覚の深層で理解して記憶の表層にはあとでやっておこう、とまあ色々何やらかにやらの後回し精神が発揮されて翌日以降に後回し、胡散臭いワシらに会っても面倒な奴等が来たと煙たがり、その上で調査の必要性を思い出さんように。この嫌気意識を突き操作すること。これこそ基礎にして奥義。大事なことなんじゃぞ!!」
わかったかの!
ってんで、講義になっちまった。
ちっと言った愚痴の返しが、な~がい長い。
逢馬が竹林庵の講義を受けていても岳多や他2名は助けに来ない。
竹林庵は丁寧かつ温和で、陰陽寮の座学においては特に同じことを何度聞いても嫌がらず面倒くさがらずに教えてくれる。
非常に優秀で教わる陰陽師たち生徒からも勤勉意欲が下がらない教師として高名である。
唯一の珠に疵は一度スイッチが入れば講義熱が上昇しなかなか下がらないこと。
陰陽寮では知らぬものは皆無というほど有名である。
先程の宮古と話した際、既にスイッチが入っていたのは逢馬以下全員が認識していた。その状態の竹林庵に隙を見せながら近寄ったのは逢馬自身で自業自得である。
「着きましたよ、お二方」
一行が公園の端に到着し、芒野が仲裁した。
「ふむ、そうか」
「助かった、芒野」
未だ話したりないといった風情の竹林庵と既にバテかけている逢馬。
芒野が逢馬に声がける。
「大丈夫ですか」
「いや、大丈夫だ。ほんと助かった。こんど何か奢るから」
「じゃあ、さっきのチャラで」
「はぁ?」
「チャラで」
「回収早ぇな、おい」
当然、天狗話で逢馬と竹林庵にしてもらったフォローである。
「ワシには何ぞ無いんかの」
「竹林庵さんとは今度お話付き合いますんで。今日にでも陰陽寮でお待ちしてます」
複雑なんで自分でも混乱しながら書いてます。
お読みいただきありがとうございます。




