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逢馬ヶ刻〜陰陽師奮闘譚  作者: 静ヶ崎 顯
術師翻弄
24/44

第7話

ご無沙汰しています


「矛盾がいくつかと言ってましたよね。他の点は何なので」

「そうだな。」

 逢馬に尋ねられた宮古がしばしのあいだ、何やらと思案し、纏まったのか顔を上げる。

「そうだ、カメラの映像が無いのは話したな」

 こちらに確認してくるので首肯して肯定する。

「最近、一日の報告会〆をテレビ会談形式で録るようになってな。」

 なぜかは分からないが少々後ろめたそうだ。


 周りを気にする宮古。

「それを個人的にUSBに保存してるんだ」


「情報漏洩!」

「しぃー!しぃいーー!!」


 いやいや。

 取り締まる側である筈の警察サイドでそんなことを聞かされれば、逢馬が思わず声を出してしまっても責められまい。

 バレれば懲罰モンだろう。

 いや。

 懲戒か?

 

 動画を削除していないまでも、宮古のソレだって十分問題行動だ。


 逢馬と芒野が矢継ぎに問う。

「ヤバそうなお話ですけど、ソレそちらの方々に周知してるんですか?」

「知るわけない。」

「腹心の夏待さんは?」

「いや、あいつは知ってる。他のやつは知らねぇよ。知ってるとそれだけで証拠の保安責任とか問われちまうからな」

「では、なさらないのが一番では」

「一応、メリットがあるんだよ」

「デメリットに見逢うだけの?」

「ああ。証拠品の保管がギチギチに厳しい代わり、というか当然のことではあるんだが今すぐ見たくても段階踏まないと見れないんだ。仮に明日の朝イチで視聴できても何に何処に違和感を感じたのか、なんて直ぐ忘れちまう」

 見たい時に見れないのは困るんだ。

 宮古が答えた。

「まあ、今さら宮古さんを責め立てても仕方ない。芒野、次聞こう」

 未だ少し不満そうな芒野が深呼吸をして、心持ち肩を降ろす。

「そうですね。宮古警部、話の腰を折りまして失礼しました」

「いや、大丈夫だ」


 どこまで話したか。

「で、カメラの映像だ」


「さっき、そっちの若いの、ええと名前はなんだっけな」

「芒野です」

「そう。芒野君のご指摘の通り、どんなに些細なことでも直ぐに確認したくてな。しかも明らかに暴行誘拐があったはずなんだ。だが証拠映像が無いうえに夏待もその時は居なくてな」

「どちらに」

「今日と一緒だよ。交通課に行ってた。でだ、ちょっと暴行誘拐事件は脇に置こう」

「脇に置けるような案件じゃないですが、ソレ以上に重要そうですね」

「そうなんだよ。」


 で、失せ物の概要だが。

 要は件のテレビ会議をコピーした後、原本が無くなったそうだ。

「そっちはあるんですか」

「コピー後のヤツがな」

 宮古は若干、頭を抱えている。

「まさか、不正の証拠コピーがいい方に転がるとは思ってなかった。監視カメラはコピー前に無くなったからな」

「そういえば、監視カメラの映像は削除ですか、差し替えですか」

「無難で成果の無い会議に差し替えだった筈だ」 

 さすがに物証ごと、ということは避けるらしい。


 だが、それが却って逢馬たちの警戒度合いを上げる。

 旧い時代の天狗は強大な力を持つがゆえに他者に対して、特に矮小な人間族への対応は適当である。

 いや、むしろ人間族を警戒すること自体、気に障るらしい。

 事案によっては人間族、つまりわれわれ陰陽寮のものを警戒して対策するべきだと安易にも提言した協力者に対して所属する組織ごと潰し、陰陽寮がアジトに踏み込んだときには創立者から下端(したっぱ)の雑用までが惨殺されていた、なんて事件も珍しくない。

 自然界由来で天狗に成ったものほどそれが顕著だ。

 この辺は陰陽寮に協力的な天狗から聞いたことなので間違いない。

 

 しかし、この件に関わりのある天狗はしっかりと警戒した挙げ句、自身が行動を共にする人間族が見逃した監視カメラを自ら指摘し取り除いている。

 その手際から察するに人族の調査系統に詳しく、かつ理性的で油断しないらしい。

 なかなかに厄介だ。

 

「で、差し替え前の会議内容なんだがな」

 やっと本題である。

「さっき、概要は説明したよな。見廻りの町内会員が朝来なくて、家に行ったら荒らされてて本人が居なくてって」

「そうですね」

 宮古がしっかりと話を始めたので逢馬が応対する。

「で、さっき。そっちが木を、テレビ映像でこの公園の樹木が数本無いのを見て来たって言ったよな」

「そうですね」

「俺も記憶はないんだ。だが、無くなる前の会議映像じゃ公園の樹木が盗難されていることが主眼に置かれてた。町内会長さんも史跡と特別天然記念物に指定されてる大事な木々だと言ってる。俺も伝統だったり先祖代々的なことを理解できない訳じゃないから、是非お手元に取り返そうって発言してる。俺がそう発言することに矛盾は無い。だが、俺自身が彼らにそう伝えた、発言した記憶がないんだ」

 一気に言い切った。

 宮古の指先が、膝がふるえる。

 真冬の寒さではなく自分の身に起きた不可思議な出来事に不安が押さえきれないと見た。


 逢馬たちはため息が止まらない。

 映像の削除だけなら一般人でもできる。 

 手動で消してもいいし、ウイルスを仕込んでもいい。

 まあ削除すれば疑われるから隠蔽は必要だ。


 その点、術式が使えるならば少し難易度が変化する。

 削除するに当たって自身が関与した行動の隠蔽だけを目的とするなら証拠保管の区域に設置してある監視カメラの視界を空間で区切り、無人の景色をループで見せればいい。入り口の保管員だって入り込む密偵の顔に記憶曖昧の術式をかければいい。

 いや、そもそもデータの破壊を主目的に据えるのならば、HDDの場所を風の属性で以て特定、付近に水の属性で濃いめの霧を出現させてHDD内部の霧に対して風で温度を上げれば基盤部分に水を送り込める。そこへ水と風の混合属性たる雷行を使えば破壊が可能だ。


 遂には話している間に不安が募り幼子のように見知らぬものに恐怖を覚え体まで震わしはじめた、宮古を陰陽師一行は気の毒そうに見つめている。


 奇術、妖術に日頃慣れ親しむ逢馬たちなればこそ敵からの襲撃を疑うが宮古は一般人。まずは自分の頭を疑い、辻褄合わせに苦慮し合わせられぬことに人知れぬ恐怖を感じていることだろう。


「宮古さん。まずは、落ち着いて。ほら、これにでも座って、座って」

 芒野へ頭を振って捜査本部に設置してある椅子を持ってこさせる。

 宮古へ接触しないようにしながら、両肩を掴む仕草をみせて柔らかく押さえる。

 宮古はおとなしくパイプ椅子に座った。

 下を向き全身を大きく震わせる。座った途端身のうちに感じる恐怖を押さえきれなくなったのだろう。

 自分が震えていることを押さえつけるため自身で肩を押さえる。右手で右肩を、左手で左肩を。だがそれでは静まらず両手で頸元を握ったり片手を膝に下ろして、一見貧乏揺すりにも見える震えを収めようと躍起になっていた。 


 恐怖を感じている相手にかける口調は穏やかに。これは一般的にも知られているが、接触を出来るだけ控えた方がいいことは案外知られていない。恐怖の引き金が何であるにしろ、怯える人物への接触行為は恐怖対象からの外的要因(トラウマ)に誤解されやすい。

「爺さん」

 逢馬に呼ばれて竹林が宮古の前で逢馬に並ぶ。

「宮古さん」

 呼ばれても宮古は怯えたまま顔を上げず、ただ黙って自分の体のあちこちを触り、押さえつけている。だが一瞬だけ手を止めたところを見るに聞こえていないというわけではないようだ。


「二つ、確認を」

 逢馬の声に僅かに首を肯じた。

「警察が公表している、もしくは現在残っている記録証拠と皆さんの記憶は全て偽物であると疑ってかかって宜しいですね?その中で宮古さんの記憶だけ正しい部分が紛れている、と」

 もう一度、宮古が首を縦に振って肯定した。

 自身が覚える恐怖を押さえ、わざわざ首を後ろへ少し傾けて前に大きくゆっくりと振り込んだ。

 

「ではもう一点です」

 逢馬の背後に近づいていた岳多に手だけ向け、一枚の紙を受け取った。

 それは書類のフォーマットで入構許可証とあった。

「これにサインをください。一時的にチームに入れたという一筆と証拠保管庫への出入りも許可をお願いします」

 道野が追加で持ってきたクリップボードに挟み、その辺りに転がっていたボールペンも一緒にわたす。

 無言で受け取った宮古がさらさらとサインする。そしてその余白にヨソから宮古自身が呼んだ助っ人であること、身分を隠しての調査協力であるためこの先の身分証明はせず宮古がその身元を保証する、とまで書いた。

「ここまで書いてよかったんですか」

「あんまり良くはないが、あんたらは笑わず最後まで聞いてくれた。それに後ろの若い()の様子から見て何やら犯人たちに心当たりがありそうだ。俺が望んでるのはこの事件の解決だ。それに最初に言ってた手柄の話」


 宮古が俯いていた顔を逢馬たちに向ける。

 その顔は未だ恐怖に囚われ、ただ(まなこ)だけが意思を持っていた。


「ありゃあ、まだ有効かい?」

「ええ、俺たちが目指すのはこの事件の解決のみ。手柄は不要です」


 穏やかに逢馬が応じて、目線を竹林に向けた。

 竹林が慈愛に満ちた顔で宮古に話しかける

「宮古どの、よう頑張られた。しばし、休まれよ。起きればスッキリするはずじゃ」

「竹林さん。なんだ?おれはまた記憶がなくなるのか?」

 返す宮古も穏やかだ。

 先程まで自分の記憶が無いと震えていたときとはまるで別人である。今、竹林としている会話も、もしかしたら内容によってはまた記憶を改竄されるやも知れぬ。にも関わらずである。

「そんなことはせぬよ。入構許可証のことは覚えててもらわんと。のう?」

「そうだよな。ああそうだ」

「ちっとの(あいだ)じゃ。お休みなされ」

 竹林が自身の右手を腰の後ろに回す。人指し指と中指を立て、残り三本の指を握りこむ。

 その指先が橙色に光りボヤける。


「ほれ、目を閉じて」

 竹林に促された宮古が腰の位置をずり下げてパイプ椅子の背もたれ、その登頂部に頭を預ける。

「額は上じゃ」

 目が閉じられ(あらわ)となった額、その中央と鼻が交わる位置に竹林が橙色に発光する指先を持ってきた。

『黄昏の微睡み』


 数瞬の間も置かず、宮古の口からは寝息が零れる。

 その顔は先程の覚醒していた時までとは、うって変わって至極おだやかなものだった。


お読みいただきありがとうございます。

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