第6話
2話だけ連投…
この続きは未だです
何をしているのかと不審に思った宮古だったがヤツらの頭分の独り言に、さらに首を傾げる。
「音が漏れてる」
何度も念押しする様だが、ここは公共公園で外である。
特にコンサートなんかが開催されるわけでなし、防音対策など欠片もしていない。
と、カメラのマイク、その真横から急に声がする。
頭分が目前に見えている以上、別の男だ。
「情報はちゃんと把握しろよ。なあ」
最後の呼び掛けは明らかに監視カメラに、引いては映像を観ている者に対してのものだ。
それに、このカメラは木の割りと高めの枝に金属板とアームで固定設置してある。カメラに接近しようと思ったなら地面を歩く砂摺り音、樹木に登る際の衣服と幹が擦れる音、木の葉が揺れる音などを無しには近づくことも難しい。
だが、カメラに横から声掛けたコイツはそんな物音を、欠片もさせなかった。
「これ、動いてるぜ。せっかく教えてもらってたのに」
カメラの視点がブレる。力ずくで設置台から外そうとしているようだ。
ギリガリと音がして軽い浮遊感が感じられた。
カメラはネジやボルトで留められていたが無理矢理引き抜いたようだ。
カメラが引き抜かれた拍子に視点があっちこっちに向く。
そして、カメラを引き抜いた男の顔が画面端に、わずかに写り込んだ。
赤ら顔で鼻が高く、というか長い、その顔は正に。
「珍しいと思わないか。普通はスキーマスクかホッケーマスクだ。さっきまで写ってたツナギの連中はタオル頭に巻いて口許は普通のマスクしてたんだぞ?助っ人っぽくて、実際にカシラ分を手助けしてるヤツが天狗面なんて目立つ格好するなんてな」
「・・天狗面?」
「そうだ。あー、分かるか?俺の実家は田舎なんだがその更にじいちゃん達の家に遊びに行ったとき。廊下とかに飾ってある眼を怒らせて眉が太い、あの天狗だよ。節句の時期に百貨店とか行っても飾ってあるよな」
「・・・ああ。いえ、分かりますよ。おかめ面と一緒に飾ってあったりしますよね」
宮古の発した反応が遅れた逢馬に、宮古は飾ってある場所の例を上げて説明してくれた。
だがその二人の後ろで、宮古に見えないような死角に居た竹林庵の眉間に皺が寄っている。
それは面を装着した何者かではなく、確実に天狗である。
厄介かつ面倒な相手だ。
天狗は寿命がなく、自身が尊重する自然現象に基づいた行の行使に長ける。元旦の襲撃で陰陽寮の部隊が半壊した際、鯨間綴の使っていた羽根は天狗の抜け羽根である。そんなゴミでも負った傷を別の物質体に移し替えるという常軌を逸した性能を持つ。
人間ならば極度に技量を高めた達人でもなければ模倣は難しい。
そんな存在が賊として人間に肩入れしているのだ。
可能性のみを考えるならば、天狗が悪事を為すこと自体は珍しくない。
彼らは総じて風を信奉する。
享楽に耽り、混沌を呼び込む。
その日暮らしで風の吹くまま気の向くまま。
悪事の準備だけ完璧で、実行しないうちに解散、という人騒がせな事件も多い。
対して人間やエルフなど知性のある人種は実行の前に必ず、綿密な準備段階が存在する。
他にも悪事をして回る集団や種族は有るが、それは置いておいて。
前例の少ない例外はともかく魔術界の治安は主に、実力はあるが堪え性のない種族と計画性があっても実力の低い種族のお陰で、成り立っている。
だが、この場合は数の少ない前例に内訳される事態だ。
積極的かつ人種の計画を受け入れて、小さなアラまで取り除く。
そんな協力的な天狗が賊に荷担していることは衝撃である。
陰陽寮に所属する天狗ですら、事件内容によっては中立だったり敵方に荷担したりもする。一応は所属先に気を使って電波障害や証拠隠滅など実害のない程度に収めてくれるがやられる陰陽師としては堪ったものではない。
が、殺傷行為がないだけマシ、として黙認である。
反面、協力してくれる場合は強力無比である。黒雲を呼んで天候を変えたり、山奥や水中でも携帯が動く。出先で装備の揃わぬ状態での手術治療を為したときも患者の神経に干渉して痛覚をマヒさせたこともある。
先日、鯨間綴が致死の攻勢を受けて瀕死で済んだこともその後、息子の徹の元まで移送できたのも彼に加護した天狗のおかげであった。そして、その際天狗が為したことは直接の手助けでは無い。
単に自身に生える翼の抜け羽根を綴に寄越しただけである。
本人が来たならばどれほどの戦力になることか。
それから逢馬たちが気になっているのは、その天狗の生い立ちである。
彼らは自然由来で生成される場合と人種由来で昇化する2パターンがある。
基本的に自然由来だと実力派で飽きっぽく、人種由来ならば計画性に長ける。
とはいえ、天狗である以上「マシ」程度であるが。
鯨間綴に加護する彼の天狗は人種由来である。
ほか、陰陽寮に属する幾人かの天狗たちも人種由来が殆どだ。
巷に存在する妖怪図鑑で固有名称のある天狗たちは、それらが入り乱れて存在している。
が、図鑑に載るような天狗は大天狗に分類され、個々に一家を構える者たち。生成時には自我の薄い存在であったとしても天狗に成った時点で自我を持ち思考し、計画を考案出来るようになっている。故に家に所属する手下たちも出自で家を決められることはない。
そして十思公園に手を出して強大な戦力を有する陰陽寮に敵対するような行動を取っている以上、野良の天狗である可能性が高いが陰陽寮に敵対することを厭わないまでに戦力の向上が見込めた一家が同盟を組み、手下を派遣してきた可能性も無いではない。
逢馬の思考がぐるぐる回る。
だが取り敢えず、この件を収めるために必要な手駒が圧倒的に足りないことだけは分かる。
「先ほどの」
「うん?」
芒野が宮古に尋ねた。
「無いのは、このホームレスたちと天狗面とツナギの男たちだけですか」
「いや、その日に録られている筈の、この付近のカメラの映像が軒並みだ」
「先ほどの?刑事さんが交通課に行くと言ってらっしゃいましたが。」
「ああ。聞こえてたか」
宮古が改めて説明する。
「そうだ。あの刑事は夏待かまちだ。階級は警部補で俺の腹心と言っても過言じゃない。昨日に引き続き、署に行ってもらって録画復旧をさせてる」
「進捗は如何でしょう」
「尻を叩いちゃいるがたぶんムリだ。事件のあったと思われる26時あたり、その前後の24時間分が記録されてない」
真夜中の24時を越して時間帯を数えるやり方は深夜に仕事を行う職種によくある。
陰陽寮もその手合いであるため、芒野は特に気にしない。
「削除ではなく?」
「そうだ。記録を手動で止めていたのか、プログラムを日時込みで書き換えたのか。定かじゃないがな。だがどちらにせよ穏やかじゃない」
宮古が静かに目を瞑り、ため息を吐いて閉じた目をそのままに喋る。
「今回の件、警察側に犯人を支援している者がいる。自分の意思でやっているのか、脅されているのか。後者であることを願うばかりだ」
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