第5話
月イチになりつつある…
言った宮古本人の目元が鋭くなった。
「この話はここだけにしていてくれ。俺以外では説明できないことなんだ。ここに本部を設置した日だ。目撃証言の裏取りなんかも重要ではあるが、まずは監視カメラの映像でおおよその事態を確認しようとしていた」
宮古警部が語るに、捜査本部がまず着手したのはこの公園に設置してある監視カメラの映像を確認することだった。
そして、町内会員の案内で刑事がカメラまで案内されたがカメラ自体が盗難されていたのだ。
単なる盗難としてもおかしい状況だった。
町内会員が案内した先にカメラが無かったことは勿論、カメラを設置する取り付け台が無かったのだ。
そこに電源を供給する配線コードすらも無く案内人が場所を間違えたかと動揺していた。幸い、と言っていいのか他の会員も揃って断言したためカメラの痕跡ごと存在を消そうとした周到な手際が見られた。
管理室には各種記録を残すためのノートPCが設置してあり、それを経由して日々の映像を記録しているとのことだった。映像の記録期間は一週間。毎日のように碑文や備品への悪戯や盗難状況を確認しなにかあれば映像を確認、なにも問題がなければ映像データを消去。という流れをこの自治体では取っていた。消去までの保存期間は二週間で、最長三週間分の映像を保存するための大型データストレージを追加で設置していた。
そして当然のように置いていたデータストレージは見当たらず、そこへ続く扉も鍵にもこじ開けた痕は無かった。
かといってピッキングは困難だ。
そこの鍵穴はディンプルキー、非常に高価な代物だがそこは史跡もある記念公園。防犯にはより力をいれたんだそう。だがそれでも押し入られた。
鍵は3つ。町内会長が肌身離さず自宅の鍵束に紛れこませて持ち歩いているもの、区の当該部署に保管してある予備、それと見廻りを担当する持ち回りの当番組長。
即座に確認したが、鍵は3つともあった。追加製造も疑われたが鍵をディンプル式に切り替えた理由の1つとして製造に時間がかかる、というものがあったらしい。鍵の引き渡しは町内会長の目の前で、日付の遅れがないように。と細心の注意を払って行われてきた。万が一の場合は町内会長に容疑を集中できるように。
それほど厳重な保管体制が敷かれ、町内会長自身は提案した本人でディンプル鍵の一人目である。元警備会社の叩き上げ幹部とかで監視カメラの配置も街灯の配管や鐘撞台の屋根下に設置するような徹底振り。町内会どころか役所からも信頼厚く、捜査本部も嫌疑を掛けることを躊躇った。
が、本人曰く「本末転倒である」と主張したお陰でしっかりと、第一容疑者、若しくは主要協力者として調べ上げた。
その一環で製造元に問い合わせた。が、結果は白。追加製造の依頼は何処からも来ていなかった。
町内会長の嫌疑は晴れた。とは言っても誰も疑って居なかったのだが。
しかし大きな疑問が、あとに残ることになる。
ディンプル鍵のピッキングとカメラの行方である。また、カメラがあったとして角度が足りなかったり障害物の存在が鑑みられる。そのため近くを通る道路の交通監視カメラの映像を本部に持ってくることになり、そちらも同時進行で進められた。
そうこうしているうちに捜査本部に警官が走り寄ってくる。不審な土木痕アリ、因って掘り返しの許可を求めてきていた。
現状、手詰まりだった宮古と美野中で許可を出し告げにきた警官と一緒に戻り作業を見守ることにした。
「美野中さん?」
「町内会長だよ。美野中護さん。警備会社にはぴったりな名前だよな」
疑問をそのままにしておかないのは芒野の利点だ。
そのまま違う疑問をぶつけたのは道野。
「それでは、カメラは発見を?」
「あった。その場所から出土したよ。」
埋まってたらしい。
そしてやっと発見できたカメラだが、機体が旧式とかで本部に持ち込んだ機器では映像を出力できなかったらしい。それで間に咬ませる中継器を本署から調達することがその場で決まる。そして、いつまでも来ない本署に送られているハズの付近の交通カメラの録画映像も同時に持ってくることにしていた。まあ催促である。
当然ながら本署に派遣された刑事と機器を満載したバンと応援の刑事たちが公園にすんなり来ることはなく。永い時間をかけて公園に戻ってきた刑事たちでカメラの映像を確認することになった。
捜査本部は、ここまでで丸一日を費やしていた。しかも機器が持ち込まれたところで直ぐには見れない。
同時作業で目撃証言を含む情報を纏めていると、矛盾が幾つか出てきた。
ようやく、普段の事件らしくなってきた。そう考えた辺りで宮古は休憩を入れた。視点を変えて事件を見直すことにしてカメラの映像をフライングで鑑賞したのだ。
「幾つかの矛盾ですか?」
「まあ、それはあとで説明する」
芒野の疑問を軽く流して宮古が続ける。
◆◆
カメラに保存されていた映像にはツナギ姿の男たちが数人がかりで樹木を掘っている姿が映っていたそうだ。
人目を凌ぎ人相を隠す為か、黒いツナギにダークグレーのスポンジマスク、額には白いタオルと服装を揃えている。
騒音は無かったと近隣住民は言っていたが、機械も使ったその行動はかなり大きな音を響かせている。
「まあ、この辺が矛盾点とも繋がるんだ」
「騒音が?」
「そうだ。無音だったという証言と煩かったという証言が出ててな。公園から遠いから聞こえないのでは、そう思って集計したんだ。そしたら住民の意見の境目が遠近じゃなくて公園の左右だったんだ。地図で確認したときに公園の左に住んでる人が煩かったと言っていて、右側の人が何もなかったと言っているんだ。しかし重機が稼働してるのは静かな筈の右側だ、もう訳がわからなくなってな。で、しかも煩いってェ証言をしてる連中は一応、証言が共通してるんだよ。土木系の騒音が凄まじくて起きてしまったが外に出ようとしたら急に無音になったから、もう気に成らなくなって布団に帰ったってな」
その騒音で起きた、という住民も最初は無音だった、気付かなかったと言っていたのだ。
だが、捜査員が前日の行動について順を追って調書に纏めていると夜中に騒音で起きたと言い始めるのだ「そうそう、そういえば」と言って。
それからしばらく・・宮古が映像を飛ばしている、と騒音を立てている集団に食って掛かる者たちが写り始める。
この公園で寝起きをしていたホームレスたちだ。
威勢良く「喧しい」だの「寝られねぇ」だの言っているのが聞こえていた。
すると、ツナギの連中のリーダーらしき男が奥のトラックから出てきて応対し始めた。かなりガタイのいい男で一瞬、気圧されたホームレスたちだったがそのリーダーが口を開くと以外に腰が低く、丁寧に謝りはじめた。
その態度に気を良くしたホームレスたちが更に責め立てている。が、その段になって観ている宮古は気付いた。最初から映っていたツナギの連中が現場を囲むように円陣を組んでいることに。
その頃には現場の雰囲気も変わっていた。
腰が低く頭を下げっぱなしにしていた男が下からねめつける。
歪な表情で、嗤っている。口元に浮かぶ笑みを隠そうともしていない。
目付きが変化した男を罵ろうとして仲間のホームレスから肘を引かれ、文句を言おうとして黙る。
ツナギの連中が内側を向いて大きな円陣を、ホームレスたちが外を向いて小さな円陣を作り上げる。
いつのまにかツナギ連中の頭分は円陣の外にいる。
その場から二歩下がって、頭を上げ顎をしゃくった。
瞬の間も置かず、ホームレスたちが暴行を加えられる。
身が軽い男が仲間の肩を借りて空中回し蹴りを放ったり、重心の低い男が腰に拳を放って相手を弾いたりとやけに殴り慣れている。
だが、喧嘩慣れしたくらいでパッと身に付くような技術でもない。
ホームレスたちが立っていられず全員が地面に横倒しになるとツナギの一人がトラックの荷台に走る。
男は直ぐに帰ってきた。
手に持っているのは数メートル分を束にした太めの針金がと片手用のハンマーが数本、それにワイヤーカッターだ。数人ずつグループを作って手際よく、息が絶え絶えのホームレスたちを縛っていく。
映像に写る針金は指二本分の太さはある。気を付けの姿勢で地面に横倒しにされた体に沿ってハンマーで叩きながら針金を形成していく。口には布切れを含ませて、その上からダクトテープを張り付ける様子が見てとれた。頬に始まり口を塞ぎ首を一周して逆頬でテープを切る。
縛り上げられた彼らは針金なんかの工具類が置かれていたトラックの荷台にそのまま担ぎこまれていった。
手下の作業を端で見ていた頭分の男が急に背後を気にしだした。
さんざん重機を使ったり声高なクレームを受けたり、はたまたクレーム処理をした後である。
おもむろに足元から石を拾って公園の外に出ていった。
宮古が観ているカメラが設置してある木の真下にある出入り口から公園の外を走る公道に出た。
その男がアスファルトの道路を歩く音が聞こえるほど近くにいる。
彼のツンツンとした髪先が僅かにカメラ端に映っている。
彼が手に持っていた石を中に投げ入れた。
石は放物線を描きながらカメラの前を通り、公園に着地した。
カツン。。
飛んできた石がカメラの正面を通って公園に落ち、軽い音がした。
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