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逢馬ヶ刻〜陰陽師奮闘譚  作者: 静ヶ崎 顯
術師翻弄
26/44

第9話


 逢馬たちは公園の端、捜査関係者各位の邪魔にならない場所へ移動した。

 今回の十思公園事件の第一回対策会議である。


 逢馬、芒野、道野の三人で三角形を象る。

 踵を合わせた起立の体勢だ。

 その周りを竹林庵と岳多が歩いて二つの円を書いた。岳多は三角形の三つの辺の中点が接触するように内側へ小円を、竹林庵は三角形の頂点が円周に当たるように外側へ大円を。竹林庵が通過するとき逢馬たちは一度背後へ体重を掛け踵で地面を踏みしめる。

 頂点の位置を決めていた三人が退くと其処には正三角形の小さなマークが残っている。

 五人が行っている動作はとても小さいとは云えず、動き続けていたため傍目にみればウザったく目障りだ。だが周りで作業を執行中の警官は気にもしない。


 円の外側から内側へと順に、竹林庵と岳多が唱える。

内縛(ないばく)・三才封印』

外縛(げばく)・三才封印』


「よし。これで見えぬし聞かれんな」

「さっきまでの会話は筒抜けでしょうね」

「そりゃまあな。だからせめて今からは、ってヤツだ」

 逢馬と芒野が描かれた陣の内部で言い合う。

 そこへ岳多も合流した。

「視覚聴覚封じればどうにか、って感じね」

「視覚2聴覚1か?構成」

「そうよ、聞こえないように、読唇されないようにね。ああそうだ、竹林(ちくりん)さん」

 急に岳多が竹林を呼ぶ。

 呼ばれた本人はなにやらぶつぶつ言いながら陣の中と外を行き来する。何度も往復したせいで通った後の陣を象る図形の線が消えかかっていた。

「なんじゃな」

「お疲れさまでした。先ずはご助力に感謝を」

「これはこれは。ご丁寧に」

 岳多と二人でお辞儀を仕合(しあ)う。

「逢馬、分かっとるか。この感謝の気持ち、いや気持ちが無くとも挨拶で言葉に乗せて助力相手に伝える。お主に欠けとるのはこの気遣いで」

「解説どころか小言だとっ」

「竹林さん、随分と逢馬さんに厳しいですね」


 一頻り竹林庵が満足したところで岳多が本題に入った。

「先程の三才印。内縛とおっしゃいましたが、何を縛られましたので」

「岳多組長、あいや今は副長じゃな。岳多副長が外縛してくれるのは予想出来とったでワシは内縛とした。作用するのは見たことに対する記憶と忘却に作用する改変と、盗聴したものがワシらの術式に曝されたことに気がつきやすくなるあからさまな印象操作じゃな」

「効果は期待できるのですか」

「天狗の手を借りた人間種の術者が盗聴してくれば大事な局面で効果を得られるじゃろう」


「なるほど、自分の見たものと記憶を信じられなくするヤツだな」

「まあ、そうじゃの。嫌がらせか、ちょっとした引っかけじゃな」


 道野も会話に帰ってきた。

「さっきまでの公安49課あたりまでは筒抜けですよね」

「48課な」

「あれ?」


 芒野も会議に参流する。 

「陰陽師が出張(でば)ったこともバレましたよね」

「そう。だから今からはな。もう聞かせん」

「あとはいつ成った天狗なのかにもよりますね」

 岳多が問いを加える。


「最新参で・・?」

「最近増えたモンが()るとは聞かんのぉ」

「自然発生枠でも?」

「こないだ、偶然にも放浪天狗がきての。仲間事情をきいたわい」

彪技(ひょうぎ)さん?」

「ん、そうじゃ。ふらりときて酒二杯呑んで帰ったわ。ここ150、いや160か?とにかく160年くらい新人は出とらんそうな。」

「幕末期には居ますか?天狗」

「恨みなれば幾人かおりそうじゃが、昇化できるかどうか。徳も武道も実力を鑑みるに難しそうじゃの」

「幕末の侍ですか?割かしさっぱりとしてる人が多い印象ですが」

「切っ掛けになりそうな恨みを持つだけの人物ならば何人かいますがそういう人たちは士族身分であっても文官が多くて最低限の武も身についていないと認識していますが。違うのですか」

「ま、どちらにせよ。あの時代の者らが天狗になれたとして。成るのは当分先じゃ。加えて、鼻高天狗になって数年の小僧に負けてやるつもりもないわい。」


 仮にも幕末は300年ほど続いた平和が破れた瞬間である。

 現代日本に次ぐほどの治安と外交を遮断していた国外敵の存在しない国家。

 それこそが()本國(もとのくに)


 一族ごとに対立しあい、その怨み辛みを子守唄に育ち成人していった平安貴族から連なる内戦の火種。

 その火花は身分や時代を越え、戦国の地方豪族大名にまで広がって難波(なにわ)で落ち着いた。

 それが大坂の陣だ。

  

 それまでに腕を磨き、戦乱の只中(ただなか)を生き抜いて徳を積んだものたちの、さらに上澄みに至りし人物が人種属から昇化できた。

 それらが天狗であり、鬼であり、人にあらざる精霊種である。

 残念ながら、江戸に幕府が開かれ、戦もなく適度に太平で満たされていた国家民(こっかみん)公逹(きんだち)、侍、僧侶、平民たちでは何に成るにせよ念が足りない。

 

「その前となると、?」

 逢馬の問いかけに逢馬自身を含めた五人全員で静かに思案する。

「一個づつ考えようか」

 組長らしく逢馬がそのまま音頭を取った。

「鳥由来と風由来は?竹林さん、何年掛かる?」

「自我の成長具合にも因るが自意識が芽生えて、それから200年。が妥当じゃの」

「じゃあ、愛菓。さっき竹林さんに念押しで聞いたけど、こっちは分かるよな。人種族は」

「徳の高い僧侶や神官が絶望して。求道者が他者を顧みず修行を続けて。70年から100年。練りあげたうえで妄執雑念まで出自の(しがらみ)を含めた世間世界を捨て去れば昇化する。」

「成ったら、そのころには大体何歳だ」

「早い人で180の後半以降。修行の打ち込み、練度、執着に区切りが付けられなかったり納得できずにいたら。その密度が濃ければ250歳くらい」

「絶望した(ぼん)さん。その辺りが成った場合、元々持ってた恨みは」

「残ってたら天狗には成れない」

「そうだな。未来(さき)に絶望する僧侶と求道武者、こいつらが多い時代は」

「宗教関係なら明治か平安、武者は鎌倉、戦国期」

「だな」


 逢馬は芒野へ顔と指とを向け、通りすぎて道野で止まる。

「道野、今度はお前だ。怨みといえば。恨みをかう職業は何だ」

 問われた道野は少し大袈裟に両手を振って逢馬の気を引く。

 些か、慌てた様子だ。

「まってまって。逢馬さん」

「どうした」

「芒野先輩には聞かないんですか」

 察するに、次の回答者は芒野だと思って気を抜いていたところに白羽の矢が中ったというところだろう。

 逢馬は何となくその辺りを察して淡く微苦笑を浮かべる。

「残念ながら。だな」

 そして、親指で軽く竹林庵を指差すとその続きを道野に伝える。

「さっき聞いてただろ。芒野は竹林庵を始めとしたジジイの方々と会話するのが、別に苦じゃない。そんなやつはこれくらい大体知ってる。あいつに今足りないのは最新情報だけだ」

 逢馬が揶揄しているのは先日の目玉事件で逢馬の使役した黒腕を妨害した防衛装置について無知であったという点についてだ。

 だが、逢馬の言に沿うならば。

「最新の武器情報さえ押さえておけるなら芒野が知らんことなんて僅かだ。専任の奴等に秘匿させてる機密とか、本当に今どこに誰がいるかとかのリアルな妖情報くらいだろう」


お読みいただきありがとうございます。

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