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逢馬ヶ刻〜陰陽師奮闘譚  作者: 静ヶ崎 顯
術師翻弄
20/44

第3話


 そこまで聞いて逢馬組も動くことにした。


「そうじゃな。もう一個きいてよいかの」

「なんだ」

「よく考えたら二個じゃな」

 宮古が首肯する。

「この公園は監視カメラはないのかの」

 

 まあ。当然の疑問である。

 だが。


「いい質問だな。それが警視庁やらウチの中央区警察署が本部建てて、端から本腰入れた理由でもある」

 宮古が顔を背ける。

 その方向は先程、もう一人の刑事がいなくなった先でもある。

「さっきまで俺が話してた刑事がわかるか」

「夏待さん、でしたか」

 逢馬が代表して答える。

「そうだ。内容は?」

「何かの件を交通課に、と聞こえましたが」

「その通りだ」


 宮古が深呼吸をひとつ、した。


「この件は不可思議なことが多い。さっきは笑い話にしたが巡査が道を間違えてる。最初の一人は赴任してきたばかりだが、あとから合流した方が問題だ。彼は警官としてもキャリアが長いが、生まれも育ちも小伝馬でこの町としては比類のないベテランだ。その彼が有名なこの公園に来る道を間違えるというのは尋常ではない。」

 宮古は辺りを見回し、設置してある長テーブルの上にある紙コップに水を注ぐ。

 何口か飲んで呼吸をしている。

 自分が落ち着いていないことに気がついていない。

 明らかに逡巡している。

 今、話そうとしていることについてだろう。


「さっきの、本腰入れんのが早い理由だがな。当日の映像が一切残っていないことが理由だ」

 長々と間をあけて、宮古が話し出す。

「まず、公園には文化遺産と言えるモノが多い。ここが昔、留置所だったことは知ってるか」

「存じてます。史跡がなければ私たちが来ることはなかったでしょう」


 逢馬たちがTV事件を認識して即、派遣されたのはそこに由来する。

 単純な犯罪であっても魔法が絡めば陰陽寮は出動する。

 だが、特に陰陽寮が監視をし、捜査捜索を追求するのは第一に術式を扱える存在が人界や現代社会に対して害を為したとき、崩壊しないように保護するのが目的である。


 十思公園の犯罪は隠蔽のために魔法が使われていた。

 人払いの術式は外国の術式たる魔法では非常に難易度が高く、日本の術式たる行では大きく難度が下がる。

 それは術式で何か若しくは誰かを隠す場合、魔法では透明化と潜伏を使うが、行では隠行と隠蔽を使う。

 魔法では表層の視覚情報を断つという一点を生物にも物品にも掛ける、謂わば同種の術式を二つに分けて使っているためシンプルかつ絶対的な効果が高い。特に潜伏では対象の術式を隠す魔法である。術式の痕跡があれば辿って行ける類いの探査魔法をかわすのに有用な切断魔法である。

 しかし応用に乏しい点があり、対して行の穏行と隠蔽は深層心理を利用して対象の印象操作を行って五感を誤魔化す。対象と利く効果が曖昧なため応用性が高く、穏行はそこに在っても大して特筆するべきものではない、という判断を他者にさせる。隠蔽は切断魔法の潜伏と異なり潜伏では痕跡がそこではっきりと途切れるため切断魔法であるという断定が可能だが、隠蔽は痕跡を上書きしたり或いは別の物品に偽装することが可能である。

 加えて行の穏行と隠蔽は生物と物品で定義分けされている訳ではない。

 これらは基本的に科学では説明のつかない技術であり世に情報が出回ることはあまり喜ばしくない。

 特に、術式を多用する世界の住人にとっては。

 奴隷制度こそ廃されたが被害者だったエルフやドラゴン、座敷童などは本人が存命だ。

 彼らのような長命種にとってしてみれば科学社会と術式界に明確な線が引かれた現代は穏やかに暮らせるとして好評である。


 十思公園の痕跡隠しに術式が使われていたことは、逢馬たちにしてみれば想像の埒外である。

 たった今、捜査関係者からもたらされた情報で、TVから得たものではない。

 では、何故(なにゆえ)急行してきたのか。

 それはここに眠る死者に因る。

 彼らが蘇れば確実に現代社会に害を為す。


 十思公園。

 その成立は江戸時代、徳川幕府が成立する直前の頃にまで遡る。

 ここはその昔、留置場で処刑場だった。

 そも、お江戸では禁固や懲役などの罰がなく、軽犯罪は棒で叩かれるなど判決のち、直ぐに執行されていた。

 木造家屋の町での小火(ぼや)や仕事の殆どが日雇いに近かった当時は強盗も重犯罪。

「十両盗めば磔獄門」

 この文句はサスペンスものの時代劇によく出てくる台詞。

 通常出回っている硬貨のなかでは最大価値の金貨、両。

 これを十枚、一時に盗めば首が飛ぶ。物理的に。

 価値はさまざま変動するが一般的に1両は十万円。

 十両百万円は現代でも大金だが一両金貨十枚は運びやすく盗みやすい。

 出会い頭に衝突して喧嘩、これはお江戸では頻発していた。

 花火と喧嘩は江戸の花。

 それぐらい名物といえるほど発生していた。

 そして、たまに相手が無頼(やくざ)者だったりすればカッとなった末に殺されたりもした。

 極たまに、相手が更に(たち)が悪く食い詰めた、落戸人(ごろつき)であればそのまま相手の財布に手を伸ばしたりもする。

 悪人だけでなく幕末に近づくと貧富の格差が広がり食い詰めた罪人たちに苦界(くがい)の住人や一歩手前のものたちが混ざるようになるが、それはひとまず置いて。 

 

苦界:知らない方は是非検索を。 

お江戸は華やかなだけではないのです。


お読み頂きありがとうございます。


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