表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
逢馬ヶ刻〜陰陽師奮闘譚  作者: 静ヶ崎 顯
術師翻弄
19/44

第2話


 次の日の朝、逢馬たちは十思公園に来ていた。

 結局のところ、手空きの人員は彼らしかいなかったためである。


 残りの陰陽師部隊は日本全国で起きている妖怪騒ぎに手を焼いている。

 年末までに力を使い果たし、暇していたモノたちが浮かれているのだ。

 東京残留者は各部門につき二組(ふたくみ)まで。 

 それ以外は皆、地方で鎮圧作業である。

 捕縛して説教か禁固。被害が大きければ肉体労働を含む弁償。


 せめて、あと二人いれば本部の警護に心置きなく出動するのだが。

 召喚術に長けた岳多と空間接続を得意とする芒野は置いてきたかった。


 朝からマーキーテントには多数の捜査員と地元ボランティアが出入りを繰り返している。

 逢馬たちは周りを囲んでいるメディア局員を割り、三角コーンを跨ぐ。


「すみませんが、」

「ああ、俺たちもそっち側だよ。通らせてくれ」


 逢馬たちの進入に気がついた制服警官が留めようと制止してきた。

 逢馬はごく穏やかに返事を返し、ジャケットの身分証明書を見せる。

 そこには日本国國公安部48課、とある。

 逢馬たち四人はそれを提示し通り抜けた。 


「確認しました。ですが、そちらの、」

「こっちの爺さんは俺ら公安で身分を保証する。何かあれば公安に苦情入れてくれ」

「了解しました。それではあちらのテントへどうぞ。宮古(みやこ)警部が本部長になります」

「ありがとう」


 本日は戦闘明け、休暇明けの逢馬組に引率者が付いていた。

 逢馬の言通り、爺様である。

 (よわい)は凡そ、70ほど。

 しかし、矍鑠(かくしゃく)としており背筋も伸ばしてきっちりと、その歩みを進めている。

 その名を竹林庵(ちくりんあん)と号し、もっぱら竹林(ちくりん)さんと呼ばせている。

 

 一行は竹林庵を含めた5名でもってテントに近づく。

 入り口では、また止められた。

 細身で眼がぱっちりと開いた愛嬌のある顔立ちである。


「身分証の提示をお願いします」 

「どうせ、中入ったらもう一回やるんだよな」

「申し訳ありませんが。本部長の護衛も兼ねておりますので、ご理解を」

「分かった分かった」

「確認致しました。ご協力ありがとうございます。それではご案内いたします」



 作戦本部への進入禁止あたりでやった作業を一通り、リピートするとその先へと案内してくれた。

 本部に足を踏み入れるとさっきの彼が先触れを行う。


「失礼します」

「おう」

「公安48課よりお()での方々をお連れしました。よろしいでしょうか」

「ああ、通してくれ」


「では、どうぞ。本官はこれにて失礼します」

「案内ありがとう」


 逢馬たちが中に入るとそこには50絡みの男が二人、ボードに張った資料を見ながら意見を交わしていた。

 同じような刈り上げた髪、筋骨はほどほどに逞しく、ともに中背。

 頑固そうな顔まで似ている。

 唯一、異なるのは服装だろう。

 といってもジーンズのようなラフな格好をしているなどの非現実的なものではない。

 ジャケットを脱いだスーツ姿で片方はロングのダウンコート、もう片方は長袖のシャツを肘まで捲りあげている。


 5人が入りきったところで二人がこちらを向く。

 開口一番、放ったのが、


「捜査権は譲らんぞ」

「何しに来た」


 二人揃って言葉は違うが意味は一緒である。

 だが、逢馬たちに争う意思は無い。


「捜査はそっちでやってくれていい。何なら手伝ってもいいぞ」


 二人の刑事は顔を見合わせ、表情を固くする。

夏待(かまち)、さっきの件をもう一度交通課に問い合わせてくれ」

「分かりました。そちらも頑張ってください」

 夏待と呼ばれた刑事が書類を持ってどこかへ行った。


「本当に俺の指揮下に入るのか」

 逢馬が首肯する。

「こちらも、ウチの(おさ)に経過報告はするが手柄はそっちで取ってくれ」


「さて、どこから話したものか」


若干、顔を緩めた刑事が口火を切る。


「まずは自己紹介だな。俺は宮古。警部だ」

「はじめまして。このチームを率いる逢馬と言います」


 逢馬は後ろに掌をかざす。

「ウチのチームです。なにかあれば先ずは俺に言って下さい。それから、」

 その更に後ろを指差す。

「あっちのお年寄りは竹林(たけばやし)と云います。日本の民間伝承や風俗の(たぐ)いに造詣が深く、ご自身の研究のため同行しておりますが我らも助けて頂く場面が多いですね」

「お初に。儂が竹林じゃ」

 竹林をしてタケバヤシと紹介するのは相手が術師の世界人ではないことに由来する。

 術師の世界は良くも悪くも実力主義。

 日本の陰陽師として少しは名が売れている竹林を在野(ざいや)の術師たちは畏怖し、警戒する。

 そうなれば情報収集なども捗る。

 が、普通の現代社会に号を持つものは少ないためトラブルを避けるため外界ではタケバヤシと自称していた。


 挨拶をする竹林に宮古警部は胡散臭そうな顔を向けてきた。

「俗世側の歴史学者ねェ。その右袖の模様も民間伝承か?」

「おお!よく気づいてくれた!」

 対称的に竹林の顔が笑んだ。

「この赤地布と黒糸に意味はあまりないが(かたちど)る円と星が重要なんじゃ。そもそも円とは自然環境を意味し自然現象の循環を意味する。この星形も自然を意味しこの形を身に付けることは日本國に於いて魔法使いを意味しとる。まあ国家に属すると言われとる陰陽師は別のマークじゃがな。更にこの星形、上下逆の方向を向いておろう。これは(さかさ)五行印といって」

「分かった分かった」

 宮古が制止した。

「まだまだ、始めたばかり。触りにも届かんぞ」

「長くなりそうだったからな。歴史学者ってのは疑ってたがこれ以上の証明はいらん。残りはそっちで受け持ってくれ」

 スイッチだけ入れてこっちに投げやがって。


 宮古は一発で懲りたようだ。

「まぁ、いい。事件の概要をお聞かせ願えますか」

「ああ」


 宮古警部が簡単にあらましを話した。

 それによれば年末年始の休みが明ければ、伝馬町の観光巡りの問い合わせが始まる。その前に公園やその他史跡の清掃を、と町内会員が集まり、面子(めんつ)の一人が刻限になっても現れなかったため迎えに行ったら家が荒らされて本人が不在、という訳だったそうだ。

 拉致が夜のウチにという根拠は前日の夜半過ぎまで、その流山さん宅で麻雀大会が開催されており翌日の集合には麻雀参加者4人のうち3人がメンバーでいたので残りの2名が証言。玄関の鍵が開いていたから中に入って云々(うんぬん)、と。


「ああ、それと」

 ついでのように喋った巡査と刑事が公園に着くまでに迷った話。

 捜査関係者からは笑い話として広まったようだが、陰陽寮的には問題アリだ。


「人払いかぁ~」

 聞いた瞬間、頭を抱えた芒野。

 そんな芒野の踵を竹林爺さんと岳多が踏む。

 

「な?笑えるだろ」

 そんな醜態を目の前の宮古が見逃したことだけが救いだ。

「確かに。そんなの、巡査で大丈夫か?」

 はっはっは

 逢馬がムリヤリ乗っかって宮古と笑いあう。


「そうじゃ、こいつも聞きたい」

「なんだ?」

「数年前に取材で来たとき、ここの公園の写真を撮って帰ったんじゃが今見ると数が合わんでな。どこぞへ植林か株分でもしたのかと思うてな」

「俺はこの事件の担当だが公園の管理まではやってねえよ。このあとはそっちのチームでも目撃証言の洗い直しをしてもらおうと思ってるんだがな、まぁ違う視点でってヤツだ。公園の管理に関しては、そのときに町内会の方々に聞いてくれ」

「許可は頂けると?」

「ああ、公安の逢馬さん宛で出すから後はそっちで相談の上、やってくれ。それから、おたくらの再調査で分かったことはこっちにも共有してくれよ」

 宮古率いる警察は以外と逢馬たちへ許可してくれる行動可能な範囲が広いようだ。

 さっきまで警戒していたとは思えないほどに。

 或いは。


「もしかして、だが。手詰まりか?」

「当たりだ」

 逢馬の質問に答える宮古の顔が苦い。

「よく分かったな」

「縄張り意識の高い警察の出す許可範囲が。やけに広いと感じましてね」

「あとは、やはり誘拐と、言うことで住民の感じている恐怖が高い。余計なことを喋れば次は、明日にも自分が、家族が誘拐されるのでは、そんな感じで口が重い。非協力的だとかそんなことはないが。将に、こちらが聞いたことだけを返す感じだな。」


お読み頂きありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ