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逢馬ヶ刻〜陰陽師奮闘譚  作者: 静ヶ崎 顯
術師翻弄
17/44


 その日、警視庁の盗難課に一本の電話が入った。

 通報してきたのはお江戸のはずれ町、今や東京で一番のビジネス街となった中央区で、その市役所から朝一番に注進が来たのである。

 三が日も明けた翌日、歴史名所の各地は学校の休暇期間ともあって七日から見学業が解放される。

 早めに見回りに来た地元町内会の老人が盗難の痕跡を見つけて被害届けを出したのだと言う。

 区内の公園が掘り返され土と植木が盗まれたのだそうだ。

 訴えを出された役所と通報を受けた警察は渋々ながら捜査した。

 老人会が世話していた樹木の捜索である。

 一応は区役所の、ひいては国家の所有物であるため探さないという選択肢は無かった。

 しかし、とくに珍しくもない街路樹である。

 特にその公園は夜更けまで人が絶えないため目撃者に困らないはずだった。


「さっさと聞き込んで、樹を運ぶトラックを探して、それで終わりだな」

 担当になった刑事もそう言って公園に向かった。

 大きく育った樹木の盗難である。

 用途も不明だがなんと言っても目立つ。

 移送手段に何を使っていたとしても。

 だが捜査は難航した。

 結果から言えば誰一人として現場に辿り着けなかったのだ。

 先ずは配属されたばかりの巡査が、地図を見ながら自転車で移動した。

 だが公園の入り口に着かず、いつまでも経過報告がないことを不審に思った先達の巡査が連絡してきた。

 ここで先達巡査が登場、新米と連れだって歩いたが辿り着かず。


 そして所轄署から派遣された刑事が到着してしまった。

 合流した刑事から嘲笑を受けながらもスマートフォンのGPS機能を使いつつ移動した。

 だが、見つからない。

 二周、三周してようやく刑事が所属署に応援を呼んだ。

 要請が遅かったことを先輩刑事に叱責されながらも要請に応えた、年始明けで暇をもて余していた別のチームとともに再度公園の捜索に入った。

 一組が車、一組が自転車、二組が徒歩。人海戦術のような構成で散り、赴いたがやはり探しきれなかった。


 仕方なく通報した老人に来てもらうことにした。

 待ちくたびれていた老人たちは行動が早い。

 町内会のメンツは二組で四人。

 早速に散らばっていた警察官の居場所を特定し回収して廻った。

 現場で待機していた四人のうち一人は半年前に引っ越して来たばかりだという。

  

 警察官たちはやっと辿り着くと地元町内会の老人たちとともに現場を見廻り、被害状況を確認した。

 逸失していた樹木は五本。

 特に一際大きくシンボルともなっていた推定樹齢70年ほどの大木が持ち去られていた。

 伐り倒されているのではなく、掘り起こされ根子(ねっこ)ごとである。

 これには警察職責にあった者だけでなく町内会員たちも首を傾げていた。

 材木を欲していたのではないのか?

 だが、ただ材木が欲しいのならば材木問屋やワークショップに行けば済む。

 根本から掘り起こして持ち去る意味は?

 ただただ、面倒な作業のはずだ。

 事が大きくなればなるほど時間を取られ、姿を見られる危険性が増す。

 

 と、ここで無線機に報せが入る。

 発信者は周辺まで来ていた鑑識である。

 どうやら彼らも警察官たちと同様、公園に着けず四苦八苦していたようだ。

 これで安易に迎えに行って戻ってこれなければミイラ取りである。

 手空きで駄弁っていた町内会員に願い、公園まで案内してもらうことにした。 

 数分で御老に連れられ鑑識のチームが現場へ到着する。

 この不可思議な現象に頭を捻りつつも樹木の掘り起こされた時刻を調べる。

 

 町内会の御老方が公園に来たのが朝方、6時半ば。

 昨日は近所に住む流山(ながやま)と云う男性宅で麻雀をしていたとかで御老の一人が参加していた。

 話によれば夜も更け、日付を跨いだ頃に区切りが付いて解散し、各々帰宅した時には十思公園シンボルの大木はまだあったとか。

 鵜呑みにするわけにはいかないが初動の目安にはなる。

 この証言をもとに、派遣された警察官は取り敢えずの目撃証言確保に動いた。

 基本的には昨夜の情報を。特に日付が変わったあとの不審者・騒音についてだ。

 近隣の住宅に赴き、証言を得る。

 だが、結果は芳しくなかった。


 近隣住民の殆どが10時頃に就寝し、そんな遅くまで起きていることなど無いと言われてしまった。

 一晩で樹木五本を持っていく普請はよほど静かに事を進めたのか、音を聞いた住民はいなかった。

 むしろ事件を聞いて憤慨したり、驚愕に顔を歪ませる住民がほとんどだ。

 その頃に起きていた可能性の高い麻雀会場を担った流山さんの自宅を訪ねたが在宅していないのか反応は無かった。


 住人だけではない。

 町内会員からはここの公園に住んでいる者がいると聞いて、そちらにも話を聞きに行った。

 だが、行った巡査が慌てた様子であちらこちらの段ボールハウスを覗き込む。

 隣を覗き、一つ飛ばして覗き、運動場の反対側へ走る。

 そして、ベテラン刑事と鑑識のもとに帰って来て報せた。

 曰く、住人がおらず全ての家がもぬけの殻である、と。


 警察は公園の樹木盗難事件に平行してホームレスの誘拐事件を捜査に加えた。

 物証の乏しい樹木より人間のほうが探しやすい。

 また、両者の消失は同時期である。

 関連がないとは思えない。

 

 その日は一度、住民含め解散し翌日の早朝に再度集まった。

 翌朝、警察はチームを結成し、公園に捜査本部を立ち上げた。

 段ボールの家屋は一晩で撤去され掃除された広場の中央に建てられた白いマーキーテントに捜査員は案内された。

 近くには丈の高い現代風の東屋がある。

 お江戸の時代からある鐘が今も安置される場所だ。

 地元町内会のボランティア達も後に続き情報共有の場となった。


 そこで改めて今回の事件の概要が説明された。

 1月4日の早朝、町内会の見廻りで公園に集合したところ、メンバーの一人である流山がいつまで経っても来ない。苦情ついでに(はや)しながら起こしに行くと家には鍵がかかっておらず、争った跡まであった。

 よって、警察に通報。

 その後の調べで、さらに近隣住民二名の行方が分からなくなったことが判明した。とある。


 現段階で行方不明なのは三人。

 何れもこの地区に江戸末期以来住まう住人で独り身。

・名護英也八十二歳、男性 なご えいや

・有海ヒデ 九十五歳、女性 ありみ ひで

・流山恵 六十八歳、男性 ながやま めぐむ

 と、公表された。


 ◆◆


 だれも不審に思わなかった。

 いなくなったのはホームレスだったということを。

 ましてや、そもそもの発端は公園の樹木が盗まれたのだということを。

 

 最初の通報から幾日かが、経った。


お正月編、実は続く。


お読み頂きありがとうございます。

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