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逢馬ヶ刻〜陰陽師奮闘譚  作者: 静ヶ崎 顯
術師翻弄
16/44

正月騒動始末

後始末会。

結果とか、報告とか諸々。

 新年明けて早々。

 陰陽寮は深刻な事態に陥っていた。


 言わずと知れた元旦の目玉騒ぎである。陰陽術や妖怪たちが所属する一般的に裏と呼ばれる世界は科学を中心とする表世界に存在を知られぬようにしていた。

 それを揺るがす大問題である。

 

 逢馬を含む陰陽寮に属する術師たちが派遣されるに至った発端たるお化け騒ぎ。

 日本全国に除夜の鐘が鳴り響き、新年を祝う声の中、東京を象徴する赤いタワーの頭上に蒼い焔の大文字が浮かんだのだ。

 東京に本社を置くメディア局はこぞって中継を流し、日本の新年に於けるお祭りが高名となってからは海外の放送局も足を運んでいた。

 全世界に放送される蒼焔の大文字は一見してタネも仕掛けも無く、それでいて明らかに人為的なものである。

 当初、メディアを通して見ていた民衆はこの摩訶不思議な現象に沸き立った。

 しかし、それが恐怖に変わるまで幾ばくの猶予もかからなかった。

 蒼焔で象られた大文字の中央に単眼が開いたのである。

 外国放送局への対策も間に合わず、怪現象を全世界に放映させてしまった。

 現場に派遣された局員たちは現場の民衆とともに単眼へ目が釘付けとなって映像を止めず、返答もしない特派員を気味悪がった各放送局が本営で回線を打ち切るなど中断行為を行使した。

 中継を継続して配信した局にはこの「タチの悪い演出」に対する苦情が相次ぎ、現場で目視していた民衆は恐怖したが失神は許されず直視することを強要させられ続けた。


 日本の陰陽術を中心とした世界中の魔法世界を危機に陥れる、極めて危険な行為。

 それを事前に察知出来ていなかったのだ。

 陰陽寮に世界警察の役目はないが日本國の東京というお膝元である。

 面子にドロを塗られた陰陽寮では瞬く間に強襲部隊が組まれたが、既に後手となった陰陽寮に対し敵術者の迎撃は厳しいものになった。


 結果として強襲部隊は半壊する。

 先ず毒に侵され動けなくなった橋賢は入院した。

 名田に因って(やまい)か寄生虫を警戒されていたが検査結果は『判らず』である。しかし、何らかの要因でもって体内の血管や主要臓器が内部から傷つくという奇病に罹患した。

 属性行の達人たちが集中して調べたが(いず)れの属性も相克と成らず、また虫下しや血液検査でも反応は出なかった。為に身体中の血管や臓器を機械に依存し時属性(ときぞくせい)を使った肉体維持と空属性(くうぞくせい)で人工臓器や透析、心肺活動を同時に行い延命を図ることとなった。


 名田は彫像となり破砕されたあと芒野と逢馬が中心となって残骸たる砂粒を拾った。

 彼は遺骨も残らず金行の粒粉と化され、集まった粉の大部分が白い壺に入れられて遺族に渡された。元陰陽師であった彼の祖父と両親は既に他界していたが妻帯していたことから彼の妻が喪主を勤めた。

 息子は幼かったが父親の死と国に殉じる意義を理解していた。

 彼の遺灰の一部が陰陽寮に保管された。人体を巌とする若しくは金属に変える術式は古今東西、諸外国や野生の生物ですら行使する属性行である。特にコカトリスやゴーゴンの石化が有名であろう。しかし一度、石化したものが別の属性に支配されるには、仮初めの身体をもとの姿に戻したあとの再行使が必要とされており、既に全身を巌としていた名田がそのまま金属に変化させられたことは歴史に類を見ず対策が必要であると断じられたためである。

 加えて当時彼の身体内部には野槌が憑依していた。かの生物は土属性の精霊であり当の身体が岩で形成されている。生身の名田はともかく、この野槌を別属性で上書きするためには精霊以上に五行属性に精通する必要があった。


 鯨間綴はそもそも体中に傷を負っており無事な場所を探す方が難しい状態だったが、今回の件でそれが上書きされるほどの大火傷を全身に受けた。加えて武者が投げた金の五行属性を帯びた小札(こざね)がそれに追い討ちをかけた。右腕と両足が肘膝(ひじひざ)を越えて二の腕や(もも)の半ばまで金属に変質させられ、挙げ句には留めの印で固定化までされた。こうなれば一人で自在に体を動かすことは困難となり、退職を余儀なくされた。金属化された部位は切断し、代替として義肢をつけることとなった。この義肢は自我がなく従順な魂、若しくは記憶のない清廉な霊を憑依させることで、電子機器などを介せずとも滑らかな駆動と本人の術式行使を可能にする。これはここ20年ほどで確立された手術の手法で優秀な外科医師と霊魂の扱いに長けた術師が必要である。両者が揃っても非常に危険な手術であることには変わり無く。義肢の装着にあたってはせめてもの融和策として彼の腕が変質した金属を鍛えて着けることになった。


 徹は綴の送還に際し雷の属性行を、その余波を受けて胸元にわずかな火傷を負った。それ以外は特に傷もなかったが親父の処置と手術の手配で一時的に休職した。親父の義肢が馴染み自宅で動けるようになったら帰ってくるだろう。


 芒野はすこし寝込んだ。自分の手元と升丹が開けた術式の放出陣を繋げた空の属性行は強い集中と精神の負担を強いる。使用した得物の手鉾は物質的に存在するものであったのでそこまでの負担はなかったようだが、回復には数日の自宅療養が必要だった。

 升丹の消耗は著しく、武者の土人形が崩れるとともに彼も武者姿を保てなくなった。存在の消失とまではいかなかったものの、すぐさま鎧姿を解き元の翠の骸骨に戻っていた。升丹の(あるじ)である式気直也門長によれば復活には3(みつき)から半年を要するようだ。


 術者の式気門長も無傷とはいかなかった。式神のメリットであるはずの術者の負担軽減は升丹が七星封印の攻勢式で傷つけられ、稼働時間を大幅に超過したせいでほぼ無いに等しくなった。それどころか升丹の復活まで他の式神使役の術を行使できなくなったのだ。が、寝てる暇はないとのことで本部で書類整理である。

 書類内容は、主に出来(しゅったい)時は不問とされた今回の敵勢力についての調査関連の報告書である。 

 緊急本部を設立した四季門長も無傷ではない。

 敵武者が内部で黒縄の術式を使ったことの余波を受け術を行使する気管の損傷があり、芒野と同じく自宅療養となった。

 出動した二組の実働メンバーのうち、生存および負傷の度合いが薄かった逢馬(おうま)岳多(たけだ)、道野は4日までの特別休養となった


 三が日の陰陽寮は大騒ぎだった。

 なにしろ、数年ぶりの戦死者である。

 しかも、鯨間綴をはじめとした橋賢、名田の三人は勤続十五年以上のベテランである。

 屋島でおきた平家の怨霊にも屈しなかった戦闘巧者でもある。

 環境や常識が一般とは言えぬだけに簡単に補充とはならないことが門長たちの悩みのタネであった。

 

 普段、四季丈児門長が率いている陰陽寮調査部隊がタワーでの戦闘跡へ派遣された。内部の遺留物や敵術者の痕跡を探し、力量を見極めるためである。

 在野の術者で歴史ある一族や妖怪、天狗たちの動向は把握している。特に強力な存在には直接願って、または密かに監視も行っている。「黒縄」の術式を使えるものなどは表からも裏からも見張りをつけ、一挙手一投足も見逃さない。

 現に監視員からは怪しい行動は無かったと報告が挙がった。

 監視している存在とは友好関係にあったり、敵対関係にあったり、状況によって味方になる敵になるなど思惑行動はさまざまだ。しかし、今回の敵対陣営が既存の団体でないことは明らか。となれば我らの知り得ぬ一族や術式の遣い方をしている可能性も考えられる。

 この職業で一番恐れられていること、それは敵勢力に対する情報が無いときだ。

 黒縄は生き物の持つ本能に直接、恐怖を与える類いの術式。

 この件に関しては警戒を強めて、しすぎるということは無い。

  

 現場では術者の出した土杭や橋賢が掛かった罠を検分した。こちらはあまり新たな情報はない。通常の、陰陽寮が罠を使うとするならば同様のことをするだろう、それくらい何もなかった。せいぜいがやけに丁寧な仕事であったことくらい。敵でなければ陰陽寮で講義をさせたいくらいだ。

 名田の、だったものも検査したが術式を発生させたものが、その後武者となり黒縄で焼けて消えたため罠師の情報は得られなかった。

 コントロールルームに設置してあったAPSについても精査した。しかしながら制式採用している何れの軍隊ともデザイン・機能が合わなかったため、生産やバックの特定は諦めざるを得なかった。

 

 以上、武者の陣営が執拗なまでに証拠を抹消していた。

 そのため生存者は休暇が明け次第、視力部隊による過去視検査を受けることになった。


 が、原因が分かり陰陽寮はある種、安心していた。

 妖怪や精霊たちによる人族への攻勢ではなかった。

 陰陽寮は焦っては居なかった。

 一応の鎮圧は成った。敵勢陣が次にどう動くか気になるものの、あれだけ大掛かりな顕現術式である。武者が結界内で出現したが、それにも多大な労力と媒体を使用している。しかも痕跡を抹消するために黒縄を使って使い捨てた。

 暫しの休息時間はあるだろう。

 だが誰もが気づかぬ間に異変は起きていた


 もう一つの表沙汰に出来ぬ問題が年始明けの陰陽寮を襲う。


〆てますが、まだ続きます。


お読み頂きありがとうございます。

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