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逢馬ヶ刻〜陰陽師奮闘譚  作者: 静ヶ崎 顯
術師翻弄
14/44

13


「お、帰ってきたな」

 

 誰かが向こうからドタドタと足音を気にせず走ってくる。

 緩いカーブの向こうに人影が見える。

 逢馬である。


「おおい、どうだったぁ」


 翠の人魂に形態を戻した升丹が声を上げて聞いた。

 逢馬が怒鳴り返す。


「それ、ちゃんと縛ってあんのか!」

「わたしが縛印つけたわよ!」


 怒鳴り返したのは岳多である。


 二番組と升丹の溜まり場まで走ってきた逢馬が表情を少し和らげる。


「悪ぃ、ちと当たっちまった」

「悪くないわよ。生き残りが逢馬さんだけじゃ気が沈んで当然。」


 岳多が慰める。


「親父は死んでねェぞ」


 逢馬が反応する。


「そうか、良かった」

「だが大事(おおごと)にはなってなくても、小札が(あた)って重傷らしいぞ」


 逢馬が升丹を見る。


「名田の金術と同じらしい。属性行(ぞくせいぎょう)が虚の一枚目は道野が払ったってよ」

「そうか」


 逢馬の声がまた沈む。


 パァン

 両手を叩いた升丹が話題を切り替える。


「さて、逢馬の方はどうだった」

「なにが?」

「コントロールルームだよ、術者はどうした?」


 と、言って首を傾げる。


「ん?そういや何で手ぶらなんだ」

「ああ、武者が縛ってあったから安心しちまった」


 逢馬が武者を見据える。


「無人だった。間にはさんざ、罠あったがな」

「即死級だよな、どれが?」


 逢馬は升丹が為した前問に頷き、


「最後二ヶ所だがえげつねえヤツだ、それにバックが読みきれん」

「ん?」

「片方は敵勢自我を持つものに反応する。施術者に対して害意を持ったヤツが扉を開けると魅了されるヤツだ。さっき橋賢が扉の罠に引っ掛かったからな、今度は蝶番か鍵穴だと思ったよ。もう一個は術じゃねェAPSだ、しかも改良型」

「APS?」


疑問の声を挙げたのは芒野である。


「芒野はもうちょい現代の軍備を勉強しろよ、会議室に世界軍拡年鑑あるだろ」

「おい、逢馬お叱りはあとにせぇ。今言え、改良されてると思った根拠もだ」

「アクティブ・プロテクション・システムだ、略してAPS。探知範囲内に何らかの動きがあれば弾かロケットが飛んで来て破壊する、箱モノ用の装備だ」

「箱モノ?」


今度は道野だ。


「・・・航空機とか戦車とかの乗り物のことだ。で、改良されてると思った根拠だよな。発射されたものが高圧電流だった。そういう迎撃システムは精密機器だ。防水にも限度があるし湿度の高いところで発射すると味方への誤射や自システムの基盤なんかにも影響出る可能性が高い。搭載されてる機械自体も精密機械の可能性が高いからリスクはさらに上がる。あとはアメリカ・ロシア・イスラエルのAPSは写真で見たことあるがデザインがどれにも似てねェってのもある」


 根拠を聞いた升丹も腕を組む。


「最新の年鑑は俺も見たが。そうだよなあ、ほかの奴等とも話したが飛翔体の変更は中々手ェ出ないよな。携帯の防水防塵だってそこそこだしな」

「そういえば升丹さんや愛果は?ここまででなんか気になったことある?」


 愛果が先ず升丹を見る。


「逢馬は何となく分かってると思うがあの武者だな。あやつは俺ら二人で攻めきれなかった相手だ。それを二番組の到着まで抑えられたことがそもそも怪しい」

「だな」

「抑えられたというか、積極性がなかった。コントロールルームの扉は破ったんだよな?」


 逢馬が頷く。


「大きな破砕音がここまで聞こえたよ。それまでは何とか抑えられてそろそろ俺がやられるかって時に急に下がった。こっちも渡りに舟ではあったがあっちも時間稼ぎが目的だったのだろう」


升丹は渋い声で腕を組む。

声だけで容易に苦い顔が彷彿させる。


「愛果は?」

「あまりないけど。そうね、」


 愛果の目線が武者に向く。


「ちょっと聞きたいんだけど、あれは式神?それとも寄り代?」

「「寄り代だ」」


 逢馬と升丹が唱和する。


「しかも使い終わった罠から出たのよね。だとしたら結構前からここに潜んでいたんじゃない?それこそ40時間くらい」


でないと召喚妨害式を越えられないわと愛果が締めた。


「しかも封印式の内部では効率が格段に下がる。旧時代の独学術師でもなければ指一本うごかせぬよ。最近の独学術師やネット術師とちがってな」

「なに言ってるのですか、最近はネット術師もバカにできないですよ」

「そうですよ。数年前の屋島、アレ発端は耳なし芳一を調べあげたオカルト板の住民ですよ」

「むぅ」

「ところで、」


 升丹が芒野と徹に言われて閉口するのを横目に道野が提言した


「そろそろ移動しませんか。綴さんや橋賢さんも回収しないと」

「そうだな、俺らで考えても仕方ない、機器の残骸は他の部屋で保管してある。あとは視力部隊に任すか」


 そう言って逢馬が伸びをする。


 道野がおずおずと会う逢馬に目線を合わせた。


「、、あの~」

「ん?」

「名田さんは」

「ああ」


 逢馬が嘆息して上げていた気勢をさげる。


「肉体やら血液、髪なんかが残ってりゃ回収するが、、、。全部、磁鉄鉱の欠片になっちまった。回収するか?」

「ご遺族が陰陽寮にご理解あるなら。それでも嬉しい、というか踏ん切りつくかと」

「そうだな。名田家は爺さんが陰陽寮所属だったハズだ。もう逝去されてるがご両親がいる。そうか、あの野槌も同胞が居たな。半分ずつ渡すか」


 やり取りを聞いていた升丹が


「バックの話と術者の腕やら学舎(まなびや)やらは俺も我が使役者どのにも言っとくわ」


 升丹が応じ、


「升丹さん、持続時間は?なんか今日長くない?」

「そうだな、かなり超過してるが前借りだ。次応じれるのは3ヶ月後だ。その代わり今日は報告まで付き合うよ」 

「じゃ、道野と徹でソレ引きずってって。芒野は封印の残り時間、確認しながら護送車まで撤退するわよ」


 愛果が二番組に指示を出す。


「せーの!」


 鯨間徹と道野祥が武者に縄掛けて引っ張る。

 


 ぐぅウ!ゥウウぅゥゥ!


 二人の後ろから 

 痛みを堪える声がした



この事件はあと1話。

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