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逢馬ヶ刻〜陰陽師奮闘譚  作者: 静ヶ崎 顯
術師翻弄
13/44

12

コロナ終息かな?

皆さまは如何お過ごしでしたか?


 体の流れに合わせた太刀が籠手に軽く流される。

 戦闘は悪党武者に有利なまま引き伸ばされた。

 悪党武者は絶対に太刀の間合いまで入らず、しかし争う場所に拘りがあるのか押し込めば接近戦の距離まで近づいて来る。

 だが升丹が引き下がれば武者は追いかけてこない。

 升丹の後ろにはコントロールルームに接続する廊下があり、この先に向かいたい武者とここに留めておきたい升丹はつい先ほどまで相争っていた。


 武者の態度が変わったのは少し前にタワー最上階に響き渡った破砕音からだった。

 それまでは積極的に刃を交えていた二人だが、その音の辺りから武者の行動に積極性が失われた。

 それは技術的に劣る升丹にとっては良くない傾向だった。 


「明らかに時間稼ぎだ。といっても俺じゃあ攻めきれねェな」


 せめてもう一人居れば。

 升丹の耳元で音がする。


「・・・。」


 升丹が大きく飛びすさり、太刀を下段に構える。

 悪党武者は追いもしない。


(そのまま来るなよ)


 祈る気持ちで左手を顔の前に置いて得物を変える。

 大柄な角手が消え、代わりに籠手先が尖り指の様な(てい)を成す。

 星型に一筆を描いた。

 宙に残る印、その五つの頂点に指を置いて五芒星を移動させる。

 自らの胴丸、その真っ正面に翠の(しるし)が写る。

 仕上げに囁く。


空行(くうぎょう)・接続」


 星型印の外縁に丸く線が増えた。

 円の中が黒く染まる。

 升丹が前進した。

 下段に置いた太刀を切り上げる。

 左手には捨て札が二枚。


「食らえ、水土ォ!」


 胴丸の穴から太い水流が眼前の武者を襲った。

 升丹は体を捻って水流を横一文字に払った。

 武者が一瞬で片足を下げ水流をやり過ごす。

 その間に升丹も前に出た。


「炎術だ!燃え尽きろ!」


 水流が切れ、即座に(ほむら)が吹き出す。

 焔の色は蒼。


 その焔を武者は真っ正面から受けた。

 避ける気配もない。

 独鈷の刃が升丹に迫り、突き刺さる。


「グゥッ!くそ!テメェ七星攻勢印か!コレぇ」


 苦しみ、倒れそうな升丹。

 が、そのまま無手の左手で独鈷杵を握る。

 武者の背後から走り寄ってきた者が二人。


「愛果、徹!掌に爪ありだ握られんな!」


 ようやく到着した二番組である。

 言われた岳多愛果は放った拳が空振りすると直ぐに戻して逆足で突いて牽制した。

 一瞬の膠着を逃さず徹が追撃する。

 腰反りの小太刀をわずかに下げ、右腰に溜めて体を捨て突き込む。

 右手は順手に逆手(ぎゃくて)逆手(さかて)に持って右腰に固定した。

 小太刀は独鈷にからめ取られるが鯨間徹は自分の右手を離して武者の肩ごと右手を抱え込む。

 後ろからは升丹が迫り、羽交い締めにする。


「芒野ォ!やれェ!」

 

 ドプッ!


 鈍い水音がして武者の腹から諸刃の刃が飛び出す。


「そのまま保持!」


 愛果に言われて、引き続き関節を固める升丹と徹。

 キリスト教の祈りにも似る両手を握り合わせた手印。

 そのまま兜の鍬元、徹の固める肩、腰を素早く叩く。


外縛(げばく)三才(さんざ)封印』


 すると、それまで徹と升丹を振り払おうとしていた武者の動きが止まった。

 力が抜け、膝を突いて糸が切れた操り人形にも見える。


「もういいわよ。これであとは逢馬と名田を待って芒野か道野に拘束具をとりに帰って貰いましょ」


 岳多の言に升丹の動きが止まる。

 動きが鈍くなった升丹に二番組は一様に怪訝な顔を見せた。


「どうしたの?」


 二番組を代表して岳多が升丹に尋ねる。


「綴を送ったよな。こっちの状況聞いてねェのか」

「鯨間さん?送還されてきたけど」


 そこまで言って岳多の眉間に皺が寄る。


「そう!それも聞こうと思ったのよ」

「つか、親父の送還で俺にまで紫電を流すのは勘弁してくださいよ。痺れるのは百歩譲って理解できます、親父がぶっ倒れてますから(いかづち)を制御できなかったんスよね。あのクソ過保護天狗の羽根式だからそれは分かりますけど、あの!小札は何なんスか痺れて動けなくなってる俺に追撃とか道野が弾いてくれなきゃヤバかったんすよしかも二枚!」


 よほど危なかったのか徹の口調が荒い。早い。

 しかし。


「送ったのは逢馬で俺は遠かった。二枚も行ったか?俺には一枚しか見えなんだぞ」

(うつろ)の属性式です。二枚目が鯨間綴さんに」


 返したのは廊下の奥から来た芒野だ。


「ああ、お疲れ。さっきは助かった。俺も妨害しないように気を付けたが、よく繋げられたな」


 芒野に応じた升丹が再び徹に水を向ける。


「話が逸れた。綴の容態は」

「あの武者見る限り送ってくれて良かったっスね。火傷はなんとかしましたよ。ただ小札が。」

「金術か?」

「よく分かりましたね。ああ、橋賢さんの罠が、」

「あっちは土術罠だったろ、武者の前はここで罠と戦ってた。ここのやつらは土金術が達者のようだ。で?綴は生きてるのか」

「ギリっスね。肺近くに刺さって近辺の筋肉、神経、血管が鉄になっちまいました。で筋肉は一旦ほっといて、神経と血管を取り敢えず迂回して影響が薄いように作り替えました」

「良かった。だが此方も報告がある。極めて善くない報せだ」


 一度声を和らげた升丹が厳しさを乗せて二番組に告げる。


「さっき、岳多から尋ねられた件だ。ここに居ない名田と逢馬だがな」


 面頬と骸骨面で表情のない升丹だが声からして深刻そうだった。

 二番組も察して静まる。


「逢馬はこの先に術者がいると考えて武者をすり抜けた。俺が殿(しんがり)だった」


 升丹が言葉に詰まる。

 どう話すか、迷うが陰陽寮は危険と隣り合わせ。

 端的に伝えることにした。


「名田は死んだ。金術で憑依していた野槌諸とも(かね)の彫像にされた」


 二番組の面々は眼を瞠き口も僅かに開いたが声がでない。

「その場には雷雲の攻勢術式もあって、。そのまま併せ業で砂にされた」

「名田さんが殉職、、、?」


 名田は陰陽寮の現場で前線を預かって廿余(にじゅうよ)年のベテランだった。

 ちょっと目を離した程度の時間で殺されるような者ではない。


「だが死んだ。岳多、名田は魂固(たまがた)めを?」

「しています。昨年春の花鎮祭は大変でしたから。その折りに更新を」

「ならばひと安心だな」

「では、逢馬組長は」


 岳多と升丹の会話に芒野が入ってきた。

 升丹が手を挙げて静止する。


「名田が死んだのと綴が火傷したのが同時期でな、我らでは綴の面倒が見られんということで其方に送った。橋賢と同じだな。で、準備してるとこにあの武者が来てそのまま戦闘突入だ。其の後に逢馬が先へ行ったからそろそろ帰って来る頃ではないかな」

 

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