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逢馬ヶ刻〜陰陽師奮闘譚  作者: 静ヶ崎 顯
術師翻弄
12/44

11

亀の歩みですが。



「くそぉっ」


 ガキンと音を立てて短剣が折れた。

 逢馬が左手に持つ蕨手刀である。


「文坊、下げろ」


 言われて逢馬は頭を下げる。


 ブオォン


 と振られた長刀(なぎなた)が遠心力と質量で以て鎧武者を襲う。

 が、頭を仰け反らせながら逢馬の腰を踏み、蹴りながら自身の身を下げた。


「あたらんっ」


 鯨間綴を送って僅か数分の間に数十合と三人は刃を合わせた。

 生身の逢馬は、あわやともなる場面が数回あったことに対し鎧武者は何とも危なげがない。


「升丹さん」


 逢馬たち二人は武者の奥に位置するコントロールルームに術者がいると確信していた。

 既に、この塔は第二組が封印式で包囲している。

 如何なる術式や属性(ぞくせい)(ぎょう)の行使も結界を越えては発動しない。

 故に武者を操る本人は塔の中に居て、この人形を操っているのだ。


「一瞬でいい、ヤツを抑えてください」


 小声で囁き半ばから折れた短剣を投げ、右脇構えで刀を突き込んだ。

 武者は驚きもせずに短刀を右籠手の甲で弾き、突き込まれた刀の(みね)を独鈷杵で押さえ込む。

 そのまま右の(てのひら)を開いて掌底(しょうてい)を放つ。

 が、届く前に体ごと引いた。

 逃げた武者の下から翠の長刀が上へスライドする。


「引っかけが効かんなぁ」


 動かした長刀の手応えで、またしても逃げられた升丹がボヤく。


 長刀の動きと升丹の影で逢馬が奥へ滑り込んだ。

 逢馬を阻止しようと下がり目線を外した武者に升丹が体で当て身をおくる。


「お前はダメだ」


 さすがに当たり、弾かれた武者が脇にずれ升丹が逢馬を数メートル追従する。

 升丹の右手にあった長刀が刃をそのままに太刀へ変化する。

 左手には斧の刃に似た切断武具が発現した。

 左の大袖を駆使できるように曲げた左腕を前に構え仁王立ちを見せた。

 つい数瞬の前までとは立ち位置が完全に入れ替わる。


「付き合ってもらうぞ」 


 言われた武者もほんの少し武装を換えた。

 つるりとした光沢の臑当。桃型のとんがりが照明を乱反射し僅かに(なみ)がみえる。丸みを帯びた膨らみには乱雑に菱形の出縁(フリンジ)が付いた。

 武者は相変わらず無口だが、その行動こそ多弁である。

 二度の連続回し蹴りは、ヒュボッボッ!と物騒な音を立てる。当たるであろう場所も(すね)当の尖先と腹の二回。たった今変化させた得物の使い勝手を試す様相である。

 そして二度蹴る打撃兵法は、まして蹴りなど古来の武術には見られぬもの。

 と、いうより、、


「、、、。まだ本気じゃなかったってぇことかい、、?」


 升丹の受難は尽きない。


 変わって升丹の元を離れた逢馬は奥へとひた走る。

 奥へ、術力(じゅつりょく)の痕跡を辿って。走り。

 奥へ、術者と、その操り人形である武者のパスを探って。歩く。


 この奥に待機している術者を警戒し、罠に気を付けて気配を薄く、生気を儚くする術式を使った。 

 

陰陽寮支給のロックピック一式を手に扉の前に立った。

 廊下の先、[関係者以外立入禁止]と書かれた扉だ。

 逢馬は右手を握り人差し指を立て肩を下げつつ深呼吸をした。


「集中を 『(ただ)し、(あらわ)れよ』」


 続いて中指を立て人差し指にくっつけ刀印を(かたちど)り口許に近づける。


『我に害する 邪なるものよ、(なんじ)を破り平定する』

『破邪顕正』


 鍵穴から黒いタールのようなモノが滴り落ちた。


「やっぱ罠付きか」


 戸を開き従業員区域に移動した逢馬。


「ここか」


 突き当たりにはドアがあり。

 扉の上部に金属製のパネルが付いていた。

 [コントロールルーム]とある。


 そして、その蝶番の上にはまたもや鍵穴があった。


「もう一回か?」


 逢馬は深呼吸で気持ちを落ち着かせる。

 手を組む前に二度目の深呼吸をして、ゆっくりと、吐く。

 焦る気持ちと熱くなった気持ちごと吐き出す。

 一気に(まじな)(ごと)を唱えた。


(ただ)し、(あらわ)れよ。我を害する 邪なるものよ、(なんじ)を破り平定する』

 

 何も起きなかった。


「ん?なぜだ」


 敵勢術者が籠る最後の砦。

 何も罠がないことはあるまい。

 解せぬ。


 細長いマガジンケースを開けて和本綴じ込みの帳面を取り出す。

 後ろから捲り四枚目にオタマジャクシの形に切り取られた和紙が出てきた。

 二枚破り、腰ケースから筆ペンを取りだす。

 表には薄墨で何やら書かれているがその上に六芒星を描く。

 中央が交わった式神を顕現させる紋様である。

 中央に小石を置き、結びを唱える。


『顕現せよ』


 オタマジャクシ型の和紙が燃え、黒く鈍い光沢の腕が出現した。

 逢馬の腕より細く出現地点は靄がかかって見えない。

 その腕に水筒の中身を注ぐ。

 中には先ほど精製した水が入っている。

 橋賢を治療したときの余りだ。


『我が意に添いし、黒腕よ。水の衣を纏い、鎧となせ』


 途端、腕の表面を水が流れ纏わり落ちずに絡み付く。


『我が意に添いし、黒腕よ。時来たりて、我ら拒みし戸を破れ』


 指示を出せば式神の黒腕が羽のように軽くなった。

 そのままに(ちゅう)へ投げ出せば、そこで浮遊し停滞した。


 式神を放って逢馬が薄暗い廊下をいくらか下がる。

 右手を軽く振った。

 と、黒腕が進み握り込んで掌を上に向けた拳が捩られ扉に中る。

 空手の正拳突き、その教本のようである。

 

 ズガァン!

 

 凄まじい音を響かせ、鋼鉄の扉が歪む。

 いくらかは傷が入り風の流れる音がわずかに聞こえる。

 と、黒腕が蒼く光る。


 ピリピリ 

 パリパリ

 小さく弾ける音がした。

 

 バリバリッ!ドゴオォン!

 屋内で(いかづち)が生まれる。 

 ほの蒼い光だ。 


「術力に()らない?小道具か!」


 黒腕はヒビが有るものの未だ健在。

 逢馬が再度、手を振った。

 軽く掌で何かを(はた)く動きで。

 前後に。


 黒腕が再び正拳突きを繰り出す。

 ズガァン!

 ドゴォン!


 捩れた扉に穴が空く。

 黒腕は握った拳を貫手(ぬきて)に変え穴をゴリゴリ削る。

 手首が通り、二の腕が通って黒腕の全体が扉の向こうへ消えた。

 ここまでしても術者からの攻勢は、その気配がない。

 

「嫌な予感がする」


 ここまで致死性の罠が多かった。

 だが肝心の、砦の防衛線たる扉からは音沙汰がない。

 とりあえず応答が無い以上、逢馬が室内に入ることは決定事項だ。


 逢馬は刀印を握り


『我らに向く害意、その(ことごと)くを打ち砕け』 

 逢馬の意を汲んだ黒腕が捻くれ圧縮していく。

 その姿が握りこぶし二つ分ほどになると一時(いちどき)に放ち周りを穿った。

 

 バン!ババン!バン!

 黒腕を構成していた石塊(いしくれ)が、まだらに扉に当たって音がなる。

 音が鳴るにつれ鉄の扉が凸型にボコボコ生み出され。

 遂には亀裂も出でてきた。

 だが、音は未だ止まない。

 逢馬が無言で横にズレ、その数秒の(のち)にバリン!と音立てて扉が破れた。

 人が一人、悠に通れそうな破れ目から逢馬が中を覗き、


『火行・灯火』


 刀印の先にオレンジ色のきれいな炎を浮かべて足を踏み入れた。

 中を見渡した逢馬が、ついと呟く。


「こりゃあ、、。」


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