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コロナ禍で皆さん如何お過ごしですか?
体が一番大事です。
私は会社が休みに…なりませんでした。
時間は少し巻き戻り、話題の二番組はエレベーターの天井から梯子を使って上へ上へと登っていた。
「ったく」
ぶつくさ悪態を吐くのは鯨間徹。
「なんでエレベータ―の主電源だけ落ちたんだよ、」
途端に上から頭に軽い衝撃が加わる。
「痛ぇな、おい!先輩の頭、足蹴にしていいと思ってんのか」
「だって隊長から許可とりましたもん」
先をいく道野が登るのを瞬間止めて上がってくる徹の頭頂部を靴の底でお迎えした形だ。
「って、隊長、俺の下じゃねえか!どうやって許可とるんだ!おい!聞こえてんのか」
「喧しい!黙って登れ!」
徹の下から怒声が響く。
「ここは不安定なんだぞ!喧嘩はちゃんとした廊下でやれ!」
暫しの後、天辺まで登った面々がエレベーター前の踊り場で小休止を取った。
戦闘要員の道野が使用装備を整える間に岳多は芒野に術式を展開させた。
鯨間は道野の警護である。
「芒野、一組はどれくらい前に此処へ?」
「エレベータ―で時間を獲られましたね。結構前です。このあとは非常階段で上に行ったみたいですね、さっき升丹さんがそう言ってたのが聞こえました」
「そう、みんな無事だった?」
「そうですね。名田さんは土行で堅めてましたし、橋賢さんも水行を、綴さんも電気を薄く体に纏って臨戦体勢にあったみたいですね」
「けっこうヤバそうね。道野、徹も堅護術式は纏ってる?」
芒野と岳多が今後の方針を固め、残りの二人にも水を向ける。
「はい!血中成分を水晶多目にしました!これで毒や雷撃に耐えられます!」
「俺も風を纏いました。これで大体の物質攻勢は留めることができます」
芒野の防弾チョッキは黒く靄のようなモノが纏わりついている。
岳多は特に変化が見られないが自信は在るようでその気勢は揺るぎもしない。
再び鋒矢陣で進む二番組は非常階段の扉の前に着いた。
先頭の芒野が岳多に目で合図し、それに応えて頷く岳多。
扉を開けた芒野が足下の影に驚き左の手甲鉤を振り、はたきこむ。
と、鉤の先が突き刺さる直前で思い止まった。
勿論、うずくまる人影の顔を見たが所以である。
「橋賢さん!」
後に続く二番組の面々が驚愕する。
まさか、こんな序盤でベテラン揃いの一番組が一人脱落して居ようとは。
僅かに慌てた芒野が後続を呼ぶ。
「道野、橋賢さんを廊下に戻して」
「触るな!」
道野ではなく熱に浮かされていた橋賢が力無い声で警告する。
「ドアが、罠だ」
芒野がとっさに飛びすさる。
橋賢と芒野を階段に残して扉が閉まった。
「橋賢さん、ドアノブは触って大丈夫ですか」
「ああ、扉の鋼板自体に罠が張ってある。、、名田、が一応調べて残、、は無いと判、断しとった。が絶対と、は言い切れん、、。」
芒野が橋賢の忠告に従い蝶番だけに触れて開けた。
普段、ドア本体を支えながら開閉する習慣はないが改めて言われると、なぜか緊張する。
ドアを開けると向こう側では残りの三人が警戒しながら待ち受けていた。
組長の岳多が出迎えた。
「芒野、触って良かったの?」
「ええ、蝶番だけなら害は無いそうです」
「橋賢さんを。受けとるわ」
岳多が橋賢に肩を貸して廊下に連れ出す。
座らせた橋賢の背中を通路の壁に寄りかからせる。
橋賢の前に鯨間がしゃがみこんだ。
「橋賢さん。幻術で痛みと熱っぽさを一旦忘れてもらいます。ちょっと血を貰いますよ」
「血は、入れ換えたばかりだ。未だ、定、着してないやも、しれん。組長と名田の行、で鉄分の多い、水に、換えた故な」
橋賢は息も絶え絶えになりながら、そう返した。
「身体は、、触っとらん。肉体、を、使ぇ」
橋賢の言に従い鯨間は腰のポーチからステンレスの棒を取り出した。
手の中指程の長さ太さの代物である。
鯨間が両端を持って相反する方向に捩った。
すると片方が外れ、爪ほどの長さの小さくも鋭い刃先が出てきた。
電灯の光を鈍く反射する刃金には杢目が浮かんで見える。
「じゃ肉をもらいますよ、橋賢サン」
言うなり手袋を外した指の先を爪で強めにつねる。
爪の先ほどに固くなった皮膚を血が出ないように切り取った。
鯨間は先程、使っていた試験管をポーチから出した。
コルク栓が鉛で固定されている。
ポーチからはアルミの平皿とインクカートリッジのついていない筆ペンを取り出す。
片手で鉛を外し、コルク栓を抜いて朱いの染料を平皿に移した。
鯨間が染料を小指の先につけて舐めた。
味を確かめると、これまたポーチから出した布に吐き出す。
「使えてよかった。鮮度ギリギリだな」
わずかに呟き。
筆に染料を含ませ布の比較的きれいな面に三角の形を描いた。
「これ、鉛。回収しといて」
徹が誰かに問わず呟き。
道野が拾った。
『三才縛印・触熱』
染料が黄色に光り、そのまま定着した。
鯨間が布を細く裂き、橋賢の身体に巻き付ける。
「どうでしょ、橋賢サン。ツラいのは落ち着きました?」
「ああ、だいぶマシだ」
瞬く間に呼吸の上がった吐息は収まり、しかしダルそうに橋賢が返答した。
「「良かった」」
二番組の声が一致する。
「ところで、橋賢さんは置き去りですか?逢馬隊長は何故、そんな判断を。」
と、岳多が尋ねた。
「橋賢さんが向こうの救護人員でしょう」
岳多の疑問はもっともだ。
一般的に小隊の誰が傷を負ったとしても撤退もしくは後続の、この場合は二番組を待つという判断が妥当である。まして橋賢は一番組の衛生兵、以後の戦闘で誰が怪我しても、どこまで重傷であろうとも助けられなくなってしまう。
橋賢がその疑問に答える。
「逢馬隊長はこの件が臭いと言っていた。他国ならともかく、日本國の術師は人体を塵も残さず抹消できる。その日本の陰陽寮本部がある東京でお化け騒ぎだと?近年では他国の魔女、妖術師たちから陰陽師は人の生き死にまで操作できるという流言飛語まで立っている。その日本で?あり得ん」
術式でダルい感覚を封じられた橋賢がいつもの饒舌さを取り戻す。
息を継いで、ともかく、と橋賢が続けた。
「寮本部に転送してほしいが封じとるだろうからムリは言わん。だが防壁を築いて行ってくれ。俺の捨て札と媒体は今後の戦闘に役立ててほしい」
橋賢はそこまで言って眼を瞑る。
「悪いがここまでだ、寝かせてくれ」
「了解っス、護りは固めときますんで、ご養生を」
応じた鯨間が橋賢の腰に付いているポーチを外し革の早道を取り出した。
そうして近くで待機してた道野に顎をしゃくって指示を出す。
「橋賢さんの捨て札、出して壁系のを見繕って」
道野は呼ばれて橋賢の胸ポケットを探り単語帳を取り出した。
急ぐが慌てず。
単語帳を捲る。
これだと、呟き芒野に顔を向けて呼び掛けた。
「この札でオパール出せます!オパールが水行の媒体にできます。芒野さん、土塁の外で水を廻しますから留めの印を、」
「ぬおっぉう!」
変な声で鯨間がわめく。
「五月蝿いぞ、徹。大声出すと敵方にぃ、、」
制止しつつ注意する岳多の声が尻すぼんで、そのまま消える。
徹の胸に紫電が走り、軽くしびれる。
紫電は緩く縦型に円を形成し、中央に旋を巻いた。
と、中から水面の波紋に似た輪が出現して黒い塊が飛び出してくる。
「親父っ」
飛び出してきた者は全身に火傷を負い、特殊部隊御用達のケプラー装備が半ば溶けていた。
鯨間綴である。




