ダンジョンと相対する冒険者の一人
冒険者の視点になります
ゴブリンに囲まれ、そしてなによりその物量から放たれる悪臭にさらされ、俺はこの仕事を引き受けるべきではなかったと痛感した。だが魔王軍の進行が激化しているという世情、貴族からの打診となれば断ることはできず。こんな僻地で満足な食事もできずにゴブリンの群れと戦っている。
(こんなことなら貯金を崩して魔法の鞄を買っておくんだった)
せめて今持っている空間拡張だけではなく最新式の腐敗防止のものを買っていれば。野営道具も匂いなどを遮断するものに買い換えていれば。報酬が減ろうと他の奴らと一緒に受けるべきだったと後悔が襲ってくる。
(なにが少数の方が動きやすいだ、出来立てのダンジョンならば問題ないだ。過去の自分を殴ってやりたいぜ……)
「ねえ」
「……んだよ」
声がしたほうを向けば我らが頼れる回復と支援役、シスター様がご降臨している。
「前に出て来んなって言ったろ、聞いてなかったのか?」
イラつきの収まらないままにそう言うと、シスター様は口を不本意だと曲げてカバンを漁る。そして薬品の入ったガラス製の瓶を取り出し、眼下のゴブリン達に放った。
「あ、この野郎っ」
例え気配を消して木の上に潜伏していても、今みたいに攻撃やちょっかいを出してしまえば意味はない。面倒臭いことに再度敵を撒き、味方との位置関係を考えつつ包囲陣を作れる潜伏場所をまた見つける必要がある。俺はそのことを目で避難するがシスター様は気にならないらしい。もう一本薬品を取り出して、敵に居場所を教えるようにガラス瓶を放った。
「一旦引くよ、ボスが呼んでる」
「ああそうかい、そうなら最初から言ってくれ」
どうやらどっちにしろ長居は無用らしい。ゴブリン達も二投目でこちらの大体の位置を察したのか、ワラワラとこちらに向かって叫びながら向かってくる。
「じゃあエスコートはお願いね」
「へいへい、そっちこそヘマしないでくれよーーって合流地点は?」
「3番ね」
「了解、じゃいつも通りによろしく」
いつものことだが前衛で偵察も兼任している俺に比べてシスターの移動速度は遅いので、効率的に考えて俺が先行して敵を間引く。そして面制圧力のない俺に変わりシスターは薬品をばらまいて追撃の阻止だ。
「わかってるわよっ」
駄目押しなのか追加で薬品が投げられる。俺は万が一でも成分を吸わないようにその場を離れ、合流地点に向けて先行。ここで気をつけるのは置き去りにしないことだ。ゴブリン程度で死ぬタマとは思えないが、後が面倒くさくなるので細心の注意が絶対に必要。ネチネチと文句を言われて食事や詫びの品を強請られる。無視すれば教会を、果ては孤児院のマザーを盾にしてくるから頭が上がらない。
(さて、合流地点までにはーーまあ多少はいるわな。まあでも木の上まで攻撃してきそうな奴だけでいいだろう)
付かず離れずの位置で猛禽類、猿を不意打ちで倒し、進行ルートから少し外れて地面へと捨てる。上手くいけば血の匂いに誘われて地面に群がるはずだ。進行ルート上の敵は道をあけ、それ以外の奴らとかち合って共食い。そして撃ち漏らしたゴブリンも混ざれば手間をかけずに間引けるはずだ。
(まあ下っ端のゴブリンが突破できるとは思えんがな……)
半ば考え事をしながら体を動かして合流地点までの道を確保しつつ、俺はシスター様の薬品に寒気を感じていた。見覚えがある色だった、記憶違いでなければあれは劇薬。相手を傷つけずに無力化するやつで、確か無味無臭ですぐに気化する代物だ。強い個体には毛ほども効果がないが弱い個体には効果は抜群。それが人族にも適応されるってんだから扱うのに資格がいるのも納得だ。他にも強さに関係なく相手に不快感を与えるものだったり、奥の手もあるらしいが機密という話。
今回のアレだってそうだ。魔道具かどうかは定かではない物で、実地試験とかで教会側から渡されたあの武器。凄まじい威力ではあったがゴーレムには全く効果がなかった。恐らくだが教会が奇跡だなんだといっている魔術とは違う体系のもので、徳を重ねた者にしか扱えないという話だった気がするのだが。
(あいつが、ねえ……)
幼い頃から知っている彼女とは重ならない。危険度の高い薬品を調合、ばら撒くあの姿と奇跡が結びつくとは思えない。名を売っている魔術師に変わり者が多いように、聖職者でも突き抜けていく者は極まっていくものなんだろうか。
俺は近づきつつある合流地点を捉えながら、やれやれと戦場以外のことに頭を回転させていく。作戦はボスが考えることだし、俺は命令に従うだけだ。理不尽でない限りは。
冒険者視点、多少続くと思います。
しばしお付き合いください。




