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冒険者側の事情

 合流地点に向けて先行し、障害になりそうな魔物や獣を狩る。主に木の上まで血気盛んに襲ってくるを主に猿の類、他にも蜘蛛や鳥など多岐にわたるがそれらを間引きつつ死体を端に寄せていく。単調ながらも油断できない作業だ。常に全力を出せば万が一に対応できなくなるので奇襲されれば防御を抜かれ、消耗を避けすぎれば探知や感知の確度に問題が出てくる。


(この辺りに生息している魔物であれば問題ないだろうが、相手は出来立てとはいえダンジョンだ)


 お偉い学者さんの研究資料などを熟読したことはないが、噂や感覚として通じる説は多い。その環境では生息しないであろう個体の確認、これは今回の炎を纏った狼が顕著だろう。あれは乾燥地帯や火の気が多い環境に住んでいる。はぐれにしたって周囲をこっちの生存圏に囲まれている立地だ。目撃情報なくここまで逃れてくる可能性は低いだろう。


(となれば、やっぱりあれはダンジョンからの刺客ってことか……)


 それに他所からやってきた個体と考えてもおかしい点は多い。まずこの森の無事なこと、あれが闊歩するようになれば多少の被害があるべきだ。しかしそんな焼け跡も、山火事も発生した様子もなければ報告もない。

 本当に見つけた瞬間に狩り殺して良かった。報酬という点においても、無理してでも倒す価値はあった。


「ーーっと、そろそろ合流地点か」


 俺は木から木への移動を止め、着いてきている相手を待つーーと言っても離しすぎないように先導したたまにそう時間はかからなかった。


「ご苦労様」


 そして俺は返事もせずに合流地点へ飛び、シスター様も慣れた様子で並んでくる。ここまでくれば味方にも認識されているはずだし護衛の必要もない。俺たちは難なく合流地点でたむろしている仲間たちの元に着地した。


「来たか、早速で悪いが様子は?」

「いやまずは一息つかせてくださいよ、ボス」

「水を飲みながらでも構わない」

「いや酒とかありませんかね」

「無味無臭のであれば出してやる」

「……水でお願いします」


 早速にも程がある打診に俺は軽口を返す。もちろん本音ではないが要望でもあるので考慮してもらいたいものだが、代案は酒とも呼べないあれだという。香りもなく、ただ強すぎる酒精。酔えはするが情緒もへったくれもない代物。理解はしているが魔物の跋扈するこの森で匂いのある食い物は厳禁だ、特に酒はご法度に近い。どうゆう訳かは知らないが魔物や獣、魔族や竜などにも酒は人気らしい。その執着たるや肉の焼ける匂いにも勝る。匂いを遮断する魔道具や術師が欲しいところだが、それも万能ではない。熟練や任務によっては、敵の格によっては万全の対策も破られる。なのでこうゆう時に飲めるのは正規の大発明でもある、あの代用品だけだ。

 もちろんというか任務中に酔ってはいけない、という大前提もある。まあ酒精と荷物量の関係、魔物の特性上飲もうとしても一杯しか許されないので、味も出来損ないの代物が流通しているわけだが。どこぞの全種族総坑夫、総職人、総飲兵衛の種族は魔物に囲まれようと断酒しないらしい。なので彼らの多くは同種族でしかチームを組まない。


「あ、私はお酒の方を」


 それと聖職者も別だ。こいつらは治療の術を修めているので酔いを魔術で抜くことができる。そして気分を高揚させるような精神的なものも使えるため、気分良くあれを飲むことが可能だ。

 ああ、あれを知っていれば。子供の時に酒の味を知っていれば俺は間違いなく聖職者の門を叩いただろう。


「おい持って来てやれ……」


 文句はあるが言いはしないし諦めている。ボスはそんな表情で物資を管理、後方との連絡要員である我がチームの健脚様にオーダーを出す。


「じゃあ持ってくるまでに簡単でいい、そっちはどうだった?」

「そうですねーー」


 俺はゴブリンに急襲されてからのこと、一旦散開してからのことを話した。まずはボスの警戒していた個体は確認できなかったこと、ダンジョンと目されていた場所が崩落していたことだ


「やはりあの音は崩落の音だったか……それがダンジョンで、か」

「はい、入口は完全に埋もれてましたね。別の侵入経路があるのかは分かりませんが、ゴブリンの上位個体が徘徊していて一人で調査するにはきついです」

「だろうな、で他にはあるーー」

「ーーあのー、水とお酒持ってきましたよ」


 続きを促されていたが天使様ーーいや健脚様のご到着だ。ボスへの報告ではなく、こちらを労ることを優先してくれるとは有難い。

 俺は受け取ったコップをあおり、革の匂いが移っていない冷水を堪能する。隣の方であれを美味しそうに飲まれていなければ完璧だった。


「……で、他にはあるか?」

「いやー、他と言ってーーあ、ゴブリンキングを見ました」

「大体でいい、強さはどれくらいに見えた?」


 聞かれたので体の大きさは普通の個体の三倍。獲物は斧、体つきから力と速度のバランス型。皮鎧のようなものを装備しており、腕にも足にも革製の装備をしていると。さらにお供には派手な装いの魔術を使うゴブリン、シャーマンかマジシャンも居たと報告。


「ふむ、側近は魔術師だけだったか?」

「見た時にはそうでしたねーーあとキングの首飾り、あれにちょっと魔力を感じました」

「おそらく側近の作った魔道具の類だろうな……おい飲兵衛、そっちで強い個体は見たか?」

「んー、そうですねー」


 そして矛先は隣へと向かう。シスター様は遠目ではあるが指揮官クラスを見たと話し出した、雑兵と違ってまとまった行動をしており、指揮官が弓を装備しており指揮下も弓持ちの個体が多かったことから弓兵部隊ではないかと。


「射程に入っては困りますから気化する毒薬と煙玉を撒いてすぐ逃げました」

「……作戦がハマれば、この戦力だけでも倒せなくはない集団か」

「そうですね。守ったり運んだりしてくれれば劇薬調合しながらばら撒けますし、数は減らせます」


 こっちは少数なので正攻法とはいかない。後方にまで噂轟く勇者様や英雄と呼ばれる方々なら物量すらひっくりかえせそうだが、俺らが出来るのはこうゆう戦法だろう。でもーー


「無茶な作戦は困りますよ、誰が守ったり運んだりすると思ってるんですか」

「ボスとお前に決まってるでしょう」

「あのな……応援を呼ぶのが普通だろう。俺は死にたくもないし苦労もできればしたくないぞ」

「おいお前ら言い合いするのはいいが、声を大きくするなよ」


 ボスから飛ばされる細い殺気。俺らだけに放たれたそれは周囲と警戒に配慮されているとはいえ肝が冷やされる。俺とシスター様は細かく震えるように頷き、粛々と飲み物と舐めることにした。


「それとだがな、今回は依頼の都合上こっちで処理することは避ける。手柄は応援に来てくださるーー尊きお方に献上だ」


 少しだけ感じられた調子の違和感。俺は好奇心に煽られてつい聞いてみてしまった。


「尊きお方ってどこの貴族ですか?」

「……まあ失礼があっちゃいけねえ、来るのは継承第2位の王子様と近衛の方々だ」


 先程の比ではない寒気。いや、少し考えれば分かったかもしれない。ボスは見た目は山賊のようだがとある貴族家の庶子で三男坊。そのボスが尊きお方と言って、いつもなら木っ端貴族の依頼など受けるかと使いたくもない後ろ盾を使うのに今回は引き受けた。

 まさか、そんな大物が今回の依頼に噛んでいるとは思わなかった。

いつもありがとうございます

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