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ふたりでなら、どこまでも  作者: 千子


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9/15

第9話 カ行

日曜日にはまたリハビリ。

でも、今日も一人じゃない。

今日も片桐さんが一緒に来てくれることになっている。

玄関先で片桐さんの到着を待っているんだけど、約束の時間より遅い。

……そういえば、連絡先の交換ってしたことなかったな。

聞いてみてもいいんだろうか?

気になって自分のスマホを見る。

電話帳のカ行には幾人かの名前があるけれど、片桐の文字はない。

それが無性に寂しくて、じっと見つめていると、遠くから声が聞こえる。

「立花先輩!」

「片桐さん!」

汗だくの片桐さんが走ってこちらへ向かってきた。

荒い息を吐きながら、膝に手を当てて深呼吸している。

「ええと、家で何か飲む?少し休んだ方がいいよ」

「いえ、飲み物は持参しているので大丈夫です。お気遣いありがとうございます」

そう言いながら汗を拭う。

きらりとひかる水滴にドキリとしたけれど、見て見ない振りをした。

それでも心臓が早鐘を打つ。

「立花先輩、どうかしましたか?」

「なんでもないよ、行こう」

そう言って、また昨日みたいにゆっくり歩く。

他愛無い話が楽しい。

なんで汗をかいた片桐さんにこんなにドキドキするんだろう。

思春期だもんね、うん。

そう結論付けて、並んで歩く。

今までは片桐さんの自転車に乗って後ろ姿が印象的だったけれど、今は横に並んで歩ける。

それが嬉しい。

横に並んでいると、手が触れそうで触れられない。

この距離がもどかしい。

そっと小指だけを繋いでみる。

片桐さんは、少し歩みを止めたけれど、握り返してくれて並んで歩いている。

僕も片桐さんも真っ赤だ。

「暑いね」

「そうですね」

それでも小指は離されない。

僕も飲み物を持ってくれば良かった。

喉がカラカラだよ。

横を見ると、片桐さんが持っていたペットボトルを飲んでいる。

僕も早く公園に着いたらなにか飲み物を買おう。

そう考えていると、首筋に冷たいものが当てられた。

「冷たっ!」

「良ければ飲みます?」

そう言ってペットボトルを目の前で振られる。

ううん。魅力的な提案だけど。

「間接キスになっちゃうね」

「そうですね」

クールに返したようで、顔は真っ赤だ。

これは分かっててやってるな。

「僕と間接キス、したいの」

「……そういうのは聞かないのがマナーですよ」

「そうなんだ」

クスクス笑ってペットボトルを受け取って一口飲む。

「間接キスになっちゃったね」

「そうですね」

そんなに赤くなるなら提案しなければいいのに。

思わず告白したくなるけれど、臆病な僕はまだ片桐さんに釣り合わないと好きって言えない。

「はい」

ペットボトルを返すと、立花さんは慎重に鞄に戻した。

まるで宝物のように。

「そんなに嬉しかった?」

「……別に。なんのことですか?」

素知らぬ顔でしらばっくれる。

可愛いなぁ。

そんなやりとりをしながら歩いていると、公園に辿り着いた。

そうだ。

「片桐さんの連絡先って教えてもらっていい?」

「いいですけど」

スマホをお互いに出して、アドレスを交換する。

「うん、ありがとう」

増えたカ行の列を大切そうに見る。

「こちらこそ、ありがとうございます」

片桐さんもスマホを見ている。

「ふふふ。ようやく一歩進んだね」

「……そうですね。あと、少しですかね?」

「それはどうかなぁ」

片桐さんは不満そうだ。

再び、ペットボトルを取り出して飲むと、笑って言う。

「間接キスですね」

「そうだね」

僕も笑って言うと、来週の体育祭へと話題は移った。

「私、短距離走と長距離走と借り物競走に出るんですよ」

「へぇ、期待の星だね。僕はこんな足だからみんなに気を遣われて球投げだけだよ」

「……すみません」

「いいよ、気にしないで。おかげで片桐さんとも知り合えたんだから」

「そう言ってくださると、心が軽くなります」

にこりと笑う片桐さんは本当にお人形さんみたいに可愛い。

でも、僕が好きになったのはそんな片桐さんじゃなくて、僕のことが好きな喜怒哀楽の激しい片桐さんだ。

「片桐さんって、僕のこと、どう思っているの?」

「さて、どうでしょう」

小さく舌を出して小悪魔っぽい姿も可愛い。

結局僕は片桐さんならどんな片桐さんでも好きなんだろう。

「僕はそんな片桐さん、可愛くて好きだよ」

「えっ!?」

「後輩として、こんな面白い後輩が出来たことがとても嬉しい」

にんまり笑うと、片桐さんが不貞腐れた。

本当に可愛い。

こうなったら体育祭で格好いいところを見せて、告白出来るぐらい、釣り合うぐらいのところを見せつけたい。

待っててね、片桐さん。

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