第8話 猫派?犬派?蛸派?
金曜日の夕方。
片桐さんにいつものように送ってもらったあと、僕は母と二人で病院に来ていた。
「うん。レントゲンを見ても、もうギプスを外しても問題ないね」
先生の言葉に安堵し、ほっと息を吐いた。
「ありがとうございます」
母の礼にならって僕も頭を下げた。
「ありがとうございました」
にこにこ笑って先生にお礼を言う。
「でも、まだ油断しないでね。ギプスを外しただけなんだから」
「はい」
それでも重苦しいギプスが外れただけでも僕には充分嬉しいことだった。
足が身軽になった気がして、椅子に座ったままプラプラさせる。
「ほら、そういうことしない」
「はぁい」
つい間伸びして答えると母から先生に向かって失礼よ!なんて怒られた。
会計を済ませて、そのまま母が運転する車に乗って帰った。
翌日は土曜日!
休みといえどリハビリするように言われているから松葉杖をつきながら散歩をすることにした。
「行ってきます」
「気をつけてね」
なんてやりとりをして近所の公園まで歩いて行く。
「立花先輩?」
ちょっと歩いたところで後ろから声をかけられ、振り返ると片桐さんがそこにいた。
「片桐さん!」
片桐さんの方を振り向くと、片桐さんは慌てて僕に近寄ってくる。
「大丈夫ですか?」
「うん。ギプスも外れたしね」
そう言って、包帯だけになった足を見せた。
「そう、ですか……」
「片桐さんはどうしてここに?」
すると片桐さんが慌てだした。
「それは、その、もし会えたらいいなとか、思ってませんから!」
うーん。これはもしかしなくても僕に会いたくて来てくれたのかな?
「会えて嬉しいよ、片桐さん」
そういうとすぐに真っ赤になる。
本当に可愛くて好きだなぁ、と思っていると片桐さんが口を開いた。
「あの、立花先輩はどちらへ?」
「僕?僕は近所の公園までリハビリに歩いて行ってこようかと思ってさ」
片桐さんはまた僕の足を見て、頷いた。
「私もついて行っていいですか?」
「え?」
僕は目が瞬いた。
「だって、ほら、その、まだ足がそんな状態なら不安でしょうし……」
僕は考えた。
うーん。どうしよう。こんな足だとまだ迷惑かけちゃうかな?
でも、僕も片桐さんと一緒にいたい。
「じゃあ、お願いしてもいいかな?」
「はい!」
普段は猫っぽいクールな片桐さんが犬のように尻尾を振って喜んでいる幻影が見える。
可愛い。
「なんですか?ニヤニヤして」
「ううん。片桐さんが可愛いなって思ってさ」
するとまた片桐さんが真っ赤になった。
全身茹って蛸みたいに赤い。
「ふふふ」
「な、なんで笑うんですか!?」
ちょっと涙目の片桐さんも可愛い。
「ねぇ、片桐さん。片桐さんなら猫派?犬派?それとも蛸派?」
「なんですか、その選択肢……。たこ焼きを食べるのは好きですよ」
「蛸派かー。よく赤くなるもんねー」
「あ、そういう……。て、誰が蛸ですか!これは!」
そこまで言って口籠る。
「これは?」
「あう……」
言い返せない片桐さんの姿を見て笑ってまた笑いながら歩みを進める。
とはいってもゆっくりだけど。
「あ、待ってください。立花先輩」
「うん。待ってるよ」
いつまでも、君が僕の気持ちを受け入れてくれるって確証が持てるだけ。
今でも充分僕のことを好きだって分かっているけど、僕が君に釣り合うまで、もう少し待っていて欲しい。
僕に悠々と並んだ片桐さんが、問いかける。
「どうしたんですか?立花先輩」
「うん?可愛い子には勝てないって考えてたんだ」
片桐さんが手に持っていた鞄の取手をぎゅっと握り締める。
「それって、立花先輩の好きな子ですか?」
「どうかなぁ」
「またそうやってはぐらかす。私だって別にそこまで立花先輩のことが好きな訳じゃないんですから」
「どうしてそこで僕が出てくるの?もしかして、僕が好きなの?」
「そ、そこまでって言っているじゃないですか!それより、立花先輩の方こそ好きな子いるんですか?」
僕は不器用ながらウィンクをしてみせた。
「内緒」
そう言って、片桐さんと肩を並べて歩く。
言葉遊びでお互いの気持ちを考えて、悩んでいる。
いつになったら好きって言おう。
考えながら、時折一生懸命に話をしてくれる片桐さんを横にしながら歩く。
これってとんでもなく幸せだよなぁ、なんて思いながら自然と笑みが浮かぶ。
「どうしたんですか、立花先輩」
「うん?可愛いなって思ってさ」
また茹蛸状態の片桐さんがこちらを覗き込むように呟いた。
「……私も、立花先輩のこと可愛いって思っていますよ」
その言葉にドキリとして、今度は僕が蛸みたいに赤くなった。




