第四話 日常
まだギプスは外れない。
今週末には外れる予定。
そうなったら片桐さんの送り迎えもなしかぁ。
「立花先輩、何を考えているんですか?」
「ん?片桐さんのこと」
そう言ったら自転車が傾いた。
「おっととと」
自転車にしがみついて怪我した方の足が衝撃を受けないように気をつける。
「すみません、立花先輩。でも、先輩が悪いです」
「なんで!?」
僕、何言ったっけ?
ぼんやりしていて覚えていなかった。
「とにかく、登校の時間に間に合いませんからさっさと行きますよ」
まだ十分な時間があるのに、そんなことを言う。
離れ難いなぁ。
「同じクラスなら良かったのにね」
「……そうですね」
また耳から首にかけて赤くなっている。
「可愛いなぁ」
思わず口から溢れると、また自転車に急ブレーキ。
「片桐さん、急ブレーキは危ないよ」
「先輩のせいです!」
大声で叫ばれて注目がこちらに集まる。
「またやってる」
「いい加減付き合えばいいのに」
なーんて声が聞こえるけれど、臆病な僕は万が一にも振られたらと思うと二文字がどうしても言えない。
好き、なんて言ってこの関係が壊れるのが怖い。
きっと、多分、片桐さんも僕が好き。
そう希望的に分かっていてもなかなか言えない。
人生って難しい。
僕が溜息を吐くと、片桐さんが慌てた。
「すみません、大丈夫ですか?先輩。そんなに落ち込むなんて思ってもいなかったんです」
片桐さんが話しかけてくる。
外野の声は聞こえなかったみたいだ。
「なんでもないよ。行こう」
「……はい」
そう言って自転車を押し始める。
進む道は同じなのに、心が同じかは分からない。
人生って本当に難しい。
今度は心の中で溜息を吐いた。
学校に着くと、自転車置き場に自転車を置いて、僕たちは別々の下駄箱に向かった。
でも、まだ一緒にいられる。
律儀な片桐さんは、松葉杖をついて歩く僕を見守って教室まで送ってくれる。
逆ならもう少し格好いいのにね。
「ありがとう、片桐さん」
「いえ、授業、お互い頑張りましょう」
ふっと笑う片桐さんに、教室内からどよめきが起きる。
これもいつものことだ。
そうして別れた僕たちは、お互いの席に向かって歩き出す。
僕が座ると同級生からわいわいと騒がれる。
曰く、羨ましい、俺も片桐さんとお知り合いになりたい、早くくっつけ!とか様々なことを言われる。
頭をぐしゃぐしゃしながらそう言われても、僕だって早くくっ付きたい。
でも、本当に片桐さんは僕のこと好きなんだろうか。
ぐるぐる考えても答えは出ない。
片桐さんの僕に対する反応は、確実に好きだと思う。
思う、けどどうなんだろう。
周囲からも付き合っているように思われているけれど、僕はまだ、対等な立場になるまでは告白が出来ない。
せめてこの足が治るまでは。
それまでは、今の曖昧な関係に甘えていいよね?




