第三話 海と花火と煌めく君と
「今日って花火大会があったんですか?」
「そうだよ。知らなかったの?」
片桐さんは小さく頷く。
「そういうの、あんまり興味なかったから」
でも、僕と二人で海は来てくれた。
今日は自転車の後ろ側じゃない。
松葉杖をついて片桐さんの隣に立っている。
途中で浴衣を着た女の子達が楽しそうに海辺を歩いている。
露店で買ったらしい苺飴を持って、笑い合っている。
女の子の方は男の子の手を引っ張りながら、あれやこれやと楽しんでいる。
その姿を見て、片桐さんがぽつりと呟いた。
「……立花先輩も、ああいう可愛い子が好きなんですか?その、彼氏に甘えたり」
「片桐さんも可愛いと思うよ」
僕が何の気無しにそういうと、俯いていた片桐さんが急に顔を上げた。
「本当ですか!?立花先輩から見て、私って可愛いですか!?」
こんなの、可愛いに決まってるじゃん。
「可愛いよ」
にこりと返せば片桐さんの顔がどこまでも赤くなっていく。
真正面から赤くなるのは初めて見たな。
というか、片桐さんは僕を怪我させる前から僕のことを知っていた感じだけど、どこで平凡な僕を知られたんだろう。
学年も何もかも別なのに。
「片桐さんって、どこで僕のことを知ったんですか?」
緊張すると敬語になる癖を直したい……。
「それは一週間前の事故の時に……」
「ううん。その前から知っていた気がする」
片桐さんが言葉に詰まる。
「それは、その、前から可愛いなって……すみません!男の先輩相手に可愛いだなんて失礼ですよね!本当にすみません!」
片桐さんは慌てふためいて手を右往左往している。
普段はクールな片桐さんが顔を真っ赤にしてそんな姿を晒すのが、可愛くて、可愛くて、思わず口から溢れた。
「可愛いね、片桐さん」
片桐さんは急に止まると、手を下げてそっぽを向いてツンと言い返した。
「可愛いのは立花先輩ですよ」
「僕のどこが」
「全部ですよ」
「それを言うなら片桐さんだって」
「いいえ。立花先輩の方が可愛いです」
言い合っていると、通りすがりのカップルに揶揄われた。
「見て、あそこのカップル可愛い喧嘩してる〜」
「本当だ。でも、俺にとって可愛いのはお前だよ」
「えー!本当!?嬉しいー!」
結構な大声でいちゃつかれて、周囲の人が僕達を見て微笑ましそうにしていることに気付いた。
これは恥ずかしい。
「海、来たんだし、露店で何か買って食べながら見る?」
「そ、そうですね」
お互いに居た堪れなくなって顔が赤い。
何を食べようか、うろうろしてこれがいい、これはどうだと二人で並んで歩いていく。
いつも背中しか見えなかった片桐さんの横顔が見える。
楽しそうにはしゃいで、やっぱり可愛いのは片桐さんだよ。
「立花先輩。射的で競争しませんか?」
「いいよ。僕、意外と得意なんだ」
「私だって、負けませんよ」
勝負を仕掛けて来ただけあって片桐さんは自信満々だ。
同時に打っていくと、僕の方が一個多く取れた。
「あいよ、あんちゃん。すごいねぇ」
景品を渡されると、片桐さんはおめでとうございますって言ったので、取れた景品のうち、色違いのクマのぬいぐるみのキーホルダーをあげた。
「はいこれ」
「えっ?」
「おそろい」
にこって笑って僕の分のクマのぬいぐるみキーホルダーを見せると、片桐さんが膝をついた。
「だからそういうのは彼女にしたい子にやってください……!」
だったらあってるじゃん。
言っていいのかな?
まだ早いのかな?
また周囲に人が集まって来た。
「そろそろ食べ物決めて海辺に行こう」
「はい……」
真っ白に燃え尽きた片桐さんを連れて、適当にたこ焼きとかを買って、海辺のベンチに座って食べる。
「美味しいね」
「そうですね」
少し暗くなって来た海は昼とは違う顔を見せる。
そんな時、どどんと大きな音がした。
「あ、花火始まったね」
「そうですね。……綺麗です」
「本当だね」
僕は花火も見ずに、花火に見惚れている片桐さんを見ていた。
するとチラリと片桐さんがこちらを見た。
「立花先輩ばかり見ていてずるいです」
僕は小さく笑ってしまう。
「なら、好きなだけ見ていていいよ。僕も見ているから」
片桐さんが震える。
「遊ばれてる?天然?可愛い……やっぱりずるい」
小声でブツブツ言う片桐さんは急に顔を上げてじっと僕を見つめた。
遠くで花火の音がする。
手が触れそうで触れない。
絡まるのは視線だけ。
今はまだ、これくらいの距離がちょうどいいのかもしれない。
「綺麗だね」
僕がそう言うと、花火の色か緊張によるものか、片桐さんの頬が赤くなって、片桐さんの後ろに咲く花火が片桐さんの鼓動みたいで、本当に綺麗だなって思った。




