第二話 海へのお誘い
「立花先輩は、どこかへ行きたいんですか?」
そう尋ねられたのは、いつものようにどこへでも行けるね、と話しかけたからだ。
「うーんそうだな、海とか行きたいな」
「海なんて、こっから自転車で一時間で行けちゃいますよ」
もっと遠くとか。
小声で付け足されたのは、お誘いなのだろう。
でも、二人で出かけるほど僕達はまだ親しくない。
何せ知り合って五日目。
……この関係もきっと僕の足が治ったら終わっちゃうんだろうなぁ、
寂しい。
だから、僕はお誘いに乗ることにした。
「じゃあ、僕はこんな足だし、連れて行ってもらうのも大変だから駅で待ち合わせしてバスで二人で海を見に行きませんか?」
思わず敬語になってしまったのは、僕の心臓の音が大きいからだろう。
近いけど、遠い。
片桐さんからの返事を待っていると、自転車が停められた。
振り返った片桐さんは照れていた。
また耳まで赤くして。
「先輩さえ良ければいいですよ」
可愛い後輩は本当に可愛い。
悶えそうになりながら、うん、と小さく頷いた。
「じゃあ、立花先輩の都合のいい日で大丈夫ですよ」
「え?でも、いいの?」
「はい」
まだ赤い。
指摘するのは可哀想だと思った僕は、じゃあ日曜日に、と言った。
その日にちょうど花火大会があるんだ。
花火大会の時間まで居られるか分からないけれど、二人で見れたらいいな。
「分かりました。二日後の日曜日に、駅で待っています。時間は何時にしますか?」
一緒に花火を見たいと下心がある僕は、花火大会の時間まで一緒にいられるように、帰宅時間も考えて午後から会うように提案した。
「分かりました。……楽しみにしています」
また前を向いて自転車は回る。
さらりと流れる髪に、一昨日の僕は言えなかった事を口にした。
「髪の毛、綺麗だね」
多分、彼女にとっては褒められすぎている賛辞だろう。
でも、片桐さんは、見える範囲の耳を真っ赤にして、自転車を支えて前へと進んでいく。
「ねぇ、もし良かったらさ、今日は僕の家に寄ってみない?いつも何も出来ずにいたからさ、今日は昨日母さんが買って来てたクッキーでも食べて行かない?」
なんとなくそう声をかけたら急ブレーキ。
何事かと思って片桐さんを見ると、死にそうな顔で答えた。
「立花先輩、そういうのは彼女にしたい子が現れた時にしてください」
そう言って、また道を進んで行く。
なら、君を誘うのは正解じゃないか。
なんて臆病な僕はまだ言えない。
「分かった」
短く返事をして、片桐さんの背中を見つめた。
真っ赤な首筋が僕たちの未来のことを示しているようだけれど、僕にはその一線を越えるのがまだ怖かった。




