第15話 放課後の決戦?
「なぁ、一年の片桐って可愛いよな」
そんな言葉を聞いたのは廊下でのことだった。
他のクラスの男子生徒だろう。
「でも、B組の立花と付き合ってんだろ?」
「それが、まだ付き合っていなくてB組で賭けの対象にされてるらしいぜ」
「なんだそれ」
本当になんだそれだよね。わかるよ。
でも誰もが聞こえる廊下で話をしてほしくなかった。
「なんでも片桐のせいで立花が骨折して送り迎えを申し出たらしいぜ」
「骨折……片桐と知り合うなら多少の骨折ぐらい」
冗談じゃない!
いくら片桐さんといえど、知り合うためにあの痛みを味わうなんて……!
僕があまりのことに見つめていると、二人組が僕に気がついた。
「あいつじゃね、松葉杖ついてギプスしてるし」
「ああ、立花?あれじゃあ片桐の隣に居ても霞むよな」
「良かった〜!あいつ相手なら楽勝だわ」
「俺も。片桐にアタックしてみるかなー」
あまりに失礼な物言いにカチンとしたけれど、やっぱり他人の目から見て僕って片桐さんの隣に似合わないんだとショックを受けた。
でも、片桐さんはそんな僕が好きなんだ。
少し自信を持とう。
大丈夫。
片桐さんはきっと僕のこと好きだし、僕も片桐さんが好き。
これは変わらない事実。
……だよね、片桐さん。
深呼吸をして、自分のクラスへ戻る。
いつも気軽に絡んでくれる女子生徒が声をかけてきた。
「ちょっと立花」
「何かな」
「他のクラスの連中に好き勝手言わせない!こちとら二週間に賭けているんだ!もう二週間切っているんだぞ!どうするんだ!」
詰め寄られて思わず後ずさる。
「そういうのは大声で喋らないでくれない?他のクラスの子だって知ってたよ」
「それは……ごめん」
素直に謝ってくれるから彼女もいい子なんだよなぁ。
「ううん。いいよ、気にしない」
それから忘れちゃいけないことを言った。
「それから、これは僕らの問題だから賭け事とか告白の期日を勝手に設けるのはやめてほしい。僕には僕のタイミングがあるんだ」
頷くと僕の話を静かに聞いてくれている。
「……まあ、立花の気持ちもわかったよ。確かに人の色恋で賭け事されたらムカつくよね。そこはごめん」
そこまで言うとクラス中に声をかけた。
「はい!というわけで立花の告白の賭けやめ〜!二人を応援するように切り替えるよ」
クラス全員、渋々ながらもわかったと言ってくれた。
これでよし。
「それじゃあ、僕はこれで」
松葉杖をついて自席に戻ろうとすると、スマホに軽快な着信音が鳴った。
やばい。マナーモードにし忘れていた。
慌ててマナーモードに変更して、メッセージを確認する。
送り主は片桐さんで、放課後少し用ができたので待っていてほしいという事だった。
さっきの別クラスの男子生徒たちの話が蘇る。
すると女生徒がひょっこりスマホを覗き込んでぽつりと呟いた。
「あー。こりゃ告白の呼び出しかもねー」
「そ、そう思う!?」
僕が問いかけると、女生徒は笑った。
「マジじゃん。立花。私もさっきまで廊下にいたんだけどさ〜。片桐のことで騒いでいた他のクラスの男子生徒が一年のクラスの方に降りて行ったんだよね」
どうしよう!片桐さんがそっちの方がいいってなったら!
「教えてくれてありがとう!」
僕は放課後、片桐さんの後をつけることにした。
放課後になると、僕は急いで一年のクラスに向かう。
でも、もう遅くて片桐さんはどこかへ行った後だった。
「ごめん、片桐さんがどこへ行ったか分かる?」
「立花先輩!やっぱり片桐のことが心配で来てくれたんですね!片桐は二年の男子生徒に裏庭に呼び出されていました。早く行ってあげてください」
「うん。ありがとう!」
一生懸命走るけれど、やっぱりギプスが邪魔だし松葉杖もうまく動かせない。
選ぶのは片桐さんの自由だけれど、僕の気持ちも聞いてほしい。
僕は急いで裏庭に向かった。
ようやく辿り着くと、片桐さんは廊下で見かけた男子生徒と向き合っていた。
「俺、片桐のことが好きだから付き合ってほしい」
「ごめんなさい」
男子生徒の告白に片桐さんは即答で断った。
「やっぱり立花?」
「……はい」
その言葉で、僕は胸がいっぱいになって泣きそうになる。
「そっか。まあ、そんな気はしていたしな」
「ごめんなさい」
片桐さんが頭を下げる。
「二度も謝らないでくれよ。俺の立場もないじゃん」
「……はい」
「まあ、立花の態度も分かりやすいけれど、お互い上手くいくといいな」
「はい!ありがとうございます!」
今度は感謝のお辞儀だ。
……僕も、勇気を出さなきゃな。
「それじゃあ、片桐。急に呼び出して悪かったな」
「いえ」
やばい、こっち来る。
僕は急いで校内に戻ろうとして、結局走れなくて見つかった。
「あれ、立花」
「や、やぁ」
男子生徒は僕に近づくと、小声で言った。
「ぼやぼやしていると、俺が貰っちゃうからな」
「渡さないから大丈夫だよ」
僕はなんとか汗だくになりながらもニヤリと笑うと、立花のくせに生意気〜!と頭をぐりぐりやられた。
「あれ?立花先輩?」
遅れて片桐さんがやって来る。
「か、片桐さん……!」
「もしかして、聞いていたんですか?」
疑いの眼差しで見られて居心地が悪い。
「いや、その、僕は別に……」
さっき決断したばかりなのに、臆病な僕はもう揺らいでいる。
「ふぅん」
片桐さんは残念そうに言う。
「ぼやぼやしていると私が先に言っちゃいますからね」
そう言うと、僕の横に並んで微笑んだ。
「さ、早く帰りましょう」
「うん、そうだね」
自転車に乗って後ろ越しじゃない、片桐さんと歩くのはやっぱり好きだ。
嘘。本当は後ろから真っ赤になる片桐さんも好き。
こうして、どこまでも歩ける関係が続けばいいなぁ。
そう思いながらも僕はギプスをつけてゆっくり歩いてくれる片桐さんがやっぱり好きだなぁと思った。




