第14話 LOVE LOVEカップル割引パフェ
帰りに片桐さんと落ち合うと、何故かまだ何も言っていないのに赤くなっていた。
「片桐さん、大丈夫?なんか赤いけど」
梅雨が明けたら一気に暑くなったもんね。
熱中症かもしれない。
熱を測ろうとおでこに手を当てると、片桐さんがすごい勢いで後ろに飛び退いた。
「な、なんですか」
「なにって、あんまり赤いから熱中症かと思って」
僕が片桐さんの言動に目を瞬かせると、片桐さんは平常心に戻った。
「とにかく、大丈夫ですから」
「本当に?」
「本当です」
そんなやりとりをしていると、クラスメイトの集団が通りかかった。
「あれ、立花じゃん。今から愛する片桐と下校?こっちは二週間に賭けてんだから、その時にちゃんと告んなよー!」
そう言ってゾロゾロ出ていく。
ボーリングがどうとか。
ボーリング、僕は誘われていないんだけどな……。
少しの寂しさも覚えながら、僕らは僕らで下校デートしようと片桐さんの方を向いたらまた赤くなってきた。
「二週間後……」
うーん。期待させて申し訳ないけれど、二週間後に僕が告白できるかどうか。
僕はまだ自信を持てない。
いくら片桐さんが格好いいって言ってくれたって、ほら、あれ、吊り橋効果とかあると思うんだよね。
「帰ろうか、片桐さん」
「……はい」
ようやく落ち着いた片桐さんは落ち着きを取り戻し、いつものクールで可愛い片桐さんになっていた。
自転車置き場に着くと、僕は思い切って提案してみた。
「ねぇ、僕らもボーリングはこの足だから無理だけど、ファミレスで何か食べて帰らない?」
「いいですよ」
「やった!ようやく放課後デートっぽいことができるね!」
「放課後デート」
片桐さんは往復すると、自転車を持つ手が固まった。
「行く?行かない?」
「行きます」
即答だった。
その速さに思わず笑ってしまうと、片桐さんが不貞腐れた。
「ごめんごめん」
「まったくもう」
根に持たれるな、これは。
「お詫びにパフェ奢るからさ」
「季節限定のやつですよ」
「もちろん、なんだっていいよ!」
僕は片桐さんの介助を得て自転車のサドルに跨がると、片桐さんが自転車を押して行った。
「着きましたよ」
「うん、ありがとう」
またサドルから降りるのに介助してもらいながら降りて、一緒に手を繋いで店内に入る。
そういえば、自然に手を繋げるようになったのはいつ頃からだろう?
こんなことを言うとまた片桐さんが慌てふためくだろうから黙っていた。
カラン、と入店を知らせるベルの音と共に店員さんからのいらっしゃいませの声。
「二名様ですか?」
「はい」
二名……大切な人と一緒ならどこでも楽しいって本当だね。
「こちらのお席へどうぞ」
「ありがとうございます」
通された席に座ると、早速メニュー表を開いた。
小腹が空いているからか、なんでも美味しそうに見える。どれにしよう。
「ご注文がお決まりになりましたらそちらのベルでお知らせください」
「はい」
「ありがとうございます」
店員さんが離れると、片桐さんに声をかけた。
「どれも美味しそうだね」
「……はい……」
片桐さんがメニュー表の後半に目が釘付けだ。
そういえばパフェが食べたいって言ってたっけ?
僕はぱらりとパフェのページを開くと、ピンクの背景に赤い文字で「LOVE LOVEカップル割引パフェ」の文字が入ってきた。
ハート型のチョコが上部のいちごアイスに置かれているのが特徴的だ。
「こ、これは……」
さすがに恥ずかしい!
でも片桐さんはちょっとどころじゃなく興味津々だ。
「片桐さん」
「あの、先輩。割引になるパフェがあるんですけど」
退路を断たれたー!
ううん。どうしよう。
でも、片桐さんとなら別にいいかな。
「 LOVE LOVEカップル割引パフェ?」
「はい。食べてみたいんですが、その、先輩とはカップルじゃないしお店を騙すような形になってしまうんですが」
「うん、いいよ。食べよう」
ふたりでなら、どこまでも楽しいよね。
僕はベルを押して注文をする。
「この LOVE LOVEカップル割引パフェ一つと、ドリンク飲み放題二つで」
「かしこまりました。
「交互にドリンク取りに行こうか。先に片桐さんどうぞ」
「はい。ありがとうございます」
そう言って片桐さんは席を立った。
はー。心臓がドキドキした。
なんだよ、 LOVE LOVEカップル割引パフェって。こんな商品名をつけた責任者にやるせ無い気持ちを持ちながら、片桐さんが嬉しそうで良かったと思った。
片桐さんが嬉しいなら LOVE LOVEカップル割引パフェくらいなんだ。
いくらでも注文してやるさ!
……でも、正直言うと骨折でバイトを休んでいるのでそろそろお財布の中が寂しい。
見栄を張って今回も奢るつもりだけれど、今回でしばらく放課後デートはまた公園かなぁ。
それにしても。
「二週間後かぁ」
「そうですよ!」
いつの間にか戻ってきていた片桐さんが意気込んでやってきた。
「私、待てなかったら自分で言う覚悟ですから」
「それは困る。僕だって伝えたい」
「どっちが速いかの問題じゃないんですよ」
片桐さんが首を振る。
「それまでは私、待ってますから」
困ったな。片桐さんからも念を押されちゃった。
二週間後、僕たちはどうなっているんだろう。
ドリンクコーナーの種類のように、僕らの未来はたくさんある。
僕たちは、どんな未来になるんだろう。
少なくとも片桐さんを待たせたくない。
「覚悟を決めるしかないかぁ」
気合いを入れて、コーラのボタンを押して、二人で LOVE LOVEカップル割引パフェを食べた。
甘過ぎて苦戦したけれど、片桐さんは美味しそうに食べているからよしとしよう。
二週間後。
それまでに僕は格好いい男になれていられるんだろうか。
いや、多分。片桐さんが求めているのは僕が格好良くなることじゃない気がする。
こんな僕でもいいのかな、片桐さん。




