第11話 登下校
僕は考えていた。
送迎がなくなっても、一緒に登下校しているとはいえ、ただそれだけだ。
片桐さんとの距離が開いてしまっている気がして焦っている、と言った方が正しい。
土日は片桐さんが僕に会いにきてくれたから一緒にいられたけど、月曜日からはゆっくり僕の速度で歩いて登下校を楽しんだ。
でも。
片桐さんと登下校デートを一緒にしたい。
今もしているんだけど、もっとちゃんと登下校デートしたい。
毎日登下校一緒にしているのに、我儘な僕はもっと、もっとと欲張りになってしまう。
どうすればいいか。
そんなの決まっている。
誘えばいいんだ。
分かっているけれど、手元のスマホを見るばかりで文章を打つ手が止まったままだった。
「本当に、情けない」
こんな情けない男があんなになんでもできる片桐さんの側にいていいのか。
いや、片桐さんは僕のこと多分好きだから断らないだろうけど……ええい!こんなところでも臆病者なんだから!
僕は短く書いた文章を、天に届け!という気持ちで空高くスマホを掲げて送信した。
「これからはもっとちゃんと寄り道とかして一緒に登下校デートしない?」
下の一年生のクラスからすごい音が聞こえたけど、多分片桐さんだろう。
片桐さんの動揺だって信じさせてくれよ、頼むから。
そう思っていると、返信がきた。
「もちろんです」
いつものクールな片桐さんらしい文面に不思議と笑みが溢れた。
「どうした、立花。スマホ見て笑って。何かいいことあったのか?」
「なんでもないよ」
なんで誤魔化してみても、クラスメイトにはなんでもお見通しみたい。
「どうせ片桐さん関係だろ」
「おい、早くくっつけよ。三ヶ月以内に賭けているんだから」
「人の恋路で賭けなんかしないでよ!」
するとクラスが騒ついた。
「やっぱり、立花は片桐さんのこと好きなんじゃん!」
「もうさっさと告白して学校一のバカップルになれよ」
「見るからに片桐さんも立花くんのこと好きなのに、なんで焦らしているのよ」
集中砲火だ!
「内緒!」
僕のちっぽけなプライドだなんて言えやしない。
「でも、まあ、立花と片桐さんじゃあ釣り合わなくて悩むのも分かるけどな」
なんて言ってきたクラスメイトは他のクラスメイトから袋叩きに合った。
主に女子に。
恋バナって怖い。
僕がそう思ってると、クラスでもカースト上位の女子が興味津々に聞いてくる。
「それで、立花と片桐はどこまでの仲なの?」
「さっき、これから登下校を一緒にしようって言って了承してくれたところ」
何を言っているんだ、僕は。
赤くなっていると、女子から褒められた。
「立花の割に自分から誘えたの!?すごいじゃん!」
「そうかな?」
立花の割にって、これは褒められているのかな?
「そうだよ!私の彼氏なんてさ〜!何から何まで私が提案しなきゃいけないの。正直イライラする」
女子生徒はチラリと男子の山を見て、溜息を吐いた。
そっか、あそこで気まずそうにしているのが彼氏なんだな。
僕はピンときて、女子生徒に話しかけた。
「でも、その彼氏だって君のことが好きで君の考えを優先したくて提案を受け入れているのかもしれないよ。嫌だったらさすがに嫌だって言うはずだよ」
僕も、片桐さんが嫌がることはしたくない。
だから、片桐さんが僕のことを好きって知っていても登下校一緒に行こうなんてなかなか誘えなかった。
もし、そこまで束縛されたくないって思っていたらどうしようって考え込んでいた。
僕は彼氏さんに目配せすると、勢いよく頷いていた。
女子生徒は、それを見てまた溜息。
「立花ってさ、あんま喋ったことなかったけど、人たらしだよね」
「分かる〜。今ので片桐さんが落ちた理由も分かった」
「えっ、ど、どこら辺が!?」
僕は女子の観察眼とやらに驚いて慌てて尋ねた。
すると、クラスメイトたちは声を揃えて言う。
「そういうところなんだよな〜」
「だから!どういうところなの」
「立花は立花だからいいってこと」
まったく分からない。
僕が僕だからいいってどういうことだろう?
モヤモヤしたまま、その日の授業は終わって下校の時間。
僕は片桐さんを待たせないように、でも足に負担をかけないように、ゆっくり急いで下駄箱まで向かった。
「片桐さん!」
「立花先輩」
下駄箱で待っていてくれた片桐さんに声をかけると、片桐さんが駆け寄ってくる。
「そんなに慌てなくても大丈夫ですよ。私、何時間でも待てますから」
「さすがに何時間も用が入ったら連絡して先に帰ってもらうよ。……待たせてごめんね」
ひょこひょこ歩く僕を気遣って、わざわざ下駄箱から靴まで出してくれた。
申し訳なさでありがとうとごめんねって伝えると、私がしたいからいいんです。
なんて言って微笑まれる。
「片桐さんが笑った……」
ちょっとやめてよ。見せ物じゃないんだから。
僕はその男子生徒から守るように片桐さんを隠した。
「ええと、立花先輩?」
「なんでもないよ、行こう」
その光景を見ていたさっきの女子生徒がぽつりと呟いた。
「私も一ヶ月以内に付き合うに賭けようかな」
クラスメイトの賭け事事情は知らないけれど、それでも片桐さんとこうして肩を並べて歩けるようになったのは僕にとっては大前進だ。
もっと頑張って、釣り合う男になりたいな。




