祭りが終わりまた祭り
体育祭が終わったかと思うと、すぐに文化祭の準備に入る。どちらも十月の中旬まで行われるらしく、スケジュールはカツカツらしい。因みに、十月末には中間テストも控えている。
僕達のクラスでも、事前に選出されていた実行委員が出した幾つかの案から文化祭の出し物を決める。話し合う時間も勿体ないと言うことで、多数決を取りその結果ステージ発表に決まった。
劇であり、演目は走れメロス。ベタではあるが、観客にも分かり易く間違いないだろう。
常に誰かがいないといけない模擬店の類はやりたがる人がおらず、クラス内で不満が出ることも無かった。
授業の合間やホームルームの時間を利用し役割などを決めていたら、いつの間にか放課後。クラス一丸となってひとつのことに取り組んでいることが、何とも言えない充実感をもたらしていた。
少し良い気分になりながら部室の扉を開くと、部長が迎え入れてくれる。
「優君、お疲れ様。」
「お疲れ様です。部長、先輩。」
部長はいつもの席に座り、椅子の背もたれに身体を預けていた。椅子は斜めに傾き、今にも倒れそうになっている。正子先輩はいつも通り窓際の席に座り、読書に耽っていた。今日の天気は濃い曇り。太陽が出ていない所為か、先輩は何処か機嫌が良さそうだった。
僕は荷物を置き、部長に話し掛ける。
「今度の文化祭、僕達のクラスは演劇をやることになったんですよ。」
「あら、そうなのね。私達のクラスは、お化け屋敷をやることになったわ。」
部長は椅子を傾けながら僕の方に目を向ける。
顔が逆さになっており、短い髪がだらんと下がっている。
「ねぇねぇ、何の劇をするの?」
「走れメロスです。と言っても、僕は道具係なのでステージに上がることはないですけど……。」
「なぁんだ、残念。」
そう言った表紙に、部長の椅子はバランスを崩して床に倒れた。
「ふんぎゃっ。」
部長は小さな悲鳴を上げ背中から床に落ちると、痛そうに呻き声を上げる。
「ぐぐぐ……。」
「大丈夫ですか?部長……。」
「ん、うん。何とかねぇ……。アイタタ……。」
部長はよろよろと立ち上がり、椅子を元に戻す。
部長の背中をさすりつつ、僕は質問を投げ掛けた。
「ところで、部長達のクラスはお化け屋敷をするんですよね。部長は驚かし役ですか?」
「んや、私は宣伝と受付係。驚かし役は正子の仕事ね。ねぇ。」
部長に話を振られた先輩は、文庫本を閉じて口を開く。
「私の様な和風美人は、お化けに適任だとおだてられてね。断られなかったんだよ。旭の方は、誰が言う訳でもなく宣伝係に割り振られていたね。」
「先輩は綺麗系ですけど、部長は可愛い系ですもんね。確かにお化けには向かないかも……。」
僕がそう言うと、部長はくるりと振り向き僕の肩に手を置く。
距離が近いので、身体が硬直してしまう。
「ゆーくん?私は可愛い系じゃなくて可愛いでしょ?」
「え、あ……。そうですね……。」
「こらぁ、なぁんで目を逸らすのかしら?ええい、このこの。」
「わっ……やめて下さい。頬をつつかないで……。」
先輩に人差し指でつつかれながら、僕は文庫本を膝の上に乗せて此方を見ている先輩に助けを求める。
「先輩、部長を止めて下さい。そろそろ僕の頬に穴が開きます。助けて下さい。」
「二人とも、何だか楽しそうなことをしているね。」
「そんなこと言っていないで助けて下さい。楽しいのは部長だけです。」
「うーん、仕方がないなぁ……。」
先輩は立ち上がり、僕達の方にゆっくりと歩み寄って来る。
先輩は僕の傍に立つと、おもむろに僕の空いている頬に人差し指を突き付けた。
「え、先輩……。」
「ほほう。これはこれは……。クセになりそうな感触だね。」
「でしょう。優君の肌って結構綺麗よね。普段からスキンケアを怠っていないのかしら。」
「いや、お風呂上りに化粧水つけているだけですけど……。兎に角やめて下さい。」
僕はそう言って、二人の腕を掴み僕の顔から話す。
「まったく、仕方がないわね優君は。」
「本当だよ。高校生にもなって我儘ばかり……。」
「これって僕が悪いんですか……?」
両頬を手の平で押さえつつ、僕は理不尽を噛みしめていた。いつか二人にゲームで勝った時に、思う存分頬をつつかせてもらおう。
復讐を決意したところで、僕は二人に向かって話し掛ける。
「そう言えば、文化祭中のお二人の休憩時間はどうなっているんですか?」
そう聞いてみると、二人は複雑そうな表情を浮かべる。
「それがねぇ……。まず、私と正子って教室に居る時はあまり関わらないのよね……。」
「だから、クラスメイトも私と旭が仲良しだと思っていなくてね。寧ろ、仲が悪いくらいに思っている節があるかも知れない。」
「つまり……?」
「合わないのよね。私と正子の休憩時間。私がお化け屋敷の受付に居る時は正子が休憩しているし……。」
「私がお化け屋敷で人を驚かせている間、旭は宣伝看板を持って休憩に行くんだ。だから、文化祭中に三人で集まることは、不可能なんだよね。」
二人は残念そうな表情を浮かべて、そう告げた。
「そうですか……。」
平然を装ってみるが、僕も内心肩を落としていた。
文化祭、一緒に回る相手もいないとなると、ステージ発表の時間以外はどうやって過ごそうか。そう考えていると、唐突に僕の頭に二つの感触が乗せられた。
「よしよし。」
「よしよし。」
部長と先輩は二人揃って僕の頭を撫でまわしていた。頬をつつくだけでなく、頭も撫でてやる。僕はそう心に決めて、二人の手を頭から話した。




