メタフィクション その陸
このエピソードは、本編になんの関りもありません。
また、物語の世界観にそぐわない発言も多々ありますので、そう言うことが苦手な方は他のエピソードを読んでいただけると幸いです。
それでも良いよと言う方は、是非お目通し下さい。
もう何度目だろうか。気が付くと、四方八方真っ白な空間に立っていた。
「またこの夢か。」
そう呟きつつ僕はそっと腰を下ろす。いつからかそこにあった椅子が、僕の身体を受け止めてくれた。
相も変わらず都合の良い空間に、懐かしささえ感じていると、何処からか僕を呼ぶ声がした。
「こんばんは、優君。」
正子先輩はいつの間にか僕と向かい合う様にして、椅子の上に腰かけていた。
「先輩、こんばんは。」
「うん。しかしまぁ、こんな所に来て何を話そうか……。」
先輩は真っ白な頭上を見上げ、小さく息を吐く。
僕も話題に困り、頭を悩ませる。こんな場所に来てまで、学校行事のことなど話しても仕方がない。だからと言って、何を話していいか分からない。
此処は僕にとって都合の良い空間。多分、望めばトランプなどゲームの類も出てくるのだろう。今回は試す気にならないが、いつかやってみても良いかも知れない。
「あ、そうだ……。」
何か思いついたのか、先輩は軽快に手を叩く。そして、足を組み僕の顔をじっと見据えた。
「私達って、あまりエロティシズムやグロテスクな表現を使わない様にしているんだよ。」
「そうでしたっけ……。」
確かに言われてみれば、同好会での出来事に、いわゆるエログロの様な状況は無かった気がする。精々、先輩の胸囲に対し目のやり場に困るくらいだろう。
「そうかもしれないですね。」
僕が軽く頷きつつそう言うと、先輩は満足気に頷く。
「この同好会、ひいては私達を取り巻く物語の中では、エロやグロ、パロディなんかを極端に省いているのさ。あとは、メタ発言の様なものもね……。」
先輩の発言に、僕は思わず口を挟む。
「その発言をしている時点で、メタ発言を省けていないんじゃないですか?」
「此処での発言は良いんだよ。」
彼女は何食わぬ顔で、さらりと言い放った。
此処はあくまでも夢の中で、起きた時には全て忘れているのだから、何を言っても何をしてもノーカウントと言うことだろうか。
釈然としないが、そう言うことなのだろう。
「それにしても、エロやグロが無いのは何かの信念だったりするんですか?」
「単純に使いこなせないからじゃないかな?」
先輩はまたさらりと言い、言葉を続ける。
「私達の話ってさ、言ってしまえば部室で完結してしまう訳だよ。」
「そうですね。遊興同好会は、部室に始まり部室に終わるみたいなところありますね……。」
「それでさ、毎日の様にゲームをしてみたりお喋りしていたら、やっぱりネタが無くなって行くよね。」
「確かに。既にネタ切れの雰囲気が漂っていますよね…。」
僕は先輩の言葉に頷く。先輩は足を組んだまま神妙な顔で話を続ける。
「先生にも見つからない空き教室。それでネタに困ったなら、エッチな方向に進んでもおかしくはないと思わないかい?」
「僕達未成年なので、エッチな方向にはいかないのが正常ですけどね。」
先輩は僕の言葉に、不思議そうな表情を浮かべる。
「思春期真っただ中の男女が、個室にして何もしない方が異常じゃないかい?」
「そうなのかな……。」
少し納得がいっていない僕の肩に、先輩は優しく腕を置く。
「まぁ安心していいよ。少なくとも私達が卒業するまでは、エッチなことにならないから。」
「なら、心配いらないですね。」
嬉しい様な、悲しい様な複雑な気持ち。
話の軸も定めずに会話を進めているので、少々脱線気味だ。ネタがどうこうの前は、一体何の話をしていたかな。
「エロやグロは使いこなせないって言っていましたけど、その辺りを詳しく教えて頂いて良いですか?」
「あぁ、良いよ。」
先輩は優しく頷く。
「状況は結構作り易いからね。部室で安易なエロシーンを映しても良いんだけど、その後が気まずいじゃん。次の日顔合わせた時に、何話したらいいか分かんないじゃん。」
「確かに……。エッチなことした翌日って、どんな顔して部室に行けば良いか分からないですね。」
残念なことに僕にはそう言う経験が無いので、どういうものか想像もつかない。
「私もまだ純潔は守っていたいしね。グロテスクな展開もやっても良いけど、それが終わってから日常に戻れるかが分からないよね。例えばゾンビが突然現れたとして、私達は奇跡的に逃げ延びたとしよう。それから一週間して、普段通りに部室で談笑出来るのかって話だよ。」
「僕はきついですね……。」
「私も、正直心に傷が残ると思うね。」
つまるところ、エロやグロが含まれた展開の後にも、当たり前に日付は変わるし新しい朝が来る。そこのメリハリが上手くいかないと言うことだろう。
「パロディは、どうなんですか?日常に影響はきたさないと思いますけど……。」
「パロディはねぇ……。」
先輩は膝の上に肘を置き、複雑な表情を浮かべる。
「嫌いなんですか?パロディ。」
「いいや、寧ろ好きなくらいだよ。でもさ、難しいんだよね。」
「難しい、ですか……。」
「そう、難しいんだ。マイナーなネタだと一部の人間しか笑わないし、雑にやってしまうと不快に感じる人もいる。私達がやって良いような代物じゃないんだよ。」
あまり持ち上げすぎるのもどうかと思うが、確かに安易に手を出すと痛い目を見そうだ。
それなりに納得できたので、僕は椅子の背もたれに身体を預け、大きく息を吐く。
ここでの話も、目が覚めると忘れてしまうのだろうけど、これまで通り健全な学生生活を送って行こう。そう胸に誓って僕は白い空間を後にした。




