↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
86/102

散歩のついでに

 休日のこと。僕は街外れにある山道の、古びた石階段を登っていた。

 最初の頃は辛く感じた石階段だったが、あししげく通っている内に身体が慣れて来たらしい。軽い足取りで石階段を登りながら、僕はそんなことを実感していた。

 階段を登り切り見慣れた鳥居を潜ると、いつもの神社に辿り着く。これまたいつも通り境内の掃除をしていた白亜(はくあ)ちゃんは、僕の元に駆け寄り挨拶をしてくれた。


「優さん、こんにちは。本日はお参りですか?」

「こんにちは白亜ちゃん。今日はと言うか、今日も散歩のついでに寄ったんだ。取り敢えず、お参りさせて貰うね。」

「あ、はい。どうもありがとうございます。」


巫女装束に身を包んだ少女は、そう言うと勢い良く頭を下げる。

 丁度良い位置に頭があるのでつい撫でたくなってしまうが、その気持ちをぐっと抑えて拝殿へと向かう。

 賽銭箱に十円玉を投げ入れ、手を叩く。体育祭も近いのでどうぞ見守っていて下さいと、そう願ってから拝殿に背を向ける。この後の予定は無く、白亜ちゃんが忙しいようであれば帰るつもりだ。


「優さん、あの……。この後は何か予定がおありですか?」


白亜ちゃんは俯きがちに指を絡ませながら、僕にそう聞いてくる。


「今日もいつも通り、予定は何も無いよ。」


僕がそう答えると、彼女は上目遣いに口を開いた。


「あの、でしたら少しお話していきませんか?昨日、祖父の知り合いの方から、美味しいお団子を頂いたんです。私も別にお仕事がある訳でもないので……。」


可愛い後輩からの魅力的な提案に、僕は首を縦に振った。


「良いね。是非、ご馳走になるよ。」


僕がそう言うと彼女はパァッと笑顔になり、小走りで建屋の方に向かっていった。


「すぐにお茶とお団子をお持ちしますので、てきとうに座って待っていて下さい。」

「あ、白亜ちゃん……。」


僕も手伝うよと、そう言い掛けたが少女の背中はあっと言う間に遠くに行ってしまっていた。

 待っていろと言われたので、拝殿の横に腰を下ろして彼女が戻って来るのを待つことにする。

 九月の中旬。晩夏と言うには気温が高く、見上げた空には入道雲が広がっていた。

 数分程しただろうか、白亜ちゃんはお盆を両手で抱えて戻って来た。お盆の上には皿に乗せられた三色団子と、二つの湯飲みが乗せられていた。


「お待たせしました。ここで一緒に食べましょ。」

「どうもありがとう。」

「いえいえ。お気になさらず。」


白亜ちゃんはお盆をこちらに差し出しつつ、眩しい笑みを浮かべた。

 僕達は二人並んで、団子を食べつつ雑談を交わす。話の内容は、二学期の行事について。


「体育祭、二百メートルを走るんですね。あの、私応援に行っても良いですか?」

「恥ずかしいからダメ。」

「そうですか……。」


白亜ちゃんは残念そうに肩を落とす。


「逆に聞くけど、白亜ちゃんの体育祭は応援に行っても良い?」

「恥ずかしいのでダメです。」

「そっか……。」


きっぱりと断られて、思わず肩を落とす。

 串に刺さった団子をひとつ口に含み、熱いお茶を啜る。


「美味しいね。団子もお茶も……。」

「はい。私もこのお団子大好きなんですよ。なので、祖父が買ってきたり貰ってきたりすると嬉しくて……。」


照れ臭そうに笑う彼女を見て、少し微笑ましくなる。


「そんな好物を僕に分けてくれてよかったの?」

「はい。好きな物は、仲の良い人と共有したいですから……。」

「そっか……。ありがとうね……。」


気が付けば、僕はそうやって感謝の気持ちを伝えていた。美味しいお菓子を分けてくれたことに対してだけではない。僕を親しく思っていてくれていたことが、嬉しくてならなかった。

 団子を食べつつ、空を見上げる。神社で団子を食べお茶を飲んでいると、何だか自分が粋な男に思えた。

 話が途切れ、風が周囲の木々を揺らす音だけが響き渡る。白亜ちゃんとそれなりに関わって来たからか、沈黙が流れても気まずさを感じなくなった。これもまた、親しくなった証拠なのだろう。


「あ、そうだ……。」


ずっと忘れていた事を思い出し、僕は沈黙を破る。


「ねぇ白亜ちゃん。」


僕は隣で団子を頬張っている少女に声を掛ける。


「もし良ければだけどさ、連絡先交換しない?何かあった時に、連絡できると便利だからさ……。」


こう言ったことを男の方から言うと軟派な様に見えるのかも知れない。しかしこのままだと一生連絡先を交換しないでいそうだったので、こうして申し出た次第である。


「あ、ふえ。はい……、是非……。」


彼女は驚きつつも、快く了承してくれた。

 僕達はポケットから携帯を取り出し、互いの携帯番号とメッセージアプリのアカウントを登録した。白亜ちゃんの表情も。心なしか嬉しそうに見えた。

 携帯と言えば、僕の携帯に住み着いている自称高性能アンドロイドは彼女の前では姿を見せなかった。プログラムなりの計算と言うか、考えがあるのだろうか。帰ってから聞いてみる事にする。

 連絡先の交換を終えた僕達は、お茶を飲みつつゆったりとした時間を過ごす。白亜ちゃんも竹箒を隅に置きくつろいでいる。

 昼過ぎに神社を訪れたが、くつろいでいる内にどんどんと時間は過ぎていき、気が付いた頃には夕方になってしまっていた。

 僕は長居してしまったことを白亜ちゃんに詫びて、神社を後にする。特段何かした訳でもないが、充実した休日を過ごせたような気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。